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3-27 勝利ヲ楽シメ



 クリムゾン宮殿、ライトの借り部屋。


 ボフッと、ベットに転がりながら、ライトは"本"を読む。

 そんな彼に、声が掛かる。



「ライトよ、それが昨夜死に物狂いで考えた魔法の成果か?」

「はい、本当に昨日は助かりました。毎度毎度自白させる度に、ミスティを怒らせる訳にはいかないですから」

「別に、あれ以外の方法ですれば良いだけだと思うがのう……して、良い情報は手に入ったか?」



 本に書かれた文章に、目を通すことを止めずに、ヨルと会話する。

 普段なら一旦手を止めるのだが、今はそうしない。

 そうしている時間が惜しい程に、価値のある内容が書かれていたからだ。



「この本の彼女、ネルトーナ・イリジアンは結構、聖国内部の上位に居たみたいで、嬉しい誤算です。お蔭で聖国内部の状態や経過が丸分かり。ま、それくらいじゃないと、強力な駒であり不確定要素である『勇者』に付けるには足りかったんでしょう。……ミスティにボコボコにされましたけど」

「それは仕方がない、ミスティの才能はこの世界で上を見つけるのが難しい程にある。それで、気になることは?」

「五か月前、急に教皇と聖女が同時に政策の転換をしたらしいです。今までは、現状維持を進めていたが、突然帝国を外敵と見なし、軍の強化を強行したとか」



 それが可笑しいことなど、文面を見ただけで分かるだろう。

 穏健に進めていたにも係わらず、"急に"政策の転換を行い、軍の強化を"強行"したのだ。

 正しく傍に居た者達からすれば『人が変わった』と思える程だ。



「勇者召喚も軍強化の一環だったらしいです。ヨルはどう思います?」

「ふ~む……胡散臭いな」

「ですよね、僕もそう思います。実際の証拠が無いにしても、教皇達の行動は不可解な点が多すぎます。これら行動を見るに、気が変わったというよりも――」

「――外部から何かしらの影響を受けたと考える方が適切、か」

「流石、その通りですヨル」



 ヨルは、ライトが口にしただけの内容と彼の思考を基に、彼と同じ結論に至る

 彼女と同じ結論という事実は、彼に自信を与えた。


 続け、本で得られる情報を最大限活用して、話し合いを行った。

 その時間、実に二時間。

 


「今日は、これくらいにしておこう」

「ん?そうですか?まだまだ出来ますけど」

「戦争に負けた、そして予想以上に兵力が減ったということは、強硬手段は暫く嫌でも取れんだろう。そう急ぐことも無い。別に気を抜けとは言わぬ、だが逆に気を張る必要も無い。今は、勝利を祝った方が良いと思うぞ?」



