第88話 ゲンゾウ襲来
―はこべら町~ごぎょう町 道中―
「イヤー、二人旅もオツなもんデスネ、ゴウダイサン!」
「そうだな。まさかトムとこうして肩を並べて走るとは、以前はこべらに居た時は思いもしなかった」
Aチームであるトムとゴウダイ。凄まじい速度で道中を駆け抜ける。
ゴウダイは1日休み、すっかり体力も回復した様子だ。
「ソレにしても……ゴウダイサン早いデスねー。我輩も相当早足のツモリなんですケド」
「そうか? 今回は足枷を外しているからな。いつもよりマシという程度だ。それにしてもトムは早すぎるな。俺はもうこの辺りで限界だぞ」
普段から鍛えるためだろう。日常から足枷をはめている様子のゴウダイ。
彼の強さへの執着から考えて、特に不自然ではない行動だ。
(まさに努力の男と言った感じですね。私は二文字になり、基礎的な身体能力も飛躍的に向上している筈なんですが……いやはや、ゴウダイさんが二文字になったらどうなるのやら……)
「ん? どうしたトム」
「イエイエ! さあ、ソロソロ私全力で行きマスよ!」
そう言うと、トムは体に風を纏う。第三者が見ても『軽くなった』と分かるような足取りとなる。
「ああ、そうだトム。ひとつだけ聞かせてくれないか?」
「?? 何デショウ?」
目前には二文字になったばかりの男。ゴウダイもそこを目指しているのは間違いなく、どうしてもこれを聞きたかったのだろう。
「道とは……どのようなものなんだ?」
二文字に至ったトムが通った『道』。
それは忍が、新たな力を得るための唯一の過程、道筋である。
現在一文字のゴウダイに、それを知る術は聞くことしかないのだ。
彼の気持ちを知るトムは、その質問に快く答える。
何もないところに道がある。そして分かれ道があった。そして光を潜れば新たな力を得られると。
「そうか……しかし分かれ道とは、やはり噂は……」
「我輩の場合は導かれマシタ。もう少しで道を誤りソウになったのデスガ、大切な人に手を取られ……」
「!!」
トムは、燃え盛る道を選びそうになっていた。それをシェリーが立ちはだかり、彼の手を取ったことで今の力を手にしている。
この話を聞いたゴウダイ、何かを知っているような雰囲気だ。
「やはり道はいろいろあるようだな。一揆の兵たちの中に、道に至った者が数人居たのだが……」
道に至ることは忍の夢、目的のひとつ。話題としてはポジティブなものであるが、ゴウダイの面差しは暗い。
「ある者は何も変わらなかったそうだ。強くなることもなく、弱くなることもなかった」
「ナント!? 無条件で強くなるモノではナイのですか?」
「私は違うと思っている。何故なら、またある者は……力を失ったからだ」
「!!」
衝撃の一言。道を辿ればどのような形でも強くなる、そう思っていた節のあるトム。
「失う……?」
「ああ。その者は道を下ったと言った。最後は闇に包まれ、気が付けば現実……そこで自身の属性が失われていたことに気付いたのだ」
「……」
剣呑な面差しで話すゴウダイ。道について、自分なりにかなり調べたのだろう。
(つまり、ノーリスクで力は得られないということですか……たしかに、道を進むだけで強くなるなんてあまりに都合が良過ぎますし、簡単過ぎます)
「それと、ある者は迷う内に道を見失い現実に戻ったと言っていたな。力は失われなかったようだが……」
彼の話が真実であるなら、『道』が現れただけでは乗り越えたとは言えない。その道を、正しい方向に進まなければならないということである。さらに時間制限もあるのかもしれない。
「それと……道が見えても、即座に現実に戻されることがあるそうだ。何らかの力を得て戻るようだが詳しくは分からん」
「ソウいった事例もアッタのですカ?」
「俺がこれまで聞いた中で最も多い状況だ。これを兆しと言うのだが、ある程度の技量に達すると現れると聞いた。全員にそれが現れる訳ではないようだがな」
かつてイズミがケイユン、ガイト戦で見せた兆し。その後彼女がケイユンとの戦いで余裕を見せていたのは、見えた道から何らかの力を得たからのようだ。
「そして兆しを経由したものは、再度道に至った場合に正しい道を選ぶ可能性が高いようだ。ま、俺の統計上でしかないが……」
「フム……軽く覗くだけならチョットだけ力をもらえる……でも深く入り込んで道を誤れば力を失う……上手く煽られてイル気がしますヨ」
トムの言い分は的を射ている。
何故こうあえて忍術を使う者を、穴の大きいふるいに掛けようとするのかが分からない。
「何にせよ、我輩の場合は正解に辿り着いたってコトですね」
「そういうことだ。その大切な人……何処の誰だかは知らんが必ず守りぬけよ」
