3-P ○○様ハ、ゴスロリ
「――ん?」
ライトは、気が付いたら、いつもとは違う場所に居た。
自分以外の全てが真っ白の何もない空間。
だが、不思議と心地良く感じていた。夢のような、ふわふわとした感覚のせいであろう。
「――」
「っ!?」
何らかの視線を感じ、背後を見る。
そちらもまた真っ白に染まっており、何者も存在していなかった。
急にライトは寒気を感じ出した。じっとりとした嫌な汗が、背を伝う。
「……此処は何処なんでしょうか」
出来るだけ落ち着いた口調でライトはそう言う。
首元の蛇と隣に奴隷の存在が、無いからかライトは酷く不安になっていた。
普段居る存在が居ないというのは、とても心細いものだ。
「誰か、居ませんか」
そっと呟く。
何処からか向けられている視線が強くなった気がした。
軽く首を絞められたような感覚が襲い、呼吸が苦しくなる。
「な、にが……はぁ……はぁ……息、苦しい」
「――」
「……やっぱり、誰か……」
「――フフッ」
視界の端に黒い影が見えた。即座にそれを追うが何も存在しない。
不意に、頬に何かが触れた気がした。
「はひっ!?……だっ、誰なんですか!?」
何故か、魔力も王気も身体から出せず力を扱えない。
蛇王蛇法も使えない、スキルも発動しない。全ての術が封じられており、その状況がライトの心を揺さぶる。
首を絞めつける感覚が強くなり、呼吸が上手く出来ない。
「うぐっ……だか、ら……何だ……こ、れ……」
「――フフッ……苦しそうな顔……可愛い……」
「――ッ!?だっ、れ…です――うわっ!?!?」
明確に聞こえた声に振り返ると、あと少しで唇が重なりそうな程に女性が顔があり、驚きで跳ねるように後方に倒れてしまう。
いつもは感じない筈の鈍い痛みが広がり、それを逃がそうと声を出そうとした。しかし、声が出ない。
息苦しさが、更に強くなる。
「かはっ……い、キが……デき……」
「むむ……これ以上は……不味いかも……」
「……な、ニガ……?」
見下ろす女性は、特に焦った様子ではないがライトを心配しているように見える。
どういう訳か分からないが、今ライトに何がか出来る訳ではない。
女性がしゃがみ込み、顔を近付けてくる。
避けることも、抵抗も出来ない。
二人の唇が重なる。
「――んっ……ふぅ……多分もう大丈夫……」
「……ふえっ?」
「……あれ?……大丈夫?……立てる?……」
突然のことに思考が停止してしまったライトは、倒れたそのままで起き上がることが出来ない。
そんな彼を心配してか、女性は背に手を回してゆっくりと起こしてくれる。
「――はっ!すっ、すみません。大丈夫です」
「なら、良かった……」
自身の意志でライトは身体に力を入れて立とうとするが、出来ない。
今も支えられていなければ、直ぐ様また後ろに倒れてしまうだろう。
けれども声だけはハッキリ出せた。
現在進行形で助けられていることに感謝しながらも、ライトは女性を鋭い目で見る。
「ところで何ですが、貴方は誰ですか」
初対面の相手を良く分からない状況から助けてくれた程度で信用する程、ライトは他人を信用できる質ではない。
改めて、女性を見る。
地面に広がるくらい長い灰色の髪に、月のような薄い黄色の瞳。身を包むのは、白と黒を主に所々に赤が入ったフリルかなり多めの、所謂ゴスロリと言われるタイプのデザインのドレス。
特徴的なのは、薄い黄色の瞳の奥に髑髏の紋様が見えるところだ。
ライトは一通り彼女を見て、酷く動揺していた。
(滅茶苦茶綺麗なんですけど……何でしょう、ヨルとかミスティとは別次元の……世の者とは思えない、美しさです)
「命の恩人なのに……そんな目向けちゃうんだ……良くないよ?……」
「それってどういう――うにゃっ」
頬に指が当てられ、ゆっくりと這う様に降ろされる。
すると普段とは違う、名状しがたい感覚がライトを襲い、変な声が出てしまう。
ライトの反応を面白く感じたのか、女性は手で彼を弄り始める。
「――ひっ、止め――んっ、くだ――あっ、お願――はうっ」
「フフフッ……可愛い……」
彼女は、中々手を止めない。
「君、今……魂だけの状態だから……いつもより敏感……というより感覚が……そのまま伝わる……ようになってるんだよ……」
「魂、だけっ、て――あっ、もうやめっ」
聞いた言葉に疑問を持つが、襲う感覚が思考の纏まりを乱す。
そろそろ息も絶え絶えで限界になる、というところで弄りが止まる。
「一旦終わり……楽しめたから……許してあげる……」
「うぅ……ふぅ……ありがとう、ございます」
「フフッ……どういたしまして……」
(僕、どうして今お礼を……)
反射的に感謝をしてしまったが、何だかライトは納得がいかない。
そこでふと気付く、自分の身体が動くことに。
(身体が動く?……まさか、これを予測して?)
