4-14 策は成功していたらしい
デート翌日。
「ふ〜む、これは……」
「何を読んでるの?ライト」
「手紙です。そうですね、師匠からと言えばいいでしょうか」
「ん?だって此処、貴方の居た界じゃないんでしょ?手紙なんて届く訳ないじゃない」
ライトの言葉に、ナイは当然の疑問を抱く。
彼自身が言っていたことから、すれば手紙など絶対に届かないと分かるからだ。
彼女がそういうことを予想していたのか、彼は分かってないという風に首を振る。
若干煽るようなその仕草に、彼女は眉を寄せた。
「確かに、普通なら手紙なんて届くわけありません。けど、それは普通ならの話。僕と師匠の間でそれは通じません」
「じゃあ、どうやってやったのよ。説明しなさい」
彼の言う師匠とは、当然ヨルのことだ。
そして、今読んでいる手紙は、ナイと出会った時に彼が講じた策の結果である。
「詳細は省きますが、僕と師匠には共有で使用できる特別な異空間収納があるんですけど、そこに今の状況を書き込んだ手紙を突っ込んでおいたんです。別に、異空間収納には何が入ったか知らせる機能はありませんので、一種の賭けでしたけどね」
策と言っているが、別に難しいことはしていない。ただ巳蚓魑の中に、ヨル宛の手紙を入れておいただけだ。
ヨルが、それに気づくかは賭けだったが、気づいてくれたらしい。
「そう…それで、手紙の内容は?」
「簡単に言えば、そこを動くな、ですね。既に場所は把握したから迎えに行くからって」
「ライト、貴方の師匠って何者よ。どうして貴方の場所が分かるのよ」
「師匠は、理不尽と異常をそのまま具現化したような存在です。常識で考えてはいけません」
「ハッキリ言うわね」
「あの人、本当に意味が分かりませんし。考えるだけ無駄です」
酷いことを言っているが、これも信頼の証であり、然も事実だ。
ナイは、話を聞いて呆れたような納得のいっていないような顔でベッドに寝転がる。
「まあ、良かったじゃない。元に界に戻る目処がついたんだし」
そう言う彼女の顔は、少し寂しげに見えた。
「何でそんな顔してるんですか。姫様も来るんですよね?なら、姫様にとっても良いことじゃないですか」
「ワタシ…本当に貴方に付いて行っていいのかしら…」
その声は、これまで聞いた彼女のどの声よりも弱々しかった。
明らかな異変に、ライトは横になっている彼女の隣に腰掛ける。
「どうしてそんなこと、思ったんですか?」
「最近、考えていたの。貴方には貴方の居場所がある。そこに記憶喪失のワタシが割り込むのは、邪魔なんじゃないかって…貴方が今こうして接してくれているのは、今という状況があるから仕方なくなんじゃないかって…何故かどうしようもなく不安になった。ワタシは、ワタシがどうすれば良いのか分からないの。ワタシは、貴方の仲間にどう接すれば良いのか分からない…未知が、とても怖く感じるのよ」
絞り出すようなその言葉は、真に彼女の本心なのだろう。
故に、ライトも本気で答えることにした。
ナイの手を優しく握る。過去の無い彼女の隙間を埋めるように、ありったけの思いを込めて。
「別に邪魔なんかじゃありませんよ。僕は、邪魔だとナイを思ったことはありません。確かに初めは、この未知の場所での印として、支えとしてナイを見ていました。けど、ナイと過ごす内に、貴方と一緒に居る時間が楽しいと感じています。それは、きっと今までの仲間とは、また別の意味で心を許せているからかもしれません。何にせよ、今の僕にナイは必要ですし、この先も一緒に居てほしいと思ってます」
「貴方の仲間の意思は?」
「多分、大丈夫ですよ。うちは、ナイみたいな異常った存在の集まりです。記憶喪失程度、寧ろ普通の部類ですよ」
「何よそれ、でも…ありがと」
彼女の声に、幾ばか元気が戻る。
手には、確かな温かさを感じる。
「それに、どうすれば良いか分からない、接し方が分からない。そんなの普通のことですよ。僕だって、他の人だって、そういうことはあります。だって、明確な答えなんてそれにありはしないんですから。皆、それが正解であると思い込み、構想しているんです。そういうものです。記憶喪失のナイよりも長く多い経験を持つ僕らですらそうなんですから、まだ時間の短いナイが分からないのは当然です。だから気にする必要はありません。もし間違ったって、僕はナイの隣に居ますから」