もちろんゴウダイはトムの大切な人、シェリーが故人であることを知らない。
「……………………ハイ」
少し物憂げなトム。だが最後に笑み……彼女に改めて感謝をしているのだろう。
「引き止めてすまなかった、トム」
「イエイエ、ではお先にすずな町へひとっ飛びしてキマスヨ!」
そう言うとトムはゴウダイを残し、風のように文字通り吹いていくのであった。
※※※
―すずな町~せり町 道中―
一方でライトとテッペイ。
すずな町を出てから半日。今のところ平和な道中のようだ。
「もう夕暮れか……テッペイ、宿にしようぜ。あそこ逃すと夜通しだ」
「ぞうだな。……わじじゃ気付かん。ライド頼んだべ」
何かをライトに依頼するテッペイ。
「分かってるっての。忍法……」
―雷網煉!!―
雷属性の術。放ったと同時に、周辺に非常に細い電撃……いや、静電気と言うべきか。それが非常に広範囲へ網目のように張り巡らされる。センサーのようなものだろう。
「よっしゃ! これでぐっすり眠れるな」
「ぞの前にごはんだべや。あ゛ー腹減っだぁ」
そしてその晩。
床に敷かれた二組の布団。二人は雑に寝そべり、迫り来る戦闘のための作戦会議のようなものをしているようだ。
「たしか猟獣忍術って、直接的な攻撃で言えば二文字でも指折りだよな」
「だべ。わじの黒鉄忍術でも、長くは耐えられん」
同じく黒鉄忍術を使用し全身鉄の塊となった蝉丸でさえ、ハクフの攻撃によりダメージを受けていたのは記憶に新しいところである。
「如何に近づけさせないかってところか……」
「いや、獣系の速度はとんでもねえべ?」
「となると、迎え撃つ系の術か……それとも……」
彼らとて負けられない。
小癋見には勝てないとされているが、それでも戦わなければならない。彼らにも戦う理由があるのだ。
あーだこーだと話し合う二人。
もっとも後半は、すずな町に住まう町娘の話に転換していったようだ。
今のところは平和。ライトは内心、このまま何事もなく過ぎていけばいい、ごぎょうの襲来が杞憂であればいいと思っているのであった。
※※※
明くる日。
二人は太陽の光で目が覚め、準備された朝食を食べ、まるで一般の旅人のように柔らかな時を過ごす。
本人たちは理解している。もしかすると今回の戦いで命を落とすのかもしれない、もう二度とすずな町へ帰れないのではないかと。
しかし、それをおくびにも出さない。
すずな町からこの茶屋に至るまで、それをほんの少しも見せない。たとえその場に居るのが同じ番衆だとしても、二人だけで居るとしても弱音を吐かない。
いつも通り。
それが華武羅番衆としての二人の矜持なのかもしれない。
「しゃ! テッペイ、行くぜ」
「お゛う!」
気合いを入れ、茶屋の外へ出る。
「よっ」
そして何者かが挨拶をしてくる。
注文したであろう茶をすすり、ライトとテッペイをニヤニヤとしながら見つめる。
それは青天の霹靂だった。
「……あ」
「な……?」
完全に動きが止まる二人。
それもその筈、そこでのんびりと茶をいただいているのは……
「遅ぇじゃねーかよ。待ちくたびれたぜ。……つーか、よく俺たちが来るって分かったな。一揆にそんなまともなブレーン居たっけか?」
ゲンゾウだからだ。
彼は立ち上がり、二人に寄って来る。
「ま、大方フウマかゴウダイってところだろ。ちなみに、今回の件は姉ちゃんの暴走だからな?」
ライトとテッペイは沈黙しているにも関わらず、一方的にしゃべりまくるゲンゾウ。
だが一区切り付いたのか、顎で出ろと指し示す。
二人はお互い顔を見合わせ、同時に頷く。ゲンゾウの後ろに付き、彼の動向を慎重に伺う。
「ここじゃ目に付く。もうちょい離れようぜ?」
問い掛ける口調だが、自分はそのまま道中から外れた獣道へ歩き出す。端から二人の意思を聞く気はない。
(どうして……早すぎる……。いや、そもそもコイツ……俺の術を見抜いた……? 網の隙間で茶を飲んでやがった……クソが!)
ライトはセンサーのような術を張り巡らせていた。夜間、ゲンゾウの侵入に気付かなかったところを見る限り、そして実際察知出来ない場所に居座られたあたり、見抜かれたと考える方が自然だろう。
(しかも、朝まで俺たちを待っていやがった! 夜襲もなく、俺たちが現れるまで待っていやがった……余裕のつもりか!)
内心激高するライト。
それを見透かしたように、おもむろにゲンゾウは振り返る。
「まあそんなカリカリしなさんなって。この辺りでいいだろ」
「何?」
「……?」
獣道を進み、少し開けた場所。
ゲンゾウは伸びをし、準備運動のような動きを見せる。そして……
「さ、殺り合おうぜ?」




