3-26 存在網羅ノ写本
更に翌日。
ライト達は、また牢屋に来ていた。
今回の相手は、
「はぁ、二日連続でこんな日の当たらない場所に連れて来させられる俺の身にもなってくれねぇか?」
「「…………」」
「こりゃ、昨日のようにはいかなそうだ」
『勇者』と共に居た、妙に神聖な気配を感じさせていた騎士と魔女。
ミスティアナにボコられて、無事一緒に拘束された者達だ。
前日同様、イグニに頼まれて彼らの口を割りに来ている。
ライトは、何で僕がこんなことやってるんだろ?とシンプルに疑問を抱いていた。
そして、更に気を落とさせるのが、彼らが『勇者』よりも面倒そうという事実。
既に何度も話しかけているのだが、一つの反応すらも返さず地面を見つめている。
「……クソ面倒臭い、これは"最終手段"を取るしかないな」
「マスター……」
ライトが、"最終手段"と口にするとミスティアナから声が掛かり、厳しい視線を向けられる。
これには、前日の彼が取った、効率的に情報を引き出す方法が影響してた。
「いや、大丈夫昨日みたいなことをしないから」
「本当ですか……」
「うん、本当」
「…………」
「あの、本当ですからミスティ、安心してください」
「……分かりました」
昨日の『勇者』の剣士と話の後、彼女に物凄い剣幕でライトは怒られた。
その内容は、神官を黙らせ拘束する時に、神官の"胸に触れた"のがお気に召さなかったらしい。
決して、あの非人道的な行為を非難は全くしていない。
彼女からしたら、主が見知らぬ者に拷問のようなことをするよりも、主が見知らぬ者の胸に触れる方が重要なようだ。
今、それと同じことをしようとしていると思ったのか、止められた。
しかし、ライトはそんなことはしようとしていない。
中々彼女が信用せず疑いの目を向けて来るので、演技すらも止め普段の口調で言うと、納得してくれた。
ライトが、牢屋の方へと向き直る。
「さてと、さっきも言った通り、最終手段を取らせてもらう」
「「……」」
「最後までだんまり、ね。そのクソみたいな精神が、今直ぐ無意味になる。良かったな」
そう言い切って、ライトは二人へそれぞれ手を向ける。
身体から魔力が溢れ、両の手の前に黒い魔法陣が一つずつ形成された。
魔法陣が、霧散し金色の光を放つ。
《黒剛彩王-虚の理-悪逆非道-偽詐術策-聡明-会心》
―――神級記憶魔法:存在網羅ノ写本
光が収まると、ライトの手には灰色の二つの本が握られていた。
題名は、「ランド・カーバイ」「ネルトーナ・イリジアン」と書かれている。
悪役もビックリの歪んだ笑みを、ライトが浮かべる。
彼は、今にも高笑いしてしまいそうだった。
何故なら、先程使った魔法は、昨夜彼が死に物狂いで考えた渾身の魔法なのだから。
「ククッ、クアッハッハッハッハッハァッ!!!」
どうも抑えられなかったようである。
奇怪な笑い声が地下全体に響く。
その異常な様子に、イグニや警備の騎士だけでなく、先程まで俯いていた牢の中の二人までもが「大丈夫か?コイツ、イカれたか?」という視線を送ってくる。
「マスター、大丈夫ですか?」
「何にも問題無い!おい、お前らコレが何か分かるか?」
「「…………」」
「ああ、済まないな。お前らに分かる訳無いか、俺が考えた新しい魔法だしな」
テンションが正に最高潮と言って良いライトは、口が回るのを止められない。
二つの本を左手で持ち、「ネルトーナ・イリジアン」と書かれた方の本を右手で開く。
本の内容が目に映り、その情報が脳へと流れて行く。
口が笑みを描くことを止めることが出来ない。
「この本はなっ!魔法の対象者の『記憶を全て写し取った本』なんだよ!!」
「「っ!?」」
「おいおい焦ってんねぇ!!だけどもう遅い!お前らの考え、聖国で何をし、どんな命令を受けたかだって、どんなに隠したいことであろうとも!この本に全てが載っている!!!」
唯の声掛けには微動だにしていなかった二人の顔に、焦りが浮かび上がる。
だが直ぐに、少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。
