3-18 黒塗・八岐大蛇
駆けること数秒、当然のように誰よりも早く『死者の平原』の中心へと到着する。
「――ヨルッ!!」
<来たか>
―――神喰螺旋蛇杖
声と同時に、頼れる相棒たる蛇杖が手に現れる。
視界には、迫り始めている聖国の軍が見えた。
改めて戦の始まりを理解したライトの口が、弧を描く。
「さて、やるか。ミスティ、もっと近づいて、出来れば密着してくれると不安要素が無くなる」
「はい、マスター……こう、で良いですか」
「あ、いや、それでいい」
直ぐ後のことを考えてミスティアナに密着するように言うと、背後から抱きしめられるようにくっ付かれ、ライトは自分の言動のミスを悟った。
だが、大きな問題には成り得ないので、思考を切り替え意識を集中させる。
蛇杖へ魔力と王気を流し込み、それらを内部で無制限に増幅させる。
「明確なイメージ、何度も反芻した、失敗なんてする筈が無い」
<この場面で、失敗は許されぬぞライト>
「そう、プレッシャーを掛けるな」
<プレッシャーではない、純然たる信頼から来る期待だ>
それがプレッシャーだ、という叫びを飲み込み、期待されているという事実だけを成るべく受け取り、再度集中する。
「ふぅ……」
大きく息を吐き、今だけは迫り来る軍勢のことを忘れた。
王の言葉が紡がれる。
「『我は理を統べし、黒き王。振う全ては、遥かなる使命の為。来たれ、暴虐。来たれ、災厄。来たれ、罪科すら塗り潰す、淵黒よ』」
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-悪逆非道-偽詐術策-聡明-会心》
―――黒塗・八岐大蛇
蛇杖から、"黒"が溢れ出し、王を中心とした地面を塗り潰していく。
広がった黒が巨大な円になると同時に、淡い光の線が浮かび上がり、それ自体を魔法陣と化す。
刹那、魔法陣に亀裂が入り始め、黒き暗光を放ちながら砕け散る。
耳に、風の吹く音が聞こえる。
視界は、青き空を映している。
その状況こそが、術の成功を如実に理解させた。
八つの黒い蛇の頭が視界に入って来た。
飲み込みそうな黒い円の中心に存在する、漆黒の鱗を纏った八つ頭の大蛇。
その尻尾の上に、毎度の如くライト達は立っていた。
<第一から第八頭全てに"神器"のセットが問題無く完了している。新たな術は成功したようじゃ、やったな、ライトよ>
「そうか……なら、『戦争』を始めるとするか。全頭、一斉攻撃開始!」
それぞれの頭の瞳に光が走り、口が開かれる。
炎、水、氷、風、雷、岩、闇、光、各魔法が、各頭から放たれ始めた。
威力としては、超級に当たるものが放たれている。
蛇の口から放たれるその暴虐は、聖国の軍勢を玩具のように吹き飛ばす。
「暫くはこれで良いか」
「マスター、これは……前に見た術とは大きく違いますね」
「前に……ああ、死毒の方ね。まあ、アレとは根本から違うからな。今みたいに自動攻撃出来るし」
「詳しく聞きたいです」
「仕方ない、ミスティの為に説明しよう」
仕方ないと言いながらも、ミスティアナに聞いて欲しかったライトはニコニコだ。
正直に言って、有り余る時間を使ったが術の構成には苦労しているので、気になってくれるのは非常に嬉しい。
刹那、無数の矢がライト達へと飛んでくる。
「魔法の届かない長距離からか」
「どうしますか?マスター」
「ミスティは動かなくていい。丁度良いし、神器が上手く作動するか確認したい」
「それではこのまま」
そのままというのも、ライト的には困ったが、今更なので口にはしない。
「第四頭、神器『乱流刀 荒霧』、《気流操作》」
ライトから見て右から四番目の首の鱗に光が灯っていく。
降り注ぎ、正に八岐大蛇に当たろうとしていた全ての矢が空中で次々に静止し始める。
不可視の膜に止められたかのようなそれらは、
「お返しするぜ」
言葉と同時に高速で弾き返される。
灯っていた鱗が元に戻っていく。
事が上手く運んだライトは、笑みを浮かべる。
「成功、説明に戻ろうか」
「はい、マスター」
「先ず、前回とは違い、各頭は完全に別物で役割が分けられている――」
説明短縮、セリフで全部入れると長くなるので、こちらで説明することになります。
ライトから見て右から第一頭、左に行くにつれて第二、第三…左端が第八頭という風に割り振られている。
更に、それぞれの頭に神器が内蔵されており、術自体がライトと繋がっている判定なので神器を触れずに複数同時に扱えるようになっている。
