3-13 続・満月白花ヲ求メル真夜中
「先ず、私を知らないこと。初めて会った時、少年は驚きもせず真っ先に警戒していた。自分で言うのも何だけど、有名人でね。一般にも容姿くらいは伝わってる筈だよ」
「次に、Aランクなんて冒険者の上位に位置するのに、この私が昨日まで少年を見たことも聞いたことも無かったこと。私は顔も広いし、独自の情報網もあるから、良い"客"になりそうな人物のことは、勝手に耳に入って来る。予想するに少年は帝国、いや帝都に来て一週間は経ってない」
正確にはまだ三日目である。
「確かにそうですね」
たった一度顔を合わせ、会話した程度のことで、そこまで推測できる知力とその情報網の広さ。
上に立つ者だから、当然なのかもしれないが、そうではないとライトは思った。
目の前の彼女は、今まで会って来た相手とは別の方向、エルトリスと同じような方面で格が違う様に感じられたのだ。
腹芸が得意なタイプで、何だかズブズブと引き摺り込まれそうな嫌な予感がし、悪人ではないのだろうが、少し気を付けようと彼は心に決めた。
「だろうね。そして最後に、少年はさっき『帝国じゃ』って言い回しを使った。それは帝国に居る人間が使わない、というよりは他国から来た者がよく使う。比較出来るだけの対象が記憶の中に無いと使えないからだ」
「……成程」
「長々と喋ったけど、きっと私以外でも少年が他国から来たって分かると思うよ」
「どうしてですか?」
「単純に、周囲の人や物に向ける視線が新しいものを見るものだから、それに商売用の写真にも慣れてなかったしね」
「あ、あれは、慣れるとかそういうこと、あるんでしょうか……///」
脳裏にフラッシュバックする艶めかしい姿のフィリア。
成熟した、女性的な身体は見慣れていないので耐性が無い。
「ふふ、良い反応。……話を戻すけど、何で依頼を出してるか簡潔に言うと"繋がり"を作る為だよ」
「繋がり、ですか?」
「少年の言う通り、この依頼はやりにくい上に割に合わない。だからこそ、受ける人物は限られる。依頼を達成できるだけの何かを持ち、私と、いや『ミッドナイト』のオーナーと繋がりを持ちたい人物にね。つまり、この依頼を受けるのは、金銭的な報酬じゃなくて、それで出来上がる"関わり"を期待してるってこと。実際、これまで来た冒険者達だって、今や此処の常連だからね」
「金銭ではなく、関わりを……そういうのもあるんですね」
今まで考えたことの無かった依頼の在り方にライトは驚いた。
彼は、依頼とは金銭によって出来上がっており、依頼主と冒険者の関係はそれ以上でも以下でもないと考えていた。
しかし、思い返してみれば彼女が言った"関わり"は、気付いていなかっただけで意外と彼にも在ったのだ。
(ハジノスで、ファイス爺とポロンさんに初めて会ったのも依頼、〈森竜の牙〉の皆さんとだって偶々依頼でパーティーを組んだから。ラビルではフーリンさんがそう。それに今日だって、昨日フィリアさんに会っていなかったら、新しい関わりが出来ていたかもしれません)
「納得、出来たかな?」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、少年が此処に来た理由、納品物のフルムーンホワイトを出してくれるね?」
「分かりました」
―――閲覧・巳蚓魑
「あっそう言えば」
蛇王蛇法をを唱え終えてから、今回の依頼に掲載されていないくて悩んだことを思い出した。
「フルムーンホワイトの納品数が依頼書に書いて無かったんですけど、幾つ出せば良いんですか?」
「ん?もしかして複数個持ってるの?それならあるだけ貰おうかな、勿論その分報酬は弾むよ」
「ふむ、356個あるんですけど、全部で大丈夫ですか?」
「さんっ……私の効き間違いかな?今300と聞こえたんだけど」
ライトが個数を言うと、驚いたフィリアが直ぐに疑わし気な顔で見て来る。
残念ながら、聞き間違いなどではない。
「はい、356個です。直ぐ仕舞いますけど、一瞬だけ全部出しますね」
机の上に、ドサッ・モサァなどの効果音が鳴りそうな程の淡く輝いているように見える美しい白い花が大量に現れる。
一つならば、綺麗という感想になったであろうが、バーゲンセール並に積まれている為、そんな風には思えない。
それらは現れて数十秒で消えた、ライトが仕舞ったからだ。
「…………あ、頭が痛い、意味が分からない」
先程までの余裕が嘘かのようにフィリアは、手を額に当てて天を仰いでいる。
彼女がそう疲れてしまうのは仕方が無い。
何故なら、フルムーンホワイトは『魔力の豊富な森の奥にしか自生していない、栽培不可能な花の希少種』だからだ。
ムーンホワイト自体が、一般にあまり流通しないものであり、薬師以外が持つことは珍しい。
だが、別に一般人でも買えない訳ではない、多少値は張るが行く場所に行けば買える。
フルムーンホワイトは、そんな通常種の比にならないくらい流通しない。
満月の日しか採集できない上に、植物であるが故に管理が難しく、採集できても販売まで持っていける程の処理が上手くできないことが多いのだ。
