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4-3 気を強く持て――え?こんなところに少女が




「――ハッ!?」



 何故か、意識が戻った。状況が理解できない。



「ハアッハアッハアッハアッハアッ、ハアッ、ハアッ……ハァ……」



 恐怖によって荒くなった呼吸を時間を掛けてゆっくりと落ち着かせる。

 心臓の動悸は治まらない、生をライトに実感させるが如く、早鐘を打ち続けていた。


 数十秒後、安静を経て何とか平静を取り戻した彼は、体を起こす。

 辺りへと視線を向ける。



「此処は……戻った、んですか?」



 倒れていたのは、ライト自身が岩を置いた、そのままの場所だった。

 岩もそのまま存在しているし、ピアノ蟹の残骸もそこにある。


 更に輪を掛けて、思考が混乱する。



「可笑、しい。確かに、確かに僕はあの時『死んだ』筈……いや、そうではなかったのかも」



 何度も何度も、仮定とそれによって至った結論に否定を繰り返す中、ある一つの想像に至る。

 そして、それの確証を得る為に、立ち上がり岩へと近づく。



「やっぱり……『無い』僕のつけた跡が」



 ライトが取り出し、置いたその岩には、無かった。彼自身が付けた筈の目印の傷跡が。



「てことは……やはり、"幻覚"だった?」



 彼が至ったのは、森を進み森が肉へと置換され、その肉達に殺されるという一連の出来事全てが"幻覚"だったというものだ。

 あまりにも荒唐無稽、だがそれが一番確率が高く現実的だった。

 決して、『時間が巻き戻った』なんてことはあり得ないことだと彼は、判断した。



「そう、そうだった……けど、あの方向に行くのは止めましょう。嫌な予感がします」



 脳裏に蘇る、蠢く瞳と肉。ブルリと身体が震えた。



「ハアッハアッ、大丈夫大丈夫。気を強く持て、ライト・ミドガルズ。お前はそんな男じゃない」



 恐怖を己が心で握り潰し、震えを抑え覚悟を決める。

 この自分一人しか居ない、誰も頼れる相手が居ない状況下で、死にも等しい恐怖を感じておきながら、前を向ける者がどれだけいるだろうか。



「動かなければ何事も始まらない……行くか」



 ライトは、再度岩に傷をつけ、目印を作っておきながら、歩き出した。



 数十分後、同じように森に変化が出始めた。

 しかし、前回と違うのは、彼がその変化を明確に認識し違和感を感じているところだ。



「なんか……紫色が濃くなってる?」



 幻覚では、木が肉に置換されて行っていたが、今回は元々奇妙な色の木々がドンドン紫色に染まり濃くなっているように感じた。

 その違和感は、進むにつれて強くなっていく。


 緑や赤が混じっていた木は、完全に紫、単色になり色彩感覚に異常をきたしそうだった。

 黒という自分の色だけが、正常を知らせてくれる。



「……不味い、部位ごとで若干違った色の濃淡も無くなって来た……ものの、境目が分からなくなる」



 差異があった紫色の差が消えて行き、上下、左右、高低、奥行き、それら全てが判別できなくなっていく。

 正直に言って、自分が本当に前に進んでいるのかも今は分からない。

 けれども、今の彼は気を強く持っている、だからこそ見えていてもいなくても、分からくても進んで行ける。


 自分を貫き通す、それが今の彼の精神を支えていた。


 今度は、紫色が徐々に明るくなっていっている。

 目が痛くなる色、ショッキングピンクとでも形容すれば良い程の色へ、変わっていた。


 それでもまだ、彼は足を止めない。



「多分、このままでいい。惑わされるな、気を強く持て。惑わされれば終わりだ、この森に呑まれる……奇跡は、二度は起こらない」



 強く自分に言い聞かせて戒め、精神を奮い立たせ、足を進めさせる。

 一定のペースで、落ち着きながら遅くも速くもせず、唯只管に変えずに。




 視界がほぼ役に立たなくなり、歩き続けて、何分、何時間、何日、何週間、だろうか。

 時間の感覚が曖昧になって来ていた、しかし足を止めはしない。

 疲労は、不思議にも感じていなかった。




 更に更に、足を動かし続ける。


 ……遂に、その時は訪れた。



「抜け…た?」



 視界が正常に戻る。

 ずっと紫やピンクだったせいか、若干の違和感を覚えるが、普通の緑の木々が生えた森の中に居、ライトは立っていた。



「――っぁ……」



 確かに疲労は感じていなかったが、張っていた気を抜いた為か、言葉にならない声が漏れ、膝を突いてしまう。

