第83話 力の差
「おお! アメリア! お前なら……」
アメリアと呼ばれた女性。
腰まで真っ直ぐ伸びる白髪、そしてジェネラルは皆似たような格好をしているのだが、彼女だけは少し露出の多い真っ白な修道服のようなものを着用している。
両手には銀製と思われる小手など、ところどころに保護具を纏っており、特殊性を感じさせる。
「プレジデント」
非常にか細い声。だが、ムリョウの力を目の当たりにした上で落ち着いた雰囲気。
今度はアメリアがプレジデントの前に立ち、ムリョウと対峙する。
「まず私では、この御方に対抗する術がありません。……そもそも、世界中見渡したところでこの御方に勝てる者が……いや、一太刀でも浴びせられる者が居るかどうか……」
「何だと!? それ……ほど……なのか!?」
アメリアの一言でプレジデントは理解した様子。
これまで彼は、ジェネラルをけしかければ何とかなるような口振りだった。だが彼女の一言でそれが覆されるのは、それなりの理由がある筈だ。何か特殊な力を持っているのか。
「……終わったか?」
「!! ……や、やはりお気付きでしたか……」
するとムリョウが突然何かを確認する。どうやらアメリアは何かをしていたようだ。
「無断で申し訳ありません。貴方と、この距離で対峙出来たのは僥倖でしたから……」
「構わん。聖……魔術だったか。東国には存在しないものだ。西国人もなかなか面白い属性を作り出す」
勝てない相手と分かりつつも、アメリアに恐怖心は見られない。ムリョウと雑談すらこなす。彼女は咳払いをした後、少しだけムリョウに近付く。
「お引取りは……難しいでしょうか?」
「出来ない。そこの阿呆の口から聞くまではな」
「……阿呆です……か……プレジデントにそのような言葉を吐けるのは、世界中見渡しても貴方だけですね……」
するとムリョウ、そのままプレジデントに向かって歩き出す。
「ひい! ア、アメリア! 何とかしろ!!!」
「往生際の悪い。何もされたくなければ話せばいい。ただそれだけのことだ」
ついにプレジデント、尻もちをつく。
ムリョウが先ほどのように手をかざし、何かをしようとしたその矢先。
「……邪魔立てする気か?」
「已む無しです。父を殺されたくはありませんので」
気が付けば、プレジデントが光に包まれている。やがて彼はその場から姿を消した。
そしてアメリアは……
ーホーリーブロー!!ー
ズンッッッ――――!!
ムリョウへ時を置かず攻撃。さきほどアドルフが攻撃した箇所へ、寸分狂わず拳を当てる。
「……ほう?」
「……くっ!」
少し意外だった様子のムリョウ。思ったよりも強い、と言ったところか。
だがアメリアには口惜しさが垣間見える。
(効いてない……どうして? 防具らしい防具もない上に、棒立ちで完全な無防備のところへの攻撃なのに……)
これまで、やはりと言うべきかムリョウには攻撃そのものが通じていない。
それに対して疑念を抱くアメリア。
(実力が違い過ぎるのは分かるけど……この御方は何かがおかしい……)
「何もおかしくはない」
「!!」
アメリアの考えを見透かすような発言。
「実力の差は理解しているはずだ。だが貴様の思うそれと、実際の差が極めて大きく異なっているというだけだな」
「わ、私が……弱すぎるとでも言いたいのですか!?」
「違うな」
その言葉と同時に、ムリョウは印を結ぶ。
(イン……? たしかこれは……東国の忍術……!)
「超越忍術……儚紅蓮」
ー赤円乱百花ー
――――――――――――ッ!!!
形容し難い状況。
空に無数の大爆発。一瞬花火を思わせるがもっと苛烈な、そして攻撃的な何か。
上を見上げれば視界にはそれらしか映らない。何もかもを破壊する、それは誰にも抗うことが出来ないと思わせるに十分なものだろう。
「……」
アメリアはその場で崩れ落ちる。
周囲に居た研究員たちは、ただ呆然と空を見上げるだけ。
そこでムリョウがおどけながら一言。
「そうだな。私が……現代の人類と比べて、強すぎるだけだと言っておくか。フフフ……」
冗談……とでも言うのだろうか。
だが見せつけられる側からすれば冗談ではすまない。たった一撃で、視界に入るものすべてを焼き払うような力、そしてそのような力を放ったにも関わらず疲れた様子すらない。
「貴方の……目的は……何なのでしょうか……?」
何も出来ないことを理解した様子のアメリア。せめてただでは終わらせたくないという気持ちがあるのか、何とか言葉を振り絞る。
「……私の目的を言ったところで、到底貴様達には理解出来ん」
パチンッ
「え!?」
発言の終わりかけにムリョウが指を弾くと、消えていた筈のプレジデントとハーマンが現れる。
「あ……あ? わ、私は何を……」
「ここは……? 戻ったのか……? あの場所は一体……」
(そんな!? ハーマンはこの御方の仕業だからまだ分かる……でも、父は私が光に隠したのに……!?)