しかし、その効果の凄まじさもあり、求める者は多く、大体オークション形式で販売され、馬鹿げた金額で買い取られている。
そんなものを、目の前の少年が300個以上所持しているというのだから、混乱しても仕方が無いと言える。
「さっき見た感じだと、本当に300個以上ありそうだね。流石に全ては駄目だね、幾ら『ミッドナイト』と言えど破産してしまうよ」
「やっぱり、そうなりますよね」
「……一体どうやって、そんな量を?」
「僕、アウトライル王国から来たんですけど」
「まあそうなるよね」
ライトがアウトライル王国から来たと言うと、フィリアの顔に既知の色が見えた。
ぶっちゃけてしまうと、人界でフルムーンホワイトが取れるのは、ほぼアウトライル王国だけだ。
他に取れるのはダンジョンのみ。
「アウトライル王国でも、辺境ハジノスって街で冒険者をしてました」
「ハジノス?……済まない、記憶にないね」
「辺境ですし、簡単に位置を言えば、人界地図を丁度真ん中の線で考えて未踏破ダンジョン『大迷宮』と丁度線対称の位置ですね」
「ほう、大体の位置は把握したよ」
独特だが、本当に正確なその場所説明にフィリアは、納得し理解した。
「把握したなら、分かると思うんですけど、『迷いの大森林』に凄く近いんです」
「つまりこれは、あれらは『迷いの大森林』産の物ってことだね?」
「はい、旅に出るまでは採集専門だったので、いっぱい集まりまして」
「集まるにしても、よく管理しておけるね。魔法、かな?」
「はい、僕虚属性魔法が得意なので」
「虚属性の時空系か、それは確かに管理に便利だ」
「分かるんですか?」
「私はあまり魔法が得意じゃなくてね、昔、夢に見て足掻いた結果さ。大抵の魔法については分かるよ」
そう憂い気に言う彼女は、まだ見ない感じで少し惹きつけられた。
敢えてやっているのか、自然とやっているのか分からないのが彼女の怖い処だ。
「さて、そんな話は置いておいて、フルムーンホワイトを10個ほど頂こうかな。その分報酬は10倍にしておくよ」
「はい、何処に出しておけばいいですか?」
「そこの、青い半透明の箱の中に入れてほしい、状態保存の魔道具でね」
「了解です」
指の差された壁際の机の上に置いてある青い箱へと、ソファーを立ち上がり近付く。
見た目は、青い半透明な上部に取っ手の付いた箱、30㎝四方とそこそこのサイズだ。
取っ手を持ち上げ、中にフルムーンホワイトを正確に10個入れて閉じる。
するとカチッと音がして、青い半透明だった外側が曇った水色に変わり内部が見えなくなった。
(内部が見えなくなった。面白い魔道具ですね)
「中が見えなくなったんですけど、これで良いんですか?」
「うん、本物みたいだね。ありがとう少年」
「本物?どういうことですか?」
良く分からないことを言うので、そのままに疑問を口にする。
ライトが言うと、ほんの少しだけ申し訳なさを滲ませた顔で彼女は口を開く。
「その魔導具は確かに、状態保存の魔道具なんだけど、一定以上の魔力を含んだものが入れられないと機能しないんだ。今回は本物のフルムーンホワイトの魔力量にのみ発動するようにしていた」
「僕を試したってことですか」
「済まないね、少年は多分絶対無いと思ったんだけど、これまでの冒険者にも誤魔化そうとしたのが居たからね。やらない訳にはいかなくてね」
「別に良いですよ、本物かどうかなんて一目じゃ判りませんから」
冒険者にとって信頼は重要、それの確認ならば別にある程度ライトは許容する。
度が過ぎると手が出るが。
「本当に済まない……よし、言伝とサインを書き終わった。これで、報酬はしっかり十倍だよ」
「はい、確かに受け取りました」
「それで、如何する?うちを使っていくかい?今ならお詫びとして色々なサービスとうちのNo.1を準備するけど」
「うちを使う?サービス?No.1?」
もう帰ろうと考えていたフィリアがよく分からないことを言うので、首を傾げる。
「うちは、有り体に言えば"娼館"だけど、他のとは正に格が違う。一度試してみると良い」
「え、あ、はい……」
(うん?何か押されてるけど、これ大丈夫なのか?多分悪気も無いし、好意なんだと思うけど、どうにも嫌な予感が……)
ライトは、フィリアに押されながら、部屋を出て連れていかれる。
彼が、この後のことを後悔するか否かは、神のみぞ知る。
◆投稿
次の投稿は2/13(月)です。
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◆蛇足
語り部「で、何で薬屋好きなん?」
蛇の王「それは、行為に使える薬が手に入るからだ」
語り部「行為……成程ね、やっぱ蛇王だわ。頭可笑しくなってなくて良かった」
蛇の王「睡眠薬、催淫薬、興奮薬……まあ何に使うのかよく分からんが、気分は高まりそうで良いじゃろう?」
語り部「あっそう……何か疲れて喉が渇いた」
蛇の王「此処にペットボトルの水がある、飲むといい」
語り部「何である―いや取り出したのか。ありがと」
蛇の王「くくっ、気にするでない……」




