4-12 都市散策、ぶらぶらゆっくりと
肉塊討伐から五日後。
「今日は休み、レギノーの散策でもしましょうか」
「急ね。どうしたの?」
「昨夜の内に考えたんですが、ナイに魔法と魔法使いの戦い方は既に教え切ってしまったんですよね。後は、立ち回り方と魔法の修練だけです。なので、今日は休みとして軽く息抜きでも、ということですよ」
元々地頭が良かったのか、記憶喪失なせいかは判断できないが、ナイは非常に吸収が早かった。
それこそ、学習や修練という行為に『慣れている』かのように。
何にせよ、ライトが彼女に教える物事はもう殆ど無くなってしまった。
だから、彼は休養を取ることにした。ある程度終わったならば、焦る必要はない。
ゆっくりとしても、問題無いと考えたのだ。
それにレギノーに来て二週間、まだ然程探索を出来ていないのも理由にある。
「良いわね。ワタシまだよくこのレギノーは見てないから、楽しみだわ」
「それじゃ、準備して出ましょうか」
「ええ、そうねライト」
◆◇◆
「やっぱり、この雰囲気には慣れませんね」
「ワタシは此処しか知らないから普通だけど、ライトの元居た所は違うの?」
「はい、全然違います。こんな……そうですね、角張った感じでもなく、便利でもありませんでした」
視界一杯に広がるのは、既知だが未知の都市。
その形や様子は分かるが、それらがどのような物であり、どのように使われているのかは知らない。
ざっくりにレギノーの街並みを表現するとすれば、車の走っていない皆様の世界の都市。
何本も立つタワーやビル、木材などが外観には一切使われていない現代的な建造物、辺りを照らす電気的な街灯たち。
見行く人々も、コート、ジャージ、スーツ、パーカー等々多種多様で、素材そのもの色ではなく、パステルチックなカラーが多い。
実は二人の使っている宿『ドローレ』にも個室に風呂、レンジや冷蔵庫などがあったりと、ファンタジー世界にはあり得なくらい整備され発展している。
ライトが、その差に驚いたのは当然であり、未だに慣れていない。
「前の場所が恋しくなるの?」
「当然、ですけど此処での生活も悪くはありません。でもやっぱり待たせている相手がいるので、思い出してはしまいますね」
「そう……何か、気に入らないわね」
「何がですか?」
「ライト、手を取りなさい」
「?…まあ、分かりました」
真っ黒なトレンチコートにショートパンツ、そしてサングラスという何を目指しているのかよく分からない恰好のナイに言われた通りに、その差し出された手を握った。
すると、引っ張られぴったりと隣を歩かせられる。
彼女の真意は分からない。
「今、貴方の主はワタシ。だから、ワタシだけに意識を向けなさい。それに、折角のデートなんだから、エスコートくらいしなさいよ」
「デート、確かにそうとも考えられますね」
この状況はそうとも考えられるのか、とライトは言葉から認識を改める。
それと、彼女が不満に感じていることに少し察しがついた。
「なら、早くしなさい」
「はいはい、姫様、仰せのままに。……でも、主なのに下僕を師と仰ぐのは矛盾してませんか?」
「余計なことはいいのっ」
「分かりました」
ふと思ったことを口にすれば、ぺちぺちと抗議の意が籠められた手で胸を軽く叩かれる。
気を取り直し、手を握ったまま歩き進めた。
チラリと、彼女の方へ視線を向ける。彼女の口の端は僅かに上がっており、その様子はとても美しく見えた。
それから所々お店に寄り、軽食を取ったり衣服などを見て、少し物を買ったりした。
まだ見ぬ物も多かった為、戸惑いもしたが十分に二人はその時間を楽しんていた。
「次は、何処に行きましょうか」
「そうね、アクセサリーでも見たいわ」
「アクセサリー、ですか……僕に縁は無さそうですけど、行きましょう」
「何言ってるの、ワタシ知ってるわよ。貴方ネックレスも着けてるし、手袋の下に指輪はめてるわよね。それに手の甲には変な模様描いてるし、然も両手に別々のを。王冠に蛇って、結構派手よね。でも嫌いじゃないわ」
「っ!?」
次に行く場所について考え、なんともなし呟いた言葉から、ナイが自身の秘密を知っていることを知る。
ライトは、彼女の肩を掴み顔を近付け、しっかりと目を合わせて口を開く。
「ちょっ、何よ」
「そのこと、他の誰かに言ってませんよねっ!?」
「言ってないわよ、そもそもそんなこと話す相手なんて貴方以外に居ないし……恥ずかしいからっ、少し離れて///」
