3-23 疲労ヲ自覚シタ時ニ休ムベキ
終部を修正し、後書きを追加しました。
「すぅ……すぅ……」
「はぁ……呆気なく終わってしまいましたね……」
戦争が終わり、今は帝都クリムラットへと戻る道を馬車に乗って眺めていた。
ライトの存在は秘匿されていたが、もう戦争で出したので隠す必要が無くなったので、こうして外を真が目られている。道中は一切外は見れなかった。
隣で心労からか、珍しくもライトの横で無防備に眠ってしまったミスティアナを撫でて観察しながら、彼は深く溜息を吐く。
理由は、想像よりも容易く戦争が終わってしまったからだ。
「所詮、人間同士の戦争はこの程度ですか……別に下に見ている訳じゃ無いんですけど、もっと手応えが欲しいですね。『勇者』も大したことなかったですし」
<人間が多かったから、というのもあるが、あの黒塗・八岐大蛇が、戦争に適し過ぎていたということの方が我は大きいと思うぞ>
「……やっぱりそう、ですかね。まあ、正直強すぎて『勇者』と戦う時は少しだけしか使わないように僕自身もしましたしね」
ヨルからの言葉を聞き、ライトは今回の戦争について、敵の状態や自身の術などを振り返る。
実際の所、今回の戦争はライト無双であった。
直接的な原因は、ライトに対応できるだけの強さの相手が聖国軍に入れられていなかったことである。
それもその筈なのだ。
Sランク相当の評価が既にされている彼に対応できる相手は、同じくSランクかその上のUランクだけなのだから。
Sランクは[ミルフィリア]全体で百人程しか存在しない、Uランクに至っては15人である。
人界にだって、片手で足りる人数が居れば多い方のと言える。
無論、実力者の誰しもが冒険者という訳でもないので一概には言い切れないが、それでも多い訳がない。
つまり、彼の障害足り得る存在など、元より居ない確率の方が高かったのだ。
勝手に彼が期待し過ぎていただけ、ということになる。
異世界の存在、『勇者』に期待を寄せすぎだった。
別に『勇者』が弱かったという訳ではない。
もう少し趣向を凝らせば、ライトに傷をつけることが出来たくらいには強かった。
パーティーとしてはAランク高位相当だろうか。
しかしながら、戦闘経験の無さ、個々になった時の弱さなどの不足の要素や戦い方が致命的にライトと噛み合っていないなど不運の要素のせいで負けたと言っても過言ではない、と思う。
ライトの不満を除けば、帝国としては、ほぼ最高の結果だろう。
貴族共が戦争で手柄を手に入れられなくて、不満が溜まる可能性はあるが、死傷者を最低限に抑え、用人は確保できた。
彼の知ったことではないが、それらのお蔭で敗戦した時ほどの手痛い出費も無く、講和も有利に進めれるからだ。
<しかし、お主の言う様に確かに強力じゃが、アレ程度で止まられては困るぞ?>
「分かってますよ。上には上が居るってこと、僕が一番知ってますから」
<ならばよい、そのまま頑張るが良い>
気を抜いて慢心しているのでは、と考えたヨルの言葉にライトはハッキリと返す。
常日頃から、最強と共にあり、天才を奴隷として従える彼にとって、慢心などあり得なかった。
けれども、今現在、気は抜いていた。
あることが引っ掛かっていたのである。
(勇者の言葉に、嘘は無かったように思える。けど実際には違う……あの断言のしよう、軽度の洗脳でってところかな)
『勇者』の剣士が言っていたことについてだ。
移動していなく、色々と問題がなければもっと情報を得に行っていたかもしれないくらいには、気になっていた。
彼の勘が、そこにありそうな問題と強者の陰を感じ取ったのだろう。
(な~んか、きな臭いんですよね。裏があるのは確実として、それとはまた別の嫌な予感がします。主犯は教皇か聖女か、どっちもか将又また別の存在か。実は、教皇や聖女だと思ってたのが全く別の存在で、本物は他の場所に幽閉されていたり?……妄想が激しすぎますね)
謎の興奮を覚えた思考を覚ます為、また息を吐いた。
窓から青い空が見える。
(このことは後回しで、情報が少なすぎますから)
足りないものが多い故に、ライトはこれを後に回した。賢明な判断だ。
頭を切り替えるようと何かすることがないかと考えるが……無い。
本当に何も無いのだ。
(ヨルが出ていたら、もしもの時不味い。異空間でヨルと修行の場合も同じ、こっちは僕も居なくなるからもっと不味い。ミスティが寝てるから激しい動きは出来ない……詰んでないか?)
