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第55話 フウマVS大天狗

「…………」


「…………」



フウマと大天狗、暫くの睨み合い。双方気を纏い、お互い様子を伺う。

その後まもなく、大天狗が手に持つ錫杖を軽く動かし、先端の遊環が音を鳴らしたその瞬間…



ー攻勢・鎌鼬ー



風を切る音が響き渡る。小さな、無数の風の刃がフウマを襲う。



「ふむ……」



しかしその場から動かない。少し離れた位置にいるイズミとトムは、その光景を見て穏やかではいられないのだろう、大声を張り上げる。



「じいちゃん何やってんだ!!!!」


「ヨ、避けてクダさいフウマさん!!」



声が聞こえたのか、フウマは少し笑みを浮かべながら『やれやれ』といった様子。



「もう対処は済んでおる」


「対処?」



フウマが何かしたようには見えないイズミは、その言葉の意味が分からないようだ。

しかしその意味は、大天狗の放った術の軌道を確認することで判明する。



「え!? 逸れ……た?」


「ナント!」



イズミの言葉のとおり、術がフウマに着弾する寸前で逸れ、あらぬ方向へ攻撃が飛んでいく。なんらかの忍法を使用したか。



「ほう? ならばこれでどうだ」



少し感心する様子を見せた大天狗。さらに錫杖を鳴らし、別の術を披露する。



ー攻勢・切颪ー



今度は大きな風の刃が、フウマ目掛けて突き進む。しかも…



ー攻勢・切颪ー

ー攻勢・切颪ー

ー攻勢・切颪ー

ー攻勢・切颪ー

ー攻勢・切颪ー



なんと、切颪の乱れ撃ち。鎌鼬のように小さな風の刃ではなく、大きな風の刃。それを縦横無尽に繰り出す。この戦闘を眺め入るトムは、いささか動揺しているようだ。



「さ、さすが……デスネ」


「トム?」


「ケイユンサンとの戦いデモお見せしましタガ、切颪というノハ比較的威力の高い術デシテ。アアも連続で繰り出すノハ大変なんデスよ……」



烏天狗戦でも見せているのだが、一撃で敵を片付けられる辺りトムの言葉は本当なのだろう。



「それをあっさりやってのけるってことか……」


「ハイ。烏天狗たちとはワケが違いマスヨ」



この短期間で、大天狗の実力が垣間見える。だが、フウマはやはり余裕の笑みを崩さない。



「ふぇふぇふぇ。そんなに事を急いては、貰い手も少なかろう。……忍法」



守勢(しゅせい)廻風(めぐりかぜ)



フウマの忍法。即座に彼の周りに風が巻き起こる。

初めて見る忍術に、イズミの頭には疑問符が付く。



「あれは……?」


「守勢・廻風。近いモノで風波がありマスが、ソレとは違い正面カラ受け止め切れナイ攻撃を、流すヨウに跳ね返す術デス」


「風忍術ってほんとに便利だな……」


「風波ヨリちょっと難しいんデスけどね」



トムの説明のとおり、切颪はフウマの周囲に巡る風に撒かれ、そのまま大天狗へと軌道を変える。大天狗は動かず、何かを見定めているような雰囲気だ。



「なるほど……」



バチィィィィ!!



そしてそのまま羽団扇を振りかざす大天狗。その瞬間、跳ね返された切颪が弾けて消える。返ってきた術の対処を済ませた後、彼女は不敵に笑みを浮かべる。



「失礼した。少々みくびり過ぎたようだ」


「ほっほ。構わぬよ。このような年寄り、すぐに倒せると思うじゃろうて」


「……む?」



フウマに対する評価を改めた様子の大天狗。次の攻撃に移ろうとしたようだが……



翼勢(よくせい)翔天歩(しょうてんほ)



先にフウマが何かの術を自身にかける。すると足に風が巻かれ、彼の身体が宙に浮く。



「二文字……か」


「お前さんも同じじゃろ? のう、可愛らしいお嬢さん」


「フフ……」



さらに笑みを濃くする大天狗。どことなく、楽しさすら感じているようだ。



「妾と同じ領域、(くう)にまで踏み込むとは……感心したぞ」


「ほっほっほ」


「だがその行い、空を支配する天狗への……」



ここでさらに気勢を高める大天狗。羽団扇を振りかざし、恐ろしげな形相となり、羽根を大きく羽ばたかせ……



「冒涜と知れ!!!!」



ー猛勢・風蓮打(ふうれんだ)!!ー



羽団扇を中心に、平面の風の渦が発生。音を立てて中心部に集まり、最後には人の頭程度の風が不規則に羽団扇周囲を駆け巡り、彼女はそのままフウマへ突進する。直接攻撃の類の術か。



「おっかないのう。可愛い顔が台無しじゃわい」



この期に及んで軽口を叩くフウマ。秘策でもあるのか、それとも本当に大天狗など相手にならないのか。



「!?!?」



すると、突然大天狗が何かに躓いたような素振りを見せる。



「な!? これは!?」


「足元はよく見んとのう。ま、空で足元も何もないんじゃけど……忍法」



ー猛勢・壊衝破!!ー



ゴッッッッッッッッッーーーーーー!