「ん?……何かある?……」
「いえ……」
(そんなことは無さそうですね)
視線を向けると、首を傾げられたので全く自身の予測は外れているのだろうとライトは理解した。
身体も動くということで、即座に立ち上がり少しだけ女性から距離を取る。
「だから……そんなに警戒しなくても……」
「それは不可能です。貴方は、何者なんですか」
「さぁ……何者だと思う?……」
「…………」
クスクスと笑いながら見て来る彼女は尚も美しく、見れば見る程この世の存在とは思えなかった。
何かしらの引っ掛かりを感じるのだが、ギリギリ手繰り寄せることが出来ない。
そう考えていると、また顔が触れそうな場所に彼女が居た。
「分からない?……私は君のこと……良く知ってるし……見てるよ?……」
(良く知ってる?見てる?どういうことですか……そんな、ヨルじゃあるまいし)
やはり、引っ掛かりはするがモヤモヤとして掴むことが出来ない。
覗き込んでくる彼女の瞳が視界に映る。
黄色の瞳の上に、髑髏が見えた。
バチリと電流のようなものがライトの思考に走る。
「ド、クロ?」
―――「それぞれの神を象徴する紋様のことだ。簡単に言えば有名人のサインとか、家紋とか、そのようなものじゃよ」―――
(まさか……『神紋』?)
何故だか、ヨルの言った言葉を思い出した。
その模様は、いつの日かダンジョンで見たそれとは全く違う筈なのに、この結論に達したのはどういうことなのか分からない。
(だとして……髑髏の神紋ってどの神様でしたっけ?……いや、これは神様が多すぎるのが悪い)
ライトはこの世界の神が多いことに内心文句を言う。
目の前の相手が神関連、もしくは本人であるということに気付いているが、ヨルという古代伝説的怪物と生活しているせいで驚きに耐性が付いたようで、あまり驚いていない。
(待て、さっきこの人は、良く知ってるし見てるって言ってた。ということは僕に何らかの関連がある確率が高い……そして、髑髏の神紋…もしかして――)
「――"死神"様?」
前に見た自分のステータスから答えを出す。
彼女は、いつもライトがするような月のような笑みを浮かべた。
「正解……私は"死神"……『タナトス』だよ……よろしくね……」
この世界の死神は、ゴスロリ様のようである。
第3章 真紅ノ帝国ト黒塗ノ戦争
―――Read Start.
◆投稿
次の投稿は1/9(月)です。
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◆蛇足
蛇の王「ふうむ……繋がりが無いな」
語り部「章の始まりなんて大体そんなもん、後からドンドン繋がってくから」
蛇の王「それにしてもタナトス、前作のようにボクっ娘にしなかったんじゃな」
語り部「色々な葛藤があったんだよ、作者に。結果前作のゼウスみたいなゴスロリになった。前作みたいな黒ローブにしても良かったけど、ライトと被るから止めたらしい」
蛇の王「然もかなり可愛いという設定なのじゃ」
語り部「生物と神の差、を簡単に表現する為の設定だな」
蛇の王「結構メタいことばかり言うな。消されるぞ?」
語り部「大丈夫、作者そういう気分らしいから」




