第81話 悪魔
―次の日の朝―
「ソレジャー行ってキマース!」
「手筈通りにしよう。トム、微力ながら援護させてもらう」
「また戦果を聞かせてくれ!」
「ぽぽーん!」
「頼んだぜ」
明くる日、トムとゴウダイのAチームは早めに出発する。それを見送るイズミとぽん吉、そしてリュウシロウ。
フウマと白丸は出発の準備、テツは養生所で日常業務のようだ。
「さて、ボクたちも準備だ! ぽん吉行くぞ……って、どうしたんだリュウシロウ」
「ん? ああ、ちょっとな……」
「まーた考え事か。昨日のトムの話か?」
「まあな」
昨日、作戦会議の後にトムから話が……いや、リュウシロウが聞き出したようだ。
(悪魔……か。このクソ忙しい時に、さらに面倒事が舞い込んで来そうだぜ。それに最近音沙汰のないアイツ……)
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―昨日の晩―
「なんだよそれ……」
作戦会議の後、リュウシロウは兼ねてからの疑問をトムにぶつけたようだ。だがその返答は、まったく予想しなかったものであることが伺える。
「じゃあアレか。西国には悪魔ってのがそこら中に居るってか?」
「ポジション的には、東国でいう妖怪となるのデスけど……」
トムが説明を続けようとするや否や、白丸が血相を大きく変える。
「あんなものと妾たちを一緒にするのか!!!!!!」
少々青ざめた悲痛な面差し。トムは即座に察する。
「失言でした白丸さん。お詫びします」
「……」
真摯に謝罪するトム。白丸はそっぽを向く。
「続けマス。別にデヴィル……いや、悪魔の方が伝わりヤスイですね。彼らは地上に蔓延っているワケではなく、特殊な儀式を用いて呼び出さなければナラナイと言われてイマス」
「言われています?」
「吾輩も詳しくは知らないのデス。西国の、ゴク一部の要人のみぞ知るってトコロですかね」
この話に対して、リュウシロウは疑念たっぷりだ。疑問点が多過ぎるのだろう。
「つまり特殊な儀式を用いて、あえて悪魔とやらを呼び出した要人が西国に居るってことでいいな?」
質問というより確認。
リュウシロウ以外は、話が突飛過ぎるのかあまり付いて来られないようだ。
「話が早くて助かりマス。リュウシロウサンを誤魔化すのは無理デスのでもう言ってしまいマスが、悪魔の力を借りようとシテいるのは……」
「プレジデントだろ? 東国狙ってんのは知ってるし、そうじゃないとしてもそんな特殊なことに対する決定権とか踏まえたら、そこにプレジデントが関わってねえとは思えねえよ」
トムは苦笑い。リュウシロウからこの答えが返って来ることを予想していた様子。
「お見込みのトオリです。プレジデントは間違いなく、悪魔の力をも借り東国を支配……いや、潰すツモリです」
「!!!」
『東国を潰す』。このキーワードに皆が反応する。
「なんだと!? そんな訳の分からない連中にやられてたまるか!」
「ぽぽん! ぽんぽん!!」
「何という話だ……キツネに摘まれた気分になるな……」
「途方もない話じゃのう。西国め……東国を滅亡に導く気か」
「今の話が間違いないとするなら、白丸さんを襲ったのは……」
テツの言葉にトムは頷く。
そして相槌の言葉を述べようとしたのだろう、その口を開こうとしたその時。
「白丸は大手柄だったわけだな!」
「?」
一同、リュウシロウを一瞥する
青ざめていた白丸だったが、今度はきょとんとした表情に変わる。
「これは完全に俺の推測なんだが、まずその悪魔って試験的な何かだったんじゃね?」
「ソレはあると思いマス。儀式は非常に難しいと聞きマスし、そんな簡単ナラ一気に東国を攻め落とそうとスルでしょう」
「だよな。呼び出すのが死ぬほどめんどくせえか、何かの条件とか制約があるかってところだろ」
リュウシロウの言うことはごもっともである。白丸を追い詰めるほどの何かを、リスクなしで呼び出せるなどは考えにくい。
「それと、白丸が倒したのと何の関係があるんだ?」
「アリもアリ、大アリだ。その悪魔、東国に来て早速ぶっ殺された感じじゃねえか。どいつもこいつも呑気なところを見る限り、人間には補足されてねえみたいだしな」
もし、白丸の言う異形の化物が人間に発見されていれば、たちまち大騒ぎになるのは目に見えている。だが現状その気配がない。
