3-5 宮殿ニテ、交ワル刃
クリムゾン宮殿は高い塀に囲まれている。当然警備、安全確保の為だ。
その塀を通る為の場所、馬鹿デカい正門の前にライト達は立っている。
こういう場所は、基本的に混んでいる者なのだが、何故か今日は人が居ない。
「すみませ~ん」
門の前に居る、複数人居る騎士の内、一番位が高そうな騎士に声を掛けた。
「貴様ら何者だ。今日は、あらゆる目的でも宮殿へ訪れぬよう、都市中に伝令が言っている筈だ」
「まあまあ、そんなこと言わず。これ、読んでみて下さいよ」
ライトは、ソヨから貰った紹介状を騎士に手渡す。
疑わし気な目でライト達を見ながらも、ゆっくりと騎士はその紙を開く。
すると、騎士の目が見開かれた。
「こ、これは、トゥールギルドマスターの印に、皇帝陛下のっ――も、申し訳ありませんっ!!」
急に頭を下げられたことに、驚くがそれを顔に出すと何か格好悪いので、得意のポーカーフェイスで凌いだ。
「いえいえ、案内お願いできますか?」
「はっ!――おい、門を開けろ!」
ギギッ、重い音と共に門が開く。
特に緊張した様子もない足取りで、二人は宮殿へと足を踏み入れた。
開かれた扉を潜る。
割愛されているが、長い廊下を延々と歩き続け、恐らく謁見の間らしい場所の扉を潜ったところである。
「失礼します」
「………」
バタリと、扉が閉まる。
長ーい赤い絨毯の敷かれ、所々に黄金の装飾が散りばめられた、乳白色の石材で造られたかなり広い空間。
内部には静寂が流れていたようで、そこまで大きくない筈のライトの声がよく響く。
奥に、覇気の溢れる男が、豪華な絶対座りにくそうな玉座の上に居た。
年を食っているのは分かるが、衰えは感じ取れない。
そんな男の両脇には、法衣を着た鋭い眼光の老人と真紅の鎧を着た偉丈夫が立ち。
更にその手前に、赤系統の装備で統一した六人の男女が、何故か"武器を構えて"横に並んでいる。
(あとは……左端に居る、あの人)
視界には、あと一人だけ映っていた。
そして、明らかに見たことある雰囲気の青みがかった神――じゃなかった青みがかった黒髪の……女。魔法使いのような服装だ。
(絶対にソヨさんの言ってた親友の方だ。確か、トゥールさんでしたっ――)
「――済まないが、試させてもらう」
気付けば、男が槍を突き出していた。既に穂先は眼前に迫っている。
しかし、ライトの思考は至って冷めていた。
それは、槍が余りにも"遅い"から。
(成程、タナトス様が言っていたのは、こういうことですか)
《黒剛彩王-悪逆非道-回避錬術-怪力》
魔力を纏わせた拳で妙に硬い槍を圧し折り、攻撃を仕掛けて来た男の顔面にも拳を叩き込む。
空気が破裂するような音と共に男が宙を舞い、床に落ちる。
男へ向けた意識はとうに無くなっており、タナトスの言葉への納得がライトの思考を埋めていた。
(あの空間の僕は魂だから、幾ら戦っても身体が鍛えさせられるわけじゃない。けど、経験は積まれる。あの光速にして即死の攻撃を魂が覚えてる。アレに比べれば、今のなんてナメクジも同然です)
「マスター、対処が遅れて申し訳ありません」
「気にしなくて良いですよ。ミスティは別に僕の騎士じゃないんですから、それに全部ミスティが片付けたら僕が戦えません」
何故かしょんぼりしているミスティアナに、ライトは笑いかける。
現在、二人の間に戦闘という緊張感は存在しない。
「そうですか……それにしても、マスター、凄く速かったです。初動が追えませんでした。魔法も術も使わず、いつの間にあんなことが出来るようになったんですか?」
「まあちょっ――と、キツイ修行をしましてね」
(やっぱり対応できる)
会話しながら、飛来したナイフを手で掴む。
ライトは再度己の変化を自覚した。今までならば、恐らく反応出来ない速度であったことを理解しているからだ。
(でもそれってつまり、タナトス様に鍛えられた反射神経と思考速度に、あれから特別には鍛えていない身体が付いて来てるってこと。即ち、僕がこれまで十全に身体を扱い切れていなかったのと同義じゃないか?)
