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第65話 白丸

―波久部良養生所 客間―



「はぁ~~~、なるほど。そんなことが……」



一行はこの度の事を全て話したのだろう。テツが何度も頷く。


しかし何か様子がおかしい。イズミは怒り模様、他男性陣はリュウシロウを除き糸目だ。ここでテツが切り出す。



「それで……そこの()()()()も一緒に付いてきた訳です……か……」



天狗が付いて来た? それはつまり……



「リュウシロぉぉぉぉ~~♪ はい、あーん♪」


「『あーん』じゃねえよ!!!!!! お前どっちかって言うと胸倉掴んで『あぁ~ん?」だろ!!! はよ帰れ!!!!!!!!」



なんと、一行に付いてきた大天狗こと白丸。

彼女は出された茶菓子を手に、リュウシロウに食べさせようとする。



「つれないなぁ。妾、こーんなにリュウシロウのこと大好きなのにぃ」


「キャラ変わり過ぎだろ!!! あと妾が完全に独立してんじゃねえか!!! その文章なら『あたし』か『うち』が関の山だよ!!!!!」



すると白丸。突然上着をはだけさす。



「じゃあ子作りしよ?」


「なんでだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



ブチ切れのリュウシロウだが、何気に視線が一箇所に留まっている。



(ごくり………………………………でけえ)



ドン!!! ……メキメキメキィ!!



突然客間の床に穴が空く。イズミだ。



「リュ~~~~~シロォォォォォ~~~~~~……!!」


「ま、待てイズミ! たしかに俺は今、白丸のそびえ立つビッグマウンテンを凝視した。だがそれは、決してお前のアレが隕石衝突真っ青の無限えぐれ盆地って言ってるわけじゃ……



ズドムッ



きくらげっっっっ!!!!」


「ああ……客間が……」



いつものように、彼女の拳がリュウシロウの顔面に炸裂する。テツは客間に穴が空き悲しげだ。

すると白丸、勝ち誇るように下目遣いとなり、そのまま両腕を組み自身の胸を持ち上げる。



「フフフ……妬いているのか? まあ貴様のモノでは、リュウシロウは物足りぬだろうしなぁ……」


「だ、誰が妬くか!!!!! あ、あとそんなものなくても……なくても……くすん」



やはり悔しい様子のイズミ。

収集が付かなさそうな状況を察し、トムがここで割り込む。



「エット、白丸サン……で良かったデスよね? 我々とアナタは敵だったのデハ……」


「妾はもう貴様に負けただろう? 勝負ありだ。その後、妾が何をしようとも自由。戦う前に何か約束した訳でもない。それにも関わらず妾の行動を咎める気か?」


「そうイウわけではアリませんけど……」



だが負ける。仕方がないと思ったのか、今度はフウマがため息をつきつつ……



「お嬢さんや、お主は人間ではなかろう。ここは人間社会……つまり妖の者を抱えるようには出来ておらん。ここにお主の居場所は……」


「居場所はここにある。リュウシロウの隣だ。それに周囲を見た感じ、皆妾と変わらんではないか」


「まあそれもそうじゃが……本来、お主は討伐対象であって……」


「それはリュウシロウが許しただろう。今更反故にするのか? 妾が言うのも何だが、リュウシロウが一番の被害者でありその意見は無視出来ないと貴様らも納得していただろう」


「う、うーむ……」



フウマも説得は出来ない様子。今度はテツの番のようだが……



「まあいいじゃないですか。天狗はもともと仏僧や修験者であることが多いですし、現存する天狗もその血が色濃いようですからね。妖怪と言うより人間の方が近いんじゃないかな? だから、この町に居ても特段違和感はありませんよ。羽根だけは注意していただかないとダメですけど」


