3-1 夢デ、オ話
目の前にいる彼女は、到底死神には見えなかった。
しかし、今意識を尖らせ、再度彼女を感じれば気付くことが出来た。
その身が放つ壮絶にして濃厚な"死"が。
「成程、死神――」
「――タナトス……そう、呼んで……」
「……はい、タナトス様」
何故か重い声で紡がれた言葉に、ライトは疑問も出さず従う。
それは、何か本能に危機を感じたからだ。
「別に……タナトスって……呼び捨てでも良い……もしくはお姉ちゃんとかでも……可だよ……」
「いえ、流石にそれは」
「むぅ……それは残念……」
口を尖らせるタナトスにライトは、気を抜かれる。
先程との落差が酷くその雰囲気は、やはり神のように思えない。
それにしても、初対面の相手をお姉ちゃん呼びは中々にハードルが高いだろう。
「それでタナトス様、先ず此処は何処なんですか?」
いつも通り適応力高めのライトは、普通に質問をしだした。
そんな彼に対して、やはり笑みを浮かべてタナトスは返す。
「此処は夢……みたいなところかな……」
「夢みたいな?」
「正確には違う……寝ている君の意識……魂だけをこの空間に……繋げてるだけ……だから――」
「――うにゃぁっ」
「こんな風に……刺激が魂に直で……伝わる感じ……つまり、凄く敏感……」
腕を撫でられ、変な声を上げながらもしっかり話を聞く。
慣れているヨルならば抵抗でもするのだが、初対面且つ神様相手に出来る訳も無く、されるがままになっているライト。
「でっでは、さっきの命の恩人とは?」
「さっき……息苦しくなかった?……首を絞められるような感じで……」
「はい、確かにそうです」
「アレ……私の神気に……当てられたんだよ……あのままだったら……死んでた……」
「……それ、原因もタナトス様なのでは?」
「まあ……でも、命を助けたのは……変わらない……」
少し顔を背けながら言うタナトスは、可愛らしいのだが、どうも納得が行かない。
抱いた疑問をそのままに、言葉にする。
「どうやって僕を助けたんですか?あのキスに特殊なことは無かったように思えますけど」
「特別なことは……してない……ただ君に付けた祝福を……加護まで強くした……それだけ……加護まで強くなれば……加護の付けた神の……悪影響は受けない……」
「キス、必要なくないですか?」
「必要……通常加護系は……時間を掛けなければ……強くならない……神が一方的にすると……庇護者に負荷が掛かる……最悪は死ぬ……処か堕ちて怪物になる……」
「なる、ほど……キスすると、そうならずに加護系の強化が出来ると」
「キス……というよりは……庇護者の魂に直接……力を与えれば良いだけ……だから……この空間なら……触れるだけでも良かった……」
「え?」
「でも……キスの方が……魂と深く繋がる……つまり、効率的だし……確実なの……それに私がしたかった……」
(最後のが一番の理由じゃないですか)
長々と喋った結果、ただタナトスがしたかったからという結論に至ったが、それをライトは口に出して否定や非難をしない。
再認識したのだ、目の前の彼女が神であるということを。
然も、死神なので怒らせたら即座に殺されそうと偏見で考えて沈黙という行動を選択した。
「命の恩人についても苦しかった原因についても、分かりました」
「それは……良かった……」
「最後に、何で僕を此処に呼んだんですか?」
実は、一番最初に抱いたのはこの疑問だった。
意味の分からない空間に連れて来られるような理由は、全く思いついていない。
神様に目を付けられるような行動もした覚えはない……いいや、これは嘘だ。
ライトは、神々が封印したヨルを解き放っている訳で、そういう意味では神に何らかの目を着けられているのではと予想していた。
「君が……最近、悩んでる……ように見えたから……君、結構溜めてる……近い存在だからこそ……相談できないこともある……私みたいな……ある意味……部外者の方が……話しやすい……」
「それだけ、ですか?」
「うん……迷える子羊を……導くのも……神様の仕事……まあ、私……死神だから……導いたら……死んじゃうかも?……」
「…………」
(いや、滅茶苦茶怖いんですけど、相談させに来させたのに、相談させにくくしてどうするんですか)
何とも緩い感じで怖いことを言ってくるタナトスに、内心ツッコむ。
だが同時に心は、驚嘆していた。
自身の内を完全に見抜かれていたからだ。
「僕は悩んでなんかいませんよ」
「嘘は駄目……神様は何でも知ってる……訳じゃ無いけど……加護を与えた相手の……心を読むくらいは……余裕だよ……」
