3-22 戦ノ終ワリ
「マスター!マスター!?怪我はありませんか!?ど、何処かに不調は!?」
「かはっ……ぁ、やっ……ぅるし……」
地面に強くを押し付けられたまま、尋常ではない程に動揺した様子のミスティアナが、ライトの身体を触りながら安否を確認してくる。
動揺しているせいで、判断能力が鈍っているのか、力が強すぎるせいで半ば首を絞められるようになっており、空気を上手く取り込めず、言葉を発せれない。
僅かに、意識が薄れて行くように感じる。
すぐそこだが、意外な所から助け船は出た。
<ミスティ!一旦ライトから離れろ!首が絞まっておるぞ!そのままでは本当に死ぬことになる!>
「よ、ヨル様ッ!?分かりました!はぁ、はぁ……ふぅ、ふぅ……」
ライトから、ミスティアナが離れる。
それにより、感じていた苦しさは無くなり、徐々に弱まっていた生が息を吹き返す。
一方彼女は、深く息をして、己を落ち着かせようとしているらしい。
けれども、落ち着かせる最中も、ライトに向ける目は片時もブレていない所を見るに、重症である。
数十秒か数分か、ライト自身には良く分からないが、短い時が流れた。
戦場とは思えない程の、綺麗な空気が彼の肺を満たす。
「ふぅ~……もう大丈夫です」
「すみません、マスター……その、不安が抑えられなくて」
「別に良いですよ、僕を思ってくれての行動ですし」
(ヨル、本当に助かりました)
<気にするな、こんな仕様もないで死なれては、蘇生できるが我が困るからな>
時間を置いたお蔭で、少しは冷静になったミスティアナの謝罪を受け言葉を返す。
そして、頭を撫でながら、ヨルに感謝を伝えておく。
ライトは、彼女の行動の理由を尋ねる為に、口を開いた。
「それで、何であんなに焦ってたんですか?」
「それは……"マスターが死ぬ"未来が見えたからです」
「誰に、どんな風にか、嫌じゃなきゃ教えて下さい」
「先程の黒髪の女性に、荒霧のような武器で心臓を貫かれていました」
つまりはさっきの『勇者』の侍に刀で心臓をぶち抜かれて死ぬライトが見えてしまい、動揺してしまったということだ。
ミスティアナにとってライトは、代えなど利く筈の無い、唯一無二な存在。
そうでなくても、そもそも好ましい相手が死ぬと分かれば焦るのは当然と言える。
心配してくれていたのに、悪いと思ってしまうがそれだけ彼女が自身のことを思ってくれた、と感じ嬉しくなり、思わず笑みが浮かんでしまう。
彼女をぐっと引き寄せて抱き締める。
「心配させてすみません。でも、もう少し落ち着いてくれても良かったですよ。僕はミスティの主なんですから、その分信頼もしてください」
「はい、マスター……」
ミスティアナからも抱き返され、ほんの少しだけだが、戦争に相応しくない甘い雰囲気が漂う。
状況が状況故に、横槍が刺さる。
<ライト、ミスティ。まだ戦争は完全に終わっておらん。気を抜くのが早いぞ。気絶している『勇者』達を拘束するのが先決だ>
「そうでしたね。そう言えばミスティ、あの『勇者』と一緒だった二人はどうしたんですか?」
「未来を見た瞬間に、即座に意識を奪いました。恐らく、あちらに転がっているかと」
「了解です。じゃあ、パパっと彼らを集めて拘束しますよ」
「承知しました」
ヨルからの注意通り、ライト達は『勇者』御一行を拘束する為に動き出す。
ミスティアナが走って、先の二人を回収する内に、ライトは転移で散らばっている『勇者』直ぐにを集めた。
もう少しだけ彼女が返って来るのに時間が掛かると判断した彼は、使えるある物を巳蚓魑から取り出すことにする。
―――取出・巳蚓魑
虚空から出でたのは、一見唯の黒い鎖。
だが、それが放つ異質にして不気味な気配は、この世のものとは思えない。
ライトは、それをしっかりと捉えた瞬間に、冷や水を浴びせられたかのような感覚に陥り、軽く目眩がした。
「くっ……スゥーハァー……大丈夫です。僕は、『黒剛の王』……黙って従っていろ」
深呼吸の後、彼が強くそう言うと鎖から嫌な気配が消える。
実はこの鎖、曰く付きがある処の品ではない。
<『悪辣の魔王』ラスターハルトの武器『悪辣を為す常夜の影鎖』か。成程、『勇者』であるこ奴らの対策・拘束にはピッタリだ>
この鎖、"六王武装"という名の『六天魔王』が使っていた武器の一つなのである。
何故そんなものが巳蚓魑の中に在るんだと、ライトも驚きヨルに聞いたのだが、何度聞いてもはぐらかされ、最終的には諦めた。
『八彩鉱王』が討伐した筈の『六天魔王』。
その遺品とも言える物を持っているのが、どうして『八彩鉱王』ではなく、ヨルなのか。
まだまだ彼の蛇の王は、謎が多い様だ。
因みにこの鎖、『大迷宮』でU.U.U.を拘束していた鎖の本元、真作に当たる。
