3-10【悪喰姫】カラクローフィ
フィリアと別れた後、ふらふらと露店を見ながら歩いていると、いつの間にかギルドの前に来ていた。
「ふ~む、気になりますし、入りますか」
ヒュープが管理する場所、依頼などの系統も確認したかったので、出入りする人が途切れたところで中へと入る。
内部は、構造的にはラビルのものと然程変わらない。帝都ということもあって、若干広いくらいだ。
人が多いのも変わらず、だが早朝を過ぎている為恐らく一番人が多い時ではないだろう。
邪魔にならないように入り口から少し脇に避けて、冒険者達の装備を確認する。
この行動は、単純な興味から行われている。
(ラビルよりかは軽装な人が多い?気候や気温の違い、それに森とかダンジョンとかに行く訳じゃないから、隠密性より動きやすさ、機動性を求めているってとこでしょうか)
装備一つの系統からでも、得られる情報は多い。
まあ、この武器好きは、ただ単に他人の装備を見ているのが好きなだけだが。
ライトは、見回している途中で、変に人が集まっている掲示板を見つけた。
そこに書かれている内容を、かなり高い視力で確認して、ああ成程と納得した。
(『戦争派遣の依頼』ですか。確か最近一般公開されたんでしたっけ?そこら辺よく覚えてませんけど、普通の冒険者にも依頼出すんですね。ギルドは中立で内政干渉は駄目なのでは?)
クリムゾア帝国とリソプレーズ聖国の戦争が起こることについて、というか聖国の宣戦布告についての情報が公開されたのは昨日である。
因みに、国からギルドに依頼が出された場合に関しては、内政干渉にはならないらしい。
そもそも戦争というものに参加すること自体は内政でも何でもない、それを募ることも。
余りその辺りの知識に詳しくないライトには、良く分からない。
(まっ、実際に出されている訳ですし、此処まで堂々として駄目なこと出来る訳ありませんし、大丈夫なんでしょうね)
知っている情報と判断できる情報を合わせ、結論を導き出す。
ある意味では当然ともいえるその結論を、ゆっくりと流して観察を再開する。
(面白い――っ!?」
突如、背後に感じた壮絶な気配に飛び退きながら、振り返り相手を確認する。
「…………」
(死の…気配。前に会った魔族にも近いような……。そして、強さが読めない)
長く伸ばした金色のツインテール、アメジストのようで不可思議な煌めきを含む瞳。
特徴的、一番先に目が付くのは、特にそれ以外を着ているように見えない、プリンのようなツートンカラーの馬鹿デカいパーカー。
大きすぎて、袖が余っており全く腕は見えない。のにも関わらず、脚はそのままであり、太ももから下、真っ白な肌が眩しい。
一通り、彼女を見たライトだが、その脳には警戒の文字しかない。
ライトは、大抵の相手ならば、自分との実力の差を測れる。当然、相手が強ければ強い程ブレてしまうが。
しかし、目の前の彼女は、何故かそれが出来ない。何らかのスキルだろうと推測できる。
他にも、タナトスの気配、というより死というか本能的に警戒してしまう気配を彼女は放っていた。
異様な気配を放ち、その瞳や顔からは思考が欠片も読めない。
だからこそ、身体が勝手に構えてしまう。
周囲の者達は、向き合う二人を特に気にしてはいない。
「…………」
「…………仕方ない」
―――盗み見る探蛇
見つめ合いの時間が少し過ぎ、痺れを切らしたライトは、彼女のステータスを覗き見ることにした。
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名前-カラクローフィ 性別-女 年齢-4573
種族-吸血鬼・真祖 ジョブ-慧眼之士
レベル-9981 ランク-S
称号-『悪喰姫』
スキル-万象捕食,悪喰,形態変化,異形変化
-真祖の血統,解析の魔眼,複製模写
-試行錯誤,並列加速,迅速,敏腕
-血操術:神級,死魔法:天級,闇魔法:超級
-武術:上級,鑑定:超級
加護-始祖の守護,混沌神の加護,死神の加護
状態-正常,形態:定形
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「ばっ!?………」