不安を拭いながらも、自分の思いを伝え、その隙間を埋める。
こういう時は、嘘一つ無い言葉が良いとライトは知っている。
すると、握っていた手の指が絡められた。
「……貴方は、温かいわね」
「別に体温は同じくらいだと思いますけどね」
「そういうことじゃないわ。貴方の思いが、心が、よ」
「物質でない物に温かさは――」
「――ああもうっ、だからそういうことじゃないのっ!もう黙ってそのまま居なさいっ!」
「…はい」
ぐっと背後に引き寄せられ、彼はベッドに倒れる。
いつも通りの調子に戻った彼女の言葉に、文句も言わず従う。
「今日はもう、こうさせて頂戴。外に行く気にはなれないわ。今は、この温かさを感じていたいわ」
「仕方ありませんね。姫様は」
伝わる振動から、ナイがこちらを向いたのが分かった。
何かと思い、ライトも彼女の方を向く。
彼女は、ゆっくりを口を開いた。
「…ねぇ、さっきみたいにナイって呼んでくれないかしら?」
「あれはそのっ……はい」
「……」
「…ナイ」
「ありがと、ライト…本当に」
そう、微笑む彼女は呆れる程に美しかった。
◆◇◆
コツコツと足音がその空間に響く。
「ヴァーンズィン、居るかしら?」
幻惑の甘い声が、暗闇へと落とされる。
それに応えるように暗闇が蠢き、そこから狂気が姿を表す。
『イルズィオーンか。どうした?何かあったか?』
「ええ、とっておきの情報を手に入れてきたわ」
『そうか、私も話したいことがあった、丁度良い』
二つのは悪意は、そうして暗闇へと沈んでいった。
『それで、とっておきの情報とは何だ?』
「要塞都市レギノーに、"器"が来た」
『器だとっ!?何故器が来たのだ?』
「それは分からないわ。重要なのは器が来たっていう事実。けど、アレは正規の物じゃなかった、多分"廃棄"ね。でも、確かに力はあったわ。十分に使える筈よ」
『器があれば、ある程度何でも出来る。界一つ落とすことも出来るだろうな』
「ええ、そうよ。そうすれば、計画も大幅に進む。だから、今度回収しに行きましょう。それで、ヴァーンズィン。貴方の話したいことって?」
『私が、周辺に放っていた眷属達の指揮官が倒された。竜を使った混成獣だったのだが、かなりの強さで罠も仕込んだ嫌な性能。あの都市の人間どもに倒せるようなものでは無かった』
「それが倒されたってことは、それなりの強さの存在が来たかもしれないってことね?」
『ああ、だから一応警戒すべき、ということだ』
「分かったわ。こっちでも軽く探ってみるわ」
突如、空間にカタカタと骨の動く音が響く。
それは、不死の音だ。
[ヤ?ヴァーンズィンダケカト思ッタガ、イルズィオーンモ居ルデハナイカ。コレハ僥倖]
『シェーデルではないか、どうした?』
[ワレモ話ガアッテ来タ。イルズィオーンモソウデアロウ?]
「ええ、そうよ。シェーデルの話を先に聞かせてくれる?こっちは先に終わってるから、その後に共有するわ」
[分カッタ]
不死もまた、暗闇へと沈む。
[簡潔ニ言エバ、ワレガ放ッテイタ偵察用ノ魔物ガ、ヤラレタ。骸々骨鬼、自己増殖強化型ノ魔物ダ。ワレガ改造ヲ施シ更ニ強化シタ、アノ都市ノ人間デハ到底敵ワナイ筈ニモ関ワラズ、倒サレテイタノダ]
「そっちもか、これは…」
[ソッチモ、ダト?]
『実は、私の眷属も―――
こうして、悪意達の話し合いは進んでいく。
―――これで、計画は決まりだな』
[アア、久方ブリノ大規模ナ計画ダ。血ガ滾ルトイウモノ]
「何言ってるのよシェーデル、貴方血流れてないじゃない」
[カカッ、コレハ痛イ所ヲ突カレタ]
『何にせよ、決行は"二週間後"だ。待ち遠しい』
「上手く行けば、あの神共に、王共に目に物見せてやれるわ」
[絶対ニ成功サセヨウ。全テハ――]
「『[世界に悪意を満たす為]』」
悪意は、潜む。その時をただ待ちながら。
◆投稿
次の投稿は3/30(木)です。
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◆蛇足
語り部「いやぁ〜、大きなことが起こりそうだなぁ」
蛇の王「魔王共も動き出したか、これは期待じゃな」
語り部「大きな試練が来る、来るよぉ〜。ちゃっかり、帰還の目処ついたよね」
蛇の王「題名からしたら、そちらの方がメインじゃがな」
語り部「それもそうか。最初のほんの少しだけなのに、何故この題名なんだ…」