実はこれが黒塗・八岐大蛇のメインだったり。
神器振り分け。
第一頭『核熱剣 リアニューク』能力概要:熱生成操作・物質汚染崩壊
第二頭『魂喰剣 ソウルイーター』能力概要:非生物特攻・魂破壊吸収
第三頭『氷封鎚 ニフルゲイト』能力概要:氷網羅・攻撃封印
第四頭『乱流刀 荒霧』能力概要:大気操作制御・物質風化
第五頭『戦列杖 ドレッドノート』能力概要:攻撃複製・現象防御
第六頭『反逆書 レボルシオン』能力概要:攻撃反射・効果反転
第七頭『堕落銃 アザエル』能力概要:神性特攻・事象状態降格
第八頭『冥禍鎌 ぺルセネア』能力概要:生物特攻・効果悪化
他には、八岐大蛇の周囲の黒い領域は、黒い王気の特性を最大限に出しておりそのまま触れた場合、何でも急速に崩壊させる効果がある。
魔法を抜ける者は少ないので、神器の力も領域の力も殆ど使われない可能性が高い。
序章、死毒に搭載されていたウロボロンシステムは、バージョンアップデートと同時に発音・表記も変更され、"OuroboronSystem Ver.2"になっている。
魔力と同じく王気も循環増幅できるようになっており、魔力同様貯蔵も可能だ。
それに伴い、八岐大蛇にも王気が混ざっており、硬度は序章、死毒の比ではない。
「――てな感じに、かなり複雑になっている」
「流石マス――遠方で異常量の魔力反応です」
「ああ、俺も感じた」
戦争開始前に、見た天に向かう筒のような物体の上部が輝き、点滅していた。
明らかに攻撃をするであろう、その筒に対して、ライトは気を向けるが警戒はしない。
それは、絶対の自信から来る余裕があるからだ。
今ならば、負ける気がしないと、ハッキリ豪語するだろう。
筒の点滅が強くなり、輝きが消えたかと思うと、ライト達の下にまで届く爆発音が複数響く。
光球が天高く打ち上げられており、綺麗な放物線を描きながら、八岐大蛇へと迫る――途中で爆発する。
光が大量の炎へと変わり、それによって出来上がった炎の雨が降り注ごうとしていた。
高さと範囲からして、後方の帝国軍に届くと予想出来る。
「全くもって問題が無い。第三頭、神器『氷封鎚 ニフルゲイト』、《氷牢封印》」
魔法による攻撃を中止し、第三頭が上空へと向けられ、鱗に青い光が灯っていく。
開かれた口から一つの氷塊が飛ばされる。
炎の雨と氷塊が当たった瞬間に、氷塊が巨大な青い魔法陣に変わり砕け散る。
雨が全て凍りつき、落下してくる。
「第一頭、神器『核熱剣 リアニューク』、《バーストフレア》」
第一頭が上を向き鱗に赤い光が灯ると、第三頭は下を向き魔法の攻撃を再開した。
開かれた口から炎弾が放たれ、爆発する。凍りついた雨全てが吹き飛ばされた。
「障害にはならないな」
「やはり、マスターの言う通り『勇者』以外はそうでもないようですね」
「ま、頭数は多い。『勇者』が来るまでゆっくり減らしていくとしよう……あとそろそろ離れても良いぞ、ミスティ」
「嫌、です」
特に脅威が無いにしても、気を抜くことは出来ないので、振り解かないが、ずっと感じるミスティアナの身体は気になって仕方が無い。
ライトは若干の理性との戦いを強いられながら、聖国の軍勢を殲滅していく。
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次の投稿は2/26(日)です。
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◆技解説
蛇王蛇法技録
黒塗・八岐大蛇 八岐大蛇を使用者の魔力・王気を増幅圧縮物質化して形成、 遠距離攻撃の起点として利用出来る 現力を攻撃に補正が掛かり、現力の貯蔵庫として利用可能 周囲に黒の王気の領域が形成、侵入した対象を崩壊させる 虚属性系統の術の効果超上昇 自動攻撃あり 接続された神器の力を触れずに使用可能になり、それらの力も増幅され強化される
◆蛇足
語り部「いやぁ、ちょっとしか使ってないけど、流石に強いね。タイトル名なだけある術だわ」
蛇の王「まだまだじゃよ。これから更新が掛かってってドンドン強力無比になっていくのじゃ」
語り部「ま、タイトルの技がそのままってのは味気ないし、当然強化されるだろうけどさ、言っちゃ駄目じゃない?」
蛇の王「きっと皆様も想像済みじゃ、気にすることは無い」
語り部「そう、なのか?」




