第97話 守る者
見渡せば凄惨。
倒れているトムとミナモ、そして怯える民衆。
そこから重ねて、トムを徹底的に嬲るハクフに、腕を組みせせら笑うゲンゾウ。
信じたくないような光景がそこに広がっている。
「やめろ!! ……やめんかぁぁ!!」
声を張り上げるゴウダイ。しかしハクフはそれを無視し、無心でトムを攻撃し続ける。
「なんだ、テメーも来たのかよ。こりゃおあつらえ向きだな。手間が省けらあ」
「何……?」
ゴウダイもこの二人の標的。
と、ここで民衆が彼に気付く。
「ゴウダイ様!」
「ゴ、ゴウダイ様だ!!」
「た、助けて!!!」
「ごうだいさまぁぁぁ!!」
皆の縋るような眼差し。ミナモとはまた違った反応を見せることから、やはり彼は一揆の中でも特別に慕われていることが分かる。
「皆……!」
トムもミナモも気になる。かと言って民衆を放置することも出来ない。
彼は悩むが、ゴウダイという人物の性質上何を守るのかは決まっている。
「まずは……民を解放してくれないか?」
「アホかお前は。それを受け入れる理由が何処にあるんだよ」
吐き捨てるゲンゾウ。ゴウダイは下唇を噛み、悔しげだ。
「ならば!」
彼はすぐに民衆の下へ向かう。その最中、トムとミナモの様子を見つつ、呼吸をしているのかの確認も怠らない。
(トムも……ミナモも……すまない。もう少しだけ待ってくれ……!)
「早くここから逃げるんだ!」
「は、はい!」
「うん……」
「ごうだいさま! あいつらやっつけて!!」
彼の言葉に従い、その場から去ろうとするものの、この男がそれを許す筈がない。
「だからと言ってよぉ……なーに勝手に……仕切ってやがんだよボケェェェェ!!」
―石礫!!―
「!!」
ゲンゾウから石礫が放たれる。
ゴウダイは即座に民衆の前に立ち塞がり、それらの攻撃を炎で処理する。
「クク……そらそら! いつまで対処出来るんだろうなぁ?」
「ぐ、ううう!」
徐々に礫が大きくなる。
すでに拳大規模となっており、その全てを炎で対処することが出来なくなっている。
よって……
ズド! メキ!
「く……ぐ……!」
攻撃をその身で受け止める。このままではジリ貧、ゴウダイは決断する。
「うおおおおおお!」
ハクフがトムへの攻撃に夢中になっている間、ゲンゾウさえ抑えれば民衆は逃げることが可能だ。よって彼は挑む。
「ケッ! 一文字風情が勝てると思ってんのかよ」
「やってみなければ分からん! 忍法……」
―双連火!!―
かつてムリョウへ放った術だ。近くのものが自然発火するほどの火力。
「忍法」
―覆泥土―
一方でゲンゾウ、泥を全身に纏う。思うところもあるようだ。
(クソが。これが一文字の火力かよ……兄上の言ったとおり、こいつは今の内にぶち殺さなきゃいけねーな……)
泥の表面が時を置かず乾燥、赤くなり始める。たしかに、生身でこれを喰らえば骨も残らないだろう。
「……だがよ」
「!?」
ズドッ――――!!
「か……はぁ……!」
纏った土、いや砂が溶解する前に、ゲンゾウは前に出てゴウダイに拳を浴びせる。
向かう方向とは逆に飛ばされる。その先には……
「ごうだいさま! しっかりして!」
「うああああああん!!」
「だい……じょうぶ?」
「……子どもたち……? は、早く……逃げ……」
まだ子どもたちが逃げ遅れているようだ。
ゴウダイに大きな不安がのし掛かる。
「へっへっへ! さーて、またゲームの始まりだぜ? そのガキ共、守り切ってみろよ」
「や、やめろ!!!!!!!!」
―爆石砲!!―
今度は、石礫よりもさらに集約された膨大な石が、その先にいるものを襲う。
「おおおおおおおお!!!」
炎を纏うゴウダイ。一部の石は溶けてその場に落ちるが、多くは彼を直撃する。回避可能なものも少なくないのだろうが、後ろには子ども……彼が避ける筈がない。
「ゴウ……ダイ……さん……」
息も絶え絶えのトム。自身もボロボロであるものの、ゴウダイの身を案じる。
「自分の心配しなさいよぉ? アンタも今からぶっ殺されるんだよぉ?」
「……まったく、あなた方は……どこまでもおめでたい人……ですね」
ドゴォォォ!!
