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第59話 トムの過去③



ある日の晩。



「馬鹿者!!!!!!!!!!」



トムの父の怒号が飛ぶ。出発前、帰宅の後は常に微笑むような面差しが印象的だったのだが、この時は剣幕を変え彼に強い言葉を浴びせる。



「町には行くなと、あれほど言ったはずだ!!!!」


「それに関しては……本当に申し訳ありません。つい、興味本位で……」


「……」



父に頼ることは出来ないと考えていたトム。しかし、自分に出来ることを模索した結果、こうするしかなかったのだと判断したのだろう。子どもに出来ることなど限られているのだ。


とは言え、父との約束違えたのは事実。それについてトムは謝罪をする。だが父は、頭を垂れる彼を不安そうに見つめつつ、何かを思案しているようだ。

傍らにいたアム……トムの母だ。不安そうにこの様子を見守っていたが、父に近付き耳打ちをする。



「あなた……トマスがもう十歳だと、心配はいらないと言ったのはあなたですよ?」


「ああ、分かってる。……すまないトマス。少し言い過ぎたようだ」



二人のトムを見つめる視線。叱り付けたのは間違いなく彼の身を案じてのこと、そして心から思ってのことのように見受けられる。父は再度、少しだけ考え込んだ素振りを見せ、さらに言葉を紡ぐ。



「物事に興味を持つことは良いことだ。それを頭ごなしに否定した私を許してくれ」


「い、いえ! 私がお父様の言いつけを破ってしまったのが……」


「もういいんだ。お前も……もう知っても良い年頃なのかもしれんな」


「え?」



そう言うと父は、アムに目を配る、立ち去りを求めたのか、まもなく彼女は部屋を出て父と二人きりになる。



「トマス、あの町のことが知りたいのだな?」


「……あ。は、はい!」


「まず始めに言っておく。これまでお前には伝えていなかったのだが、あの町は、あの土地は、我々が先祖の代から管理しているのだ」


「か、管理……ですか?」



つまりは地主、持ち主ということだ。



「ああ。そしてもともとは農業、商業で賑わっていたのだが、今から十年近く前に当代のプレジデントが就任したや否や、政府から経済発展を重視せよという通達があってな」


「国から!? 一体どうして……」


「プレジデントは典型的なタカ派だ。経済発展をしつつ、軍の増強を図ろうとしたのだろう」


「で、ですが、この大陸の支配は済んでいます。今更増強など……」



少し話がズレている。それを分かってか分からいでか、父は悩んでいる様子だ。言っていいものか、悪いものかと考え込んでいるのか。



「実はな……数年前に新たな大陸が見つかったのだ。オーガ・カナルの向こうと言っていたな」


「オーガ・カナルの向こう!?」



父は少し間を置き、咳払いをしてから次の言葉を発した。



「ああ。何とも上手く、都合よく新たな大陸が発見されたわけだ。そこは文化レベルも我々より数段低いとのことだから、仕掛けるのは間違いないだろう」


「そ、そんな……」


「まあ、まだ攻め込むにしても後数年は掛かるだろうし、()()()()()()()()()()()()()()()。安心しろ」


「そういう……訳では……」



俯くトム。暫くの沈黙の後頭を上げるのだが、そこには悲痛な面差しで彼を見る父の姿があった。



「トマス」


「は、はい!」


「あの町で、友達でも出来たのか?」


「……!!」



ズバリ言い当てられる。その瞬間、トマスは父の意図に気づいてしまった。



(もしかしてお父様は……僕のためにあの町を犠牲に……)