「正直、魔王の武器なんて使いたくありませんけど、便利には変わりませんし仕方ないけど使います」
鎖が動き出し、彼らを拘束しだす。
本来であれば使う気など無かったが、二つの懸念がそれを止めさせた。
一つ目は、『勇者』の力。王気を消し飛ばすあの力は、危険極まりなかった。不意打ちならば重傷程度では済まないだろうと警戒したのだ。
二つ目は、ミスティアナが言った侍に刺殺された未来。目の前で地に伏して気絶している女は、可能性とは言え、自身を殺す程の力があるということで警戒せざるを得なかった。
以上のことより、ライトはこの鎖を使うことにした。
『悪辣を為す常夜の影鎖』には、拘束した対象の力を減衰・封印させ、奪う能力がある。
一定の条件を満たした状態で、どんな理由であれ鎖に触れさせれれば任意で奪うことが可能だ。
現力から、才能、果てには寿命まで奪える、正に悪辣な能力を持つ武装なのである。
「マスター、戻りました」
「じゃあ、そこに置いておいてください。その二人も拘束するので」
「はい……それにしてもマスター、禍々しい気配のする鎖ですね」
戻って来たミスティアナは、初めに見た騎士と魔女を引き摺っていた。
彼らを下ろしてもらい、『勇者』と同じように拘束する。
すると、その様子を見ていた彼女から、声が掛かった。
この鎖もそうだが、ライトはミスティアナに巳蚓魑の中に在る物の話をあまりしていない。
言っていないのには理由があり、量が多すぎるのと使えるのが彼とヨルだけだからだ。
前半は普通に分かると思う、後半はどういうことかと言えば、"他家の冷蔵庫の中身を知っていても役に立たない"、とそう言うことだ。
自分で使いもしない物の詳細など、意味が無い処か無駄と言える。
実際に話した場合、ミスティアナは喜んでそれを聞き、完全に記憶するであろうが、それがいつか役に立つ確率はゼロに近い。
故にライトは一々巳蚓魑に収納されている物を言っていない。
「ちょっと特殊な物で、拘束した対象の力を封印だったりが出来るんですよ。命令すればある程度勝手に動きますしね」
「流石マスター」
「別に持っていたのは僕じゃなくてヨルですけど」
「いえ、それを使うと判断したマスターを凄いと思っているのです。貴重な品でしょうに」
「ああ、そういうことですか。どんなに良い物でも、使わなければ置物です。僕は折角の良い物を死蔵する気はありませんから」
前から変わらず"使える物は使う"の精神のようだ。
次は何をしようか、と少し考えを巡らせていると二つの影が近付いて来る。
赤い装備から、帝国の者であることが理解出来た。
近付けば、彼らが誰か簡単に分かった、面識があったからだ。
「ライト殿ッ!」
「何を暢気にしてるの」
「キースにムルドですか。どうかしました?」
来ていたのは、第二師団長、キース・ラグットと第六師団長ムルド・ミラーだった。
二人共、少し戦闘の後が見える。
あまりにも落ち着き払ったライトに、二人は直ぐにあきれ顔に変わる。
それもそう、戦争中だからだ。
「はぁ、本当にライト殿は……常人とは色々と違いますね」
「ありがとうございます」
恐らく嫌味だが、取り敢えずライトは勘者を伝えた。
「ライトくん、あの大きな蛇はどうしたんだい?」
「ああ、そう言えば……多分、さっき術解除しちゃったんですね」
ムルドから問いに、ライトは先程自分が危ない状態になったのを思い出し、その際に術が解除されたのだろうと判断した。
(ヨル、神器の方は回収してます?)
<大丈夫だ、言われずともしておる>
(ありがとうございます)
「心配する必要はありませんよ。アレは僕のスキルで作った物ですから、実際に生きてる訳じゃないので、簡単に出したりは出来ませんけど、また出せますよ」
「アレを作っていたと……規格外、はもう遅いですか」
キースが遠い物を見る目へと変わってしまう。結構、疲れているのかもしれない。
そんな疲れたキースに変わったムルドが口を開く。
「キースが遠い目に……仕方ない。率直に言うよ、戦争は終わった」
「え?どういうことですか」
「だから、戦争はもう終わったんだよ」
「……え?」
如何やら、戦争は終わってしまったらしい。
◆投稿
次の投稿は3/4(土)です。
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◆蛇足
語り部「六王武装が巳蚓魑の中に在る理由、それのヒントは実は既に作中にあるんだぜ」
蛇の王「具体的に言えば、序章の最後の方と1章の始まりの方の二か所の少ない情報を合わせると、ある可能性が浮かぶというくらいじゃな」
語り部「正直に言って、分からないかもしれない。ま、だがそんなもんだろ」
蛇の王「投げやりじゃな」
語り部「それでこそ僕!!」




