第77話 ジェネラル
―ごぎょう町 ごぎょう神社―
「これはこれは遠路はるばる」
「ははは。東国の事実上トップが直々のお迎えとは……痛み入る。ジェネラル、ノーラン以下四名到着した」
ここはごぎょう神社の大鳥居。神社の正門と言ったところか。
そこでスザクと、見慣れない西国人四名。その内の男性一人が挨拶をする。
「さあ、ここでは何だ。中に入ってもらおう。……お前達、案内しろ」
「はっ」
彼がそう言うと、傍らに居た数名の兵たちが西国人たちを案内し始める。
スザク以外、境内にある家屋部分……つまり社務所の方へ向かう。
彼は皆が去った後、振りまいていた愛想を崩し途端に嫌らしい笑みを浮かべる。
(さあ白豚共……せいぜい働いてもらうぞ……ククク)
※※※
―社務所内 客室―
「さあさあ、長旅であったろう。くつろいでくれ」
「ありがとう、いい屋敷だな。アンナ=メリア……いや、ここでは西国か。オモムキと言うのかな? あちらの建物より木材が多く心が安らぐ」
「そう言っていただけると嬉しいな。ははは」
少しばかりの雑談をすると、スザクと話していた男性が皆を見渡す。
「さて、事も急ぐ。自己紹介をさせてもらおう。私の名はノーラン。火属性の魔術使いだ」
ノーランと名乗った男。
髪は黒のツイストスパイラル、赤と黒を基調としたローブと呼ばれる法衣を着用している四十代前後の男性だ。四人の中では年長者なのか、上席者なのか、リーダーのような振る舞いをしている。
左胸には牛か馬かよく分からない、ツノの生えた動物のようなものをモチーフにした、紋章のようなものが縫い付けてあるのが印象的だ。
(なんだあの分細工な飾りは……? 白豚の考えていることはよく分からんな……)
それが目に付いた様子のスザクだが、取るに足らないことと判断したかすぐに目線をずらす。
その後も自己紹介が続く。
「……ふん、ルークだ。土属性」
ルークと名乗った不機嫌そうな男。
ブラウンのセンターパートという髪型で、ベージュを基調としたローブでデザインや左胸の紋章はノーランと同様のものだ。二十歳前後で、血気盛んな印象がある。
「アクセル。闇」
アクセルと名乗る男。声が小さく聞き取りづらい。
濃い目のグレーのロングヘアーで、漆黒のローブを纏っている。デザイン、紋章はやはり同じ物となっている。年齢は二十代後半に見えるが、髪が顔をありったけ覆っているため分かり辛い。
ここでスザクは疑問が沸いたようだ。
「闇……?」
「闇魔術だ。まだ東国には初級魔術のみしか伝えていないからな。聞きなれないと思う」
忍術にはない属性。彼の疑問に、ノーランは快く答える。
「つまり、闇……魔術とやらは、初級が存在しないということかな?」
「お見込みのとおりだ。闇と聖という属性は扱いが難しくてな……つまり……」
「東国人には使えねーくらい難しいってことだよ。言わせんなって」
ここでルークが割り込む。明らかに東国人を下に見た発言。
「ルーク! やめんか!」
「だってさぁ……そんな高度なこと説明しても、東国人に言って分かるわけねーだろ?」
スザク、表情は変わらないが……
「そうだな。魔術は東国人には難しい。……ああ、そう言えば君は土属性だったな。偶然にも、私の弟も土属性の忍術を嗜んでいるんだ」
「ああ? 一緒にすんなよ。仕方ねーから、属性のイロハってヤツをそいつに教えてやろうか?」
ここでスザク、少し蔑んだ笑みを浮かべる。
「ああ、そこは大丈夫だ。我々が覚えるには魔術は浅すぎてな……君が私の弟から、イロハとやらを教えてもらうといい。せっかくだ、土属性を初歩から学んだらどうだ?」
「……てめ……!」
スザクの切り替えしに怒り心頭か、ルークが立ち上がろうとするとノーランが直ちに制止する。
「スザク殿、ルークが大変失礼をした」
「いや、ノーラン殿が謝ることじゃない。それで、そちらの女性は?」
歯ぎしりをするルークを後目に、最後の一人……女性が自己紹介をする。
「エレンと申します。水属性の魔術使いです。以後お見知りおきを」
最後に一礼をする。この中では、比較的礼節を重んじるタイプのようだ。
なおエレンと名乗った女性。
金髪のミディアムヘアにワンカール、青を基調としたローブにデザイン、紋章は他と同様だ。年齢は二十代前半か。声はそれほど大きくなく、か細い印象があるが……?
