3-17 一方的ナ会議、戦争ノ開始
周囲は物々しい雰囲気に溢れ、少々息苦しく感じられる。
此処は『死者の平原』のほんの手前、数多の戦が行われ、今もまた戦が行われようとしている場所の最寄りだ。
先に来ていた別働部隊がテントを張っており、既に駐屯地として出来上がっている。
「失礼します。ライト殿、時間です」
馬車の戸がノックと共に開かれ、そこに居たキースが寛いでいたライトへと声を掛ける。
パタリと随分前に買った古代の魔導書を閉じて、虚空に仕舞い込み、彼はそちらを向く。
「もうそんな時間ですか、面倒臭いですが仕方ありません」
「はあ、戦争直前の全体会議なんですよ、面倒臭いとか言わないでください」
「面倒なものは面倒ですよ。だって、全体会議ってことは面倒臭い貴族とか居ますよ、絶対」
「確かにそうですが、会議中に口にしないで下さいね?本当に……」
「善処します。といっても、全体だろうが会議だろうが僕は僕のスタイルを変える気はありませんけど」
余りにもストレートに重要な会議を面倒だと言うライトに、キースが呆れる。
そのような言動は、会議では問題を引き起こすというのが分かっている為、彼に止めるように言う。
しかしながら、あのライトが止める訳も無く、キースはこの後の問題を想像して一人溜息を吐く。
「ミスティ、少し出て来ます」
「はい、待っていますマスター」
「それじゃ、キース、行きますよ」
「……それでは案内いたします」
微妙な表情のキースに連れられて、ライトは目的の場所へと向かう。
一軒家と見舞う程にしっかりとした巨大なシェルターテント。
中には、恐らくアーノルドを始めとした真紅騎士団の面々、更には各地の有力な貴族が居るそうだ。
面倒事の香りが溢れているそこへ、ライトは遂に入った。
「真紅騎士団第二師団長キース・ラグット、ライト・ミドガルズ殿をお連れしました」
「失礼します」
入った瞬間、ライトに視線が集まり突き刺さる。
渾然一体、あらゆる感情の視線が感じられ、気分の良い物では無かった。
やはりこうなるか、と半ば予想していた状況になり、彼は先手を打つことにした。
中央に居る何か言おうとしたアーノルドよりも早く言葉を紡ぎ出す。
「早速ですが、僕、いや――
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-偽詐術策-聡明-会心》
―――彩王の覇気・冥蛇死想
――俺から話がある」
きっと、この場に居た彼を除く者達は、『己が死ぬ幻想』を見たことだろう。
それは、ライトが行ったこと。王蛇絢爛は単純で強力な威圧なのだが、今使った冥蛇死想は死魔法と合わせた恐怖を植え付ける為の威圧。
精確な死の幻想による生物の本能に訴えかけ、差を刻み込む威圧、それを使ったのである。
静寂した場を動かすのも、またそれを齎したライトだ。
「俺は、この国の者ではない。他国から呼ばれ、皇帝から依頼された冒険者だ。だから、国への貢献を期待されても知らない。お前らの事情なんてどうでもいい」
「お前らの指揮下には入らない。俺が何をするかは俺が決める、と言いたいところだが、依頼である以上最低限の筋書きには従ってやる。だが、最低限だ。多くは期待するな」
「あと、俺は俺の好きなように攻撃をする、俺の射程範囲内に勝手に入っても配慮はしない。勝手に死んでも関与しない。当然、お前らの功績だ何だも考える気は無い」
「精々死なないように、戦争に来た意味があるだけの功績をチマチマと集めるんだな」
悠然と堂々と、傲慢としか取れないような言動を彼は口にした。
誰一人、それを聞いている筈なのに反応はしない。仕方のないこととも言える。
「文句があるなら、後で自由に来るんだな。最もその場合、生き恥を晒すことになるだろうがな。いや、いっそ依頼を投げ出して逃げてもやっても良い、その場合お前らは、作戦の要を逃がし、帝国に負けを齎した無能。国の恥になると思うが」
嘲笑しているような様子のライトにも、誰も反応しない。
その状況は、面白みに欠けたのか、詰まらなそうな顔をして、出口へと身体を向ける。
