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4-2 異常、異常、異常ッ!……気が滅入ります




「どれくらい硬いか、ねっ!」


《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》


―――蛇剣舞:炎蛇(えんだ)鱗牢(りんろう)



 唸る炎を纏うイグニティを振う。

 当然、ピアノ蟹も無防備に攻撃を受けるわけも無く、右の巨大な鋏をぶつけてくる。



「なっにっ!?――ぶなっ……硬すぎる、あと力強すぎだろ、全然動かねぇ」



 イグニティが鋏に触れると、硬質的過ぎる衝撃が返って来てびくともしない。

 更に力も強く、全力では無かったとはいえ、攻撃を仕掛けたライトが逆に反動で吹き飛ばされた。


 衝撃を殺しながら地面へと降りてから、次の手を考える。



「多少可笑しい処はあるが、アレは甲殻類に分類される魔物。甲殻さえぶち抜けば問題無いし、関節、節目は強度が低い筈、ならそこを狙うしかない!」



 再度駆け出す。


 ピアノ蟹の口から糸のような泡のような、良く分からん球体が複数放たれる。

 触れるのは危険だと、流れるように判断したライトは、接近の為に魔法を使う。



「――ってあれ?」



 しかし、使おうとしたが使えなかった。魔力が無い訳ではないのだが、操ることが出来ない。

 彼は、混乱で足を止めてしまう。


 その内にも糸の泡は迫って来ている。

 焦った彼は、危険だと理解しながら、イグニティを振り下ろしてしまった。



「しまっ!?くっ取れねぇ!?」



 糸の泡はイグニティが触れると粘性に変わり、地面とイグニティをくっつける。

 異常な粘着性を糸は有しており、この世界でも上から数えた方が早いライトの腕力をもってしても、引き離すことが出来ない。


 そんな彼にピアノ蟹が動き出し、左の巨大なナイフを構え、既に振り下ろそうとしている。



(――八彩王法(ファルべケーニヒ)をヨルが居ない今、既に一回使った状況で更に使うのは後を考えれば無謀過ぎるっ。けど何でか魔法は使えない、如何すれば……)



 急速で思考を回転させる、危機からか世界の速度が少し遅れているような気もする。

 使えるものが制限されている最中、直近で使えそうな対応方法を、気は進まないが使うことにした。

 本当に気は進まないが。



(やるっきゃねぇ!!)


《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》


―――超級杖術:天水(てんすい)の三日月



 ありったけだが、行動に支障の出ないギリギリの魔力を"右腕"に籠め、綺麗な弧を描くように振る。

 腕の軌跡が歪みを生み出す。


 ナイフが振り下ろされた。



「っ!!シャァッ!!」



 歪みに、ナイフが跳ね返された。


 余りにもその反動が強かったのか、ピアノ蟹のナイフが千切れ飛んだのは僥倖だった。

 思わず、ガッツポーズを取る。

 成功と同時に思考が快調に進み、イグニティを回収する方法を思い付く。



―――収納(シュウノウ)()巳蚓魑(ミヅチ)


「先ずこうして」


―――取出(トリイデ)・巳蚓魑


「こうする、はい回収完了。落ち着けば良かったんだ、なっ!」



 イグニティだけを巳蚓魑の中に収納し、強制的に繋がりを断ち、場所を変えてイグニティを再度取り出す。

 たったこれだけのことで糸の泡は克服できた。焦りとは怖いものである。


 取り出した流れで、刃をピアノ蟹の蜘蛛の脚へと当てがい、切り裂く。

 脚は容易に切断でき、その断面から青色の液体を滴らせる。 



「脚は脆いな、身体構造が混合してて不安定過ぎる、一体何なんだこの魔物」



 片側の脚を切断され、バランスが崩れ倒れてジタバタするピアノ蟹を見ながら呟く。



「ま、でも俺は魔物の専門家でも何でもない、このまま放置しても仕方が無い。殺すか」


―――()()ぜる雷蛇(らいだ)