「何!? ぐ……あ……ああああああああ!!!」



イズミとの修行時、彼女へ二文字の力を伝えるために放った術。とてつもない破壊力の、風の衝撃波である。しかし……



「ぐ、ぐぅぅぅぅぅぅ!!!」



バチィィィィィ!!



衝撃波に当てられた大天狗。しかしその途中、羽団扇に纏っていた術の威力と、自身の気勢を用いて術を弾けさせたようだ。



「は、はぁ、はぁ!」


「なんと!」



大天狗が、術に対処するという予想はしなかったのだろう。大きく眼を見開き、明らかに驚いた様子を見せるフウマ。つまり、大天狗の実力は『予想以上』であることが伺える。



「き、貴様ぁぁぁぁ~~~!」



大天狗も予想外だったのだろう。驚愕の後、怒りがこみ上げているような印象だ。

釣り目をさらに吊り上げたことにより、恐ろしげな形相へのアクセントとなる。



「ぬ?」



すると大天狗は、手に持つ大団扇と錫杖を捨てる。だがフウマはそこに注視したわけではない。彼の視線は、先ほどまで得物を持っていたその手にあった。



大惠刀印(だいえとういん)……? 忍術ではないのう……なるほど。()()()



聞きなれない言葉。忍が結ぶ印のような形を両手で組む大天狗。すると彼女は何やらぶつぶつと唱えている。



「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不異色色即是空空即是色受想行識……」


「……」



不思議な言葉を羅列する大天狗。すると、彼女の身体が少しずつ透過していく。フウマは警戒する。



「紛れもなく神通力じゃの。しかし透過では、ワシを欺くことは出来んぞ?」


「どうかな?」



その言葉を最後に、彼女の身体は完全に消失する。その瞬間、フウマは何か違和感を覚えたようだ。



「……むう……気配も何も感じられん……」


「妾の神通力、姿を消すだけのくだらぬものとでも思ったか?」


「ならば忍法……」



ー翼賛・風便!!ー



術を放ったと同時に、フウマの周囲に風が巻き起こる。以前トムが、はこべら町の宿からリュウシロウを探し出した忍法だ。



「…………なんと、風便でも感知出来ぬとは」


「フフ。貴様はよくやった。妾を一時的にでも劣勢に追い込んだその実力、認めよう」



術を使用しても大天狗を発見することが出来ないようだ。神通力とは、忍の常識には囚われない何かがあるのかもしれない。



「死ね!!!!!」



おそらくフウマに向かっているのだろう。しかし大天狗の姿どころか、空中での移動時における風切り音なども聞こえない。空に響き渡るような声が聞こえるのみだ。



(まさか姿を消すだけでなく気配も……いや、まるでその場に居ないかのようじゃわい。こりゃあ指折りに厄介な能力だのう)



思案するフウマ。それほど余裕がないように感じられるが……?



ボッ!!!!



「!!!」



突如フウマの背後から現れ、突きを繰り出す大天狗。しかし、かろうじて彼は躱すことが出来たようだ。



「よく避けたものだ……しかし!」



再度大天狗は消失。だがそれをみすみす放っておくフウマではない。



「忍法!」



ー猛勢・波状環(はじょうかん)!!ー



「何!?」



フウマの目前に、気で圧縮されたような真円の、巨大な風の壁が矢庭に現れる!

その真向かいにいる大天狗。時を置かず、それが放たれることは想像が出来るだろう。



(これはまずい!!!)



危機を感じた彼女は、姿を消しつつ取急ぎ回避行動を取るが……



ゴォォォォォォ――――――――!



「くっ――――!」



風の壁が身体を掠める。直撃を免れたことに安堵した彼女だが……



ズドォ!!!



「が……はぁ!」



フウマの蹴りが彼女の美しい肢体、その腹部に突き刺さる。大天狗は何がなんだか分からず、動転しているようだ。



「な、何故!? 貴様、見えているのか!」


「別に見えんでも何とかなるわい」


「……………………え?」



ダメージの所為か姿を現した大天狗。その表情は驚愕そのもの。



「あー……あれじゃ。経験則ってヤツじゃよ」


「そんなもので……!」


「分からんかのう。パッと見たところ、お主は随分直情的なようじゃ。そして姿を消したことの優位性による慢心。まあ他にも諸々あるんじゃけど、ある程度次の行動は読めるもんじゃて」



唖然。その言葉が相応しい面差しをする大天狗。



「それに、神通力を使ってからというもの忍術を一切使用しておらん。制約や制限があるようじゃな」


「う……うう!」



彼女はフウマから距離を取り、またしても姿を消そうとする、が?



「もう遅いわ。忍法」



護勢(ごせい)流々閂(りゅうりゅうかんぬき)



「あう!! ……これは、流々閂か! これほど早く……」



風の流れのようなものが、無数に彼女の身体を這う。風の力で押さえつけられ、全く身動きが取れないようだ。



「勝負ありじゃ。西国語で言うなら……()()()()()()()ってやつかの?」

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