「仕方ない、ミスティを見ているとしよう……正直、変に疲れてて何かする気にはなれませんでしたし」
場合を考え、数秒の思考の後、結論としてほぼ何もしないという選択をした。
何も出来ない以外にも理由があり、どうにもライトは、本調子と言えない状態だったからだ。
特に負傷も無理もしていないのだが、妙な疲労を感じていた。
心当たりはある。
(スキル-最純二択関係している、って考えるのが自然です。あれ以外に他に原因が思いつきません。まあ、これに関しても分からなことだらけ、やっぱり考えるの止めましょう。もう今日は頭を使うのはお終いです)
未だに詳細が掴めないスキルのことを考えるのを止め、思考を停止させることをライトは選んだ。
慣れない環境に晒されているというのもあるのだろう、彼自身では気付けないが、そのような小さなもの積み重ねが、今回の件で身体に出ているのかもしれない。
だが、思考停止というのは、良くない。
「こう言うと、変かもしれませんけど、寝ているミスティは新鮮ですね」
ミスティアナは、今現在使える部屋が一つの為、ライトと共に寝る。就寝時は当然明かりを消すので寝ている姿は見えない。
そして、彼女はライトよりも"確実に"早く起きている。
どういう原理で起きているのか理解出来ないが、彼がかなり早く起きたと思った時でも必ず彼より早く起きているのだ。
別にライトは、それを気味悪がっている訳も無く、単純に寝れているのかなぁ、と心配している。
何にせよ、彼女の寝ている姿というのは珍しく、普通のことの筈なのに見てしまう。
その稚くも美しい寝顔を、無防備な状態を見せてくれている事実が嬉しいのだ。
不意に彼女の首筋に視線が吸い寄せられ、手を触れさせる。
トクン、トクン、と血の流れが分かった。
「……そう言えば、ミスティの心臓って……」
ライトは、抱いた疑問の赴くままに行動し、ミスティアナのコートを少し脱がし、胸元に耳を当てる。
今のライトは思考が働いていない。
ドクッドクッと心臓の鼓動が聞こえてくる。不思議と心が落ち着く。
「普通、ですね……まあ、身体構造は変わりませんし当然ですか」
傍から見れば、かなり奇妙なこと変質者と思われても仕方のないことをしているが、これを見ている者が居ない上に、ミスティアナはライトの奴隷なので問題はない。
絵面だけに問題があるだけだ。
この時点でライトは気付くべきだったのである、彼女の"寝息が聞こえなくなっている"ことに。
「ミスティには申し訳ないですけど、もう少し…このままで」
言いようのない心地の良さから、ライトは若干の後ろめたさを感じながらもそのままで居ることにした。
不意に背後に腕が回され、動けなくなった。身体が跳ねるが、逃げることは出来ない。
耳に聞こえる彼女の鼓動が、早くなっていた。
「マスター、何をされているのですか?」
「い、いえ、その、別にやましいことをしていたわけでは無いのですよ?」
「別にマスターならば、問題ありません。言って下されば幾らでもお相手します」
別にミスティアナからしたら問題はないのだが、彼女が寝ている状態で何かをしたということが彼を焦らせた。
だがしかし、逃亡は許されない。
「マスター、別に私は責めている訳ではありませんよ?ですが、マスターがそれをお求めなら……」
彼女の口が耳元に近付けられ、息が吹きかけられる。
痺れるような感覚が襲う。
「悪いマスターには、お仕置きが必要ですね」
首筋に彼女の指が這う、身体の力が抜けてしまう。
思考停止は、やはり良くないようだ。
ライトは自分の考えなしの行動を後悔した。不思議と、それでも悪い気分ではない。
きっとそれは、相手がミスティアナだからだろう。
誰しも、疲労を自覚した時に休むべきなのである。
そうすれば、問題は起きない。
◆投稿
次の投稿は3/5(日)です。
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◆蛇足
語り部「実際の所、本当にライトやミスティアナって人間と身体構造同じなのか?」
蛇の王「完全に同じという訳ではないが、概ね同じじゃな」
語り部「じゃあ蛇王はどうなの?」
蛇の王「我の場合は敢えて人の形をとっているだけじゃ、同じような構造じゃが、別に無くなっても特に問題無く行動できる」
語り部「じゃあ解体してみても……」
蛇の王「我の身体、刃通らぬぞ」
語り部「駄目とは言わないのね」