 天から雷が墜ち、ピアノ蟹を正確に貫いた後に爆ぜる。


 ……ライトは心の底から後悔した。

 何故己は爆発させてしまったのだろうと。



「ぺっ、何で僕、爆ぜさせたんだろう?やるにしても壁とか張ってからの方が良かった」



 顔についた青い液体を拭い取ってから、自身の惨状を見る。

 溜息が出る。しかしながら、全ては自分の責任だ。



「流石にこれは……気が滅入ります」






 数分後、完全にコートを綺麗に終わったライトは、如何するべきか考えていた。



「街の気配も人の気配も全くない、やはり無策で動くのは危険……じゃあ、目印を置いて何処かの方向へ一直線で歩くことにしましょうか」



 そう言いながら、ライトは虚空から巨大な岩を取り出す。

 これは、彼がいつか戦闘などで使えないかと思って、ちょこちょこ集めている岩の一つだ。

 岩に対して、イグニティの切先を軽く振う。それだけだが、確かなサイズの跡がついた。


 警戒の為に、久しぶりにイグニティを背負いライトは意気込む。



「行くとしますか」



 この奇妙な森を、彼は歩き進み始めた。


 ……それが、悪かった。



 10分後、何も無し、ただ奇妙な森が広がるのみ。


 20分後、何も無し、ただ奇妙な森が広がるのみ。


 30分後、何も無し、ただ奇妙な森が広がるのみ。


 40分後、木々のサイズが少し大きくなった、しかし他に何も無し、ただ奇妙な森が広がるのみ。


 50分後、木々に果実がついていることが多くなっている、他には何も無し、ただ奇妙な森が広がるのみ。


 1時間後、木々に茸類がついていることが多くなっている、他には何も無し、ただ奇妙な森が広がるのみ。


 1時間10分後、木々に所々穴が空いていることが多くなっている、他には何も無し、ただ奇怪な森が広がるのみ。


 1時間20分後、木々に動物的器官のようなものが現れることが多くなっている、他には何も無し、ただ奇怪な森が広がるのみ。


 1時間30分後、木々に赤い肉のような部分が現れることが多くなっている、他には何も無し、ただ奇怪な森が広がるのみ。


 1時間40分後、木々の半分ほどが肉のような赤みを持つことが多くなっている、他には何も無し、ただ奇怪な森が広がるのみ。


 1時間50分後、木々のほぼ全部分が肉を持つことが多くなっている、他には何も無し、ただ奇怪な森が広がるのみ。


 2時間後、木々はそれらの形状をした肉々へと完全に置換された、他には何も無し、ただ奇怪な肉が広がるのみ。


 2時間10分後、肉々に人型生物器官を持つものが多くなっている、他には何も無し、ただ奇怪な肉が広がるのみ。


 2時間20分後、肉々の器官が動きをすることが増え始めた、他には何も無し、ただ奇怪な肉が広がるのみ。


 2時間30分後、肉々が明らかなきょど――っぁ」



 何かに足を引っ張られ、視界が揺らぎ地面へと倒れる。

 べちゃり、と草や土に倒れたら鳴る筈が無い音がした。


 身体を起こそうと地に手をついて目を開けると、地面と『目が合った』。



「――うわぁぁっ!?」



 驚きのあまり、飛び起きてイグニティでその目を突き刺す。

 瞬間、森が揺れた気がした。

 ライトは、辺りを見回す。彼は、言葉を紡ごうとして、酷く喉が震え、声が出ないことを自覚した。



「っ……」



 森が、いや肉達が『見ていた』。

 至る所にある眼球がこちらに向けられており、彼をその感情の伺えない瞳で射抜いている。

 イグニティを持つ手が僅かに震え出す。恐怖、していた、この状況に。


 頭が行動を振り返らせる。



(いつからだいつからだいつからだっ!僕は僕は、いつから、いつからこの状況を、この景色を、この森をっ!この肉達をっ!"異常ではないと認識させられていた"っ!!)



 答えは出ない。自分がいつ、罠にかけられた、術中に嵌ったのか分からない。


 分からない、分からない、分からない分からない分からない分からない分からなイ分かラなイ分カラなイ分カラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイワカラナイ―――ワカラナイ――……


 肉が蠢き出す。


 彼の思考は、停止しているが、たった一つだけ理解していた。



――自分は死ぬ、と。



 肉が彼へと動き出し、倒され視界が埋められ、終わる最中。

 僅かにだが『青い月』が見えた。



◆投稿

次の投稿は3/13(月)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

蛇の王「何故ちょいとホラーテイスト何じゃ?」

語り部「そういうコンセプトだからだ。急にハンドル切りすぎて、読者様方がどう思うか作者も少し不安になってる」

蛇の王「ではどうしてそうした」

語り部「この章に入れたい理想の展開には、この風味の界じゃないと合わないからだ」

蛇の王「ふむむ~」

語り部「本格ホラーは全く目指していないので、これくらいで進めて行くそうだぞ」

蛇の王「ライトの精神が持つと良いのう……ま、気にするに必要も無いじゃろう」



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