3-20【黒塗】ライトVS『勇者』上
明らかに常人ではない、異質な雰囲気の黒髪の四人の男女。
そして、彼らを付き添いなのか、何処か神聖な気配の騎士と同じく神聖な気配の魔女。
『勇者』御一行様のお出ましだ。
ライトの黒き王気の領域に居ながら、彼らの周囲だけはそれが弾かれており、黒の中に一つの空白が出来てしまっている。
「――ケケッ、待ってたぜぇ、『勇者』共」
明らかに悪役の口調で言葉を紡ぎながら、ライトは八岐大蛇から黒の大地へと降りる。
ライトが現れると、『勇者』達の顔が歪む。
『勇者』の中でも、一際強そうな白銀の鎧で身を包んだ青年が、一歩進み出る。
「お前が、やったのか」
「何のことだ?」
剣呑を含んだ『勇者』の青年を、ライトは理解していながらそう答えた。
意地の悪い男である。
一応、理由もあり何故そのような感情を向けられているのかは、分からなかったというのもある。
「何のこと、だって?この惨状のことだ。お前がやったのか。何万という人達を殺したのか」
「ふむ、ああ、そうだが?それがどうした」
明らかに怒気を孕んだ言葉だったが、飽くまでも毅然とした態度で返す。
当然、そう返せるのは彼の精神力故か、価値観故か。
「今行われているのは、"戦争"だぜ?命の価値なんて無いに等しい。そもそも死にたくないのなら、来なければいいだけの話」
「お前っ、人の命を何だと思っているんだ!!」
「はぁ……成程ね」
怒る青年を見て、ライトは深く溜息を吐く。それは、理解の溜息だ。
『勇者』は異世界の存在ということは理解していたが、こうも分かり合えなそうな存在なのかと改めて理解し直したのである。
ライトにとって、世界は弱肉強食、死は当人の責任だ。
殺したとて、責められる義理は無い。
その者との関係性が深く、恨まれる場合は分からなくも無いが、ライトは目の前の青年がそんなこと関係なく怒っているのが分かっていた。
「命を尊ぶ、か。反吐が出る考えだ」
「何ッ!?」
「大体だ。宣戦布告をして攻めて来たのは、お前ら聖国だ。今更何を被害者面しやがる」
「ふざけるな!宣戦布告してきたのは帝国だろう!!」
「は?何言っている?」
「教皇様とアイシャが言っていた。帝国が攻めてくると、そう確かに言っていた!あの教皇様達が嘘を教える訳がないっ!」
(……何を馬鹿な……いや、本当にそう思っているのか?)
嚙み合わない情報と青年の様子から、推測を広げる。
微塵も嘘を言っているようには見えない青年、だが実際に言っていることが事実と違うことを彼は知っていた。
フレグスから見せられたリソプレーズ教皇の聖印が押された宣戦布告の書簡、それが本物ということはヨルから聞いている。何でも、記憶魔法で分かるらしい。
(何かを仕組んでいるのは、女教皇か将又勇者召喚をしたらしい聖女か。どちらにせよ、敵には変わりない)
「結局は、んなことはどうでも良いんだよ。此処に来たってことは、俺を殺りに来たんだよな?ならさっさとやろうぜ?」
「お前を止めてやるっ!!皆、手を貸してくれ!」
「その為に来てるわ」
「面倒臭い上に強そうですから、遠慮したいのですが、そうも行きませんか」
「が、頑張りますっ!」
『勇者』達が臨戦態勢に入る。
同時に、付き添いらしき二人も武器を構えた。
ひしひしと感じる戦意に、杖を握る手に力が籠もる。
「ミスティ!取り巻きのそこの二人を確保しろ、出来るだけ殺すな」
「――了解いたしました、マスター」
《未来予知-槍術:神級-電光石火-絶技-天眼-神風-真愛》
ライトの言葉に応じたミスティアナが即座に八岐大蛇から飛び降りて来て、騎士と魔女を剥奪槍で一気に吹き飛ばして行った。
『勇者』達に驚きが走る。
透かさず、ライトは杖を『勇者』の青年―剣士へと振り下ろす。
「余所見とは、余裕だねぇ?」
《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――上級杖術:型無き戦刃・降流
「危ないっ!」
―――上級刀剣術:石火転流
剣士の胴を直撃するコースだった杖は、横から挟まれた『勇者』の女―侍の刀によって受け流された。
そして、油断することなく、返しの刃が来たのでライトは、後ろに跳躍してそれを避ける。
今の一度の接触で『勇者』が意外と大したことないのでは、と彼は感じた。
「良い反応、だが。おいそこの剣士の『勇者』、何だその反応速度は。女が居なけりゃぁ、今の一撃で死んでても可笑しくなかったぜ?こっちは、結構な時間待ってんだ。詰まらなくやられんじゃねぇぞ」
「くっ」
「シュウヤ、惑わされないで、今は戦いに集中して。あんな雰囲気だけど、彼かなり、いや化け物級に強いわよ」
「分かった、ミサキ。今だけは、集中するさ」
「クールダウンは終わったか?それじゃ、再開だ!」
《黒剛彩王-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-回避錬術-怪力》
全身に魔力を巡らし、縦横無尽に杖を振う。
剣士を中心に狙い、構えられた業物に見える剣の隙を縫うように突きや払いで攻撃を加える。
彼らもやられっぱなしという訳ではなく、ライトの攻撃を剣士が受けた瞬間に侍の鋭い刃が的確に急所を狙って来た。
当然、ただ速いだけの攻撃など当たる訳もなく、ヒラリと回避していく。
