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第82話 ムリョウ再び

―西国のある地域―



高い丘に屹立する、非常に目立つ煌びやかな建物。そんなプレジデントのハウスの中で行われるのは…



「首尾は?」


「まもなくと言ったところです。後数ヶ月あれば……」


「クク……そうかそうか。随分遅れたがまあいい。結果良ければすべて良しだ」



時間はまだ正午過ぎ。まだ周囲は明るい筈なのだが、この場所はかなり暗い。地下か。

白衣を纏う者が数名。研究員のように見える。



(ふん……あの不気味なマスクマン一人に、よくもここまで翻弄されたものだ。だが、もはや時間の問題。幸いヤツも気付いていない……クク)



口角を吊り上げ、不敵に笑うプレジデント。


この場に居る者たちの目前には、分厚い壁とガラス。その向こうには魔法陣のような何かが、大理石と思わしき物体に描かれている。

そこには分厚い壁に取り付けられた、幾重にも設置してあるハンドルを操作しなければ入ることが出来ないようだ。シェルターを彷彿させる。



(十年前は失敗に終わった。よもや東国に、デヴィルを倒す戦力があるとはな……中級一体でも、あの文化レベルなら造作もないと思ったが瞬く間に消されるとは。それ以外の悪魔を送り込んだところで、それらもすぐさま討伐される事態……)



中級。白丸が倒した悪魔のことか。



(そして次回の召喚前に……まったく忌々しい。しかしこれで、ヤツごと東国を支配出来る。すでにノーランも送り込んで……)


「……む? どうしたお前たち」



考え事をしていたプレジデント。

頭を上げると、対面している研究員たちがその目を見開き、その視線を一箇所に集中させている。



「一体何を見………………な――――――――!?」



驚愕。それしかなかった。




「私が……気付いていないとでも思ったのか?」


「あ、あ……バカ……な……」



プレジデントは喫驚する。

研究員たちは何が何なのかすらよく分かっていない。


何故なら、それは突然そこに居た。

なんの兆しもなく、最初からそこに居たと言われても何ら不自然さはない。



「久しいな、プレジデント。三年ぶりか……」


「マ……マスクマン!!! 馬鹿な! 何故ここが!?」



黒衣に般若の能面。かつて何度も見てきたイズミたちの宿敵。


ムリョウ、現る。



「さて、話を続けようか。これをどうするつもりだ?」


「き、き、貴様には関係のない事だ!! ……何をしているお前たち! この男を始末しろぉぉぉ!!!」



プレジデントの一言に、黒いスーツを着用した者が数名ムリョウの前に立ち塞がる。



「プレジデント。私は質問をしている。……答えろ」


「やれ――――――――!!」




※※※




「さあ、もういいだろう。今すぐに答えろ」


「……」



数名の黒服がすでに倒れている。

文字通り、何も出来なかったようだ。



「そんな……」

「ジェネラルまでとは行かないが、プレジデント直属の戦闘員だぞ……?」

「触れることも……出来ないのか」



研究員たちがひそひそと話す。



「ぐ……」



閉口するプレジデント。

だが時を置かず、ニヤリとする。



「?」


「クク……間に合ったな!」



ムリョウは何かの気配に気付いたようだ。

それは真後ろにあるようだが、特に振り向くようなことはしない。



「プレジデント、ご無事ですか?」

「おいお~い、俺たちを忘れてもらっちゃあ~困るぜ~」

「……」


「……ジェネラルか。ん?」



黒服はおとり。プレジデントはその僅かな時間で、何らかの方法でジェネラルを呼んだのだろう。

なおムリョウは何か違和感があるようだ。



「足りないな。後四人は居た筈だが?」


「ふ、ふふふ。貴様などジェネラルがすべて揃わんでも何ら問題はない!」



ムリョウは振り向かないどころか動作らしい動作もしない。

だが、やがてジェネラルたちの方へ振り向き……



「ここは後で調べたい。外に行こうか」


「……な!?」



『後で調べる』……つまり、ジェネラルをすべて倒し自身を邪魔立てする者を軒並み排除する前提。プレジデントは眉間にシワを寄せ、怪訝な面差しだ。



「貴様に選択権があると思ってるのか! ここで死ね!!!」



すると、ジェネラルの一人がムリョウに襲い掛かる。だが……?