本当にトムのことをよく見ている、愛しているのだろう。そうでなければ、彼の普段の行動や思考などに気付くはずもない。だからこそ分かる父の決断。


かつてない心理的葛藤が彼を襲う。

錆色の町は、早急に何らかの手を打たねばならない。

だが目前の対処だけならともなく、抜本的な改善を図ろうとする場合は政府と衝突する可能性が高く、父が自身を守るための決断が無駄になってしまう。



「……」



トムはこれ以上言葉が出ない。すると父は……



「トム。言ってしまえば私は死の商人だ。経済発展のために町を犠牲にし、多くの民を死に追いやった。この因果はいずれこの身に降り注ぐだろう」


「……」


「政府の言われるがままに、民を甘い言葉で誘った結果がこれだ。民を避難させるという話も上がっているようだが、それもなかなか進まん……」



黙って父の話を受け止めるトム。だが一点どうしても気になったことがあるようで、僅かの沈黙の隙を見計らって質問をする。



「民の……反対などは無かったのですか?」


「無論あった。建設に関しては、説得もあり反対はそれほど見られなかったのだが、工場の稼働から半年辺りで症状を訴えるものが急増し、そこで大きな運動になりかけたのだ」



トムは今の発言に不自然さを覚える。



「なりかけ『た』……?」


「本当に賢しいなお前は。あの(おびただ)しい量の煙を見て私も違和感は感じた。稼働後まもなくから実態調査を始め、逐一状況は把握していたよ。症状を訴えるものが現れ始めた頃から、私は私兵を十全に集めておいたのだ」


「つまり……弾圧……ということですか」


「…………そのとおりだ」



血の気が引く。しかし、それでもトムの疑問は収まらない



「そ、その通達の逃げ道は無かったのですか……?」


「逃げ道か……人間、抱える者が増えれば増えるほど、逃げるための道などなくなるものだ。何かがあれば、そこの責任者が矢面に立たなければならないのだからな」



これは父の矜持だろう。どれだけの権力者であっても、大所帯を持つ地主であっても、我先に逃げるものは少なくない。



「通達を無視すれば土地は没収。即座に政府管理だ。状況は変わらないだろう。かと言って、抵抗する素振りやその様子を見せれば監視下。それなりに立ち回らねば、いつ政府に睨まれるか分からない」



ここでトムはハッとする。自身が住む家の豪華さ、華やかさに。これが父の立ち回り方だったのだろう。そうしなければ、不穏分子の可能性として監視下に置かれる可能性を父は鑑みたのだ。

そしてそれは、愛する息子の将来を奪う結果となりかねない。よって親の決断なのだろう、トムを取り民を捨てたという形となったことを否定出来ない。



(それに……この家はウォーリーを始め、執事やメイドが多い。これももしかして……)



三十程度の部屋数という館に、総勢数十名の執事やメイドたち。明らかに建物の規模に見合っていない。ごく一部しか享受出来ないものの、民の雇用や安全をそういう形で守ったのか。



「トマス……すまない。お前の友達がいる町をめちゃくちゃにしてしまった。私は、生きている内に必ず罰を受けようと思っている」


「そ、そんな! お父様は仕方が無くやったことです! 悪いのは……悪いのは……わた……」



父は黙って首を振る。『それを言葉にするな』という意味だろう。

ただただ悔しいトム。父にこの選択をさせたのは自分。目は潤み、顔は紅潮し、あらゆる負の感情を滲ませている。

だがここで、父から思わぬ言葉が飛び出す。



「連れて来なさい」


「え?」


「友達一人くらいなら誤魔化せる。身体が悪いのだろう? 当面の間、部屋を一室貸そう」


「お、お父様!」



まさかの提案……いや、これまでの会話が管理者としての本音であるなら、自然とこの選択を取っただろう。負の感情を滲ませていた面差しが、途端に晴れやかになるトム。


その後、もう暫く町の現状について話し合い、トムは寝床についたのであった。




※※※




明くる日、トムは公園でシェリーを待つ。

だが姿を見せない。大体正午前には木陰で身体を休めているはずの、彼女の姿がない。



(今日は具合が良くないのか……? よりにもよって今日がたまの日だとは……)



なおこれまでも時折来ないことはあったようだ。現に、事前に彼女から『たまに』という説明がなされていたことが伺える。トムもそれを思ったのだろう。


だが次の日、またその次の日も来ない。

姿を見せなくなった三日目から気持ちが逸る。

彼女の身にもしもが起こってしまったのかもしれない。

そう考えたトムは、この日は昼下がりまで待った上で町へ赴くことにしたようだ。




※※※




「はぁ! はぁ!」



気が付けばトムは走っていた。駆け足ではない。全力疾走だ。

シェリーに合わせると三時間は掛かる道のりだが、彼だけなら一時間も掛からない。

まもなく町が間近に迫る。まだ町の入り口が見えてきた辺りであるにも関わらず、空は薄ぼんやりと明るい程度、目前は霞掛かっている。


やがて町の入り口を超え、彼女が住むあばら屋が見えてくる。

何かが重くのし掛かるトム。心臓は強く鼓動し、ただただシェリーの無事を願う。



「シェリー……」



そしてたどり着く。唾を音を立てて飲み込み、中の様子を伺う。

するとそこには……

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