2-E 戦ノ予兆、来タレリ
「クソッ、あの女狐め、遂にとち狂ったか」
ある一室にて、椅子に座っていた一人の男が悪態を吐く。
男は、簡素ながらも素材の良さが伺える服を着ていた。
手に持たれているのは、一通の書簡。
書かれている内容は、如何に?
「『宣戦布告』だとっ……ふざけるな。一体、何が目的だ。三国間の関係は今安定している筈、戦争を起こす意味が無い……思いつかぬ」
男は、苦々しい顔のまま額に手を当てて考える。しかし、答えには至らない。
そこで、何か思いついたのか机の上にあった、小さな白い鐘を鳴らす。
「――"陛下"お呼びでしょうか」
一瞬にして現れたのは、老年の執事。
その執事に男は驚くことも無く、命令を下す。
「カーレと"水神"を呼んできてくれ」
「お嬢様とトゥール様ですね。至急及び致します」
「ああ、頼んだぞ」
執事が陰に溶ける様に消える。
男はそれを、呆れ気に見ていた。
「現役を退いても衰えを感じさせないな」
男が、そう呟いた時、日はまだ上り始めたばかりだった。
二刻の時が過ぎた。
部屋の扉がノックされる。
「入れ」
「失礼します。父様」
「相変わらずだね。僕にそんな口利くなんて、世界に何人居れると思ってるんだい」
「よく来たカーレ、序でにトゥールよ」
入って来たのは、真紅の髪の少女と青みがかった黒髪の少女に見える女。
男は、少女には丁寧に、女には粗雑に返した。
突如、女から青い魔力が溢れ出し、部屋の温度が下がる。
「序で?こんな朝っぱらに呼び出されて、素直に応じてあげているのに、その言い草、どうやら死にたいようだね。今なら特別に、僕が死ぬよりも苦しい拷問をしてあげるけど、どうだい?」
「……済まなかった。応じてくれて感謝する、トゥール」
男は、即座に床に額をつけて謝罪をした。所謂土下座に近しい形だ。
少女は、そんな男を少し驚いた顔で見た後、女を見る。
「最初からそれでいいのさ。したら僕も罰を逃れられないだろうけど、"帝国"の全勢力を集めても僕に勝てないこと、忘れないようにした方が良いよ」
「はぁ、こんな小娘に気を遣わねばならぬとは、世も末か」
「何か言ったかな?」
「済まない、小娘ではなく、小娘のような老婆で――」
「ふんっ!!」
「――ぐぼっ!?」
女の神速の拳が、男の腹をしっかりと捉える。
男が膝から頽れ、悶える。女は凄くスッキリとした顔をしていた。
「で、一体何の用で呼んだんだい?」
「つ、机の…上、に…ある」
「カーレちゃん、取ってくれるかい?」
「あ、はい」
少女が、男の机の上から書簡を取り、女に渡す。
それを広げ二人は、その内容に目を通した。
少女は酷く動揺し、女は大きな溜息を吐いた。
「これ、今朝届いたのかい?」
「ふぅ……ああ、イグ二に叩き起こされた。何かと思えば、これだ。全く頭に痛い話であろう」
「『リソプレーズ聖国』が宣戦布告か。これは確認が色々と必要だね」
「宣戦布告と言うことは、戦争になるということですか、父様」
「恐らくはな。その書簡が偽物、という可能性はあるが……」
「それはないだろうね」
「どっ、どうしてですかっ!?」
争いの起こらない未来への可能性が、即刻無いと言われ少女が泣きそうな顔になりながら驚いた。
至って冷静な女は、書簡を改めて少女に見せながら口を開く。
「この書簡の左下、この聖印はリソプレーズの教皇しか使えない特別なものだからね。何度か見たことのある僕には、何処からどう見ても本物に見える。つまり、これは教皇直々の書簡という訳になる」
「だからこそ、この宣戦布告は本当のもの。聖国は確実に攻めて来る」
「それは……戦争はもう避けられない、ということですか……」
「そういうことだ」
無情にも告げられた言葉に、少女はへたり込む。
男は、少女へと近付き、優しく頭を撫でる。慣れない男にとって、それが今出来る精一杯だった。
「安心しろ、カーレ。我を誰と心得る。賢帝と謳われる皇帝ぞ。全てを早急に片付けて見せる。だから笑え」
「父様……分かりました。……この話は兄様には?」
「まだしておらぬ。私はやることが、トゥールとの話し合いがある。お前の口から説明してくれ」
「分かりました父様、それでは、失礼致します」
少女が部屋を出て行く。
室内が静寂に包まれ、少しだけ空気が重くなる。
先に口を開いたのは、女の方だった。
「あんなこと言ったけど、勝算、あるのかい?」
「正直に言えば、余りないな。あちらから攻めて来る、ということは勝てる術、切り札があるということになるが、対して我が国には無い。このまま行けば、負ける確率の方が高いであろう」
「そこまで状況を読めているのに、何であそこまで言うのか。僕には分からないね」
「それが、父というものだからだ」
雄々しく言い切る男に、女は呆れを向けながらも内面、称賛する。
その不器用さと勇ましさ、優しさを認めて。
