3-11.5 試サレテイタ白
ライトが、魚の串焼きを落としていた時刻。
ミスティアナはクリムゾン宮殿の外、だだっ広い庭のような、グラウンドのような場所に来ていた。
そこでは、統一された真紅の鎧や軽装、ローブを着た、恐らく騎士団員達が各々訓練をしている。
といっても、そんなことはミスティアナにとってどうでもいいことであり、隣に立つアーノルドに声を掛ける。
「それで、要件は何でしょうか」
「そう警戒しなさんな。ただ、嬢ちゃんの主と同じことしてもらうだけだ。但し、ヒュープ様の代わりは俺がやるが」
「マスターのパーティーである私の実力も、作戦を立てる為に測っておきたい、そんなところですか」
「話が早くて助かるぜ」
そう言うと、アーノルドは右腕に着けていた燃える炎の模様が描かれたリングに触れて、魔力を流す。
ミスティアナは、その動作からリングがどういう物であり、何をしたのか理解した。
「通信用の魔道具ですか」
「当たりだ。――各団長は直ちに集まれ――さて、一番乗りは誰かね」
「――ニャーだよ、ノルド」
命令のような言葉の後、直ぐに背後から声が聞こえる。
そこには、黒と赤が交じった目立ちたいのか隠れたいのか良く分からない服装の、猫獣人の女が立っていた。
彼女の接近にミスティアナは気付いていたが、敵意が無かったので無視していたのである。
「だろうな、第六師団は今訓練ないから、お前が一番だと思ってたよ。ムルド」
「急に呼び出しとは何かと思ったけど、そういうことね。ハロー、白いお嬢ちゃん」
「ミスティアナです。先日は、マスターがお世話になりました」
「んにゃ?その言い方は何か変な気が……まあ、いいか。ニャーは第六師団長ムルド・ミラー、よろしくね、ミスティアナちゃん」
特に問題も無くムルドとの挨拶済ませたミスティアナは、新しく接近する者を感じ、そちらを見る。
赤い刺繍のされた修道服を着た女が、歩いて来ていた。
「あら~、二番目。それに、ふふ、そういうことで。第五師団長、オリーブ・オルノ、呼び出しを受け参りました、ノルド総長」
「おう、よく来た。さて、次は」
「――あたし。第四師団長、ニナ・イーフェ、呼び出しを受けて来た。ノルド総長……ああ、そういうこと。何も言わなくていいわ、理解したから」
急に現れて、そう捲し立てる少女――ニナは、赤い魔女服を着ており、妙に大きいとんがり帽子が目立っていた。
何かしら意味ありげな視線をミスティアナに向けているのだが、当の本人は全く気にしていない感じだ。
気にしていない、というよりはどう反応すれば良いのか分からない、という方が表現としては合っているのかもしれない。
そんな場に、新しく男達が現れる。
「第三師団長、ロット・スライド。ノルド総長の呼び出しに応じ参った。用件は……成程、理解しました」
「第二師団長、キース・ラグット。同じく、ノルド総長の呼び出しに応じて来ました」
槍を背負う軽装の男――ロットと長剣を携えた騎士鎧の男――キースだ。
彼ら両方共、ミスティアナを見た時点で何故自分が呼ばれたか分かったようで、そのまま行動せず最後の一人を待つことにしたらしい。
その最中、ミスティアナはそれぞれに目を向け、その装備や強さを予測していた。
(やはり、マスターの見解通り、まあまあですね。マスターが制約で魔法などを使っていなかったからこそ、あそこまで持てていたのは確実です。私は、マスターのように慈悲は与えないので、直ぐに終わるでしょう……問題は、いえそうでもない?)