(何だこの人、強すぎるぞ……それにSランク?無闇に攻撃しなくてもよかったです)
あまりの化け物っぷりに、最低限に行動を留めた自分を褒める。
刹那、手が伸びる。
袖に完全に覆われているからか、妙な威圧感が感じられる。
袖が膨れ、持ち上がった、
「――んぐっ!?」
とライトが認識した瞬間には、袖口から出ている複数の血色の糸に身体が拘束されていた。
丁寧に口まで塞がれている為、蛇王蛇法を使えない。
今現在、ライトが術を使うことを考える程の冷静な思考を持てているか微妙だが。
「んんーーっ!?」
「少し、来て」
彼女の移動と同時に、当然糸が引っ張られ、ギルドの外へ出され、空を舞う。
自分で身体を動かしている訳では無い上に、空中であるが故、視界がぐるぐると動き、脳を混ぜる。
表現のしようのない気持ち悪さがライト襲う。
移動が停止し、何処か分からないが床に降ろされる。
声が、ライトへと降って来た。
「キミ……あ、ごめん」
「うぅ、気持ち、悪い……」
拘束を解除しても起きず、青い顔をしているライトに気付いたカラクローフィ。
何か、言おうとしていたことを一旦止め、近付いて来た。
「今、治す」
《真祖の血統-闇魔法:超級-試行錯誤-並列加速-迅速-敏腕》
―――中級闇魔法:常闇の抱擁
袖口から溢れた黒紫色の霧のようなものがライトを包むと、気持ち悪さが消えて楽になる。
ライト自身は正確に状況を把握出来ていないが、何かしらしてくれたことは分かった。
「これで、良い筈。キミ、大丈夫?」
「あ、はい、ありがとうございます――じゃないっ!?突然何するんですかっ!!」
抱かれるようにして起こされたライトは、彼女に感謝を伝えた直後、その違和感に気付き、彼女から離れる。
そのせいで、足を滑らせ、背後に転がる、
「危ない」
「おわっ!?」
前に、また血色の糸が胴に巻き付き、ライトを引く。
そこで初めて彼は気付いた、自分が居るのが"屋上"であることに。
「大きく動くと落ちちゃう。気を付けて」
「あ、ありがとうございます……」
今のは何処をどう考えても助けられたので、素直に感謝を伝える。
納得は行かないが、実力的にも状況的にも下手な行動は控えた方が良い、と判断したライトは、動くのを止めた。
血色の糸が解かれる。
「……それで、何故こんなことを」
「人が居るところじゃ、多分キミが困る」
「どうしてですか?」
「それは、ワタシがキミの『本当の』ステータスを見たから。キミなら当然、この意味、分かるよね?」
「っ……成程、配慮感謝します」
(そういうことですか、何で隠蔽を抜けたか分かりませんけど…つまりこの人は、知ったんですね。僕が『八彩鉱王』であるということに)
彼女が紡いだ少ない言葉から、ライトは彼女の行動の理由を理解した。
ライトは、実は普段からステータスを隠蔽している。
スキル-偽詐術策を使用して。
偽詐術策は、現力を扱う際に補正を掛ける、そして所持者の魔力量に応じた強度のステータス隠蔽を掛けるスキルなのだ。
『黒剛の王』であることがバレると面倒事になるのは明白だったので、ヨルがどうやってかライトに与えたスキルであり、これのお蔭でライトは自分の存在を秘匿し続けることが出来ていた。
「キミが、『黒剛の王』?」
「……はい、そうです」
「長い間、空席だったのに、凄いこと。本来なら、公表すべきこと。でも、キミの気持ちも分からなくもない。面倒事、嫌なんだよね?」
「その通りです……」
全てが本当であるが故に、否定のしようがない。
その煌めいている紫色の瞳が、ライトを射抜く。
「正直、貴方には、黙っていてほしいですね」
「キミが嫌なら、別に無理に広めたりする気は無い」
「それは助かります」
「でも――」
安堵の息を吐こうとすると、彼女の口が開かれる。
「――対価無しに、それを聞いてあげる程、ワタシは優しくない」
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◆技解説
魔法技録
中級闇魔法:常闇の抱擁 直接的な被害が無い状態異常を回復する 複数人同時に使用可能




