3-9 帝都ノ散策
帝国に転移し、戦争について話し合い、作戦を考えた後日。
ライトは一人で、クリムラットを散策していた。
昨夜は、クリムゾン宮殿の来客用の部屋を借りて就寝し、今後もそこを使うように言われたので、宿屋を探す必要が無くなったと内心感謝していたライトである。
だが、一つの部屋にライトとミスティアナで過ごすことになった。それは、身分としてはミスティアナがライトの所有物であるからだろう。
特に不満も問題がない……わけではない。何故なら、ベットは一つしか無かったからだ。
話を戻し、何故一人かと言うと案内された食堂での朝食時、ミスティアナに用があるらしく、アーノルドが来て連れて行った為に、仕方なくだ。
もしもの時は、殺しても構わないとしっかり命令して、更にはヨルにも付いてもらっているので、全く心配はしていない。
嘘だ、そこそこ気にしている。
「活気、溢れてますね」
ライトの抱いたクリムラットの印象としては『露店が多い』である。
ラビルは、個人店舗経営の店ばかりであり、露店は滅多に見なかった。
だが、クリムラットは反対に露店ばかりだ。
食べ物からアクセサリー、薬に武器、どれもこれもが売っていて興味が絶えない。
それはライト以外の道行く者も同じようで、それぞれが気になる露店へと足を運び、買い物を楽しんでいた。
総じて、活気が溢れている。
ヨルの服を着ていても少し熱いと錯覚してしまうくらいに。
歩くこと数分。
「あれ、見たこと無いですけど、美味しそうですね」
目に留まった露店があった。
そこでは、串に刺された処理済みの魚が塩焼きにされており、良い匂いを辺りに広げている。
ハジノスもラビルも内陸部な為、本などで知識を得ていたが魚を食べる機会が無かった。
普段食べているのは、通常の生物の肉か魔物の肉である。
丁度、今店主と話して串焼きを買っていた客が離れたので、ライトは向かうことにした。
「すみません、一つ頂けますか?」
「おう!110Dだ」
不自然にならないように、コートのポケットに手を入れて、そこで巳蚓魑から鋼貨と鉄貨を一枚ずつ取り出す。
ギルドカードにもお金を貯めているのだが、それは冒険用、つまりはパーティーで使う資金なのだ(ミスティアナと共有中)。
巳蚓魑の中に在るのが、ライトが個人的に使えるお金となる。
因みに〈黒蛇白塗〉の金銭管理をしているのはミスティアナである。
というのも、ライトが彼女の自主性の成長を促す為に頼んだ。
率直に言えば、効果は薄い。二人共が薬や矢などの消耗品を使わないので、全くそれらによって金額は動いていない。
殆どの場合は、食料品の購入に使われている。
「はい、これで良いですかね」
「お、丁度だな。ほいよ、熱いうちに食べてくれ」
「ありがとうございます」
硬貨を手渡し。串焼きを受け取り、日焼けした店主に感謝を告げて、露店を離れる。
その確実に美味しいだろう匂いに、刺激される食欲の赴くままに、ライトは魚へとかぶりついた。
「…………うん、旨い。これは当たりです」
皮はパリッとしていて、身はホロホロと解けるようにフワフワであり、程よい塩味が淡泊なその身に合っている。
思わず立ち止まり、目を見開いてしまう程に、ライトにとっては衝撃的な美味しさであった。
「ヨルとミスティと一緒に、またあったら買いましょう」
そう言い切り、移動を再開しながら、一口、又一口と魚の串焼きを身体の中へ入れて行く。
そこに、不運が訪れる。
「――どけっ!!」
「うっ!?」
正面から、何やら急いでいるような焦っているような様子の男が駆けてきて、ライトを強く押し退けて来た。
串焼きに意識を持って行かれていたせいで、珍しくもライトはそれに反応できず尻もちをついてしまう。
その過程が、
「あっ……」
串焼きを落とす、という結果に繋がってしまった。
「…………」
ライトに静止が訪れ、今現在彼にとって最も悲惨な光景を眺め続けさせた。
実際の時にして数秒、だが彼には数十分にも感じられただろう。
次に起こったのは、
「テメェッ!!!ふざけんなっ!!!」
怒りの爆発だ。
食べ物の恨みとは、物凄いとよく言うが、ライトもその例に漏れないようである。
―――示し見つける探蛇
掌から半透明の蛇が上空へと飛び、弾ける。
瞬間、ライトの頭の中に周囲の空間の情報と、ぶつかって来た男がどこに居るのかという正確な情報入って来た。
「絶対に逃がさねぇ」
《黒剛彩王-虚の理-回避錬術-偽詐術策-怪力-聡明》
―――上級時空魔法:時間加速
踏み込んだ地面が砕け、その音が周囲に響くよりも速く、跳び駆け出す。
道に居る人々の間を縫うように且つ、高速ですり抜け、探蛇により得た情報で示された男の場所へと近づく。
遂には、ライトの視界からはゆっくりと動いているように見える、先程の男の姿を視認する。
「見つけたぞゴミが」
後ろから攻撃出来るが、敢えてそれを止め、前へと回り込む。
ゆっくりと男の顔が驚きに染まる、前にライトの拳が顔面を潰す。
