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第63話 その必要なし

「サテ、帰りマスかイズミサン」


「え、えーっと……」



トムはすっかり口調が元通りとなるのだが、かえってイズミは戸惑う。

だが状況も状況なので、早く戻りたいというのが本音だろう。



「まあ話は後にしよう。とりあえず戻ろうか」



そう言いつつ彼女がリュウシロウを、彼がフウマを抱えようとしたその時だった。



「う、うーむ……」


「フウマさん!? 気が付きマシタか!」



フウマが目を覚ます。トムが大天狗と戦っている最中もそうだったが、何時の間にか気を失っていた様子。



「……ん? んんんんん!? こ、これは!?」



崖壁に背を預け、全く動かない様子の大天狗が視界に入り、非常に驚く。



「トムがやってくれたんだよじいちゃん。二文字に目覚めたんだ」


「なななな……なんと!? まさか……あ、いや、この状況を見たら信じるしかあるまい……」



『大天狗が倒れている』。これだけで説得力は十分なのだ。



「しかし……すまんのう。ワシの詰めが甘かった所為で、ここまで追い詰められるとは……」


「何を言うんデスか! フウマサン一人でアレば何なく倒せてイタはずデス!」


「そうだよじいちゃん。ボクたち……いや、ボクが……弱いから、何処かで気にしてたと思うし……」



責任を感じているフウマ。

それを必死にフォローするトム。

イズミは……力の足りない自分を恥じている印象だ。



「とりあえず先に戻ろうか。リュウシロウが……」



そして、その場からそそくさと離れようとする。リュウシロウが心配なのもあるだろうが、他に思うところもあるのか。


だが、その必要はなかったようだ。



「もう大丈夫じゃよ。お主、そんなに近くに居て分からんのか?」


「……え?」



彼女はリュウシロウを二度見する。すると……



「んご~~~~……」


「…………!!」



イズミの額に青筋が現れる。



「ぐぬぬぬぬ、この馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」



だがまもなく笑みを見せたことから、心から安堵したことが伺える。



「デスガ、フウマサンは大丈夫なのデスカ?」


「問題ない。坊主もワシも、薬がよう効いとるわい。さすがテツが作っただけのことはあるのう」


「この軟膏、どくたあ先生が作ったのか!?」



ようやくここで、いつもの雰囲気が戻る。

だがフウマはおもむろに、大天狗の方向へ足早に歩を進めていく。



「ど、どうしたんデスカ?」


「どうするも何も、トドメを刺さんといかんじゃろ」



その言葉と同時に、一行は大天狗が倒れる場所へと進む。




※※※




「しかし……よくもまあこれほどの威力の術を……もしや烈風かの?」


「そのトオリです。フウマサンと同じ疾風と思ったのデスガ、私は違ったみたいデス」


「???」



イズミにとって、よく分からない会話。彼女は抱えているリュウシロウをその場に下ろし、二人に歩み寄る。



「レップウとかシップウとか、何言ってんだ?」


「あ、エ、エーット……」


「話せば長くなる。帰ってから坊主に聞けばよい。それよりも先に……」



そう言うとフウマは、右手に風を纏わせ攻撃体勢に入る。



「こやつを始末せんとな」



動きに淀みがない。

先の、大天狗による反撃をやはり自身の失態と感じているようだ。同じ轍を踏むまいという意思が感じられる。



「フ、フウマサン! ちょっと……!」



『殺しまでは』的な考えがあるのかもしれない。トムは彼を制止しようとする。イズミも表情が曇っている。



「……」



だが、二人共強く止めようとしない。フウマの意図が分かるからだ。


このまま大天狗を生かしておけば、いずれ集落が襲われる可能性がある。またはこべら町にも被害が及ぶかもしれず、フウマの判断は人間視点において何ら誤りはないのだ。


ただ、大天狗がこのまま意識を失っていたままなら、まだその内に残る罪悪感、不快感に蓋が出来たはずなのだが……



「う、う……」



目を覚ましてしまう。

それと同時に、フウマが右手を振りかぶる姿が選択の余地なく視界に入る。



「あ……う……!」



そのため、たちまちその表情は青く染まる。ダメージによるものか、上手く声を出せないようだ。



「目を覚ましてもうたか……意識の無い内に済ませかったが仕方ないのう。許せ……」


「あ……! あ……!」



かすれた唸り声を上げ、嗚咽する大天狗。その瞳から、ぼろぼろと涙が溢れる。



(嫌だ! まだ死にたくない! 消えたくない!)



