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3-6 黒剛ノ王VS不滅ノ王 上



 黒き波動が砕け散る。



「やっぱりこの子ら程度には荷が重かったみたいだ。ここからは僕が相手をしよう」



 水色のゆったりとした明らかに魔法使いの服を着た、青みがかった黒髪の、トアやソヨと然程変わらない身長の一見少女に感じられる女が、落ち着き払った様子で、そう言う。

 意外なことにそれに即座に返したは、ライトではなかった。



「トゥール様ッ!!まだ俺達は――」

「"黙れ"…僕に意見するな。大体、元々僕が相手する予定だったんだ。あのソヨが態々転移で送ってくる程だ。並の冒険者な訳が無かった。それだというのに、君達がどうしても…というから許してあげたのに、この体たらく……さっさとそこいらに散らばっている雑魚共を回収して、離れろ。邪魔だ、これ以上僕を苛立たせるな」



 長剣の男の言葉に、女は途轍もなく重く冷たい言葉を放ち、捲し立てた。

 猫の女と盾の大男は、口を閉ざし、女の言う通りに即座に行動し始めた。

 広間の温度が下がる程の青い魔力を溢れさせた女。その顔は、余りにも無であり、それだけの怒りを内包していることが理解出来る。



「手間を取らせて済まないね。僕の方から謝罪させてもらうよ」

「別に、気にすることはない」

「なら良かった」



 ライトは、普通に返しながらも冷や汗が止まらなかった。

 思わずイグニティを握る手に力が入る。



(いや、滅茶苦茶強くないですか?ソヨさんと同格……いや少し下?どちらにしても強すぎる)



 彼女がソヨの親友なことは、ライトの中で確定事項であり、その時点でも強いことは分かり切っている。

 然もだ、溢れる魔力からも異次元さが感じ取れ、久しぶりに後退というものをしたくなった。


 ライトと女、それ以外の全員が広間の端に移動し、これから始まる戦いを見守ろうとしていた。

 ミスティアナも珍しく、ライトの命令無しで離れている。

 勝負を回避できないことを悟ったライトは、覚悟を決めた。



「邪魔も片付いたことだし、それじゃあ始めようか。元Uランク冒険者【不滅の水神(イモータル・オケア)】にして、ギルド協会・人界クリムゾア帝国・クリムラット支部のギルドマスターである僕、トゥール・アクアランドが相手をしてあげるよ」

「スゥー……ああ、よろしく頼む、よっ!」


《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》


―――蛇剣舞:嵐蛇激甚斬(らんだげきじんざん)



 ライトは、言葉と同時に背後に跳びながら、イグニティを振り下ろす。

 超高速で黒混じりの薄緑色の斬撃がトゥールへと向かう。


 この男の心に、痛むという概念は無い。



「成程、そういうタイ――」

「ただの斬撃じゃねぇぜ?」



 トゥールの手が斬撃に触れた瞬間、斬撃が黒き刃の嵐へと変化する。



―――上級水魔法:ウォーターフォール



 爆発するように溢れ出した大量の水が嵐を吞み込み、勢いのままライトすら取り込もうとする。



―――()()ざす氷蛇(ひょうだ)



 剣先から、小さな氷で出来た蛇が生まれ、水へと飛翔しぶつかった瞬間、



「しっ、成功」



 水の濁流が凍りつき、停止する。

 ライトは、次の攻撃に移るために跳躍した。

 


―――()見破(みやぶ)探蛇(たんだ)



 掌から現れた白い蛇が腕に巻き付くと、氷が透け内部が見える。

 その内に居る、トゥールが見えると同時に驚きで動きが止まってしまう。


 何故なら、トゥールが凍っている筈なのに、氷の中を移動していたのだから。



《不滅之王-魔録神記-魔法:神級-氷の極致-魔導深淵-超域魔力操作-法師-叡智》


―――超級氷魔法・変異:氷竜王の(かいな)


「うっぐっ!?」

「捕まえた、流石、ソヨが寄こすだけあるね。戦いというものが何たるか理解してるよ」



 全ての氷が砕け散り、それが巨大な二つの腕へと変化しライトを締め上げる。

 傷一つなく、消耗もしていない様子のヒュープが、宙に浮きながら見下ろしてくる。

 その手には、ガラスの指揮棒のような短杖が持たれていた。


 ライトは氷を力で砕こうとするが、力が上手く入らない体勢とはいえビクともしない。

 ならば、取れる手は限られる。



(馬鹿げた量の魔力が籠められてる。これ、八彩王法(ファルべケーニヒ)とかじゃないと砕けないかも)


《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》


―――中級時空魔法:テレポート


「ふむ、ズバ抜けた精度の転移魔法、そのクラスで扱える魔法使いが何人いるか」

「その澄まし顔、歪ませてやるよ」

「フフッ、さあ、ドンドン気にせず掛かって来て良いよ」



 床に降り立ち、息を整えたライトは、トゥールの挑発通りに次の攻撃を仕掛けることにした。

 たとえそれが彼女の策略でも、打ち砕きさえすれば問題無い、と判断して動く。

 どこぞの蛇の王に思考が侵されているとも言えなくもない。


 