(僕は、今までの状態が身体の最大値、限界だと思ってた。だからこそ技やスキルの扱いを考え、伸ばして来た。けど、そうじゃなかったみたいだ。まだまだ身体の方も成長途中らしい、本当に良いことにタナトス様は気付かせてくれた。感謝しかない)
思考が鍛えられたこととまだ身体能力が上がるであろうことに、関連性は無い気がするが、本人が楽しそうなので口出ししてはいけない。
何にせよ、扱えていると思って扱えていなかった身体が扱えるようになった、ということは強くなったのと同じなのだから。
ライトの口が弧を描く。
「使うのは久しぶりです」
《黒剛彩王-蛇王蛇法-偽詐術策-聡明-会心》
―――彩王の覇気・王蛇絢爛
蛇の王を真似た、不可視にして絶対の威圧感がライトから放たれ、広間を満たす。
正直、あまり使いどころがないので、ライトも忘れていた。
遠くから息を飲む音が聞こえた。
「試しだか何だか知らないが、急に攻撃を仕掛けてくるってことは、敵ってことで良いんだよなぁ?」
決しては大きすぎは無いが、確かにあちら側に聞こえるようにハッキリとライトは言った。
それに対して、言葉は返って来ない。
「返答はない、か。良いぜ、何にも決めないってんなら、『死んでも文句言うなよ?』」
「マスター、どうしますか?」
「大方は"俺"がやる」
この男、スイッチがもう入っている。
いつの間にか手には、イグニティが握られていた。
「もしも、俺が対応出来なさそうなら頼む。あと、普通にミスティが狙われた時も普通に対応して良い。けど、『絶対に殺すな』」
「何故ですか?マスター」
「さっきはああ言ったが、明らかにあの六人、国の重要な役職っぽいから、多分殺したら面倒なことになる。面倒事は先に済ませるに限るが、避けるにも限るってわけだよ」
挑発的な言動の割に、やっぱり思考は冷めているらしい。
だが思い出して欲しいのは、もうそんな重要そうな奴らの一人の顔面をぶん殴っている。
これ以上も以下も、大して変わらない気がする。
「じゃ、行くぞ」
「マスターの仰せのままに」
《黒剛彩王-悪逆非道-回避錬術-怪力》
「面白くねぇから、直ぐにはやられんじゃねぇぞ!」
魔力を使っているにしても、以前よりも数段速くはライト相手との距離を詰めた。
残った六人の内の真ん中、長剣を持った男をへとイグニティを振う。
「いつまで突っ立ってんだ?」
「うっ!――ハッ!!」
―――上級炎魔法:ルーゼンフランザム
―――中級地魔法:アースインパクト
長剣の男は、一瞬驚いた顔をしてギリギリでイグニティを剣で弾く。
刹那、左右から同時に炎と石礫が迫る。
ライトは、後方へ身体を捻りながら跳躍することで回避した。
「危ないねぇ」
「キース、気を抜かないで。今の、もう少し遅かったら斬られてても可笑しくなかった」
「あ、ああ。大丈夫、もう切り替えた」
「それにしても凄い身体能力、ニャーの部隊に欲しいくらい」
「空中で身体を捻って、よく身体持ちますよね」
「無駄口はそれくらいにしておけ」
口々に話し出す赤い五人だが、その顔は優れていない。
恐らくライトの覇気を受けたせいだ。そしてそのことをライトは理解していた。
次の攻撃を開始する。
(ふうむ、あの男は意外と反応された。なら明らかに回復役そうな――アンタで!」
五人の中で、赤い修道服らしきものを着た女を次の標的にした。
「は――うぐっ!?」
「あ、耐えた。んじゃもう一発」
「がはっ……」
攻撃が来る前に、低い姿勢で修道服の女の懐に入り、イグニティの柄頭で腹を抉るが思いの外、硬い感触が返って来た。
意識を奪えなかったので、今度は拳で殴り、確実に意識を奪う。
「ありゃ、オリーがやられた」
「何暢気なこ――「それはお前もだ」――えっ」
「ニナもやられた」
「お前もな」
「けど、ニャーはやられない」
気が他の方向に向いていた魔法使いの女も、柄頭で首裏を叩いて気絶させる。
二人の敗北を見ていた猫の女へ、序でとばかりにイグニティを振うが、ヒラリと最小限の動きで回避された。
その後、何度もイグニティを振うが全てが避けられる。フェイントや拳、蹴りなども混ぜているが一向に当たる気配が無い。
(多分コイツが一番強いな)
―――上級盾術:タウントスタイル