それは、ライトの言葉が全くの嘘で自分達を動揺させるものだと思ったから。
「お?嘘だって思ってるな?なら、証明してやろう。ミスティ、こっちの本持っておいて」
「はい、マスター」
「ランド・カーバイ」と書かれた本をミスティアナに手渡す。
同時に、魔女―ネルトーナの目の前にライトは立つ。
本をしっかりと開き、それに目を通しながら口を開く。
「名前は、ネルトーナ・イリジアン。年齢は24、身長157㎝、体重は46㎏。趣味は恋愛小説を読むこと。所属はリソプレーズ聖国・皇属魔法士隊で、位は戦略魔法士。7歳からのその才能の片鱗を見せ、圧倒的才能で学園を飛び級、最年少で皇属部隊に入った天才エリート。部隊内では無口でクール系ということで通っているが、実は唯のコミュ障で人と話すのが苦手なだけ。本を読むことが大好きであり、恋愛モノ、特に王道の純愛モノの小説を好む。他にも部隊内では、任務で一緒になることが多いランド・カーバイと付き合っているのではと囁かれているが、全くの見当外れであり好みは歳下なので完全に眼中に無い。また、男性経験も当然ない、にも関わらず性欲は強く週に五日は自――「やめてっ!?」――もう降参か?」
「は、はい…全て話すので……それ以上は……」
「仕方ないなぁ」
つらつらと本に書かれていることを読んでいくと途中で静止が掛かる。
然も、今までどんなことを言おうとも口を開かなかった魔女からだ。
揺れる、本当に止めてくれという瞳を見たライトは、大袈裟な動きで彼女の言葉を聞き入れて本の内容を口にするのを止めた。
それは、本の内容が本当に彼女の記憶であるという一つの証拠にもなった。
「じゃ、次はお前だな」
「っ!」
「ミスティ、本を交換しよう」
「はい、マスター」
ビクリと騎士―ランドの身体が震えた。
ミスティアナに持ってもらっていた本と今手に持っていた本を交換する。
表紙に手を掛け、本を開き目を通す。
そして、口を開く。
「名前は、ランド・カーバイ。年齢は27、身長173㎝、体重は67㎏。趣味は身体を動かすこと。所属はリソプレーズ聖国・皇属騎士隊で、位は特任騎士。幼い頃から身体能力が高く、騎士である父に憧れて自らも騎士になると決心し、父からの指導と独学で皇属騎士隊に一度で合格する才覚の持ち主。部隊内では誰にでも陽気に接する人気者、なのだが実は他人と一対一で会話するのは苦手。幼少期を身体を鍛えることに費やしたからか、時間の潰し方は身体を動かすことしか知らない。他にも部隊内では、任務で一緒になることが多いネルトーナ・イリジアンと付き合っているのではと囁かれているのだが、実際に彼女に好意を抱いており、何度かデートに誘うが全て断られている。また、女性経験はかなりある、一時期は娼――「あぁーーっ!!!」――五月蠅い」
「分かった!分かったから!もう止めてくれっ!?全部話すから、それを読むのを止めてくれっ!?」
「くくっ、そうかそうか」
ランドの叫び声によってライトの朗読が遮られた。
デリケートな内容に入ろうとしたのが分かったからだろう。
ライトは、彼の悲痛な言葉に嬉しそうに頷く。
パタリと本を閉じた。
「イグニさん、脅迫終わりましたよ。それじゃ、僕は戻らせてもらいます。こんな日の当たらない場所、何か辛気臭くて嫌なので」
「あぁ、はい、お気をつけて、ありがとうございましたな」
「いえいえ、貰える物は貰いますので……じゃあ、ミスティ行きますよ」
「はい、マスター。いつでも貴方の傍に」
コツコツと足音を立てながら、ライトとミスティアナはその場を後にした。
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次の投稿は3/8(水)です。
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◆技解説
魔法技録
神級記憶魔法:存在網羅ノ写本 使用した対象の記憶を解説する内容の本を生成する 対象は使用者が視認と接触出来る範囲に限る 本が消失や損失しても対象には何も影響はない




