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第98話 一本道

今、自身の命を燃やそうとしていた。

すべてを投げ打って、窮地を打破しようとしていた。


だが今、ゴウダイが居る場所は明らかにそこと異なる所。



「……?」



分からない。

今の今まで戦いの場に居たにも関わらず、どうしてこのようなところに居るのかがまったく分からない。



「ここ……は?」



周囲は明るく、前を見るとただ道が真っ直ぐにあるだけ。

後を見ると何もない。まるで道が空に浮いているかのようだ。


そう、ここは……



「……道……なのか……?」



彼は、これまで道に関する情報収集をしていることから、どのような場所なのかをある程度把握している。

だが確信はない様子。周囲を見渡しながら、少しずつ前へゆっくりと進んで行く。



(……おかしい。今すぐにでも戻らなければならない筈……だが何だ、この落ち着くような、心安らぐような気持ちは……)



現在は危機的状況、本来であればこのようにのんびりと歩いている場合ではない。

道が彼を歩ませようとしているのか。


すると、何かが見えてくる。大きく開けた場所。

そこには大勢の人たちが、遠巻きからゴウダイを見つめている。とても優しげな眼差しだ。



「……お前達!」



親族か。彼は駆け足となり、そこへ急いで赴く。



「父さんに……母さんも! ユウジンも…タイゾウ、シンサク! ウキョウもミコトもサキも……!」



家族たちが、到着したゴウダイに駆け寄り、笑顔で迎えてくれる。

そこに後の方からゆっくりと……



「ユヅキ!」


「……」



満面の笑顔を見せるユヅキ。なお子どもの形ではなく成人した姿。

彼と同じ赤黒い髪に、勝気そうに見える強きの美人という印象。これで、彼の家族が皆揃う。



「!」



だが家族ではない人物も、そこに多く居るようだ。彼はそこに気付く。

顔を紅潮させ、キラキラとした目で彼を見る子ども、少し距離を空けて彼に向かってお辞儀をする男性、涙を拭きながら何度も頭を下げる、傍らに子どもの居る女性など…もしかすると、この場に居る者は過去ゴウダイに救われた人なのかもしれない。



「……感謝は……俺がしたいくらいだ……」



その光景を見て、ほろりと涙がこぼれるゴウダイ。



「子どもたちは明日を守る者、そして大人は明日を守る者を守る者だ。俺が守れたことでそれが紡がれる……」



ゴウダイは過去、多くの者を救って来たのだろう。彼の行動理念からすれば、そう考えるのが自然である。



「これまで自分がやって来たことを、俺自身誇りに思っている……改めてそれに気付いた。ありがとう……」



ゴウダイを見る者たちの表情が、笑顔から柔らかなものへと変化する。

すると皆が道を空ける。彼が空いた道の先を見ると、光り輝く場所が確認出来る。


なおここまで分岐は無かった。ただの一本道。

道はその人により異なる。彼の場合は一体何を表しているのだろうか?



「さあ、行ってくる。皆が待っているんだ……」



再びゴウダイは歩き出す。

その際、最後に家族を見ておきたかったのか振り返ると、間近にユヅキが立っていた。



「ユヅキ……」


「……」



彼女は真っ直ぐ彼を見つめる。何かを待っているようにも見える。

それを察したのか、はたまた言っておくべきだと思ったのか、ゴウダイは改めてユヅキを正面に置く。



「ユヅキ。兄ちゃん……少しは立派になれたか……?」



その言葉のまもなく、ユヅキはボロボロと涙を流し泣きじゃくる。何度も何度も頷き、彼の言葉を肯定している様子だ。

他のきょうだいたちもゴウダイに駆け寄り、何か言葉を投げ掛けているように見える。内容は分からないのだが、もし声が聞こえていたならゴウダイにとってとても力強い言葉なのだろうと思える雰囲気である。



「……」



最後に彼は笑顔となる。そして踵を返し、光り輝く場所へと向かう。



(何もかも全てを守るなどおこがましい……だが、()()()()()()()()()であれば……)



そして最後に振り返り、そのまま光の中へと入るゴウダイ。



(誓おう……守ってみせると)



そういうと、もう周囲はすべて光で何も見えない。

やがて光も収まり、少しずつ現実世界が見えてくる。


だがゴウダイは何度も振り返る。

道に未練があるわけではない。彼には聞こえたのだ。





―ずっとずっとこれからも……自慢のお兄ちゃんだよ!!―





――――――


――――――――


――――――――――





「さっさと死ねよ!!!!!!!」



気が付けば、ゲンゾウが岩を纏った手を振りかぶっているという突然の現実。

しかしゴウダイ、一切の焦りもなければ絶望感もない。



(……そうか……あれが……道なのか……)



