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4-4 傲慢不遜で分からナイ少女



 沈黙が続く。



「「…………」」



 黄金の瞳が、尚もライトを射抜き続けた。

 その神秘を孕んだ瞳に見られていると、何故だか少し息が苦しくなるような感覚を覚える。


 初めてヨルやタナトスに会った時のような、別次元の何かを感じた。



「貴方、誰?此処は何処なのかしら?」

「いや僕のセリフなんですけどそれ」



 雰囲気に対して意外にも、ラフな感じで言葉を掛けて来たので、つい同じような感じでライトは返した。

 すると、彼女は少しその端正な顔を歪める。



「そんなことはどうでもいいわ。早くワタシの質問に答えなさい」

「はいはい。僕はライト・ミドガルズ、しがない冒険者ですよ、此処が何処かは知りません。僕も急に此処に飛ばされましたから」

「……じゃあ貴方、今日からワタシの『下僕』よ。光栄に思いなさい」

「は?」



 高慢な態度から放たれた、意味の分からない言葉に彼の思考は追いつかない。

 それは偏に、彼女のような相手に会ったことがないからだ。

 非常に、不愉快だった。



「ふざけるな。誰が下僕なんかになるもんですか。貴方の方こそ、自分の立場、分かってるんですか?」



 彼女の、その白い首筋にイグニティの刃を向ける。

 立場の上の相手から、不遜な態度を取られることはよくあった。

 けれども、それは普通に受け流すことが出来た。

 しかし何故か、今の彼女の言葉は異常な程に心を揺さぶられた。

 今すぐにでも、その首を落としてしまいそうな程に。



「ええ、分かっているわ。その上で言っているの。下僕、ワタシはお腹が減っているわ、何か食べ物を頂戴」

「だからっ!誰が下僕です――っ……」

(ちょっと待て、何で僕は今彼女を殺そうとした?)



 予想通りに、ライトはイグニティを振り上げ、彼女の首を落とそうとした。

 だが、既の所でそれを止め、自身の異常に気付く。

 無理矢理に感情を揺さぶられて、攻撃させられそうになっているような気がしたのだ。

 幾ら気に喰わない相手だからといって、即座に殺そうとする程に彼は野蛮人では本来なかった。


 彼女の顔にほんの少しの驚きと興味が浮かぶ。



「へぇ、貴方"死なない"のね」

「何言ってるんだ?死ぬわけないだろ?」

「いえ、死ぬわ、大抵ね。勝手に怒って、勝手にワタシに攻撃しようとして気付いたら死んでいるわ。それか、攻撃する前に、狂ったような声を上げて自殺するわ。死なないのは、貴方が初めて」



 淡々と紡がれる言葉を聞いて、困惑と疑問が浮かぶ。

 平静でそのようなことを言える彼女の精神力と不自然な死に対して、気になることがいっぱいだった。


 いつの間にか、ライトの内を掻き乱していた怒りは、鳴りを潜めている。



(きっと、原因は彼女にある。そういう異常性(バグ)なんでしょうね)

「何かしら?変な目をワタシに向けないでくれる?それと、早く食べ物を出して」

「……はぁ、分かりましたよ。"お姫様"」



 溜め息と共に、何処までも傲慢不遜な彼女を、皮肉を籠めて、呼び何か丁度良い物は無いかと探る。

 数秒で、虚空から皿に乗ったサンドイッチを取り出す。


 そこで初めて、彼女が視線を向けていることに気付く。



「お姫様…良いわね。今後はそう呼びなさい」

「……はぁ、そうですか。それでですが、今作ってあるのはこれしかないので、お召し上がりを、姫様」

「仕方ないわね」



 暖簾に腕押し、こちらから何を言おうと彼女のスタンスが変わらないことを直ぐに理解した彼は、これ以上は無駄な為に従うことにした。


 パクリと、その小さな口を開いて彼女がサンドイッチを食べる。

 素材がかなり良いだけの特別なことはしていないサンドイッチなので、評価は期待していない。


 その動作は、やはり妙に絵になった。



「……美味しいわね」

「お口に合ったようで、良かったです。それで、姫様は、どうしてこんなところに?」



 ライトから話を進めなければ、どうにもならないのは明白。彼は早速切り出した。

 問い掛けに対して、サンドイッチに意識を向けながらも、彼女は少し難しい顔をする。



「分からないわ」

「ん?」

「自分が何故此処に居るのか、何をしていたのか、全く分からないの。自分のことも断片的にしか覚えてないわ」

「記憶喪失ってことですか?」

「まあ、そうなのかもしれないわね」

「ふうむ……」(嘘は吐いてないように見えます。……状況的に、見捨てる訳にはいかない。でも、誰の手も無い状態で、彼女を無事に連れて行くことが出来るのか?)