「――避けて下さい」
―――超級炎魔法:イグニスブラスト
「甘い」
―――喰らい尽くせ水蛇
ライトの回避に合わせて放たれた、魔法使いの火炎の砲撃は杖から生じた巨大な水の渦に捻り潰すように消される。
意外と良い連携だったと、ライトは一つ『勇者』の評価を改めた。
魔法使いは、やってられないという風に手を振る。
「超級の魔法をあんな容易に対処とは、これ僕達に勝機ありますかね?」
「レント!何弱気なこと言ってるんだ!やるしか無いんだ!」
「シュウヤは、元気ですね」
「――暢気だなっ!」
―――再事翼蛇=超級炎魔法:ドラゴンファング・二十連
ライトの跳躍と同時に、竜の牙を模った獄炎が八岐大蛇の第一頭から放ち落とされた。
戦闘中に相手から意識を抜いて会話など、言語道断、王の猛威が振るわれる。
刹那、炎の隙間から妙な光が見えた。
―――超級剣術・変異:スカイブレイバー
光の巨大な斬撃が、ライトの直ぐ真横を通り過ぎる。
王の外套程ではないが、身体に纏わせていた王気が軽く消し飛ばされた。
異質な力、体感したそれが彼に高揚感を与える。
地面へと降り立ち、杖を構え直す。
「そいつが『勇者』の力か、面白い」
「はぁ、はぁ」
「おいおい、肩で息してんじゃねぇか。あの程度で打ち止めか?拍子抜けだな」
「い、今回復します!」
―――超級光魔法・変異:星光蝶の旋律
おどおどした神官が、魔法を唱えると剣士が光に包まれ、みるみるその疲労が消えて行っているように見える。
それどころか『勇者』達全員に、何かしらのバフが掛かったようで、力が増しているのが分かった。
思わず楽しみを増やす為に唯見てしまったが、普通に回復されてしまっている。
まあ、問題無いかとライトは判断し、次の攻撃に移り出す。
《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:炎蛇の鱗牢
唸る炎を纏う杖を今度は侍を狙って振ってみる。
「させるかっ!」
「シュウヤ、ナイス」
剣士に一撃目は弾かれた、その反動を利用して放った二撃目は、剣士の背後から差し込まれた刀にいなされる。
ライトは、剣士よりも侍の方が厄介なことを感じ取った。
三撃目を放つ刹那、足元から光が溢れる。
「と、止まって下さい!」
「僕も便乗するとさせて頂きましょう」
―――超級光魔法・変異:光鎖封牢の天陣
―――上級地魔法:大地の牙
―――超級炎魔法:アグニスガイア
光から生じた鎖がドーム状にライトを囲み行動を制限する。
隆起した地面が牙と化し、彼を噛み砕こうとする。
地面が赤熱し、マグマが溢れ彼を焼き殺そうと猛威を振おうとする。
普通は、絶体絶命と言っても良い。
だが、彼の前では些事と変わらない。
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》
―――中級時空魔法:テレポート
一瞬にして形成された空色の魔法陣が霧散し、視界が晴れ渡る空へと切り替わる。
視界が塞がれている為に、危険の少ない上空へと適当に転移した。
真下に小さく『勇者』達が見えた。
「暢気にしてんなぁ!!」
《黒剛彩王-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――蛇剣舞:岩蛇天蓋斬
杖の軌跡に岩の刃が生まれ、それが落下していく。
落ちるごとに岩の刃は肥大化する。
やがて、巨大化したそれは、
「あ、やり過ぎたか?」
轟音を立てながら、大地に傷跡を刻む。
◆投稿
次の投稿は3/2(木)です。
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◆技解説
蛇王蛇法技録
喰らい尽くせ水蛇 起点から渦を巻く水を発生させ対象を捻り潰す
スキル技録
上級刀剣術:石火転流 刀身のみを加速させ近接攻撃を受け流す 魔法攻撃は不可 腕力差や威力によっては受け流せない場合あり
超級剣術・変異:スカイブレイバー 勇気を乗せた光属性の魔力の斬撃を放つ
蛇剣舞:岩蛇天蓋斬 斬撃の軌跡から同形状の岩を生成する 飛距離により岩が肥大化し威力が増加 岩が何かに接触するまで肥大化は停止しない
魔法技録
上級地魔法:大地の牙 指定した場所の地面を牙状変形させ対象を穿つ
超級炎魔法:イグニスブラスト 巨大な火炎弾を対象へと放つ 被弾時爆発あり 爆発後延焼効果あり
超級炎魔法:アグニスガイア 指定した範囲をマグマへと変化させる 指定範囲によって消費魔力変動
超級光魔法・変異:星光蝶の旋律 対象が直前に消費した現力を確率で回復する 使用時に使用者の周囲に居る存在にスキル効果上昇を付与
超級光魔法・変異:光鎖封牢の天陣 魔法陣から光の鎖で牢を作り出し対象の行動を制限する 展開時確率でスキル封印・弱体化
◆蛇足
語り部「勇者って四人も居ても良いのか?」
蛇の王「いや実際には四人おらんぞ」
語り部「へ?本編では全員勇者だって言ってたぜ?」
蛇の王「それはあの帝相の間違いじゃ。勇者召喚で呼び出せる勇者は一人だけ。他は言わばおまけ、付属品じゃな」
語り部「じゃあ、あの中の一人だけが本当の勇者……誰だ?」
蛇の王「分かっておる癖に、よくもまあ、ぬけぬけと……」