(全部見抜かれてるって訳ですか……でも、確かにありがたいです。悩みがあるのは本当ですから)
大きく溜息を吐く。それが呆れからか、安堵からかは当人にしか分からない。
ライトは、意を決して微笑むタナトスへと口を開いた。
「実は、最近伸び悩んでいるんです」
「伸び悩んでる?……」
「はい、レベルが上がらないのはもう諦めたんですけど」
「諦めたんだ……」
「力を上手く扱い切れて無い気がするんです」
「ふむふむ……」
「深く頭に残っているのは、無窮戦陣、U.U.U.との戦いです。あの戦い、僕は何も出来ませんでした。ヨルの助けがあって、ミスティがやったことです。異常な状況ではあったと思います、けど僕の勘がまだ出来たと、脳内で五月蠅く囁くんですよ。アレ以来普通に活動はしてますけど、修行にも身が入らなくて……」
ライトの中で、U.U.U.とのは深く傷というか障害を残していた。
何も出来なかった自分への怒りというか、モヤモヤが抜け切らないのだ。
あの鎖がただ物で無かったことを理解しながらも、ならば何故もっと慎重に行動しなかったのだと、反省が浮かぶ。
自分の行動が結果として解決しながらも、ミスティに負荷を掛けたことも忌々しい。
そして、最も大きいのは、
「あの時、状況で仕方ないと認めて押し込め、僕は求めるもの、勝利を優先しました。けど代わりに、僕のスタイルである邪道を蔑ろにしました。視点を変えれば、邪道ではあります。でも、僕の目指す邪道は、僕自身が手を下すもので、仲間を危険に晒したりなんてしません。それに、僕の目標の最強ならば、あんな状況苦も無く切り抜けたでしょうし」
あの戦闘時に、あの作戦を提案してくれたヨルは当然、奴隷であり自身の為ならば全てを捧げそうなミスティに、少しでも彼女の行動を否定したと思われそうなことは言えなかった。
だからこそ、今の状況は嬉しく、有難かった。気兼ねなく、全てを口に出来るのだから。
「成程……つまりは……あの時のモヤモヤを解消して……強くなりたいと……」
「う~ん、単純すぎるとも言えますが、概ね間違ってません」
「なら、簡単……」
タナトスは、話を一通り聞いて、微笑みを絶やさず、ライトへと近付く。
やはりパーソナルスペースというものが無いかの如く、顔を近付けてきてライトは緊張する。
「君は……多くを求め過ぎ……まだ無理だよ……君には……」
「……え?」
導きと言っておきながら、初手からの否定にライトは驚く。
「君は強い……でも、そこそこ……正直、ミスティちゃんの方が……強い……それは才能の差……」
「そう、ですか」
「君、調子に乗ってた……君は、契約的に……勝たなきゃ行けない……蛇の王以外に……契約後……負けてないでしょ……」
「はい…」
「それは……契約の為の必然……だから……出来ると思ってたのに……この前……何も出来なかったことが……悔しい……けどそれ……普通のこと……だよ?……」
淡々とタナトスは語る。
「契約と過去故に……君はあまり……そういう経験をしてなかった……だから今回のことが……大きく感じてる……けどそれはよくあること……生物は皆……失敗と後悔……反省と成功の繰り返し……トライ&エラー……失敗は成功のもと……君、深く考えすぎ……そんなに気にしなくても……良い……」
「それに君は弱い……私なんかよりもずっと……君より強い子もいっぱい……まだ、私の言いたいこと……分からない?……」
ライトは問い掛けに対して、沈黙を返す。
タナトスは、ニヤリと口を歪めて、何処からともなく"鎌"を取り出した。
「なら……私が君に……『敗北を刻み込む』……」
「ん?」
「構えなきゃ……死ぬよ?……」
鎌が振り下ろされる。
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次の投稿は1/11(水)です。
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◆蛇足
蛇の王「作者は死神が好きなのか?」
語り部「滅茶苦茶に好きだぞ。タナトスというキャラクターを作る段階のせいで何個か設定増えたしな」
蛇の王「贔屓だ、これは語り合い(物理)が必要であるな」
語り部「そう言うなって、うちのキャラクター達は作者に愛されてるぞ。作者の好みの属性が一つくらい入ってるから」
蛇の王「じゃあ一番誰なんじゃ?」
語り部「タナトス」
蛇の王「だから新入りに負けておるんじゃがっ!?」
語り部「因みに、タナトスは設定段階ではライトの次に作られてるからお前より古株だぞ」
蛇の王「何ィ!?くっ、コレは我も主張が必要だな……」