「ほう? 貴様は話が分かるな。妾の傷を治した時の手際も、只者ならぬ雰囲気があった。何者だ?」


「ただの医者ですよ。どくたあと呼んでください。ところで白丸さんは、リュウシロウ君の何処が気に入ったのかな?」



テツの言葉と同時にポっと頬を赤らめる白丸。すると両手をリュウシロウの首に回し、顔を間近に置く。



「な、な、なんだよ! うお!? お、お、おっぱ……」


「…………」



とても優しげな瞳。笑みを浮かべながら、真っ直ぐ彼を見つめる白丸。

リュウシロウはその真下を見れば彼女の双丘が間近であり、それどころではないようだ。



「こんな男は見たことがない。まさか、肉体的な強さだけではないそれ以外の強さがあるなど……」


「ふ、ふォォォォォォ!!」


「自身を傷付けた相手を容易に許し、助けようとするその度量、僅かな情報から事を紐解くその賢しさ。それなのに妾のように飾らず、決して自惚れることがない……」



美しい真っ白な髪と肌、そして真っ直ぐな視線がリュウシロウに甚大なダメージを与えている様子。



「……そして何より妾を心から案じ、誰にも言えぬ辛さを汲み取ってくれた……」



白丸は、さらにリュウシロウに強く抱きつく。



「リュウシロウ」


「な、な、な……」



一呼吸置き、思いの丈を打ち明ける。



「大好き……」


「ぶわああああああああああああああ!?!?!?!」



一同、目が点。

トム、フウマ、テツが目を点にしたまま所感を述べる。



「リ、リュウシロウサン……モテますネー……」


「妖の者をここまで惚れさせるとは……本当に毛並みが違うのう……」


「基本的には人間と妖怪は敵対してますから、このケースというのは極めて稀かと」



「言ってる場合か!!!!!!」



そしてイズミが激怒。



「これからどうするんだリュウシロウ! そいつを本当に連れていくのか!? ボクは反対だぞ!」


「う、う――――ん……」



旅はまだ続く。イズミの問いに、彼は答えられないでいる。

困り果てているリュウシロウを見るに見かねたのか、トムが再度会話に加わる。



「トリアエズではアリマスけど、まだイズミサンは修行の身。その間ダケなら構わないデショウ。特に追い返す理由もアリマセンし……」


「何を言ってるんだトム!」


「フフフ、さすがは妾に勝った男。リュウシロウには劣るかもしれんが、なかなかの器だ。褒めてやろう」


「ど、ドウモ……」



トム、褒められる。イズミはますますヒートアップ。さらにフウマまで……



「坊主をここまで好いとるんだからのう……無理矢理引き離せば逆に暴れられるかもしれんし、この際置いておいても構わんじゃろ」


「じ、じいちゃんまで!?」


「はっはっは! フウマと言ったか。お主も話が分かる者で嬉しいぞ! その点女の魅力が微塵もないこの女の、器の小さいこと小さいこと……」


「なんだと!?」



イズミ、再度のブチ切れ秒読みといった印象。

しかし彼女が、あまり口達者ではないのはこれまで通りである。よって頼りにするのはもちろん彼。



「リュウシロぉぉぉぉ! 何とか言ってやってくれ!」


「……」



リュウシロウに懇願する。自身が不利なのは分かっている。でもそれをどうすることも出来ない彼女の選択。



「真面目な話……」


「おお!」



これまで白丸に翻弄されていた彼。突如真顔となり期待が持てる……そうイズミは感じたのだろう。



「白丸にはいろいろと聞きたいことがある。あの時はもうこれ以上引っ張り出せねえと思ったが、こうなりゃ話は別だ」



だが、彼からまろび出る言葉はその期待に反するものだった。イズミ大ショック。



「がーん!!!」


「口で言うんじゃねえよ!!」


「そうか、やはりそうだったのか……」



イズミ、何かを確信した様子。



「デカければ何でもいいんだな! それが妖怪でも何でも!! 見損なったぞ!!!」


「何の話だバカ!!!! ……てかよ、実際お前も情報が欲しいんじゃねえのか? 何せ白丸はほとけのざの周辺に居たんだ。現状、あの一帯の情報を掴んでるヤツはここには居ねから……あ、ちなみにトムもじいさんも、これまで聞いてねえけど知らねえってことでいいんだよな?」


「我輩、アノ町は西国カラ東国へ入る際にコレまで二度訪れてマスけど、結局通り掛かっただけデスからネ。妖怪が活発ナノハ知ってましたが、情報と呼べるヨウナものは持ち合わせてマセン。一度目はソレどころジャありませんデシタし……」


「知っとったらもう言っとるわい。そもそもワシ、任務は基本的にごぎょう絡みばかりじゃからのう。滅多なことでほとけのざには行かん」



つまりは、きちんと西を知る者がいない。よって、西を知る者の情報というのは一行にとって極めて貴重なのである。



「てなこった。お前の目的地なんだろ? 事前に情報があることが、どれだけ助かるかは分かるだろうよ。現に、西の妖怪たちが殺気立ってる理由が分かった……それは何より白丸の情報があったからじゃねえか」


「う、うう……」


「そこを知ってるヤツが居るのと居ないとじゃ、天と地の差があるぜ。それに白丸の場合、状況からして道中のこともある程度知っている。予めそれらを知ってりゃ、今後ある程度効率的に動けるかもしれねえぜ?」


「はう~~……」


「まあ今言ったことは、あくまでも白丸が協力してくれたらの話だ。向こうでキツい目に遭ってんだから、話すことが辛いってのもあるだろ。だから無理強いは出来ねえ」



リュウシロウがそう言うと、先ほどからずっとキラキラと彼を見つめていた白丸の目がさらに輝きを増す。



「協力する~~♪ やっぱりリュウシロウ優しい……妾こんなに優しくされたの初めて……」


「ん、ん、ん゛――――――――!!!」



リュウシロウの真正面から、思い切り胸を押し付ける白丸。窒息の時は近い。

振りほどくのも難儀な彼女のアレのサイズだが、何とか彼は振りほどく。



「ぶっはぁぁぁぁ――――! なななな何すんだアホ!」


「だってぇ……」



リュウシロウとの会話の時のみ、完全に口調が変わる白丸。と言うより猫なで声か。



「ま、まあそういうことだ」


「ぶー……」


「そんでよ、今気付いたんだが……」



イズミはやはり不安そうだが、渋々納得する。とここで、リュウシロウが何かに気付いたようだ。



「ぽん吉何処行った?」

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