心の叫び。しかし、当然伝わる訳がない。



(妾はまだ……まだ……!)



やり残しがあるのか、目前に迫る死に強く恐怖する。

そしてまもなく、フウマの右手が振り下ろされるその時だった。



「ちょ〜〜〜〜〜っと待ったぁぁぁ〜〜〜」



「え?」

「ハ?」

「む?」


「……?」



皆が居る位置から少しだけ離れた場所から、随分と久しく感じる声が発せられた。

一同、ピタリと動きが止まる。



「何やってんだよじいさん」


「リュウシロウ! 気が付いたんだな! ……良かった……」


「お、おう。大丈夫だから、あんま真っ直ぐ見んなって……」



リュウシロウが目覚めたようで、のそのそと皆に近付いてくる。イズミが涙目となり、いささか恥ずかしいようだ。

そして、彼に呼ばれたフウマはその姿勢のまま答える。



「見て分かるじゃろ」


「分かるけどよ……」



リュウシロウは耳をほじりながら、何かを考えつつ話しているように見受けられる。



「そいつ、殺す必要ねえぜ?」


「!」


「はん? 何を言っとる。こやつを生かしたままにしておけば、間違いなく被害は拡大する。一番の被害者のお主なら、ワシの言わんとしとることは分かるじゃろ」



まさかの『殺す必要なし』。大天狗は、それが最も聞きたい言葉だったのか、強張っていた面差しが幾ばくか和らいだ様子。

だかフウマは否定。リュウシロウを一番の被害者としてみたものの、



「一番の被害者? じゃあ俺の意見は無視出来ねえよな」


「……む。何か理由があるのか?」



即座に切り返される。もちろんその理由なくして了承は出来ないため尋ねる。



「理由も何も、コイツらそもそもからして集落にもはこべら町にも攻め込む気はねえぞ?」


「は?」

「ハ?」

「は?」


「!!」



まさかの発言。これまで烏天狗たちが攻め込むことを前提として、イズミの修行を兼ねた討伐だったはず。

リュウシロウはそれをあっさり覆す。もちろん皆は目が点だ。


だが大天狗だけは驚きの様相を見せた後、彼に縋るような視線を送る。



「まあ俺も、後から分かった口だからあんま偉そうなことは言えねえけどな」


「ま、待て待て! 何を言っとるんじゃお主は」



リュウシロウ以外は『?』である。



「んあ? 説明いるか?」


「いるに決まってるだろ!」

「逆に、ドウシテ必要がナイと思ったんデスカ……」

「当たり前じゃわ! はよ言わんか!」


「……?」



『何故?』という一言が適切だろう。大天狗のそんな表情。



「理由は簡単だ。はこべらどころか、ドクターのとこの集落すら落とす戦力すらねえんだよコイツら。そんな連中が、わざわざ何処かを攻め落とそうとするかよ」


「そんな訳あるか! 烏天狗があれだけ居たんだぞ? 巣に行けばとんでもない数が居るはずだ!」


「イズミ。それ、根拠あんのか?」


「そ、それは……」



口籠もるイズミ。するとここで、トムがリュウシロウに切り出す。



「根拠と言うホドのモノじゃアリマセンが、一般的に考えレバいきなり全戦力を一箇所に投入するナンテ考えにくいデショウ。住処からアル程度の戦力を出して我々に対応シタ……よって、まだ戦力は残ってイルと考える方が自然ダト思うんデスけど……」


「……」



リュウシロウ、沈黙しつつ今度は鼻をほじる。



「……たく、分かってねえなぁ。じゃあなんでこんな場所にまで逃げてくるんだよ」


「逃げて……くる?」


「!!!!!」



大天狗は何処からか逃げて来た。それがリュウシロウの考察。

大天狗は少しだけ身体を震わせ、硬直する。そしてリュウシロウはさらに言葉を続ける。



「じいさんが倒したってんで駆け付けた時、コイツの目を見て分かったんだよ」


「な、何がデスカ?」


「コイツ、怯えた目をしてやがった。自身の処遇がじいさんから語られる前からな。それよりも前に、何処かで怖ぇ目に遭って来たんだ」



皆、顔を見合わせる。まるで分からないといった様子。

するとリュウシロウ、おもむろに大天狗に近付き目前でしゃがむ。そして、ジッと彼女を見つめ一言。



「お前らさ、西から逃げて来たんだろ?」

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