4-11 続・実践に勝る経験無し
「気持ち悪っ、てか、見たことない魔物ですね」
「征管局の情報にも無い魔物ね」
目の前に現れたのは、肉塊だった。
赤黒い脈動する球体が宙に浮き、それから生えている無数の同色の触手が蠢いている。
見たことも無く、情報も無いその魔物に、二人は強く警戒する。
(それにこの魔物の気配、記憶に在ります。"六王武装"と同じ気配です……)
気配から頭に浮かんだのは、真っ黒な鎖『悪辣を為す常夜の影鎖』だ。
あれほど強くはないが、異質で不快な気配は正に同じだった。
一本の触手が鞭のように唸りながらナイヘ迫る。
《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:炎蛇の咆牙
彼女の前に即座に移動する。
イグニティの刃が触手を切り裂くと同時に、軌跡が爆発して触手が燃え、本体の肉塊へと炎が辿り伝わる。
「チッ、切り離しやがった」
「意外と知能はあるみたいね」
その前に、燃えた触手が切り離されて本体への被害は防がれた。
知性の全く無さそうな見た目にも関わらず、対応にはそれが見え、厄介さが増して嫌になる。
肉塊が蠢くと、無数の触手が空気を切りながら向かって来た。
《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力-会心》
―――超級杖術:杖楽舞侭
絶え間なくイグニティを振い、近付く全てを舞う様に切り伏せて行く。
これ本来は杖でやる予定だから、杖の頭と石突の二か所で攻撃するもので、剣でやると手数半減なのだ。
それでも、それを補える程の速度で振ることでライトは、全ての攻撃を斬り落とした。
脳筋攻略法である。
切って地に落ちた触手が、ビクンビクンと動いていて、気持ちが悪い。
「よし、大部分は斬れましたね」
「いえ、駄目だわライト」
「……再生能力が高過ぎるぞ」
「長引けば、その分不利になるってことよね。触手から本体に攻撃を伝えようとしても斬り落とされる、面倒ね」
本体から繋がる触手の断面がボコボコと膨れ上がり、一瞬にして全てが再生させる。
唯の生命には許されていない、異常な再生能力を肉塊は有していた。
厄介な強さに頭を悩ませていると、二人は同時に肉塊の不自然な魔力の高まりを感じる。
その最中、何本かの触手が地面に刺さり、脈動しているのをライトは見た。
「アイツまさかっ――不味いっ!姫様ッ!」
「ライト何し――」
ナイを抱え守るようにしながら、彼は全力で横へ倒れこんだ。
身体に衝撃が来た直後、後方から轟音が響く。
直ぐさま、起き上がり肉塊の方へとイグニティを構える。
すると、その惨状は目に入ってきた。
二人が先程まで居た場所が、肉塊から一直線に『消し飛ばされていた』。
「避けて正解だった。あれ、"竜のブレス"と同じ魔力の高まり方してたし、勘に頼って良かった」
「助かったわライト。それにしても、あの魔物何なのかしらね?ここら辺の魔物は、まだ元の形を残した異形だけど、あの魔物は何が何だか全く分からないわのだけれど」
「それを考えるのは、倒した後だ。姫様、強化系の魔法を頼む。強引に本体を斬る」
「分かったわ」
益々肉塊への疑問が尽きないが、それよりも討伐が先だと彼は一蹴した。
作戦は、いつも通り単純なゴリ押し、邪魔な触手を切り裂き、それが再生するよりも早く本体を切り伏せるというもの。
単純故に、安定して成功率が高い。
《疑神暗戯-終末的退廃理論-傲慢不遜-魔法》
―――中級風魔法:風精の調べ
―――上級地魔法:大地踏脚
―――上級光魔法:視界明瞭
―――中級無魔法:ハードスキン
―――超級無魔法:挽回の剛腕
「こんな所かしら。やっぱり今のところ同時発動は、五つが限界ね」
「五つでも凄いんだけどな。助かった、それじゃあ、アイツをぶっ倒してくる」
五つの魔法陣が即時形成され、霧散するとライトの身体に力が溢れる。
やはり、と言うべきか、ナイは魔法特化だった。それこそ何故スキル-武術があったのかと思うくらいに。
練度はまちまちだが全属性扱え、使い手の少ない虚属性もばっちだ。
更に彼女が凄かったのは、魔法の同時使用。魔法を使うには明確なイメージが必要であり、イメージがブレると暴発してしまう。
だからこそ、ライトも同時に使うのは二、三個までにしている。
しかし、ナイは今のところ五つの魔法を暴発させることなく同時に使用することが出来る。