「私も忘れてはもらっては困る」
「面倒臭い野郎だ」
急に意識が背後に引き付けられ、身体が半強制的にそちらに向かってしまう。
盾を構えた大男が、そこに立っていた。
背後で床を蹴る音が、耳に入る。
「ボイ、良いタイミング!」
「キース、合わせろ」
「はい!」
―――上級闇魔法:カースバインド
―――超級盾術:ガゼルインパクト
―――超級剣術:サイクロンブレイブ
床から影のようなものが溢れ、ライトを縛り上げられる。
赤い魔力を纏った盾と風を纏う剣が前から迫り、ライトの勘では背後から無数のナイフが投げられている。
(ちっ、制約一個取り止めるか、まあまあ強いな。コイツ等)
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明-会心》
―――中級時空魔法:テレポート
ライトはこの戦いを始める前、幾つかの制約を己に科した。
といってもそれ程重いものではなく、所謂縛りプレイみたいなものだ。
その中の魔法を使わないという制約を諦め、時空魔法を使い転移をした。
三人からある程度離れた位置に、ライトが現れる。
「よりにもよって、転移使い。面倒だニャァ」
「何ッ!?」
「何処に……」
「さて、どうしようか……」
三人が自身を探している間に、ライトは思考する。
色々な作戦を考えるが、彼の中の怠惰が何か違うと言い、納得がいかない。
別に煙などがある訳でも無いので、三人はライトを見つけたようだ。
同時、彼もある考えに至る。
(いや、そういうことか……一個止めてしまったなら、それはもう全て止めたのと変わらない。絶対的な制約の場合今のようなことは出来ない訳で。……ならもう……終わらせるか)
意外にも連携が上手く、魔法を使わないという制約を取り止めたライトは、一度もニ度も変わらない、もう後戻りは出来ない等々、犯罪者のような理由で、全ての制約を即座に諦めた。
その根本には、これ以上グダグダ続けるの面倒臭い、という思いがある。
「アンタら、まあまあ強いな」
「それは光栄、なのか?」
「だが、まあまあ止まりだ。俺は、こんなことする為に此処に来てない。済まないが、これにて――」
身体から溢れた黒き王気がイグニティを包み、その銀河の如き刃を染め上げる。
終わりとは、唐突に訪れるもの。
「終幕だ」
ライトはゆっくりと、イグニティを振った。
《黒剛彩王-虚の理-蛇王蛇法-杖術:天級-剣術・蛇道:上級-悪逆非道-回避錬術-怪力》
―――八彩王法:我は確たる終幕を語る
出来上がった剣閃から斬撃とは呼べぬ、黒い波動が生じ、三人へと向かう。
全てはこれで、決する。
「そこまでだよ」
筈だった。
◆投稿
次の投稿は1/20(金)です。
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◆技解説
魔法技録
中級地魔法:アースインパクト 石礫を指定の方向へ飛ばす 被弾時極小規模の爆発あり
上級炎魔法:ルーゼンフランザム 視界に映る箇所を爆発させる 爆発威力の調節可能
上級闇魔法:カースバインド 対象の足元の影を操作して拘束する 本質が影な為光が強すぎると不発になる
スキル技録
上級盾術:タウントスタイル 使用者の指定した相手の意識を強制的に引き付ける 距離によって効果減衰あり
超級盾術:ガゼルインパクト 前方に盾を構えた状態で行うタックル 走行時間に応じて威力上昇 対象との接触時発火させる 威力最大の場合爆発を起こす
超級剣術:サイクロンブレイブ 剣の周囲に強力な風を纏わせて相手を切り裂く 風を纏っている関係上切断というよりは捻じ切るに近い形になる 風で他の属性を巻くことが可能だがその場合制御が難しくなる
◆蛇足
蛇の王「前半の端折り方、無茶過ぎはしないかのう?」
語り部(あ、全然後書き編集してなかった話からじゃないんだ)「まあそうだな。けどただ廊下歩くだけなんて書きづらいったらありゃしない、って作者がボヤいていたかもしれない感じ」
蛇の王「実際には、正直いらないのでは?が正解じゃ」
語り部「冒険の道ならともかく、多分もう書かれること無い廊下ならいっそ書かなくても問題無いと、そういう訳だな?」
蛇の王「そういうことだっ!」