そして、衝撃で吹き飛ぶよりも更に早く、腹に蹴りを放つ。
魔法を解除し、見える世界の速度が正常に戻る。
「――うぐっ!?」
「摑まえた。おい、常識に欠けんじゃねぇのかテメェ」
吹き飛んだ男が何が起きたか認識するよりも早く、その首を握りしめ起き上がらせる。
「なっ、何だお前っ――ぐあっ」
「第一に謝罪だろ、その程度の頭もねぇのか?」
男が怪訝な顔をしようとした瞬間、首を握る力を強くする。
蛙が潰れるような声を出し、苦しむのなど、見えていないかの如く、ライトは言葉を吐き続ける。
その異様さに周囲の人間が離れて行っているのなども見えてない。
思考は、怒りに染められているからだ。
「大体、こんな人通りの多い場所を走るなんて、どうかしてる。更には、人を突き飛ばしておいて、何も言わずに走り続ける?一体どんな思考回路をしていたらそんなことが出来るのか、俺に教えてくれよ?なぁ、なぁなぁ、なぁっ!!」
「や、止めっ――」
何度も、男に拳が叩き込まれ、その身体は既にボロボロになっていた。
数分続いた、その行為により、男は気を失ってしまった。
ライトは、男を投げ捨てる。
「チッ、もう少しマシな反応をして欲しかったぜ。ゴミが……ん?」
地面に倒れている男を再度見たその時、ライトは、男がある物を持っているのに気付いた。
赤い、明らかに男物ではない煌びやかな装飾が施されているが、嫌な風には感じないバッグだ。
男からそれを分捕り、眺める。
すると、足音が近付いて来たので、そちらへと視線を向ける。
そこには、バッグとセットに見える身体のラインが出る赤い服装の濃い紫色の髪、浅黒い肌の美女が立っていた。
どことなく、妖艶に感じる。
「少年、そのバッグ何処で?」
「そこの男が持っていた物ですけど……もしかして、お姉さんのですか?」
「恐らくね。一応、少年が確認してくれるかい?あたしだって盗人かもしれないしね」
「それを言う人は盗人じゃありません。でも、確認するにして、どうやって?」
勘というか何というか、直感的に彼女が悪人ではないと感じたライトは、素直に話を聞き、言葉を返す。
男をボコボコにしてスッキリしていた、というのもあるだろうが、心は妙に落ち着いていた。
「確か、丁度写真が入ってる筈だから、それを見てくれたら判断できると思う」
「分かりました。それでは失礼して……ん~と、これですかね」
慎重にバッグの中に手を入れ、彼女の言う写真であろう小さな紙束を取り出す。
かなり珍しく、色付きで鮮明な写真を見たライトは、固まった。
何故なら、写真に写っていた彼女が、"下着姿のようなもの"ばかりだったからだ。
正確には、水着やネグリジェのようなもの、完全な全裸のものもあり、現代で言う所謂グラビア写真のようなものだったのである。
流石に別に、女性の身体に慣れている訳ではないライトは顔を紅くし、写真を即座にバッグに戻して女性の方へと差し出した。
「たっ、確かに貴方のですねっ」
「ん?何で紅く…ああ、済まないね。商売用だったのを忘れてたよ。少年には少し刺激が強かったかな?」
「い、いえ、問題ありません」
「ふふっ、それにしても助かったよ。このバッグには仕事道具が入ってるからね。引っ手繰りに遭われた時はどうしようかと思ったんだ」
優しくも妖しく笑う彼女を直視しないようにしながら、話に耳を傾けるライト。
そうして、何故男が急いでいたのか理解した。
(アイツ、引っ手繰りだったんですか、だから急いで……全く)
「少年は、何であの男をあんな風に?」
「アイツがぶつかって来て、買ったばかりの魚の串焼きを落としてしまいまして、腹が立ってですね……」
「成程、少年、見た目よりも腕が立つみたいだね」
「これでもAランクですし」
「Aランク、将来有望だ」
ライトがAランクと言った瞬間、彼女の笑みが妖しさを増す。
彼女は、バッグから名刺らしきものと黒いカードををライトの渡した。
「これは?」
「私の名刺と私の経営している店の特別なカードさ。気が向いたら来て欲しい、今日のお礼にサービスしよう」
「は、はい。分かりました」
「私は、憲兵にこの男を引き渡しに行くから、少年とは此処でお別れだ。良い一日になることをきたいしているよ」
そう言うと、彼女は倒れていた男を引き摺って行った。
ライトは、手に残された名刺とカードを見る。
「フィリア・セクロノ、さん……それに『ミッドナイト』の"V.I.P."カードですか……何故か、無断で行ったら怒られそうな気がしますね。まあでも、折角の好意を無駄にするのも気が引けますし、今度行ってみましょう」
ライトはきっと、この時に注意深く名刺とカードを読まなかったことを後悔するだろう。
無知とは、時には危険なものである。
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次の投稿は2/1(水)です。
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