第87話 番衆の思い
―すずな町 一揆本拠―
ハクフ、ゲンゾウの道中から少し遡った時間。
すずな町は一揆本拠。どういう訳か騒然としている様子だ。
「だ――――か――――ら――――! やめろって言ってんのよ!!!」
声を張り上げるのはミナモ。
周囲の忍たちは恐々とそれを止めようとしているのだが、今ひとつ踏み切れない様子。
何故ならそこに居る者は、皆腕章をしている者しか居ないからである。
「ふざけんな! ごぎょうのクソ共が来るってんなら、町の外で迎え撃った方がいいに決まってんだろう! なあ? テッペイ!」
「ほんとだわぁ。べづにゴウダイの言葉、ぞのまま守る必要もねえべ」
少しいかつい感じで話すのは、テッペイと呼ばれた男性。
黒と白のまだらな髪を後ろで結っており、灰色のつなぎの忍服を上衣の部分だけを脱ぎ腰に巻いているという出で立ち。体格は良いのだが身長は低め、言葉は独特のイントネーションである。
「ライド、んじゃまウチらだけで行くべや」
「だな。よっしゃ! 腕が鳴るぜ!」
ミナモの説得を無視し、そのまま歩みを進めようとする二人。
「アンタらがふざけんな! すずな町から番衆を空にする気!?」
「お前が残ったらいいだろ?」
「つまりアンタたち二人じゃ無理だって言ってんの!! タイガが手も足も出なかったんだよ!?」
『二人じゃ無理』。この言葉に少々苛立ちを覚えた様子のライト。
「うるせえな!!!! タイガは油断してただけだろうが! その点俺たちはもう知ってる訳だ。遅れは取らねえよ」
「それがもう油断だって言ってんの! いいからここで大人しくしてよ! その間にフウマさんが来てくれるから!」
フウマという単語を聞いたその瞬間、大きくため息を吐く彼。
「どいつもこいつもフウマフウマフウマ……じゃあ俺たちは何なんだよ」
「もういいべライド。さっさと行ご」
呆れた様子を見せ、そのままミナモを無視して行こうとする。すると……
「あ、ああん!?」
「ぢょ……ぢょっど!?」
なんと、ミナモが気勢を上げる。右手に水の塊のような何かを纏わせている。
「力ずくでも行かせないから!」
「正気か……?」
「……」
今にも襲って来そうな彼女だが、そこから動かない。というか動けない。
「あ、あれ!? ちょっとテッペイ!!」
「黒鉄忍術、鉛縛鎖。暫くおどなしくしとれ」
逆にテッペイが、ミナモに術を掛けた模様。彼女はその場から動けないのだが……
「この――――――――!!」
手に纏った水の塊をどんどん投げてくる。
「うああああああ!? おいテッペイ! もうちょっと何とか……」
「鉛縛鎖は足だけだべ!!」
しかしそこは二文字であり華武羅番衆。ミナモの怒涛の水撃を回避しながら、すずな町の外へ向かうのであった。
※※※
―すずな町~せり町 道中―
「さーて、どこでカチ合うかな?」
「ま゛、情報が合っでるかどーかも分がらねえ。居ねえに越しだことはねえべ」
すずな町を出て暫く、二人は徒歩で雑談をしつつ進行して行く。
まだ穏やかな雰囲気。道中、護衛を付けた旅人と何度かすれ違う。
「最近護衛付き多いよな。やっぱり西の方が物騒って噂、本当なんだな」
「だべ。ほとけのざ辺りだど、腕利きじゃねと護衛もままならんべや」
悪魔が来訪する西。妖怪も必死なのだろう。
そこへ、また旅人が視界に入る。その者は護衛を付けていないようだ。
「あれ? あのじいさん、護衛無しだぜ?」
「金がないんじゃねーべか?」
向かって来るのは年配の旅人。
まもなくすれ違うそのタイミングで、その老人は足を止める。
「ん? どうしたんだよじいさん」
ライトは優しく声を掛ける。
輩のように見えるが、東国を束ねる天津国忍一揆の頂点の一人なのである。
「番衆か?」
「!?」
突然『番衆』の一言。だが、容姿と比べて声が若すぎる。
何か不審さを感じたのか、二人は身構える。