※※※




「ここでいいだろう」


「!?!?!?!?!?」



ムリョウに飛び掛ったはずのジェネラル。その場で足を止める。

何故ならここはハウスの外。皆が居た場所から、突然移動したからだ。



「……え?」

「な……なんだ?」

「外……?」

「どういうことだ!?」

「何が……」



プレジデント、ジェネラル、研究員皆がキツネに化かされたような表情。

そんな周囲の者を特に気に掛けることもなく、ムリョウは少し風景を一瞥した後に空を見上げる。



「ここは空気が悪いな。()()()()に訪れた時は、緑豊かで清らかな大地だったのだが……」


「……? な、何を言っている! 現在のアンナ=メリアは私の代で築き上げたものだ! 貴様のような若造に何が分かる!」


「ああ、そうだったな。この有様は貴様の所為だ」


「……ひっ」



西国の著しい環境破壊に怒りを覚えたのか、少々気を放つ姿勢を見せる。

もちろん戦闘力がないであろうプレジデントはたじろぎ、後ずさりをする。


だが、それを黙って見ているジェネラルではなかった。



「プレジデント。我々の後ろに……」


「ハ、ハーマン……は、ははは、頼んだぞ!」



ハーマンと呼ばれた男性が、プレジデントの前に立つ。

オールバックの紫の髪に、緑と黒を基調としたローブ…つまりノーランたちと同じ格好をしている。三十代前半と言った様相。



「アドルフ。準備はいいか?」


「わ~ってるって~。へへへ……」



アドルフと呼ばれた軽薄そうな男性。

特に何も整えていない伸び放題の金髪に、黄と黒を基調したローブを纏う。二十代後半と言ったところか。



「……」



二人がプレジデントの前に立つが、やはりムリョウは特に反応がない。

それよりも、周囲を見渡し風景や環境などを確認しているようにも見える。



「なんだぁ~? こいつアホか?」


「アドルフ。お前は以前の戦闘に参加しておらんから分からんだろうが、マスクマンの強さは本物だ。十分注意しろ!」



ハーマンはムリョウと面識があるのか、それともその強さを目の当たりにしたことがあるのが、強く警戒しているようだ。一方アドルフはムリョウを知らない様子。



「へっへ……こ~の俺様の雷魔術の前には…………」



パリッ……



アドルフの右手が放電する!



「どいつもこいつも黒こげだぜ!!!!!」



ーサンダー・ストラック!!ー



カッ!!!!!



アドルフの手から放たれた電撃がムリョウを直撃する。

電撃はハウスをかすめ、人工的に植えられた木々の多くを炭化させていく。

彼から直線状に、一町近くは地形が変化してしまう。



「ふふふ……アドルフ、もう少し手加減をしたらどうなんだ? ハウスが焦げてしまうではないか」


「はっはー! いやー申し訳ねえプレジデント。これでも半分くらいの力なんだけどさぁ!」



先ほどまで怯え、後ずさりしていたプレジデント。

アドルフの火力を目にし、そんなことは忘れたかのように振る舞う。

だがハーマンの面差しに変化はない。



「まだだ。アドルフ、警戒しろ」


「はぁ? んなわけねーだろぉ? ……あえ?」



夥しい白煙に包まれた周囲。だがその中から徐々に、歩み来る人影が見えてくる。



「雷の上級魔術か。懐かしいな、他人の攻撃を感じたのは。だがこれでは……」



負傷どころか、衣類すら破損、汚損がないムリョウ。



「あ、ああん!? 外したってかぁ? ……ちぃ! かっこ悪ぃところ見せちまったぜ!」


「……」



アドルフは『外した』と言うが…?



「そんじゃ、こいつで名誉挽回よぉ!!!!!」



ーウルヴァリン・ディスチャージ!!ー



全身雷に包まれる彼。

その場で、右手を大きく振りかぶったと同時にムリョウの目前に現れる。近付く速度が見えない。



ズドォォォ――――――――!!!



またしても直撃。ムリョウの腹部に、雷に包まれているアドルフの中でも、特段強く輝く右拳が命中する。しかし……



「もういい」



……トン



「!?」



ムリョウ、アドルフの額を軽く小突く。すると彼は白目となりその場に倒れる。



「は!?」


「……くっ!」



驚愕するプレジデントにさらに警戒を増すハーマン。



「こ、今度は私が……」



彼はプレジデントを守るべく、改めてムリョウの前に立ちはだかるのだが……



「お前ももういい。現代の魔術というものに多少興味があったが……期待はずれだ。暫く席を外せ」


「……何!?」



と、ハーマン。ムリョウが軽く手をかざすと、なんと突如その場から消えてしまう。



「………………」



一同沈黙。声が出ないようだ。



「な、何だと……? ジ、ジェネラルが……そんな……こんなあっさり……」


「プレジデント。三年前、私は最後だと言った筈だ」



ムリョウはジェネラルたちに勝利……いや、そもそも勝負にすらなっていなかったか。

そのままプレジデントに詰め寄る。



「来るな! く、く、来るな!」


「忠告を無視した挙句、あのような代物を使おうとは……」



そして再びムリョウは手をかざす。

プレジデントに何かをしようとしているのだと伺えるが、それが何かは分からない。

しかしここで、もう一人のジェネラルが立ち塞がる。



「お待ちください」

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