「我求めるは加速、我が願いの内、我が身を星と化せ」


《黒剛彩王-偽詐術策-聡明-会心》


―――天級無魔術:流星の如く(メテオロイド)



 ライトの身を煌めきが包み、力が注がれる。

 脚に力を籠め、再度跳び上がる。

 彼の口には、三日月のような笑みが刻み付けられていた。



「新術の実践使用と行こうか」


―――再事翼蛇(リントヴルム)=超級体術・変異:破天翔拳(ハテンショウケン)()空絶顎(クウガ)



 言葉と共に、拳が眩い光に包まれ黄色い魔力を内包する。

 

 ライトは、兎のように空を蹴り上げ、一気にトゥールとの距離を詰めた。



「それソヨのっ――」

「――喰らえや!」



 驚いて行動が遅れた彼女よりも数倍速く、その心臓の位置へと拳をぶつける。


 刹那、彼は途轍もない奇妙さに襲われた。

 拳に返って来た感触が、肉の潰れるものでも身体強化などによる硬質的なものでもない。

 ぐにゃりと何かを軽くすり抜ける様な、言うなれば"水を殴った時のような感触"とで表現すればいいものを感じた。


 改めて、拳が当たったその箇所を見たその時、目の前から声が掛かる。



「危ない。それ直接受けたら、内部から身体がやられる奴だよね。全く、なんてもの教えてるんだい、ソヨめ。これは後で抗議が必要だよ」

「な、に?どうなって、やがる」

「ああ、これかい?」



 拳は確かにトゥールに当たっていた。



「僕、"精霊"だからさ、物理攻撃基本的に効かないんだよね」

(……クソ、もっと早く気付くべきだった。そもそも、殴った時点である程度吹っ飛ばない時点で可笑しかったんだ)



 当たっていたが、それが攻撃の成功とは限らない。


 ライトの腕が――()()()()()()()()()()()()()


 にも関わらず、血の一滴も流さず、彼女は平静を保っていた。

 腕を引き抜こうとするも、固められたように動かすことが出来ない。



「抜けない、か。じゃあ」

「じゃあ?」


―――()()ぜる雷蛇(らいだ)ッ!!



 雷が墜ち、二人を"同時に"穿つ。

 身体を一瞬の硬直と、後に痛みが訪れる。だが、その拍子に何故か腕が抜けた。

 痺れる思考の最中、魔法陣を作り出す。



―――中級時空魔法:テレポート


「あっぶねぇ、身体で直接攻撃するのは、もう止めるか。次は多分ない」

「自分ごと攻撃なんて、だいぶイカれてる思考してるらしい。本当に実に僕好みだよ」

「やっぱりアンタは、ソヨさんの親友だ。触れた時に分かったが、化け物が過ぎるぞ」

「化け物とは、言ってくれるね。そんな生意気なことを言わないでほしいね、調きょ――じゃなくて、分からせたくなるだろう?」

(今調教って言いそうにならなかったか?)



 転移で回避した後に聞こえた不穏な言葉に震えながらも、視線は捉えて外さない。


 ライトは、今動かずに様子を見ている。

 それは腕が貫通した時に、直で感じたトゥールの魔力量が、ソヨを遥かに超えていたのが理由である。

 魔力の塊の精霊とはよく言ったもので、ライトの見立てではヨルが偶に使う神級の魔法を無尽蔵に連発できるくらいの量は余裕であった。


 つまり、魔法使い相手に有効な、魔力を消費させる戦い方を意味を成さない。魔力切れなんて到底期待できないということだ。



(ということは長期戦は、僕の方がかなり不利。てことはやることは決まった)

「――いつも通りの短期全力決戦!ヨルッ!」

<もう少し静かに呼べ、五月蠅い>


―――神喰螺旋蛇杖(アスクレピオス)



 蛇の声が脳内に響き、蛇杖が空いている手に現れる。

 同時イグニティを宙に放り投げ、虚空に仕舞い込む。



《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明-会心》


―――八彩王法:王の外套(レクスオーバー)()黒虚(ヴァニタス)



 杖先から増幅され、溢れ出した王気が漆黒の外套と化す。



「こっからが本番だぜ、トゥール」

「成程ねぇ……聞いてないよ、ソヨ。……だから君が気に入るのか」





◆投稿

次の投稿は1/22(日)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆技解説

魔法技録

上級水魔法:ウォーターフォール 指定した場所から大量の水を生成する 長時間は生成できないが瞬間的に生成される量が多い


超級氷魔法・変異:氷竜王の(かいな) 周囲の氷、無い場合は生成した氷を圧縮・成形して腕を作り対象を拘束する そのまま捻り潰すことも可能 圧縮されてる為い、超硬度を誇る



◆蛇足

語り部「意図せず腕が相手の胴を貫通してたら、驚くだけじゃ済まなくないか?」

蛇の王「そうか?我はよくするぞ。基本的に一撃で相手を殺せるからな。あってもラッキー、くらいじゃ」

語り部「そういえば化け物だったな。悪い、常識を押し付けちまったわ」

蛇の王「誰が化け物じゃ!こんなキューティーでビューティーな姿しておるじゃろうが!」

語り部「でも、蛇王さ。本当の姿唯のデカい蛇じゃん」

蛇の王「くぬぅ~、言い返せん……」



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