「その父とやらの姿に免じて、僕が力を貸してあげるとしよう。感謝するんだね」
「お主が出るのか?」
「いや、それは出来ない。僕はギルドとして中立でなければならないからね。基本的に内政干渉に当たることはNG。あと担当場所であるこの帝都からも離れられない」
「ならばどうするのだ」
捻りも何も無い問いに、女が笑う。
その笑みは、何処かの神々と同じように思えた。
「"親友"に頼むのさ。"風神"、"炎神"、"地神"、誰が良いと思う?」
「まさかっ!?」
男の顔に、驚嘆が浮かぶ。
反応を受けた女は、尚も愉快そうで。
「スターは、そもそも所属の場所が敵国だから情報を貰えても戦力は送れない。トアは、居たとしても場所として遠すぎる。となると――」
◆◇◆
「――うにゅ?」
執務室にて、彼女の頭の上の耳が揺れる。
水晶球から、ウィンドウが現れ、言葉が浮かび上がった。
「珍しい、トゥールからだ。こっちからの奴の返答はあっても、あっちから送ってくること殆ど無かったのに」
その言葉の差出人を見て、"地神"――ソヨ・ラビットニアは驚いた。
「然もその時も業務連絡だったし、でもまだその時期じゃないから、本当に私用かな?」
ソヨの指が、ウィンドウに触れる。
そして新しく現れたメッセージの内容に、大きく目を見開いた。
「宣戦、布告?ギルドとして人員の派遣を頼む?……まーた面倒事だよ。本当に、参っちゃうなぁ……」
椅子に身体を預け、天井を見上げて溜息を吐く。
それだけで、彼女がどれだけ面倒に思ったのか分かるであろう。
「時間的に大人数は無理だし、それでいて戦争で使える戦力なんて、うちには……居るね」
考え込んでから、適任が居ることに気付く。
だが同時に、あまりそれもしたくないと思う。
「ライくんが適任だよね……然も前のオークションの借金の条件で依頼もきっと受けてくれる。けどなぁ……」
私情さえ挟まなければ、ライト程の適任は居らず今すぐ頼みたいところだった。
のだが、己が欲望がそれを踏み止ませる。
「この間の蕩けたライくん、めっちゃ可愛かったし、気持ち良かったし……もっとヤリたいなぁ……でも、ライくん以上の適任も居ない……」
獣染みた欲望と友を思う理性がせめぎ合う。
深く長い葛藤の末、ソヨは……決定権を委ねることにした。
「ライくんに聞いて、やるならそれで行ってもらって、断るならそのまま、これで良いや。そもそも依頼は強制できるものじゃないからね。うんうんこれで良い」
ある意味、卑怯とも言えるその選択に、ソヨは深く頷きながら、自分を誤魔化した。
運命の賽は、黒き王に渡ったようである。
第2章 黒蛇白塗To無窮戦陣
―――Read Finish.
◆投稿
次の投稿は1/7(土)です。
◆読者の皆様へ
これにて『第2章 黒蛇白塗To無窮戦陣』終了。
ここまで読んで戴きありがとうございます。そして、面白いと思って頂けたなら幸いです。
年始休みを頂きます。新章の執筆やプロット確認、設定系の確認・整理などを行い、3章は更に安定して投稿できるようにしていきますので、暫しお待ちください。
(今度こそ一覧系も投稿できたらなと思ってます)
それでは皆様、お身体に気を付けて、良い年末年始を。
◆作者の願い
『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。
後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!
その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!
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◆蛇足
語り部「う~ん謎だらけ、良い感じだね!」
蛇の王「新キャラも癖がありそうだしのう」
語り部「そして明らかにライト、戦争行くね」
蛇の王「これ、言う出ない。行かないという選択がまだあるのじゃから」
語り部「これで行かなかったらもう主人公止めた方が良いだろ」
蛇の王「我はそれでも良いと思うがな。最近卑怯も邪道も尽くしとらんからな」
語り部「あー確かに、最近人道外れて無いし、タイトル詐欺って怒られてしまうかもしれない」
蛇の王「ま、大丈夫じゃろうがな。次章凄いことになるしのう」
語り部「言うなよ、怒られるから。言ったら喉に餅が詰まるかもしれない呪いかけるから」
蛇の王「何じゃその微妙な呪い、それに我呪い効かぬし」
語り部「くそっ、何処までもチートな奴だっ!」
蛇の王「そうじゃ!我、最強ッ!」
語り部「それ言うの止めた方が良いよ、凄く馬鹿っぽい」
蛇の王「何をっ!?本当のことを言って何が悪いのじゃ!
語り部「本当かどうかではなく、印象の話だ」
蛇の王「くぅ~……」
こう騒がしくも楽しく、二人の年末は過ぎていく。




