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第68話 噂通り

―すずな町 天津国忍一揆本拠 書庫―



「…………」



すずな町の端に屹立する、波久部良養生所の数倍はあろうかという広大な屋敷。

その中の一画である書庫で、ゴウダイはあらゆる書物を読みふけっているようだ。

手に取っている書物は比較的新しく、どうやらごく近年、近日の情報を探そうとしている様子。



「……やはり見当たらない、か……」



開かれた綴りの多くは、人物に関わる調査書や報告書が主だったもので、さらには戦闘履歴などもいくつか散乱している。ムリョウに関わる情報を探していたか。



(まあ今の今まで何も分からなかった相手だ。過去の書物を漁ったところで……)



ここで得られる情報はない。そう考えたのか、散乱した綴りを一つずつ片付け始めるゴウダイ。すると、書庫の入り口から声が聞こえる。

少しずつ大きくなってきていることから、近付いているのだろう。



(む? ……誰か来たか)



足音が徐々に近付いてくる。

彼は特に後ろめたいこともないと思っているのか、その場に立ち尽くしている。もし入ってくるなら、挨拶のひとつでも交わすつもりなのだろう。


しかし……



ギィ……



「……ここで大声を出すなよ。()()()()()()だからな」


「!!」



書庫の扉が開くと同時に興味深い一言。

ゴウダイは即座に反応する。



ガチャ……



「…………」


「……よし、()()()()()な」



書庫にゆっくりと入り、丁寧に扉を閉める。若い男性二人のようだ。

ゴウダイは、扉が開いた瞬間に聞こえた声へと反応し、電光石火の速さで身を隠す。



(……あれは……側用人の二人じゃないか! 頭領の間近に仕えるものがどうしてこんなところで……?)



彼の考えぶりからすると、この二人は一揆の中でも力のある者たちの様子。

誰も居ないと思い込んでいる場所であるにも関わらず、二人はひそひそと会話をしだす。よほど他者に聞かれたくないようだ。



「それで、話というのはごぎょう絡みか」


「ああ。じ、実は……その……タイガがやられた……」


「!!」



頭領の間近に仕える者の口から固有名詞。ゴウダイはひどく驚く。



(タイガ……が? バカな! ……一体何処のどいつが……!)



額から顎に汗が伝わる。彼の表情が強張り、強い緊張感が伺える。



「ま、待て! ま、まずは……まずは何者の仕業かを……!」


「今ごぎょう絡みと言っただろう! ハクフだ! あの獣女の仕業なんだ!」



事を起こしたのは、リュウシロウの姉であるハフク。ここまでの内容からすると、どうやら彼女は一揆の関係者を倒したようだ。



(……ハクフと言えば、ごぎょうの長女じゃないか! ……しかし何故……)



なおゴウダイは、ハクフがリュウシロウの姉であること、そしてリュウシロウ自身がごぎょうの三男であることを知らない。


二人の話は続く。



「どうして今頃になって……かれこれ数年は小康状態だったじゃないか!」


「私に聞かれても困る! お前が何を言おうとも、いの一番で番衆がやられたのは事実だ! ……これからどうしたら……」


「番衆を頭に、一揆全体に召集を掛けるしかないだろ! 総出でごぎょうを攻め落とさなくては!」



その名でゴウダイが反応したこと、そして二人の口ぶりからすると、やられたタイガという人物は華武羅番衆の一人か。

状況を知らない側の人物が事情を聞き、召集と発言したことで一揆と最悪の関係であったごぎょう神社との争いが本格化する……のかと思いきや、



「で、出来れば……隠密にしたい。番衆の一角が早速離脱など兵たちの士気にも関わるし……そもそも……」


「そ、そうだな……」



大事にはしないというスタンス。しかし理由があるようだ。



「今の一揆の戦力では、とてもごぎょうの連中には敵わん。唯一勝負になりそうなのはフウマ殿だが、たった一人では……な。しかも今、所在が掴めてないんだ。ごぎょうの監視に就いていた筈なのに……」


「たしかに、ごぎょうを相手取れる者と言えば……フウマ殿ただ一人だな……」


「ミナモもライトもテッペイも実力不足だ。……くそ! ゴウダイが一文字なのが口惜しい……」



ゴウダイには期待している様子のある印象だが、一文字である時点で戦力として除外。彼は唇を噛み締める。



「一揆が瞬く間にやられてみろ……東国はたちまちごぎょうの支配下だ。しかもヤツらは西国と手を組んでいるからな。ジェネラルと呼ばれる、西国の戦闘集団も呼び寄せてるとの噂だ」


