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3-8 漸ク進ム話シ合イ



 何だか認められない戦いの終わりから一時間。



「う…我は……」

「あ、起きた?フレグス、流石に年老いたかい?起きるのが遅い」



 トゥールが、ペチペチと豪華な玉座に居た男――フレグスの頬を叩いていた。

 ライトは、それを遠目で見ている。



「な、何があった」

「皆気絶してた。僕も含めてね、君が最後だよ」

「気絶だと?何故我が……トゥールと、派遣されたあの者…確か名はライトと言ったか?が戦っている最中までは記憶があるのだが、それ以降が曖昧だ。それにお主まで気絶していたとな?益々何があった」



 フレグスは、混乱している。

 そんな彼を面白がり、トゥールはくつくつと笑いながら叩く。

 おい、そんなことして大丈夫なのかというライトの視線は恐らく届いていない。



「ただライトの魔法で意識を失っただけ、この広間に居た全員が失ってたよ。あと、団長たちは仕事あるらしいから、戻らせた」

「そうか……では、話し合いをするとしよう」



 覇気の宿る瞳が、何とはなしにミスティアナの頭を撫でていたライトを射抜く。

 余りに向けられない視線に、ピクリと反応して姿勢を正す。


 そうじに、改めてフレグス――クリムゾア帝国皇帝を見た。

 真紅の短髪にオレンジ色の鋭い瞳。白地に赤と金の装飾がされた服は、放つ雰囲気も相まってか豪華な筈なのに嫌に感じない。

 顔には、皇帝の貫禄が刻まれている。結構、怖い。



「我が名は、フレグス・アールヴハイト・クリムゾア。クリムゾア帝国、37代目皇帝である」

「僕は、ライト・ミドガルズ。Aランクパーティー〈黒蛇白塗(ケーリュケイオン)〉のリーダーで、Aランクの冒険者です。よろしくお願いします、クリムゾア皇帝陛下」



 別に権力を持つ相手を気にしてはいないが、面倒なことは嫌いなライトはしっかりと挨拶を済ます。



「こちらは、ミスティ。僕のパーティーメンバーです。先に言っておきますが、彼女に手を出すなら皇帝陛下であろうともぶっ殺しますので、注意を」

「くくっ、流石ソヨが送って来た子だ、癖が強いねぇ。国を統べる者に対して、真っ向からそんな言葉を吐くなんて」

「さっきの戦いで分かりましたが、ヒュープさんさえ出てこなければ、僕一人でもこの国は落とせますから。そういうのを加味した上での言葉です。何の情報も無しには言いませんよ」