然も、それぞれ別の魔法を、だ。
それが、どれだけ凄いことかは、容易に想像できるだろう。
同時に五つの別の物事を明確に考えられている、というのと変わらないのだから。
「ふぅ~――はっ!!」
―――中級時空魔法:思考加速
深く息を吐き、強く地を蹴る。
木を吹き飛ばし、薙ぎ倒しながら、毒々しく変色している触手がさっきの数倍の速度で迫り来る。
視界に映る世界が僅かに遅れ出す。先に準備してた加速魔法を使用したからだ。
ナイの魔法により、暗い森は明瞭に映っている。
ならば、見え切ったそれらを対応できない道理は存在しない。
前方方位から縦横無尽に近付く触手を、移動速度を落とさないまま、パルクールのように動いて切り裂いていく。
(触れたら不味そうなら、触れなければいい話。強度自体は上がってないなら。何の問題も無い)
変化した触手を警戒していたが、然程問題は無かった。
常人を遥かに超えるライトの脚力が、今は魔法で更に強化されている。
肉塊は、もう直ぐ目の前だ。
「死ね――っ!?」
叩くように地面を蹴り上げ跳躍した。
そして、イグニティを振り下ろそうとした瞬間に、肉塊が『裂けた』。
全体の半ばまで裂けた肉塊の中に在ったのは、ズラリと並ぶあまりにも凶器染みた"歯"だった。
一本一本が容易に身体を貫きそうな程に鋭利。
幾らヨル製の服を着ているからと言って、完全に全身を覆っている訳ではない。
真面に突っ込めば、怪我だけでは済まなそうだ。
だが、回避するには遅すぎた。
彼は、痛みを覚悟しイグニティに力を籠めた。
その瞬間、彼の視界に一つの灰色の魔法陣が移る。
「やっぱりね――」
加速した思考の中でも、その言葉は何故か明確に聞こえた。
―――超級時空魔法:スナッチアポーツ
―――超級重力魔法:圧壊重力爆弾
視界が急に変わると共に、耳に強烈な爆発音が聞こえる。
気づけば、ライトはナイの横に居た。
地面に向いていた目を上げると、ぐちゃぐちゃになった肉塊が見えた。
肉塊からミンチにランクアップである。
「危なかったわね、ライト」
「姫様……」
「何か、嫌な予感がしたから準備しておいたのが、功を奏したみたいね」
「助かりました。全く、師と言っておきながら不甲斐ないです」
何が起きたのか理解した彼は、悔しさを顔に前面に出す。
自分がやると言っておきながら、助けられた。そんな醜態を晒した自身に腹が立つ。
彼の思っていることが想像ついたのか、彼女は苦笑いを浮かべて彼の頭を撫でる。
「そういう時もあるわよ、完璧は存在しない。今回の結果はこうだったんだから、それは変えられない。だから、次に生かすのよ。ほら、幾ら後ろを見たところで前には進めない、分かるでしょ?」
「……そう、ですね。久し振りで、少し心に来ただけでした。切り替えます」
「なら良いわ。さっさとあの肉塊を回収やら何やらして、帰りましょう。そんなんじゃ、今日はもう続きは出来ないし」
「はぁ、本当にすみませんね」
「別に良いわ。貴方に何かあれば、ワタシも困るもの」
そう優しく見て来るナイに、ライトは再度己を戒める。
もっと、隙すら無くなる程に強くならねば、と。
◆投稿
次の投稿は3/27(月)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
□■□■□
◆技解説
スキル技録
蛇剣舞:炎蛇の咆牙 切り付けた対象と攻撃の軌跡を爆発させる 延焼効果あり
超級杖術:杖楽舞侭 使用者の向いている方向で杖を縦横無尽に振い攻撃を防ぐと同時に攻撃する
魔法技録
中級風魔法:風精の調べ 対象が風から受ける影響を減らす 他の使用者の風魔法の影響は受ける
上級地魔法:大地踏脚 地面を蹴るに属する行動をした場合身体能力が強化される状態を付与する
上級光魔法:視界明瞭 視界の光度を自動調整する 明るい暗いどちらの状態でも最も対象が明瞭と感じる高度に調節する
中級無魔法:ハードスキン 身体強度を上げる
超級無魔法:挽回の剛腕 対称の腕に特殊な身体強化を付与する 連続して腕を使った攻撃を行う場合に状態異常への耐性や他の魔法の効果を上昇をさせる
超級重力魔法:圧壊重力爆弾 起点から使用者が指定した範囲内に起点に引き寄せてから外側へ吹き飛ばすような異常重力を発生させる 空間・空気が圧縮解放されることにより爆発が起こる