「良かった…姫様、絶対にそのこと、誰にも言わないで下さい。絶対に、誰にも、です」
「分かった、分かったからっ!離れてっ!」
「おっと、すみませんでした」
彼は、ある程度の知識がある者に知られれば、面倒事が舞い込むこと確定の情報を他人に喋られることを防ぐ為に本気だった。
他人の目なんか気にする必要が無い程に。
彼女の心の動揺を気にする余裕は無かったのだ。
「そんなに知られたくないの?刺青くらい誰でも入れてても可笑しくないでしょ?」
「刺青なんかじゃありません。他人に知られれば途轍もなく面倒臭いことが起きます。場合によっては命を狙われる可能性だって……」
「そこまでなの?貴方、意外と危ない橋渡ってるのね。後で、どういう事か聞かせなさいよ?」
「別に好き好んで渡ってる訳じゃありません。それに、さっきのはもしもの話ですしね。詳細は、後で話します。今は何処に耳があるか分かりませんから」
しっかりと、ナイに口外しないように言い含め、話を終わらせる。
しかし、二人共気付いていない今の一連の行動のせいで視線をかなり集めていることを。
二人がそれらに気付き、そそくさと場を退散するまで、後十秒。
ということで、退散後。
「ふぅ、此処まで来れば大丈夫でしょう」
「ライト、貴方があんなことするから、変な目で見られたでしょ。何かひとつくらいワタシに買いなさいよ」
「いっつも買ってるの僕じゃないですか。何言ってるんですか」
「それもそうね」
視線から逃げ伸びて、アクセサリーのお店までやって来た二人。
店内は白い光が照らした板張りの床に乳白色の壁で、温かみが感じられた。
広い台の上と壁際の棚に、これでもかとアクセサリーが並んでいる。
部屋の一角にはガラスのケースがあり、そこには何やら他とは違う物が入っていそうだ。
「さて、見ましょうか。楽しみね」
「はいそうですね。姫様に似合いそうな物を探しましょう」
二人は一緒に並ぶ物を見ることにしたようだ。
「でです。少し話は戻りますけど、いつ僕の手袋の下見たんですか?」
「あの肉塊を討伐した日、貴方ワタシよりも早く寝たでしょ」
「はい、確かあの時は気落ちしてて、早く寝ました」
「その時にこっそり慎重に確認したわ。貴方がその手袋を外してるところ見たこと無かったし、大抵ワタシが先に寝ちゃうから機会も無かった。好奇心に負けて見ちゃったのよ。ごめんね」
「いつまでも隠せる訳もなかったので、良い機会でしたよ」
ナイから、自身の秘密をいつ知ったのか聞く。
聞けば、自分が気を抜いていたせいだったので、元々する気も無かったが彼女を責めはしなかった。
ライトからしても、隠しているのは少し心苦しかったので、本当に丁度良いタイミングと言えた。
「それで、あの模様一体何なのよ」
「左手のは、婚約紋。少し特殊ではありますが、僕が婚約をしている証です。こっちは知り合いに見られると面倒臭いくらいですね」
「貴方、婚約者居たの?」
「まあ、成り行きです」
「……そう。じゃあ、右手のは?」
彼は、彼女が少し嫉妬を含む目で自身を見ていたことに気付いていない。
「右手のが問題です。彩王紋という特別なものなんです」
「さいおうもん?何が特別なの?」
「これが手に現れているのは、神に王の器として認められ選ばれた証。ミルフィリア、この世界全体で子の紋様を持つ存在は、最大八人、今は僕含め七人しかいません」
「世界にたった八人?それって、とんでもない存在なんじゃないの?」
「そうです、からバレると面倒臭いんですよ。他の王は、既に実力を含め世界に名を馳せてますけど、僕はそうじゃありません。面倒事が絶対に起きます」
真面目な顔でそうライトは言い切る。
対してナイは、興味津々という目を彼に向けていた。
「その世界に八人しか存在できない者の詳細を教えて頂戴、気になって仕方ないわ」
「では、アクセサリーを探しながら、話すとしましょうか」
彼は、『八彩鉱王』について彼女に教えていく。
◆投稿
次の投稿は3/28(火)です。
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◆蛇足
語り部「この界は現代チックなんだな」
蛇の王「そうじゃな。で、何故作者はこのコーナーをサボっておったんじゃ?」
語り部「色々と忙しくて、だ。現に前話だって投稿ギリギリだったし」
蛇の王「もっと気張らんか。全く腑抜けめ」
語り部「そう言うな、今話はこうして書いてくれてるし」