それどころか、ゲンゾウの攻撃などどうでもいいような雰囲気である。



トン……



「んあ!?」



ゴウダイ、ゲンゾウが振り下ろした岩、もとい拳を優しく受け止める。



「貴様は後回しだ。少し離れろ」


「うお!?」



そう言うと、彼は軽く突き飛ばす。ゲンゾウは少し流されるが、踏みとどまる。

そしてゴウダイはその手に炎を纏わせる。



「へっ! 雑魚が! まだやろうってか!?」


「……」



何も言わないゴウダイ。そしてそのまま手を真上にかざすと、なんと傍に居る子どもたちと、さらに少し離れた場所に居るトム、ミナモ、負傷した客たちの周囲に炎が巻かれる。



「あ、ああん? ……つーか、なんで動けるんだよテメー……」



ゲンゾウは、ゴウダイが何をしているのか理解不能な様子。何せ、味方である者たちに炎が迫っているのだから。

なお、先ほどまで大きく負傷していたにも関わらず、そんな素振りを見せないのも違和感があるか。



「は! ……なるほどな! 俺にぶっ殺されるくらいなら自分の手でってか! ぎゃはははは!!」



彼はどうやら、ゴウダイが心中するものと思っているようだ。

だがそれがただの勘違いであるとすぐに分かることになる。



「……?」



皆に炎が巻かれてから暫し。

誰も燃える様子はない。最も近くに居る子どもたちに至っては、きょとんとした顔で炎を見つめている。中には、どういう訳か喜んでいるものまで居るようだ。



「お、おいテメー! 何がしてえんだ……」


「あったかーい!」

「あれ? ケガが……」

「なんだかふわふわするー」



ゲンゾウが何かを言う前に、子どもたちが炎に反応。

その言葉は決してネガティブなものではない。


よくよく子どもたちを見てみると、最初の石礫でケガをしている者の傷が目に見えて塞がっていく。



「な……なんだこりゃ!?」




ゲンゾウはさらに周囲を見渡す。

ボロボロになったトムも、衣類こそそのままであるが目に見える傷がどんどん塞がる。

ミナモも、貫かれた肩がみるみる治っていく。



「癒やし……の炎……? ま、まじかテメー!!!!」



途端に狼狽するゲンゾウ。何か勘付いたようだ。

そういえばこの男も二文字。一文字からそこに至る際に道へ訪れているだろう。どういう理屈かは不明だが、回復したゴウダイを見た時点で気付いてもおかしくはない。余裕が警戒心を覆いつくしたか。



「何してんのゲンゾウ! さっさと殺すよ!!!」


「あ、ああ! 分かってらぁ!!!」



トムを嬲っていたハクフも何かに気付いたようで、ゲンゾウと共にゴウダイに向かっていく。

だが、今から強大な力を持つ二人が一斉に攻撃を仕掛けて来ようというのに、彼に恐怖や焦燥は一切見られない。


それどころか……





「貴様たちは……許さん……!」





ゴウダイ右手が赤く包まれる。

これまでは燃え盛る炎が灯されていたのだが、今は違う。表現するなら、極めて力強く凝縮された赤。


向かって来る二人。前方にはゲンゾウ、後方にはハクフ。連携で一気に叩くつもりか。

それに目掛けて、ゴウダイが右手を振るう!



ゴォォォ――――――――!!!!



「ぐああああああ!?」



すると、ゲンゾウが突然発火する。



「ゲンゾウ!?」



目前で、いきなり弟が発火したのだ。驚くのは無理もない。



「ぎゃあああああああああああ!!!」


「ど、どうしたのさゲンゾウ! 早くそんなもの……」



燃え続ける。ゲンゾウは何らかの術を使っているようだが、自身に纏わりつく炎を処理出来ない。



「消えねえ!!!! なんだよこれはああああああ!!!! ぎいあああああああああ!!!!」



のたうち回る。熱さによる苦痛がいつまでも彼を襲う。



(だ、ダメだ!!! 術使ってもすぐ溶けちまう!!!! 岩が役に立たねえ!!!!)



辺りを転げ回り、火を消そうとするも消えない。



「うおおおおおおおおお!!」



するとゲンゾウの周囲から、夥しい砂が巻き上がり彼自身に降り注ぐ。

生き埋めと言えるほどの量をその身に注ぎ、ようやく火を消し止めたようだ。



「ゲンゾウ! しっかりしな!」


「がっ……ぐう……はぁはぁ……」



砂の中から無理矢理ゲンゾウを引き抜くハクフ。

引き上げられた彼の姿は、全身が焼けただれ重症であることが容易に伺える。



「このクソがぁぁぁぁ……!!」



今度はハクフが怒りに震え、時を置かずにゴウダイへ襲い掛かる。

だが、やはり彼に変化はない。いつもの落ち着いた風貌。



「……慈暾(じあさひ)忍術、爆炎忍術、紅火(こうか)忍術……火の二文字はすべて攻撃的だ」


「何をぶつぶつと……!」



彼は構える。両手を大きく開き、それぞれの手を上下へと、そして先程のように赤くその手を包む。



「だが、そんな攻撃的な忍術ばかりの火にも……いや、全ての二文字の中でも、守りに特化した二文字があることを知っているか?」


「……??」



赤に包まれた手の周囲が大きく揺らめく。とてつもない火力が感じられる。

ハクフはゴウダイが何をつぶやいているのか分からない様子だ。



「かつての使い手は、千の刃から人々を守り、千の人々を癒やしたという」



大きな違和感。本能か、ハクフは直ちに立ち止まる。



「……その忍術はこう呼ばれた」



そしてゴウダイは炎に包まれる。

ただの炎ではない。規則的に体を這い、まるで甲冑のような様相を示している。



情炎(じょうえん)忍術と……!」

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