もっともゴウダイを見る限り、番衆は顔も名前も世間に割れているため、こういうケースは珍しくないことが伺えるが、この場合はそういう問題ではないだろう。
「じいさん、何者だ……?」
実のところ、老人からは番衆という言葉は発せられただけである。
だがそれを不審に思う辺り、そして警戒する辺り番衆の名は伊達ではないのだろう。
そして、その懸念は間違っていなかったことがすぐに分かった。
「……え!?」
「な、なんど!?」
老人が顔に手をかざすと、なんと小癋見の能面がそこに。
「貴様らには狙われている身だが、そのまま大人しくしていろ」
「の、能面!?」
「ぞんな……! ごんなところで!?」
即座に小癋見から距離を取る二人。
だがこの能面、攻撃をする意思はないようで後ろに手を組んだままである。
「ごぎょうが貴様らを狙っている」
「なんで……それを知ってんだ……?」
話の流れとしては、ゴウダイが立ち聞きをした後にミナモへ伝え、彼女から聞いたという形のはず。だが、その流れに入っていない能面がそれを知っている……面食らうのも無理はない。
だがその分、二人は小癋見の話を聞く姿勢となっているようだ。
「カンラ……と言っても分からんか。我々の仲間……とでも言うのか。それがやられた」
「能面が……ごぎょうの連中に……だと?」
ライト、青ざめる。
(作りかけの……ゴウダイの報告書を少し見たが……どんな術も通用しねえんじゃなかったか……? 認めたくはねえけど、ゴウダイは一文字にしちゃ強すぎる。アイツをあしらうようなヤツを、ごぎょうの連中は倒したってのか……?)
厳密には、ゴウダイが対峙したのは同じ能面でも般若、ムリョウである。当然勝てる訳がない。報告書には、まだ能面が複数存在すると記載されていないのかもしれない。
なおライト、正面切っては彼をこき下ろしているが、内心は認めている模様。
「引け」
「あ……ああ!?」
小癋見、能面という立場でありながらまさかの一言。
「貴様らはまだ役に立つ。無駄に……命を散らすな」
「……?」
敵の筈。だが、こちらの身を案じているかのような雰囲気。
理由が分からない。何故ならごぎょうが一揆を狙っていることを知っているものの、それをあえてこちらに伝えるメリットが能面にはないだろう。それが真実であれば、一揆とごぎょうをぶつけて共倒れを狙えばいいのだ。
もっとも、能面がごぎょうと手を組んでいる可能性もある。だがこれまでの調査報告書等により、ごぎょうは三人で動いていることを一揆は把握している。何故なら、以前に番衆の一人はごぎょうに倒されており強く警戒しているからだ。
そして、能面の情報がそこにかすりもしないことから、関わりがあるかと言われると可能性は低い。神出鬼没の相手だが、関わりを探ればその足取りは多少でも追える筈。だがその様子も見られないのである。
よって、この雰囲気には一定の信憑性があるのだ。
「忠告ありがとな。今回だけは見逃してやるぜ」
「?」
爽やかな笑顔を見せるライト。何故この場面で笑うのか、小癋見には理解出来ないようだ。
「でもな、このまますずな町に居たところで、援軍が来るなんて保障はないんだよ。じゃあもし来なかったら……町を巻き込んじまう。結構好きなんだ、あの町……」
「……」
小癋見、それ以上何も言わない。
「ほんどほんど! がわいい子もいっばいだがらなぁ!」
「お前そればっかりなのな!? 顔見ろ顔!」
要は、町から危険を遠ざけた二人。
その危険が自分たちだけに降り注ぐとしても、あえてそこに赴くのだ。
「分かった。検討を祈る……」
そう言うと、小癋見はそのまま歩いて行く。
ライトもテッペイもせり町の方角へ向かうのだが、小癋見は歩みを止め、振り向き二人を見て思う。
「気のいい連中だな……これだから人間は……」
「だがいずれは……」