 何度目か分からない深い息を吐いてから、立ち直す。



「進もう、まだ森を抜けてない」



 目的は達していないと口にし、自身を奮い立たせ、足を動かした。


 徐々に木が減っていき、明るくなっていく。

 森を抜けたと、木々を完全に飛び出す。

 彼は……絶句した。



「……抜けてない……此処は、ただの広間だ。くそっ」



 そう進み辿り着いた此処は森の外側などでは無かったのだ。

 彼が岩を置いた、最初の場所と同じような場所だった。

 違う所があるとすれば、彼があちらで岩を置いた位置に、何やら祭壇のようなものがあるくらいである。


 言葉が中々でない、だがそう簡単に物事が進む筈が無いとも彼は少し理解していた。



「あの祭壇を見に行きましょう、止まっていても何も変わりません」



 祭壇へと向かうライト。

 足を動かす速度は、祭壇へ近づくごとに速くなっていた。

 理由は、



「な、何で?こんなところに、"少女"が……」



 円形の石で造られたその祭壇の上に、"少女"が居たからだ。

 少女は、仰向けで規則正しい寝息を立てながら、其処にいた。

 ライトは、ふと横に延ばされていた左腕を見る。



「血、血がっ…ん?血、なのか?」



 左腕の手首に縦に切り傷があり、そこから液体が垂れていた。

 初めは、血かと思ったのだが、色が青や紫が混ざったような言語化が難しい色をしており、戸惑ってしまう。



「いやでも、種族によって色が違うだけで、多分血、速く塞がないと血を流し過ぎて、死んでしまう」



 やはり、血だと認識を改め、治療の術を使うことにする。



―――(いや)(なお)聖蛇(せいだ)



 手から生じた白い蛇が少女へとぶつかり弾ける。

 がしかし、



「え?な、何で……」



 何故か傷が治らない。

 複数回試すが、やはり治らず、今までこのようなことは無かったからか、強く混乱する。



「と、取り敢えず、治せないなら、処置でも」



 巳蚓魑(ミヅチ)から清潔な布を取り出し、傷口に当てる。

 暫くして、傷口から流れる液体が減ったところで、ラビルで買っておいたけれども一度も使ったことの無かった傷薬を塗る。

 手首を持ち上げ、手早く取り出した包帯を巻いておく。

 ヨルと出会う前は、怪我も当然していたので、慣れていた。久し振りだった為か、少し時間が掛かったが。



「これで、大丈夫な筈……それにしても、この子は、どうしてこんな所に……まあ、僕も此処が何処かなんて分かりませんけど」



 ライトは、改めて祭壇で寝る少女を見る。


 艶やかな暗めの紫色の髪。病的な程に白い肌。髪よりも明るい紫色のシンプルなワンピース。

 身長は、ライトよりも少し低いくらい。どことなくだが、全く似ていない筈なのにナイアに似ている、とそう感じた。

 

 月に照らされる彼女は神秘的で、絵になる。


 彼は少し休憩することにした。



「一度、冷静になりましょう。焦っていては見逃し、考え過ごしてしまうことがあるかもしれませんし」



 石造りの祭壇の上に、少女を起こさないように座る。

 視線を上げ、尚も綺麗に満ちた『青い月』を見る。

 少し位置が変わっているようにも思えたが、恐らくかなりの距離を移動したからだろうとライトは気にしなかった。



「こんな状況、ヨルと出会う前だったなら間違えなく死んでました」



 それは当然で、ヨルに蛇王蛇法を与えられていなかったら、食料も装備も何も無いのだから。

 と、考えたところで、ライトは妙案を思いつく。



「この方法なら、ヨルと連絡が取れるかも」



 こうして、彼は一つの策を講じるのだった。



 策が完成し終わった頃、妙な感覚、視線のようなものを感じ振り返る。



「…………」

「っ!?」



 起きていた少女が、その黄金の瞳をこちらに向け、見つめていた。 



◆投稿

次の投稿は3/14(火)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「新章と言ったら、新キャラの登場だよね!」

蛇の王「また女子か、ちょいと偏っておるのではないか?」

語り部「知らんっ!でも、作者はハーレム作品はそこまでだから、愛人や友人は増えるかもだけど、ライトが真に愛を向ける相手はこれ以上増えないぞ」

蛇の王「納得すれば良いのか、それ以外は増えると呆れればいいのか……よく分からぬな」



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