3-11 秘密ノ対価
「――対価無しに、それを聞いてあげる程、ワタシは優しくない」
そう歴然と言い放つ、カラクローフィの口は弧を描いており、企みがある様子。
「あ、そう言えば、まだ自己紹介してなかった」
「確かにですね」
(対価の方を先に言って欲しい……)
相手との差が理解できている為、もどかしいがそれを口に出しはしない。
「ワタシは、カラクローフィ。吸血鬼で、ソロのSランク冒険者、皆からは【悪喰姫】って呼ばれることが多い、よろしく」
「僕は、ライト・ミドガルズ。Aランク冒険者、二つ名は【黒塗】。パーティー〈黒蛇白塗〉のリーダーもしてます」
定型の自己紹介を交わし、互いが互いの見たステータスを差異が無いか確認した。
続いて口を開いたのは、ライトだ。
「そして、貴方の知っての通り、今『黒剛の王』の座に居る者でもあります」
「ステータスが見えてるから、間違いは無いんだけど、一応見せて欲しい」
「見せて欲しいとは?」
「彩王紋のこと、『八彩鉱王』なら当然あるよね?」
「ああ、成程」
言葉を受けて、ライトは右手にいつも着けているヨル製の黒手袋を外す。
そこには相も変わらず、真っ黒な王冠状の刻印があった。
彼女は、ライトに近付き、長い袖に覆われた手で右手を持ち上げ、じっくりと眺める。
ライトは、反応が予測していたものと大きく違い、驚く。
彼女の反応、その観察の仕方は、初めて見るものに対してする感じではなく、既知のものに対して自身の記憶の中に在るものと差異が無いか確かめるような、そんな感じだった。
「……カラクローフィさんは」
「クロ、クロでいいよ。呼びづらいと思うから」
「では、クロさんは、もしかして他の彩王紋を見たことが、というか他の『八彩鉱王』の方に会ったことがあるんですか?」
「どうしてそう思ったの」
「観察の仕方がそんな気がして」
いつまでも顔を近付けられ、細部まで確認されるのは、恥ずかしいので話をすることにしたのだ。
先の言葉は、確証はないが、適当に言った訳でもなかった。
しかし、告げられた言葉はライトの予想の範疇外だった。
「当たり、妹のを見たことがある」
「い、もうと?」
「そう、妹。今代の『紫鋼の王』、二つ名【冥闇の不凋花】――マシロリールは、私の妹だから」
ライトの脳は、その情報を処理するのに精一杯になってしまった。
『八彩鉱王』各々に関しての情報をライトはヨルを通して、正確に知っている。
不死の二つ名を持つのが二人いるなんて変だな、と考えた記憶がある。
だが、親類までは教えてもらっていなかった、そも必要とも思えなかったからだろう。
「え、妹さんなんですか?」
「そうだよ。……ん、確かめた。キミは『八彩鉱王』で間違いない」
「……あ、はい」
クロが離れ、真っ直ぐと向かい合う形へと戻る。
話が途切れてしまい、追及が出来なくなってしまったので、仕方なく諦めた。
「じゃあ、話を戻そうか」
「えっと、黙っている為の対価、でしたっけ。僕から黙っていてもらわなければ困るので、出来る限りはします」
「無茶なことを要求する訳じゃない」
緊張し不安が顔に出ていたライトに対して、彼女は笑いかける。
初めて向かい合った時よりも、その顔には感情が見受けられ、彼は少し気を緩めた。
けれど、流石にそれだけで不安が拭える程にクロとの関係は深くない。
初対面だしね。
「ワタシが対価として求めるのは、キミの"血"」
「僕の、血?」
「さっき、ワタシは吸血鬼って言ったよね。吸血鬼にとって血液は、常に取り続けなければいけない訳じゃないけど、生きる為に必要不可欠な物。高位の吸血鬼になればなるほど、血液は重要じゃなくなる。真祖であるワタシにとっては、嗜好品みたいなもの」
「何にせよ、僕はクロさんに血を提供すれば良いんですね?」
「そう」
突然言われる、考えようを変えなくても奇妙な要求に対して、ライトは前向きだ。
それだけ、彼にとって自身が王であるという情報は重大なよう。
更に、ライトは聞いて行く。
「提供量、方法、それと期間を教えて下さい」
「ふふ、乗り気で良いね」
「仕方ないだけです」
「それでもいい。で、量とかは正確には指定できない。だって」
「だって?――ふえっ」
袖によって身体が引き寄せられ、抱き着かれ、ぐっと身体が密着させられる。
パーカーが厚いせいか、しっかりとは感じれないが、女性的な身体の感触が伝わってきて、ライトは少し焦った。
それが幸か不幸かは、彼だけが知る。
焦りは直ぐに塗りつぶされた。
いつの間にか、少しだけローブを脱がされており、それによって露出した首筋にクロの舌が触れたからだ。
「動いて場所がズレると危ないから、くすぐったいと思うけど、我慢して」
「でっ、でも」
「我慢して」
「はいっ……」
何だか懐かしいような、トラウマを刺激されるような感覚と共に、強く発せられた言葉に従う。