「ジェネラル……たしか、プレジデントのお抱えなんだよな? ……なんてことだ……もしかして一揆って……いや、東国って相当ヤバいんじゃないか……?」



二人は結論を出せず別の話題に移行する。頭領とやらは姿が見えない、そして力のありそうなフウマも現在はイズミたちに同行しており、どうにも出来ないところがあるのだろう。


ある程度話すべきことは話せたのか、二人は再度そっと扉を開け外廊下へ出ていく。



「…………」



少し俯き、大粒の汗を床に滴らせるゴウダイ。



(……俺は戦力外か……いや、そんなことよりまずは……!)




※※※




―すずな町養生所―



一揆の本拠から対角線上に位置する、すずな町が運営する養生所。波久部良養生所よりも規模が大きく、中には二階建て部分もある東国では比較的新しい建物だ。

東国にある一般的な木造建築物とは違い、白を基調としており建物の中央上階外壁には時計、中央から左右に広がりを見せる長方形の構造となっており、モダンな印象と言えるだろう。


その正面入口から入った受付で、ゴウダイが何やら話し込んでいる。



「そこを何とか……!」


「ゴ、ゴウダイ様! 困ります! 頭をお上げください!!」



看護婦か。大きなナースキャップに、詰襟で袖肩にパッドを入れた白衣に、八枚はぎの長いスカートという服装だ。おろおろとした様子で、何やら頼み込むゴウダイの態度に困っている様子。


そこに同じく白衣を着た男性が現れるのだが、来るや否や驚愕と困惑の表情。



「ど、どうなされたのですかゴウダイ様!」


「ここにタイガという男……いや、華武羅番衆が一人、土のタイガが世話になっていると聞いてな。面会をお願いしているのだが……」


「……え!? え、あ……」



男性、『どうしてそれを!?』といった感じの反応。だがまもなく……



「分かりました。お通しします。ですが……」



養生所であることから、一般の者も多数この場には居る。周囲に聞かれたくないのか、若しくはゴウダイに頭を下げさせたくないのか、はたまたその両方かそっと彼に近付き耳打ちをする。



「出来れば診療時間以降でお願いしてもよろしいですか? ……何分ここは多数の目が……」


「……!! す、すまない!! ……もう少し考えて行動をすべきだった……許せ」


「い、いえいえいえいえいえいえ!!! ……ですが、どうして頭をお下げになるなど……ご命令と一言おっしゃっていただければ……」



つまり先ほどの看護婦は、命令とゴウダイから発せられた訳でなく、ただ面会をお願いされた、しかし相手は華武羅番衆ということでどうすればいいか分からず悩んだのだろう。

逆に言えばタイガという人物への面会は謝絶、若しくはそれと()()()()()()()()()()()がなされていたことが伺える。



「?? ん? お願いをするのだから当然だろう? これは私的なことだからな」


「……は、はあ……」



ごく普通に『お願い』と言うゴウダイ。男性はポカンとしている。



「何はともあれ、迷惑を掛けてすまない。出直してくる」


「は、はい! お、お、お待ちしております!!」



彼はそのまま正面入口に向かい、養生所を後にする。

立場が立場だからだろうか。自然と男性だけでなく、数人の看護婦が見送りに受付から外へ出てくる。



「院長……」


「ど、どうした?」


「私、ゴウダイ様と初めてお話をさせていただきましたけど、他の番衆様と全然違ってて……なんて言いますか、その、謙虚な方って言うか……うふふ」


「はは。私もあまり詳しくは……だが、()()()のお方だ」



それ以上、院長と呼ばれた男性と看護婦はやりとりをすることは無かったのだが、その視線には敬慕が伺える。

実のところ、『ちょっとかっこ悪い』印象が拭えないこの度のゴウダイの行動であったが、どうやら彼にはとてもポジティブな噂があるのだろう。


だが当の本人は……



(しまったぁぁぁぁぁ! た、立場を弁えるべきだったか!! 番衆はあそこで頭を下げてはならんのか!? ……いや、そんなことはない! 誠意は態度で示さねば!)



と自問自答していたのであった。

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