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第79話 気持ち、晴れ

説得? を受けたゴウダイ。

その日はイズミたち一行と共に、養生所の離れで一晩を過ごすこととなったようだ。



「テツさん、本当にかたじけない!」


「いいよいいよ。ゴウダイ君と会うのも久しぶりだしねぇ。それにしても、君は変わらないなぁ。いい意味でね」


「そ、そうか? ……逆に貴方は、随分雰囲気が変わった気がするな。あの頃は……」


「あわわわわ! それ以上はダメだよ!」



どうやら顔見知りの二人。テツが、元華武羅番衆であることから自然な話か。

なおゴウダイは、彼が以前どのような人物かを知っている様子。



「テツさんにはもう少しいろいろと教わりたかったんだが……」


「ほんとにのう……テツが一揆に残りさえしていれば、ワシもこんな苦労をすることもなかったんじゃが……」


「え、え、え!? 今それ言うんですかぁ!?」



ここぞとばかりにフウマから責め立てられるテツ。とんだ災難である。

一揆の状況を知る者であれば、フウマの苦労は少しでも分かるだろう。



「イヤー、これまたスゴイ顔ぶれデスネ-! 華武羅番衆二人と元華武羅番衆ナンテ、豪華絢爛片腹イタイですヨ!」


「笑止千万と間違えてねえか……? あと笑止千万なら使いどころ完全に間違ってんぞ……」


「ぽんぽーん♪」



ボケ=トム、突っ込み=リュウシロウ、まとめ=ぽん吉。

いつもの会話、いつもの雰囲気。この一行のそれをすでに知ってるゴウダイは、ここにやってきた当初の強ばった面差しも消え、優しげなものに変化している。

しかし、一人だけ『いつもの』ではない空気を見せる者がいる。



「……」


「ん? ……イズミ。あまり元気がないようだが……? まあそれでも美しげふんごふん」



イズミのはつらつさを知っているゴウダイからすれば、今の彼女は物足りないという印象だろう。もちろん彼女が気になるゴウダイは声かけを忘れない。



「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ……」


「そ、そうか。以前会った時の印象と大きく違うもんでな」


「……!」



以前と違うという言葉に動揺するイズミ。自身の状態については自覚しているようだ。

それとゴウダイ。もうひとつ気になることがある様子。



「それで……その、なんだ……そこの女は……一体……?」


「……? もしかして妾のことか?」



白丸である。もちろんゴウダイとは初対面。



「貴様、言葉を知らぬな? ()()()()()()()()()()()()()()に向かって女とは……さてはモテんだろ」


「………………」



唖然。



「ふむ。妾に対する無礼……本来であれば打ち首に値するが、リュウシロウの知り合いとなればそうも行くまい。いや、むしろここは積極的に()()()()するところだな! ということで自己紹介をさせてもらおう!!」