「そんで突然現れたってことは、それまで気配や力も感じられなかった、妖怪同士であるかどうか知らねえけどその噂もなかったんだろ?」
「本当に突然だった。コウモリのような羽根を使い空から……」
当時を思い出しているのだろう。再び白丸の表情が重くなる。
「要は、その悪魔の東国でのファーストコンタクトが、白丸以下烏天狗たちだった訳だ。だがそこで蹴散らされた。西国からすりゃ誤算だったと思うぜ?」
「タシカに……白丸サンの話によると一体だけ。試験的な運用ダッタ可能性は高いデスね! ソレで倒されてシマエば……!」
「もうちょい慎重になるだろうな。何せ切り札のつもりだったんだからな。まあ、悪魔が勝手に動くとかもありえるが、そんな自分を高え確率で危険に晒すような真似はしねえだろうし、そこは使役か言う事を聞かせられる何かがあるんだろ」
つまり、西国は意図的に悪魔を呼び出し東国へ送り込んだ。試験的に運用し、どの程度の力があるのか等を把握する予定が、いきなり白丸に倒されてしまったという事である。
「もし白丸がやられた、若しくは逃げられたとなりゃ被害が拡大してたかも……いや、何らかの形で絶対に被害があっただろうな」
「妾も……それは思った。あの蛙を睨む蛇の如き、一片の情すら伺えん眼……妾たちを見るや否や襲い掛かって来たように、ヤツらは生きとし生けるものをすべて殺戮しようとするだろう」
少し肩を震わせる白丸。
それが、悪魔という存在に対してさらに真実味を持たせる。
ここでゴウダイが疑問を抱く。
「だがその一体を倒したところで、西国でまた呼び出されてしまえば同じことじゃないのか?」
「慎重になるって言ったろ? 白丸の話は十年ほど前の話なんだよ。その間何もなかった……まああったのかもしれねえけど、一揆すら掴んでねえところを見る限り少なくとも表立つようなことはやってねえことが分かる。ただ、ひっそりと送り込んでたとして、どこのどいつが対処してたのかが分からねえけどな……ここまでの情報じゃ、妖怪がそれをやってくれてたとしか分からねえし」
ゴウダイもフウマも、以前に一揆に居たテツですら、悪魔について何も知らない。よって、白丸が倒した以降悪魔は訪れていないと考えられる。
「相当なリスクがあるんだろうよ。それが何かは分からねえけどな」
「ただ……気付かんかっただけかれもしれんが、十年も音沙汰が無いというのが気になるのう……」
やはり気になる十年という年月。
いくら送り込んでまもなく倒されたとは言え、次の行動までに時間が掛かり過ぎている。もしその間で何かがあったとしても、現時点では何も分からない。
「まあ、何も無けりゃそこは万々歳だぜ。慎重なのか他に理由があるのか、この辺りも分からねえから何とも言えねえけど。だが白丸が当時、被害を最小限に食い止めたのだけは間違いねえぜ」
「リュウシロウ……」
リュウシロウ、そっと白丸の頭を撫でる。
「頑張ったじゃねえか。よく……やってくれたぜ」
「りゅうしろぉぉぉぉぉ――――! あーん! 妾怖かった――――!!!」
「ん゛――――――――!!」
白丸の胸に挟まれる。そして彼女は、ここぞとばかりに甘えまくる。
窒素しそうなリュウシロウだが、まだ思うところがあるようだ。
(東国と西国が関わり出したのは八年くらい前だ。十年前に悪魔を運用してたってことは、関わり始めた頃にはすでに虎視眈々と事を進めてたんだろうが……)
ここで何かに気付く。
(おかしいぜ。東国に自分たちから関わったってことは、東国を潰す算段が着いたって考えるべきじゃねえか? だがこの八年は何もやってねえに等しい。何せ一揆が掴んでねえ時点で、東国人には何も気付かれてねえんだからな。せいぜい腐れ神社と手を組んだくらいだ。
となると、やっぱ何かの理由で東国に悪魔を送り込む計画が頓挫しやがったんだ。特に大規模なヤツがな……だが西国のトップが推し進めてる以上、しかも国の決定である以上よほどの事がねえ限り中止なんざ……)
「……あ」
リュウシロウ、脳裏に閃光。ひとつの答えに辿り着く。
何故十年も音沙汰が無いのか。
何故表面上仲良くしているのか。
それは西国という大国に恐れるものがあるからだ。
東国への侵攻を妨げる者が居るからだ。
「ムリョウ……!!」