「何だ?嬢ちゃん、そう目を向けて」
「そこそこ」
「そこそこ?何がだ?」
「貴方の強さがです。私の見解では、貴方はそこそこ強いということですよ」
彼女は、迷いなくアーノルドに言い放つ。
仕方ない、空気を読むや気を遣うなどは、主がそうであるように、奴隷であるミスティアナも当然出来ない。
かなり失礼なその物言いに、アーノルドは特段怒ることはしなかった。
寧ろ、笑っている。
「そうかそうか、そこそこか。アンタにそう言われるとは、光栄だな」
「ん?何故ですか?」
「そりゃ、俺の私見で言えば、嬢ちゃんの主よりも嬢ちゃんの方が――」
「――その口を即刻閉じなさい」
アーノルドが言葉を言い切るよりも早く、ミスティアナは虚空から剝奪槍を取り出し、彼の首に突きつける。
彼女にとって、ライトとは絶対的な存在、主である為、そんなライトよりも自分の方が上などという発言は、到底容認できるものではなかった。
ミスティアナの動きを見た後の五人は、即座に武器を構え、彼女へと向ける。
「ミスティアナちゃん、槍降ろしてくれる?」
「流石にノルド総長への攻撃は、お客人であろうとも容認できませんよ?」
「アンタ、さっさとその槍降ろして」
「行動するならば、こちらも攻撃は厭わない」
「攻撃したくはない、槍を下ろしてくれ」
口々に、ミスティアナに槍を下ろすように言う。
が、彼女からしたら、そんな言葉は意味が無い。
軽く、溜息を吐いてから口を開く。
「私の初動に対応出来ていない程度の方々が、私に要求を?笑わせないでください。私に要求も命令も出来るのはマスターだけです。マスターは、私なんかよりもずっと強く、高位に居るのです。それが私の方が強いなんて言葉、容認できる訳がありますか?いえ、無いのですよ――」
「「「「「「っ!?」」」」」」
言葉の終わりと同時にミスティアナは、目にも止まらない速度で各々が構えた武器達を砕き、折り、落とし、その全てを機能不能にした。
そして、再度アーノルドの喉元へ槍の穂先を当てる形に戻る。
場にいた彼女以外の誰一人として、その一連の動きを知覚することが出来ていなかった。
「この程度の動きにも遅れる。貴方方は、まあまあ以下です。分かったら、唯そこで黙っていなさい」
見せつけられた、背けられないその余りに圧倒的な差と、彼女から発せられる威圧感が、行動を起こすことを許さない。
沈黙が数秒続いた。
アーノルドが口を開く。
「済まなかった。別に嬢ちゃんの主を貶すつもりは無かったんだが、気分を害したなら、謝罪する。本当に済まなかった」
「それで良いのです。以後、同じことを言うならば、今度は確実に、貴方が知覚し対応する前に、その頭蓋を貫きます。幸い、マスターから許可は得ていますので」
「許可?」
「問題が起きた場合、私の身に危険が迫った場合、それ以外の如何なる理由でも、私が殺す必要があると判断したならば、自由に殺していいと。そういう許可を頂いております」
別にライトはそこまで言っていない。
ミスティアナにある程度任せる、とまでは言ったのだが、断じて誰でも殺していいまでは言っていないのである。
都合の良い解釈ではあるが、彼女がそう理解してしまったならば、ライトの言葉が足りかったのだろう。
責任は所有者にある。
落ち着いたのか、ミスティアナは、アーノルドに向けていた剥奪槍を下ろす。
「とんでもな――凄い主だな。嬢ちゃんの主は」
「マスターは、私に未来を与え、世界を見せてくれました。私の全て、いえそれ以上と言っても過言ではありません」
「……凄いな」
口では凄いと言いつつ、その余りにも重そうな関係に若干彼は引いていた。
しかし、それを顔には出さない。出せば、自分の頭が貫かれるのを分かっているからだ。
気まずい沈黙の流れるその場に、最後の男が到着する。
「おっと、私が最後か。第一師団長、ボイラック・ゲルクイナ、呼び出しに――ノルド?それにムルド達も、何かあったのか?」
「いや、何にもなかった」
「そうか、明らかに何かありそうだが……」
「何もなかった」
「……分かった」
何かしらが起きたことを察知したボイラックが、アーノルドに聞くが、彼が強く言うので追及を諦めた。
それによって、少しだけだが空気が変わる。
「んん"っ!それじゃ、全員集まったことだし、嬢ちゃんの実力の確認と行こうか」
団長達が新しく武器を構え、ミスティアナに相対する。
ボイラック以外の顔色は優れないが、やる気は充分に感じられる。
「それでは、始め!」
「簡単に負けないで下さいね?せめて的くらいの役割は果たして下さい――」
そんな、挑発的な彼女の言葉と共に、戦いの火蓋は切られた。
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次の投稿は2/9(木)です。
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◆蛇足
蛇の王「あむっ、あむ……うむ、旨い!」
語り部「何食ってんの?」
蛇の王「ライトが食べていた串焼きだ」
語り部「え?何で本編のもの取り寄せてんの?そんな通販サイトみたいなこと出来る訳無くない?だって、俺達からしても本編は――の――みたいな感じなのに……ああ、くそ、言っちゃ駄目なのね」
蛇の王「難儀なものよのう。お主も食べるか?」
語り部「ん、頂くわ」