「……いや待て。その羽根、貴様は妖怪では……」



彼女はパタパタと羽根をはばたかせている。忙しなく動いていることから、少し興奮気味だ。何かを言いたくて言いたくて仕方がないのだろう。

なおこの羽、神通力で隠すことが出来るらしい。



「妾の名はぁぁぁぁ……白丸!! 天狗の(かしら)であり、リュウシロウの妻だぁぁぁぁ!!! 図が高い!!!!」


「………………」



ゴウダイ、口が開いたままだ。

彼はそのまま顔だけをリュウシロウの居る方向へ向ける。



「リュウシロウ……」


「……」



同じくリュウシロウも、呆れてものが言えない様子。



「いつ祝言を上げ……」


「……てる訳ねえだろ!!!」



顔がくまなく青筋な彼。ちょっと気持ち悪い。

だがここでゴウダイ、どういう訳か何度か頷いている。そして……



「うむ。二人ともお似合いではないか。私は祝福するぞ? 種族の壁など愛があれば乗り越えられるだろう」


「脳みそ腐ってんのかお前は!!!」



なお魂胆、『リュウシロウ+白丸→イズミ≠リュウシロウ』。

そんなゴウダイの浅はか過ぎる魂胆に気付かず、白丸の表情がパァァァァァっと明るくなる。


「なんと話の分かる男だ!!! 気に入ったぞ!! さすがはリュウシロウの仲間……見る目が違うな!!」


「いいからお前はもう黙ってろ!!」



話が進まないと感じたのか、リュウシロウはとりあえず白丸を止める。

そして立ち上がり、炊事場の方へ向かっていく。



「ぼちぼちメシが炊けたから、食うもん食って寝る……じゃなかった。明日以降の話と、その他諸々の話をするぜ」




※※※




「こ、これはリュウシロウが作ったのか……?」



目前に並べられたのは白米、味噌汁、煮物、漬物、焼き魚、そして団子が添えてある御膳。

派手さはないが、いわゆる家庭料理的なものが現れゴウダイは目をひんむいている。



「たりめーだ。このくらい出来ねえで一人で生きていけるかよ。その気になりゃ西国の料理も作れるぜ?」


「ココに住み始めてカラと言うモノ、すっかりリュウシロウサンの食事にクビったけデスヨ」


「いつもながら思うが、ほんとに戦闘以外は器用じゃのうお主は……」



ゴウダイ以外はすでにお目に掛かったことがあるようだ。住み込みでの修行であることからそれも当然か。



「ほらよぽん吉。から揚げだ」


「ぽぽぽぽぽぽ――――ん!!」


「野菜も添えてあるから絶対食えよ?」


「ぽーん……」



ぽん吉、三秒でテンションが変わる。

なお白丸は沈黙しているようだが、すでに席に座り食事を貪り食べているだけのようだ。


その後皆が食事に手を付けるのだが質素に見える割にやたらと美味く、舌鼓を打っているために一行には珍しく物静かな時間が流れていた。




※※※




食後。ゴウダイは外の風に当たる。



「驚いたな……リュウシロウにあのような特技があるとは……。口八丁に全てを費やしているのだと思ったが、本当に侮れんヤツだ」



変なところを感心する彼。そのまま風に当たり続けていると……



「い、イズミか?」



いつもどおり少しキョドったゴウダイ。忍の特性か、まったく足音はしていなかったようだが、それでも近距離であれば誰が近付いてくるのかは分かるようだ。



「ゴウダイ? ……ああ、お前も夜風に当たりに来たのか」


「久しぶりにまともなものを食べて腹が驚いてな。少し休めにきただけだ」



やがてイズミが隣へやって来る。すでに周囲は暗いために分からないが、よくよく見るとゴウダイの汗がすごい。


そして暫く沈黙。

あまりに元気のないイズミを見かねてか、最初にゴウダイが口を開く。



「以前と……随分違うじゃないか。何かあったのか?」


「……」



その一言に、彼女は悔しげな面差しを見せる。

するとイズミ、いきなりゴウダイの前に真っ直ぐ立つ。



「ど、ど、どうした?」


「ゴウダイ!」



イズミの、少しだけ悲しそうで真剣な面差し。

ゴウダイも剣呑さが伺えるが、たぶんちょっと違うことを考えている……はず。

いや、それどころか期待すらしていそうな彼。


もちろん、イズミの次の言葉はそういう類のものではない。



「ゴウダイは……まだ一文字なんだよな? でも華武羅番衆ってみんな二文字じゃないか。……その、お前は……どう思ってるんだ?」


「??」



質問の意図するところが分からない。

イズミの心境を理解するものであれば見当は付くのだが、久々の再開となるゴウダイに分かる訳がない。いや、彼の場合だと彼女の心境を理解していても、この質問は分かりかねるかもしれない。



「すまない。どういう意味なんだ?」


「だ、だから……一人だけ……一文字……だろ?」



今の一言で、ようやくピンと来た様子のゴウダイ。



「ああ、そういうことか。それが何だ?」


「それが何だって……悔しくないのか?」



特に彼の表情は変わらない。と言うより、ブレていないという印象。



「そうだな……自身の力不足は悔しいな。だが、一文字であることが悔しいということはない」


「え?」



今度はイズミに疑問符が付く。



「ど、どうしてだ!? もしかすると……自分は二文字になれないんじゃないかって……ずっと弱いままじゃないかって……そ、そんなの!!」


「フッ……らしくないな」



ここでゴウダイ、僅かな笑み。



「はこべら町で別れた頃のお前なら、そんなことなど省みずに真っ直ぐ突き進んでいただろう」


「で、でも! どうしても二文字に……」


「なれないなら、なれないでいい」


「な!?」



別にゴウダイはふざけている訳じゃない。顔つきにおどけた素振りもない。



「一文字で強くなればいいんだ。文字に拘らず、自身を高め続ければいいだけの話だ」


「でも、そんなの……」


「俺は諦めん。二文字に上がる素質があるなら、そこに至るまで高みを目指す。もしなれないのであれば、一文字のまま守るべきものを守れるまでに強くなってみせる。これは確定事項だ」


「…………あ」



執念とも言うべきゴウダイの決意。彼には守りたいものがある。



「たしかに、二文字になれば近道なんだろうがな。なれないのであれば考えるだけ無駄だ。その悩める時間、俺は高みを目指し続ける。それだけの話だ」


「ゴウダイ……」



彼は最初からこの気持ちだったのだ。

一文字、二文字はまさに()()()。ただ己の信じた道を突き進むのみ。

それに、彼は二十代後半であることが伺える。イズミと比べれば二文字へ至る機会も、今以上強くなる可能性もずっと低い。



「……」


「どうした?」



だが、たとえ二文字に至れなくてもこれ以上強くなれない可能性があるとしても、彼は自身が守るべきもののために絶対諦めないのだ。


それは言霊として、大いにイズミへ伝わったのである。



「なんだろう? 何か悩みがぜーんぶ吹き飛んだ!」



ここで、ようやく彼女が満面の笑みを浮かべる。

文字数に拘らず、ただただ自分を磨き続ける彼を見て、話して、中にあるもやが晴れたかのような印象。



「ふ、ふ、ふぉぉぉぉぉぉ~~……」



ここでタイミングよく月明かり。まるで彼女の笑顔を待っていたかのようだ。

それを独り占めしたゴウダイ。一撃でいろいろと()()()()()()()()()()



「ありがとうゴウダイ! やっぱり華武羅番衆は、心技体そろい踏みだな! 教えられたよ!」


「あ、あ、ああ……な、な、悩んだら……また話すといい……」


「うん!」



雨間(あまあい)を縫った晴れではない、ようやくイズミは快晴となったのであった。


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