そして、ひとしきり自己紹介が終わり、スザクが改めて口を開く。
「貴重な時間の中、自己紹介感謝する。では例の件だが……」
「今回の任務についてはすでにプレジデントより伺っている。貴重な時間だ。すぐにでも起たせてもらおう」
「そうしてもらえると助かる。何分、こちらも取り急ぎ確保したい者が居るのでね」
スザクが『確保したい者』。つまりはリュウシロウのことだろう。
「そこについては、無理にこちらの要望を通してもらいすまなかった。約束通り、生かして連れて来よう」
ノーランは謝罪をする。しかし、またしてもここでルークが割り込む。
「けっ! 取り急ぎって割には、今の今まで捕まえられてねーじゃん。俺たちが無理を言った? むしろ感謝して欲しいぜ」
「ルーク!」
これまでずっと不機嫌な様子のルーク。事あるごとにスザクに噛み付く。
やはりノーランに警められる。がしかし、不信感などが強いのかあまり効果がないようだ。
ここでスザク、先ほどやりこめたことで満足しているのか、ここではあまり苛立ちがないようだ。実際笑みを浮かべている。少々下目遣いではあるが。
「ははは、耳が痛いな。それでは対象の特徴を伝えておこう」
その後、スザクからの情報提供を受け、四人のジェネラルは神社を出る。
※※※
―ごぎょう町からはこべら町へ向かう街道―
「チッ! なんだよアイツ! 偉そうに!」
道中、不満いっぱいのルークが愚痴をこぼす。
「そう言うな。……それにしてもとんでもない負けず嫌いだな。ジェネラル四人を前にして、気に入らなければ即座に切り返すとは……」
「ほんっっっっっとですよぉぉぉぉぉぉ!! 何なんですかあの人ぉぉぉぉ!!」
ノーランの一言に反応したのは……おしとやかさを匂わせていた筈のエレン。
「ノーランさん! 殺しましょ? アイツもうブッコロにしちゃいましょ!? な――――にが『まじゅつぅは浅すぎぃてなぁ~』よ! 水責めにすんぞコラ!」
「落ち着けエレン。おそらくお前たちでは勝てん」
衝撃的な一言。
ジェネラルと言えばプレジデントのお抱え。相当な実力派揃いである筈なのだがノーランは『勝てない』と判断する。
「そ、そんな訳……」
「ある。アイツやばい」
突如口を開いたアクセル。ボソボソと話すのだが、その一言は皆に聞こえた様子。
もちろん、血気盛んと思われるルークが黙っている訳がない。
「な、なんでだよアクセルさん……! あんなヤツ、俺の土魔術で……」
「ちょっとだけ影を調べた。火力だけならノーランさんより上」
「え、え、えええええええええええ!?」
ノーランの実力は定かではないが、エレンの驚愕ぶりを見る限り相当なものなのだろう。それを上回るとされるスザクの実力は果たして……?
「いい読みだ。以前来た時よりも強くなっているな。事実上の東国トップというのも頷ける……だが……」
「以前? あ、話止めちゃってごめん。ノーランさん、東国に来たことあんの?」
「ああ。東国への魔術の普及の際に、一度だけな。その時よりもあの男は強い。その上、より攻撃的な性格になっているようだ。そしてあの燃えるような瞳……おそらくだが何かを決行した、若しくはまもなく決行しようとしているな」
鋭いノーランの読み。
正確には、すでに賽は投げられている。
「プレジデントは取るに足らないとおっしゃってましたけど……どーなんですかねぇ」
「まあ我々は黙って任務を遂行するだけだ。捕獲対象は……イズミと言ったな?」
西国が躍起になって探しているイズミ。
ジャネラルを投入、しかも四人という現状を鑑みると、今回の任務の本気度が伺える。
「俺たちよりも若いんだよな? ……なーんでこんな人攫いみたいな真似を……」
「ルーク」
名前を呼ばれたルーク。背筋を伸ばす。何故ならノーランの声色が、これまでと明らかに異なっているからだ。
「これは任務だ。それ以上軽はずみな発言は控えろ」
「は、はい……!」
勢いよく返事をするも少し不満そうなルーク。だが彼は内心思うところがあるようだ。
(さっき話止めなきゃ良かったな……ノーランさん、何かを言いかけてたけど何だったんだろ?)