 記憶喪失と彼女が言っても、彼は驚きはしなかった。

 普段から、それ以上のことばかり起きているからか、やはり自然と精神が強くなっている。


 同時に、不安を覚えた。

 一度手を貸した以上は、見捨てることが出来ない質のライト。

 今の状況で彼女を連れていける自信があまりなかったのだ。



(……出来るか出来ないかじゃなくて、やらなきゃ駄目だ。後で、ヨルにもミスティにも怒られそうですからね)

「姫様、貴方をこの森から出します。付いて来てくれますか?」

「嫌よ」

「どうしてっ!?」

「貴方は、ワタシの下僕。主が下僕に付いて行くなんてあり得ない。貴方がワタシに付いて来なさい。この森を出るわよ」

「……仰せのままに」



 彼は今、コイツやっぱり面倒臭い、という思いを顔にありありと出しているだろう。

 しかしながら、自分で決めたことはやり遂げる。自分自身に課した戒めがある為、従う。

 生来の資質が上に立つものである彼には、少しだけ辛い時間になることは予想できた。



「あ、その前に、姫様」

「何かしら?意見を許すわ」

「意見まで制限される気はありません……じゃなくて、姫様の名前を教えて頂ければ」

「そんなこと?それなら、ナイよ」

「無い?名前がですか?名前まで忘れたんですか?」



 ライトは、彼女が記憶喪失という情報を基に言葉を判断し、名前までわからないのかと、結構重症そうだ思った。

 その言葉を聞いた彼女は、ムスッとした顔になる。



「違うわ、ナイよ」

「違わなくないですよ、だって無いんですよね?」

「だから!ナイよ!名前がナイだって言ってるの!」



 初めて、強く感情を出して声を荒げた彼女に、彼は驚くと共に自身の間違えに気付いた。



「え~と、名前が"無い"んじゃなくて、"ナイ"って名前なんですか?」

「そう言ったわ、何度も言わせないで」

「それは……申し訳ありません」

「今後は気を付けないさい」

「はい、姫様」(紛らわしい名前ですね。でも、これは僕にも問題がありました。名前を忘れてるなら、無いじゃなくて、分からないって言いますもんね。反省です)



 ナイへ頭を下げ、反省の意を示し内心少しだけ文句を言う。

 先程出来上がったこの上下関係への不満もあったが、それは敢えて口にする程でもないと判断した。



(一応、確認しておきますか)


―――(ぬす)()探蛇(たんだ)


「何か言ったかしら?」

「いえ、何も」

「そう……」



 術の使用を誤魔化しながら、目の前のウィンドウへ視線を向ける。


■=======================■

 名前-ナイ 性別-女 年齢-□□

 種族-□□□ ジョブ-□□□□□□□

 レベル-0 ランク-G

 称号-『□□□□』

 スキル-疑神暗戯,狂気恐悦,被害現実,傲慢不遜

    -終末的退廃理論,蜜愛之果実

    -魔法,武術

 加護-□□□の加護

 状態-正常

■=======================■



 所々の文字が塗り潰されたかのように見えない。

 それに対して、少なくない驚きを覚える。



(これは、知らないパターンですね。今までスキル系統での阻害で全体的に見えないことはありましたけど、この"意図的に隠されている"のは見たことがありません。何者かに、恐らくこの加護を与えている存在に隠されていそうですね)



 ステータスから得られる情報で予測をしていく。



(あと、ランクG?そんなランクありましたっけ?……まあ、コレはそこまで気にする程でもありませんか)



 一つの引っ掛かりを感じたが、するりと流してしまう。

 大体の確認の後、ライトはまだサンドイッチをパクパクと食べているナイに視線を戻した。



(貴方は、一体何者なんですか?)



 その疑問は口に出さず、今は胸の内に仕舞い込んだ。


 『青い月』に照らされている彼女は、腹立たしい程に美しい。



◆投稿

次の投稿は3/19(日)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

蛇の王「今までメインで出してないタイプの女じゃな」

語り部「高飛車タイプね。ライトと反りが合わなそうだから、出さないでいたんだぜ」

蛇の王「それでも今章から然もこのタイミングで出すということは、何かしらあるじゃろう?」

語り部「言わずもがな、今章のメインキャラだ。他との関連が多い、キーキャラでもあるんだなこれが」

蛇の王「では、楽しみしておこう」



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