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第95話 トムVSハクフ、ゲンゾウ②

ガラガラ……



岸壁にめり込んだハクフとゲンゾウ。やがてそこから這い出てくる。



「いったぁ……」


「いっつつ……」



ダメージを負っているのは傍目から見ても分かるが、そこまで深刻ではない様子。

付近に、岸壁の破壊によって砕かれたものとは明らかに異なる石や岩があることから、ゲンゾウが何かをしたか。



「あの野郎……! 図に乗りやがって……」


「ふう……ゲンゾウナイス。助かったわぁ」



相当の距離が離れているものの、その目線の先には直立しているトム。

攻撃を受けて怒り心頭なのはもちろん、逃げる気配もなくあくまで自分たち二人と戦おうとするその姿勢に対する苛立ちもありそうだ。



「姉ちゃん、予定変更だ。まずあの白豚からぶっ殺す」


「賛成。とっとと始末して、残り三匹も殺っちゃわないとねー」


「だが……ありゃ烈風だな。威力だけはパねぇ。注意しろよ」


「誰に言ってんのぉ? 当たらなきゃどーってことないって」



二人は立ち上がり、トムを見据える。


一方でトムサイド。

ミナモは呆然と彼に目線を置く。



(……何なのこの西国人……二文字だよね? しかも今の術って、烈風じゃないの……? 何者なんだろ……)


「アア、そう言えば……」



考え事をしていると、トムから声を掛けられる。彼女は一瞬ビクっと体を震わせるが、今のところ敵ではないと判断出来たのか、少し怯えつつも素直に会話をする。



「ど、どうしたの?」


「アチラに倒れているのが、他の番衆の皆さんデスよね? 大丈夫デスカ?」



ミナモが飛び出した場所が視界に入ったのだろう。倒れているライトとテッペイの姿が確認出来る。



「う、うん、大丈夫。かなりやられてるけど、命に別状はないわ」


「ソウですか……良かった。間に合ったって感じデスね」


「そう言えばゴウダイ君が来るって話だけど? フウマさんは?」



ここでトム、頭をポリポリとかく。ミナモが期待していたのはフウマだったのだと察する。



「ご期待に添えナクテ大変申し訳アリマセンが……フウマサンは別動隊でごぎょうに乗り込む予定デス」


「え、え、えええええ!?」


「説明は長くなるノデ後にしますが、我輩がフウマサンの代わりとイウ事にしてオイテ下さいな……エット……」



『フウマの代わり』となれば、相当なものを要求されてしまうのは言うまでもない。よってミナモは怪訝な面差しに変わるものの、それ以上何も言おうとしない。

先ほどのトムの攻撃がそうさせているのだろう。



「ミナモよ。貴方は?」



名乗るミナモ。となれば、トムの名前も知っておきたいだろう。

ここで彼はパァっと顔が明るくなる。



「ヨクゾ聞いて下さりマシタ! 疾風の風……あ、イヤ、烈風の風ウインド!! その人デ――――ス!!!」


「いや、どの人よ!? 風要素しかないじゃない!?」



ようやく名乗りを上げられたトム。満足そうである。



「とイウことでトムと呼んでくだサーイ!」


「え……あ……うん……」



キャラが掴めない様子のミナモ。最初はイズミやリュウシロウもこのような反応であった。



「じゃあミナモサンは下がってイテくださいネ」


「は……は!? 一人で戦う気!? 無茶よ!」



ここでトム、おどけた顔ではなく優しげな雰囲気に変わる。



「貴女はソコの二人を見てアゲテいてクダサイ。ご心配無用デス」


「でも……」



初対面の見知らぬ他人。すぐに信用しろだなど、到底不可能だろう。

だが彼女の認識はまもなく変わる。



「バラッバラにしてやんよ! 忍法!」



爪咬黒鼬(そうこうくろいたち)!!―



トムと会話をしている中でも注意はしていた筈。それでも接近を許してしまうほどの速さで彼にハクフが迫る。



―守勢・揺柳!!―



しかしトムは慌てていない。その寸前で揺柳。再び彼に分身が見える。



「バカのひとつ覚えかなぁ!? そんなもの……」



全身に黒い体毛が生え、先ほどとは違う太めの爪に加え、口元には二本の牙が見えるハクフ。



スパァ!!