プレジデントに何かをしたであろうアメリア。だが、どういう訳かその何かをムリョウが解除する。そして、偶然にもアドルフもこのタイミングで目を覚ます。
「ただ、西国に対する目的だけは言っておいてやろう」
一同沈黙。ムリョウの次の言葉を待つ。
「貴様たちの、東国への侵攻の阻止だ。それ以上それ以下でもない」
顔を見合わせる一同。
何故これほどまでに、西国の東国への侵攻を拒むのかが分からない。
故郷だから、自身が住まう国だから……だけとは考えにくい。それ以外の何かがあると思わせるような雰囲気だ。
「もう一度だけ機会をやる。東国には……天津国にはもう手を出すな……」
徐々に強くなる口調。警告だ。
皆俯くものの、納得というよりは悔しげな印象。
ここでアメリアが疑念を抱く。
(やはりおかしい……これだけの力があるのにどうしてこの程度で、どうして警告だけで済ませようとするの……?)
少し悩んだ彼女。意を決した様子でムリョウの近くまで歩み寄る。
「ア、アメリア! 近付くな!!」
叫ぶプレジデント。だがアメリアは無視し、接近する。
「……何だ?」
「貴方がその気になれば、それこそどうとでもなると思います。ですが……どうして警告なのですか? ……その目的を果たしたいのであれば……いっそのこと……」
これから放つ台詞は、対象となる自分自身では言い辛いだろう。
「皆殺しにすればいいのだろうな」
「……!!」
ムリョウは彼女の次の言葉を察する。能面の裏で、どのような表情をしているのか。
「それならどうして……」
「フフ、無益な殺生は好まない……という答えでも期待したかな?」
会話には応じるが、のらりくらりと肝心な事は話そうとしない。
言えない理由があるのか、はたまた言ったところで意味がないと思っているのか。
「さて、もう用は済んだ。そこの阿呆に話を聞く必要もなくなった。……空狐」
「あいよ」
「!!!!!!!!!!」
空から突如現れる大きな狐。
一同がざわつく。文字通り、腰を抜かしてしまう者も多々だ。
「な、な、な、な、な……」
「あ、あれはデヴィル……!? いや、違う……」
「……きつねぇ!? し、しゃべってやがる…!?」
もう言葉が出ないプレジデントに、驚愕するハーマンとアドルフ。
空狐はその大きな体躯でそっとムリョウを包む。
「後でちゃんと話すけど、まーあれさね。タチの悪い代物だよ。でもあの出来のヤツから現れる程度なら、あたしの息だけで十分だわ」
「だろうな。まあ、後は東国へ帰ってからだ」
そう言うとムリョウと空孤は宙に浮く。
「……あまり、イズミの邪魔をしてくれるな……」
そしてボソリと言葉を放った後、空に消えていった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
嵐のような一連の流れ。何となく現実味がないように思えているのか、少々呆けた様子でムリョウと空孤を見送るような形となっている一同。
そこへ一人の研究員が全力で駆けてくる。
「プ、プレジデントぉぉぉぉぉ!!」
「……」
「プレジデント……?」
彼も呆けて何も聞こえていない。
「プレジデント!!!!!」
「うお!? ……な、なんだ! どうした!?」
「地下の召喚陣が……破壊されています……」
秘密裏に進めていた筈の悪魔召喚。それがムリョウにばれ、すでにその根幹たるものが破壊されたとのこと。おおよそ空孤の仕業なのだろう。
だがプレジデントは不敵に笑う。
「ク、ククク……あれはあれで残念ではあるがまあいい。ククククク、マスクマンめ! やはり気付かなかったようだな!! はーっはっはっは!!!」
気付かなかったという意味とは?
まさに、何かに取り憑かれているかのように笑うプレジデントが視界に入ったのか、アメリアは思う。
(……お父様……なんというお顔……。もしかすると、あの御方に何もかもを破壊されていた方が……幸せだったのかもしれません……)