「俺からは以上だ。作戦の概要はそっちで聞いてろ、俺は戻らせてもらう」
ライトは、溜息を吐きながらその場を離れた。
「あれ、マスター?早かったですね」
「ま、ちょっと無理矢理に終わらせてきただけです。何か変なのが来るかもしれませんけど、ミスティは気にしなくていいですよ。速攻で潰すので」
「はい、どういうことか理解していませんが、マスターがそう言うならば」
再び、馬車の中へと戻って来たライトは、ミスティアナの隣に座る。
自分で火を着けて何だが、面倒事が起こりそうな予感がしており、気が滅入っていた。
「マスター、何か食べますか?」
「いえ、今はゆっくりとしておきたいです。なんせ、戦争は"明日"なんですから」
「そうですね……マスター、楽しみなようですね」
「はい、って何で分かったんですか」
「マスターの口の端が上がってますから」
確かに、帝国貴族など柵を面倒には感じるが、それ以上にライトは戦争、というよりは『勇者』への期待が大きかった。
御伽話の中だけの存在であった『勇者』と実際に戦えることに喜びを感じ、期待し、興奮しているのだ。
彼の根底に戦いがあることを、それらが如実に表している。
「そんなに出てましたかね?」
「それもう、くっきりと。可愛いマスターです」
「ふふっ、くすぐったいですよ」
「もっとしちゃいます」
もちもちとライトの頬と口を触ってくるミスティアナ。
このような甘い時間と共に、戦いは迫って来ていた。
◆◇◆
翌日、戦争が行われる日が来た。
ライトは、いつもと変わらず、特別なことはせずに普段の状態で朝を過ごした。
不思議なことに、面倒事は一つも起こらず、変な貴族も来ず、キースに文句を言われただけだった。
貴族をぶちのめして遊ぼうと考えた彼にとっては、肩透かしを食らったようなもので、少々残念に感じている。
面倒だと言っておきながら、それを楽しむ心の準備はしていたのだ。
そして、今『死者の平原』に足を踏み込んでいる。
「『死者の平原』なんて大層な名前してますけど、別に普通ですね」
「戦死した兵士や騎士の敬意として、その名を付けているだけであって、別に死者の幽霊が出てくるとか特別なことはありませんよ」
「へぇ、つまらないです」
「だから、はぁ……いえ、全力を尽くしていただければ文句はありません」
ライトの位置からキースの顔は見えないが、そろそろウザそうな顔になっていたことだろう。
真紅騎士団、及び各貴族の兵士、それに少数だが冒険者の混合した部隊は、既に整列し
て戦争の始まりを待っている。
かなり遠方に白系統の装備で固めた、光を放つ十字架のような模様の描かれた旗を掲げる集団が見えた。
此処からでも、その頭数が多いことと、所々に天に向かう筒のような物体が置かれているのが分かる。
「あと何分ですか?」
「丁度三分というところです」
「成程、ミスティ。開始と同時に、駆けるので準備を」
「はい、マスター」
ライト達帝国側も既に配置と隊列を完了している。
聖国側に掛けた三日月のような形に並び、月の端と端の間、最前線にライトとミスティアナ、キースが居る。
「双方から開始と準備の完了を告げる、魔法が放たれた瞬間から開始です」
「そうで――あ」
キースの言葉の後に、聖国側から空中に一つの光弾が放たれる。
背後、遠くから魔法の発動を感知する、恐らく帝国側からも魔法が上がった。
「あ~始まります?」
「少し早いですが、こちらも準備は終えているので良いということになったのでしょう」
直後、大きな破裂音が聞こえた。
魔法が、弾けた。
「戦争の開始です」
「じゃ、行きますよミスティ――」
「了解です――」
そんな風な、何だか良く分からない判定の戦争の開始の合図と共に、ライトは強く足を踏み出した。
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◆技解説
スキル技録
彩王の覇気・冥蛇死想 周囲の生物に防ぐことの出来ない威圧感を与える 対象に死の幻影を見させる スキルによる軽減不可 範囲は自由に調節可能