無表情でトムを殴打するハクフ。
「クソが! 早く命乞いしろっての! この……クソ! クソ! クソ!」
「が……ごふっ……」
力任せにトムを殴り続ける。その有様は、ゴウダイの視界にも入ったようだ。
(トム……! 口惜しかろう。お前のことだ、人質を取られたのだな……)
どうしてこのような状況になったのか、彼はある程度察するところがある様子。
「はっはっは――――!! オラオラオラぁぁ――――!!」
「……!!!!!」
止まない石、岩。
すでにゴウダイの全身からは、多くの出血が見られる。
後ろに居る子ども達は、不安気に彼を見つめている。
「……ぐす……」
「やだ……負けちゃヤダ……」
「ごうだいさま……」
「……」
もう、気の利いた言葉が出ない。あまりに絶望的な状況。
その後まもなく、もう問題ないと考えたのかゲンゾウは攻撃を止める。
「はいはいごくろーさん! オールクリアだぜ! よく守ったじゃねえか! はっはー!」
憎らしい面差しでゲラゲラと笑う。
そしてトドメを刺すのか、今度は右手に巨大な岩を纏わせ彼に近付いてくる。
薄れゆく意識の中で、ゴウダイは思う。
(何も……出来なかった……)
(俺は何をしに来たんだ? ……守るためじゃなかったのか?)
(トム、ミナモ……すまない。俺がもっと強ければ……)
(子どもたち……せめて子どもたちは無事に……)
(守らなければ……俺が……守らなければ……)
「んあ?」
ゴウダイが思考を巡らせていると、ゲンゾウが素っ頓狂な声を挙げる。
それに気付いたゴウダイはその方向を見ると……
「ダメだよ!!」
「ゴウダイ様いじめんな!!」
「あっち……行ってよぉ!」
「!!!!!!!!」
なんと、子どもたちがゴウダイの前に出、ゲンゾウに立ち塞がる。
「なんだあ? このクソガキ共は」
「や……めろ……やめ……るん……だ……逃げろ……」
必死のゴウダイ。それを見たゲンゾウは口角を吊り上げる。
「そっかそっか。テメーらもコイツと一緒のところに行きたいんだよなぁ!」
「!!!!!!!」
つまりそれは……
「やめろゲンゾウ!!」
「や――――だね。テメーが一番嫌がることしてやんよ! ぎゃはははは!」
「ちょっとゲンゾウ! お兄ちゃんに番衆以外殺すなって言われたでしょ?」
「いいんだよ、一匹や二匹……いや十匹くらいいるな! あれだ、人身御供ってヤツだぜ! 良かったなゴウダイ! お供が増えてよぉ!」
満身創痍で倒れているものの、瞳は燃えさかるような印象のゴウダイ。
「に、逃げろ、逃げるんだ皆……!」
「……ヤダ」
「な……に……?」
否定。自身がこれからどうなるのか、今ひとつ理解していないところもあるのかもしれないが、危機的状況であることはある程度分かる筈。だが、それでも引こうとしない子どもたち。
「だって……ゴウダイ様……」
「いつも守ってくれてるもん!!」
「ボクたちだって……」
「あ……あ……」
―にいたん……にげて……―
あの時と同じ。
「ユヅキ……!!」
自身と妹であるユヅキが蜘蛛の妖怪に襲われたあの時を思い出す。自身を守ろうとする子どもたちを重ねたか。
(あの時も……何も出来なかった)
(忍術に目覚めたのは偶然。運が良かっただけだ……)
(だが今は……もう何も手立てがない……)
(結局俺は何も守れないのか?)
絶望に苛まされるゴウダイ。燃えさかっていた瞳が、徐々に光を失う。
そこで偶然、子ども達が視界に入る。
「……!」
ゲンゾウを真っ直ぐ見つめつつも、ふるふると足が震えている子どもたち。
(こんな……小さな体で……俺を守ろうというのか?)
(なんてことだ……なんと……いう……)
(この子たちを……子どもたちだけは救わねば……)
(俺はもう……俺で居られん!!!)
(だから……ここで……全てを投げ打つ!!!!)
再び瞳に闘志が戻るゴウダイ。地面に手を付きゆっくりと立ち上がろうとする。
「……」
「ああ? その体でまだやるってのか? じゃあ先にテメーからぶち殺してやるよ」
目前に居る子どもたちを無視し、真っ直ぐにゴウダイへ詰め寄ろうとするゲンゾウ。
だがゴウダイ、彼が見えていない様子。
「……この子たちは、明日を守る者たちなのだ……」
「?? 何をぶつくさ言ってやがんだ! ついにイカレちまったかぁ?」
いや、ゲンゾウを認識していないようだ。
彼には別の何かが見えようとしている。
「だが今はまだ、守る者に守られるべき存在。そして、その役割を担うのは俺だ」
「だが俺では貴様には勝てん。だから、くれてやるさ……命をな」
「明日を守る者たちを……」
「俺は今日、命を掛けて……」
「守ってみせる!!!!!!!!」
ブツン!