 要は、焦る必要は無いと言うヨル。

 ライトとしては、この話を続けて居たかったのだが、そう言われては中々断りづらい。

 きっと、自身のことを気遣って言ってくれているからだ。


 彼は「仕方ない」と心の中で呟きながら、彼女の優しさに感謝する。



「ヨルがそう言うなら……今日は休むとします。それで、それは何をしているんですか?」



 ゆっくりと本を閉じ、虚空へと仕舞い込む。

 ベットから身体を起こし、彼女を見る。

 ソファーに座り、グラスを手に持って純白の布で磨いていた。



「どんな形であろうとも、戦で勝利したのだ。勝利の美酒でも嗜もうではないか」

「お酒、ですか」

「何だ、酒は好まぬか?」

「それ以前の問題、と言いますか……」



 此度の戦争の祝いの酒、ということなのだろうが、そもそもライトは飲酒をしたことがない。

 [ミルフィリア]では、16歳から飲酒が可能なのだが、それでも彼はお酒に手を出していないのだ。

 理由は単純、お金が掛かるから。



「お酒って美味しいんですか?」

「物による、としか言えぬ。酒と偏に言っても範囲が広すぎる故な。今夜の酒は、本当に嗜むものじゃ」

「嗜む……断る気はありませんけど、若干不安ではありますね」



 未知のものへ手を出すのに不安は付き物、とライトは己を納得させた。

 立ち上がり、ヨルの隣に移動する。

 テーブルの上には、三つのグラスと何かが置かれそうな皿がある。



「不安、か。あれ程の暴虐を為す男の言葉とは、到底思えぬな。だが、好みだ。そのちぐはぐさが好きだ」

「その、それはどうも」

「本当に、可愛いものよ」



 色気を宿す瞳がライトを射抜く。

 急に好意を伝えられるのは、やはり慣れていないので、は表情に出さずに動揺していた。

 しかし、それすらも彼女には見透かされているような気がして、顔が熱くなる。


 コトリと、いつの間にか出されていた一つの深い緑色のガラスの瓶が机に置かれる。



「それが、今日飲むお酒ですか?」

「うむ、当然今の世界には流通などしてる筈もない、秘蔵の品だ」



 話題を逸らす、というか何か話していないと恥ずかしいので、ライトは目に着いた物を話題とした。


 ヨルは、瓶を手に取るとこれまた何時出したのか、コルク抜きを用いてその栓を抜く。

 トクトクと一つのグラスに、瓶から出た赤紫色の液体が注がれる。



「ん~と、確か…ワインってお酒でしたっけ?」

「うむ、葡萄酒とも言う。分類としては、果実酒になるな」

「なんというか……血みたいですね」



 仕方が無いと言えるのか良く分からないが、ライトはワインに物騒な感想を持つ。

 明らかに、そうではないと思う。

 予想外だったのか、ヨルはくすくすと彼を笑う。



「そのような感想を口にするとは…くくっ」

「もう、笑わないで下さい。それで、どうしてもう注いでしまったんですか?ミスティ、まだ来てませんよ?」

「ああ、だからこそだ」



 不思議がるライトを他所に、彼女はワインの入ったグラスを手に取り、それを口へと運び、口に含む。

 飲んでいるようには見えないので、彼は更に不思議に思ったが、疑問は直ぐに解消されることになる。



「ヨル、どうい――むっ!?!?」



 瞬間、押し倒され唇を重ねられる。

 同時に、液体が流し込まれ強制的に喉と通された。

 ライトの意思に反してゴクリと喉が鳴る。


 唇が離された。



「けほっ、何するんですか!」

「かかかっ、ワインは楽しめたか?」

「そんな訳無いでしょう!」



 すぐさまライトは、ヨルに抗議をする。

 一見、強制的にワインを飲まされたことに対してだと思われるだろうが、実のところそうではない。

 急にキスなどされると、心臓に悪いという意味合いの方が強いが、当然正面から言えば揶揄われ、更にされることが分かっている。

 ので、表面上はワインを飲まされたことだと誤魔化しているのだ。



「では、キスはどうだった?」

「なっ、いえ……」



 そんなことは、気付かれていた。

 彼女を前に、誤魔化しは効かないらしい。


 何処までも見通されていることを再認識したライトは、酷く動揺した。

 言葉が出てこない。



「沈黙は、肯定じゃ。さて、もう一度しようか」

「まっ、待ってヨル、心の準備というものが――」

「――そう言いながら、強引にされるのが好きなのだろう?」



 再度、唇が重ねられそうになったその時、



「――マスターッ!」



 部屋の扉が開かれ、ミスティアナが入ってくる。

 二人は、そちらを向いた。



「む?我の予想ではもう少し余裕がある筈だったのだが」

「"視た"ので来たんです!ヨル様!抜け駆けしないと約束したじゃないですかっ!」

「ちっ、未来予知が発動したか……さて、我にはそんな記憶は無いが?」



 彼女が、未来予知の結果早く来たのだと理解したヨルは、舌打ちをして、彼女の言葉をはぐらかした。


 当然、そんなこと許される訳もなく、駆け寄って来た彼女の手でライトとヨルが引き離される。

 ライトは抱き締められるような形だ。



「私だって、私だって我慢したのに…マスター!」

「なっ何ですかミス――うむっ!?」



 ミスティアナに呼ばれたので、首をそちらに向けると唇を重ねられた。

 然も更に強く抱き締められたせいか、かなり熱いキスだ。



「――ハアッハアッ、マスターマスターマスターッ」

「ちょっと、大丈夫ですかっミスティ!」



 キスが終わると、荒い息のまま彼女はライトを呼び続ける。

 彼の背筋に、冷たい何かが走る。



「も、もう駄目、ダメなんです……マスター、私我慢出来ませんっ」

「不味いっ!?ヨル、見てないで助けて下さいっ!?今のミスティ絶対平静じゃありませんっ!?」

「ふむ、そうじゃな――」



 瞳の焦点が合っている様で合っていない、暴走気味なミスティアナの様子から、ヨルに助けを求めた。

 しかしながら、助けを求める相手を間違っていた……いや、元々助けてくれる者などいなかった。



「――我抜きで始めようとするでない」

「ヨルッ!?」

「マスター、私だけを、私だけを見て下さいっ!」



 そうして、妖しげな顔のヨルが近付く中、ミスティアナにキスをされる。


 ライトは、「何故こうなった……」と心の中で呟いた。


 この日の夜は、長かった。



◆投稿

次の投稿は3/9(木)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「前半と後半の落差が酷いな」

蛇の王「仕方が無い、欲求には抗えぬものよ」

語り部「いや、抗う気無いだろ。正直じゃん」

蛇の王「我でないのに、分かるのか?」

語り部「すぅ~……分からないねぇ」



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