濡れた舌が首を這う、その刺激に耐え、精神力で動こうとする身体を抑えつける。
場所が決まったのか、クロが執拗に一点だけをペロペロと舐め始めた。
傍から見れば、異様なことこの上ない。
「痛いのは、最初だけだから」
「何がですか?」
「キミの身体に牙を立てるから、そのこと」
「何で最初――「あ~むっ」――あ"っ!?」
ライトの新たな疑問に答えるよりも早く、首筋に牙が立てられ、微かにその肉を突き破る。
痛みが走り、視界が一瞬暗転するが、クロが抱きしめている以上、倒れるという結果には至らない。
だが、急に痛みは収まり、触れる温かい口の感触と身体から熱い液体が流れ抜けて行く感覚のみが伝わる。
(何でしょう、恥ずかしようなそうでないような、不快でなければ気持ち良いという訳でも……けどこれ、この感覚、癖になりそうです……)
耳には、クロのが液体を飲む、喉の小さな音しか聞こえない。
特別な何かを感じる訳ではないが、何故か満ち足りているような、言葉として表現のしようのない感覚がライトを困らせていた。
そんな、不思議な時間が流れること数分。
「――ぁっ」
「あ、終わりましたか?」
「…………」
「クロさん?」
「――はっ」
ライトの首から口を離したクロは、放心したような感じであり、目の焦点が合っていなかった。
初めの言葉には答えず、名前を呼ぶと目が合い、意識を取り戻したようだ。
彼女が、ライトを離して元の向き合う形へと戻ろうとすると、
「あ、れ?身体に力が入りません」
知らず脚の力が抜け、クロへと倒れ込む。この場合は、抜けていたというのが正しいかもしれない。
「ゴメン、血を吸い過ぎたみたい。キミの血が美味しすぎるから、思ってた倍以上の量吸っちゃった。寧ろ、問題無く意識をキミが保ててるのが凄い」
「そうだったんですか、妙に長いとは思ってましたけど、成程」
「これは、ワタシの責任。だから、キミが動けるようになるまで、一緒に居る」
「有難いですね。本当に欠片も身体動かせませんし」
「本当にゴメンね」
真剣に謝って来るクロを宥めつつ、そのフカフカなパーカーに包まれながら、身体が動くようになるまで時間を共にした。
日が少し落ち始める頃。
「ふぅ、もうそろそろ自分で動けそうです」
「大丈夫?一応、ゆっくりして」
「分かりました」
クロの言う通り、ゆっくりと身体を起こすライト。
流石にずっと立っている訳にもいかなかったので、彼女がライトを寝かせ、膝枕をしてくれていた。
彼女は、脚を大胆に出している為、膝枕は当然素肌だったので、避けようとしたが身体が動かない為にその行動は失敗し、仕方なく堪能することにした。
きっと、世の男達は美少女の生の膝枕など一生されないので、血涙を流して羨むことだろう。
「やっぱり問題無いですね。でも、激しく動くのは難しそうです。今日はもう帰ることにしましょう」
「そうした方が良い、ワタシが地面に連れ戻す」
「おねがっ――」
言い切るよりも早く、身体が血色の糸で拘束・固定され、浮遊感が襲ってくる。
視界の動きが止まり、辺りを見回すとそこはギルドの前だった。
糸が袖の中へ戻っていく。
「着いた」
「ありがとうございます」
「今日は、ゴメン。流石にやり過ぎてしまった」
「別にもう良いですって。代わりに秘密は、しっかり守ってくださいね」
「うん、死んでも、妹にも言わない」
二コリと、良い笑顔を向けて来るクロ。
別に言っていることは可愛くない。
身体が動くようになるまでの間に、かなり親睦は深まったようである。
この男、女に対しては結構心を開くタイプなのかもしれない。
「そう言ってくれるなら、問題ありませんね。それでは、さようならです」
「今度、一緒に依頼受けよう。約束」
「約束、ですか。良いですよ、その時を、楽しみにしてます」
「良かった、それじゃあ、またね」
「はい、また」
手、というか袖を振るクロを背に、ライトは宮殿へと歩き出した。
◆投稿
次の投稿は2/7(火)です。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
□■□■□
◆蛇足
蛇の王「我、復活!」
語り部「お前というか、このコーナーがな?そもそも投稿自体も色々重なって不安定になってたし」
蛇の王「そんな細かいことは良いのじゃ。それよりも、新しい『八彩鉱王』の名前が出て来たな」
語り部「新キャラよりもそっちなのね」
蛇の王「新キャラは、もう本編で直ぐに深堀されるから良いんじゃよ」
語り部「メタいな。で、新しい『八彩鉱王』のマシロリールについてだっけ?」
蛇の王「うむ、よってまだ名前が出ていない彩王は、残り四人となった」
語り部「あれ?三人じゃないの」
蛇の王「黄・緑・橙・白。ほれ、四人じゃろ」
語り部「え?白ってもう確定してる――」
蛇の王「者はいない!決めつけは良くないぞ、決めつけは」
語り部「あ、そっすか……」