「!!」



トムの胸元が破れる。先ほどよりも速度で上回り、より獰猛になっている印象だ。



「うふふ♪ このはや~い攻撃、一文字の術でいつまで避け続けられるかなぁ?」



涎を垂らし、好物を見るかのような視線のハクフ。



「嫁入り前の乙女が、ナントいう姿デスカ」


「お気遣い……ドーモ!」



彼女は手刀を作り、突きと横切り、袈裟斬りを無数に放つ。



「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇ!!!」



少し引きながら攻撃を回避し続けるトム。劣勢に思われたが……



「………………??」



ハクフの動きが鈍くなる。



「……ふう……ふう……」



やがて息切れをし始める彼女。ゲンゾウは不可解な様子だ。



「姉ちゃん何疲れてんだよ! その程度で……な!?」



違和感があったからだろう。自然と周囲を見渡したゲンゾウ。

その眼に映るのは、トムとハクフどころか周囲を包んでいるあまりに巨大な空気の玉。



「お、おい……もしかしてこれ……包洞……か?」


「ご名答デス。コレだけ大きいと真空にはナリマセンけど、激しく動くと疲れる程度には空気が薄くなりマスよ?」


「はぁ、はぁ、はぁ……」



トムの十八番、攻勢包洞。しかも極めて広範囲という、これまでに見ない使い方だ。

二文字になり、一文字の術の使い方の幅が広がったのだろう。


そして、ついに動きが止まるハクフ。



「あ、あたいが……こんなことで……」



一時的ではあるものの、疲労困憊な彼女の姿を観察するように眺めるトム。



「貴女、リュウシロウサンには似ても似つきませんネ」


「は、はあ!? あ、あんなクズと……似てるわけ……」


「エエ、似てマセン。お二人トモ口調が似ているトコロはありますケド、あまりに品性がナイ」


「あ……あ゛あ゛あ゛あ゛!?」



あからさまにキレた雰囲気を示すハクフ。



「ナルホド。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ミタイですね。マア気にするコトはありませんよ。最も優秀なのが末弟ってイウのはよくアルことですカラ」



トム、二人を強く煽る。

彼にとってリュウシロウは友であり、尊敬の念すら抱いている節がある。そんな相手に対し、あらん限りの暴虐を尽くしたこの二人に許せない気持ちがあることは容易に伺えるだろう。


そして、リュウシロウを心から侮蔑するこの二人には、それが最も有効な煽りとなる。



「くだらねえことブツクサ言ってんじゃねえぞオラぁぁぁぁ――――!!」



遠巻きからゲンゾウが突っ込む。



「姉ちゃん離れろ!!!!!」



―ストーンフォール!!―


―ストーンフォール!!―



同じ魔術を二度。あの術か。

落ちてくる大岩を腕に纏う。



「……魔術? ……タメノスケサンがやった煉術というモノですね」


「あんなクソ雑魚野郎のと一緒にすんじゃねえよ!!! 砕け散れや!!!!」



―ダブル岩呑掌!!!!―



あまりにも巨大な二つの大岩が、上空からトムへ振り下ろされる。

もちろん彼は避けるモーションに入るのだが……



「……!? これは……」


「逃がすと思ってんのかよ!!! そのまま潰れちまえ!!!!!!」



トムの足に氷。今度はハクフの魔術が彼の足を封じる。



―守勢・風帆!!―



ズドッ!!!!!



刹那で風の防壁を張る。しかし、少しずつ押されているようだ。



「ぎゃはははは! バーカ! そんなもんで防げるかよぉぉぉぉ!!!」


「あははは! やっぱあのクズの仲間だよぉ!!」



リュウシロウより下に見られたことが余程頭に来ていたのか、トムが劣勢になったと考えたや否や暴言を浴びせる二人。



『程度が知れる』



今のトムの表情はまさにそのもの。

二人は知らない。これよりその強大な自身の力よりも、さらに強大な力でねじふせられる現実を。



「忍法……」



「……」

「……」



トムの体の前に現れる、ゲンゾウの術で生成された岩石よりも巨大な風の隕石。



「……う……そ……だろ……?」

「……な、何なの? ……コイツ……」


「少し、痛い目を見てイタダキますか」





―猛天・朧嵐月!!―





二人の瞳にようやく宿った恐怖。

これまで、その力で弱者を嬲り続けてきた報いをここで受けるのである。


放たれた朧嵐月は、とてつもない速度でただ真っ直ぐ進むだけ。

しかしその巨大さと速度にハクフは避けようもなく、ゲンゾウも放った術が瞬く間に砕かれる。

二人は文字通り術に轢かれ、それぞれあらぬ方向へと飛んで行く。



「ぎゃあああああああああああ!!」

「いやあああああああああああああ!!!!」



その叫び声も、やがてフェードアウトする。



「フム。手を合わせて分かりマシタが……あなた方では、リュウシロウサンの足元にも及ばナイでしょう。()()()()()()デネ」



二人に対し、力で上回るトム。

だがその後、ごぎょうの真の恐ろしさを知ることになるとは、この時は思いもしないのであった。

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