「くははっ、こう言われてるけど?国の主としてどうなのさ、フレグス」



 訂正、面倒事を自分から呼び込もうとしてます、この男。

 余りにもハッキリと言うライトに、トゥールはもう口から笑みが消えない。

 大してフレグスは、大きく表情を変えていないが、拳を握っていた。



「仕方のないことだ。実際に我が国の勢力は三国最弱と言ってもいい」

「全く、面白くないね。激昂でもすれば、良い皇帝だって言ったのに」

「ハッ、我を舐めるな。国の状況の把握程度出来ておるわ。だからこそ、こうして他国に依頼を出すことになっているのだからな。賢帝の名は伊達ではない」



 苦々しくも覚悟の決まった、正しく皇帝という気配を漂わせる彼に、ライトは意識を改めた。

 彼を見る瞳に籠るのは期待、自然と笑みを浮かべてしまう。



「ライト、お主の要望には出来るだけ応えよう。依頼の分キッチリ働いてくれさえすれば、全てを通し、全てを許そう」

「成程、皇帝陛下。貴方は思ったよりも僕好みの人かもしれませんね。良いでしょう、しっかりと貰える物さえ貰えるなら、依頼内容の範囲であれば全力を尽くします」

「ふっ、その言葉、忘れるでないぞ」



 皇帝と王は、この時初めて互いを真っすぐに見た。

 交わされた視線にどんな思惑が籠められていたのか、それは当人たちにしか分からない。


 一区切りがついたところで、フレグスの両脇に立っていた二人の内の片方、法衣を着た鋭い眼光の老人と真紅の鎧を着た偉丈夫が口を開く。



「私は、イグ二・フライ。この国の宰相を務めている者ですな。ミドガルズ殿、此度はよろしく頼みますぞ」

「俺は、アーノルド・エラクト。お前さんが倒した六人の上、真紅騎士団の総隊長をしている。恐らく、お前さんとは戦場で行動を共にするだろう。よろしくやろうじゃないか」

「はい、お二方ともよろしくお願いします」



 特に咎められるようなことを言われず、ライトは胸を撫でおろす。

 堂々と言ったものの、不味かったと思い警戒していたが、無用だったようだ。



「それでは、戦争の話し合いを始めるとしますかな」

「そうしようか。で、イグ二、君のことだから、相手の情報くらい既に準備してるんでしょ?」

「当然ですな。惜しんでもアレですし、先ず聖国の戦力からハッキリと言うとしましょう」



 イグ二が、一息置いて言葉を紡ぐ。



「ずばり、我が国の"二倍"ですな」

「成程ね」

「……はぁ」

「それほどか……」

「……皇帝陛下、流石に差があり過ぎでは?」



 余りにも単純なその差に、ライトは思わず口を出してしまう。

 正直、引いていた。ライトの視点では三国の力は拮抗しているのだと思っていた。

 だからこそ、定期的に戦争が起こっても三国で保たれているのだろうと。

 それが、蓋を開けてみれば、とんでもないことになっているのだ。

 失望しても仕方が無い。



「いえ、確かに我が国は弱く、戦力が少ないですが、今回の差は聖国側が力を秘密裏に集めていたのが原因ですな。予測では、ここまでの差になる程ではなかったのですぞ」

「ふ~む、二倍差……まあ、それくらいなら覆せますし、別に良いんですけどね」

「凄い自信だね」

「本当はどっちも得意じゃないと駄目なんですけど、正直一対一よりも多対一の方が得意ですから、イレギュラーさえ起こらなければ、どんな差でも覆す自信があります」

「何で片方だと駄目なんだい?」

「師匠に怒られます」



 躊躇いの欠片も感じさせず言うライトに、トゥールは首を傾げるが一応納得したような気がする。

 『どんな状況でも完全に勝利してこそ最強』とは、ヨルに何度も言われている言葉だ。

 まだまだ、と考えてライトは努力を重ねている最中である。



「頼もしい、そこまで言い切るのならば、期待して良いのだろうな?」

「問題ありません」

「うむ……イグ二、ノルド、どのような術を扱うのか聞き、ライトを主軸とした戦術を練れ。我が国に勝利をもたらす為、全てを尽くせ」


「「はっ、燃ゆる真紅の魂に誓って」」



 胸に手を持っていき、深く頭を下げる二人を見て、フレグスは鷹揚に頷き立ち上がる。



「我は暫し休む、頼んだぞ。ああ、部屋までの護衛はいい。自分の身程度は自分で守ろう」

「くくっ、全く格好良いねぇ。やっぱりフレグスは皇帝の器だ」



 笑い声を背に、フレグスは広間を出て行った。

 白間に一時的に静寂が生まれる。


 最初に口を開いたのは、イグ二だ。



「一つ、陛下にお伝えしていない不安要素がありますが、聞きますかな?」

「だと思ったよ。あの【影の目】と謳われるイグ二・フライにしては情報が少ないし」

「トゥール様、貴方にはいつまで経っても勝てそうにありませぬな」

「伊達に歴代最高のパーティーだった訳じゃない。若造に負ける気はないね」



 交わす言葉には棘が無く、ある程度の信頼が感じ取れた。

 ライトは、フレグスが居なくなったのでミスティアナの頭を撫でながら、彼の言葉を待っている。

 アーノルドの呆れた視線などお構いなしで。



「その不安要素というのは、『()()』…ですな」

「あの噂は、本当だったってことか?」

「私が最大限調べましたが、確証は得れていませんな。だか、確実に居ます」

「そう言い切る根拠は?」

「『勇者』自体は見つけておりませんが、勇者召喚が行われた痕跡は見つけている。ということですぞ」

「成程……聖国、本気らしいね。面白い」



 『勇者』という言葉に、それぞれが反応する中、ライトは一人、深い笑みを浮かべていた。



(『勇者』、ですか。この戦争、尚更来た意味がありましたね。手応えがあると良いです……)



 王は、強者を求めているようである。

 戦は着々と近付いて来ている。



◆投稿

次の投稿は1/29(日)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

蛇の王「おい!最近投稿が不安定だぞ!」

語り部「ぐふっ!?――何で殴った!?僕関係ねぇのに何で殴った!?」

蛇の王「済まぬな、丁度良い処に居たから仕方ないのじゃ」

語り部「サンドバッグじゃないんだが?」

蛇の王「それもこれも作者のせいじゃ。甘んじて受けよ」

語り部「納得出来ねぇーー!!」



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