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第54話 大天狗は…?

ひと山超えて……



「カアアアアアアアアア!!」


「そんなもの当たるか!」



一行はひと山を越え、烏天狗たちの縄張りに入った否や襲い掛かられ、戦闘状態の模様。


リュウシロウの情報通り、人間のような顔をしているものの鳥のような嘴があり、山伏の姿に猛禽類の羽根を背に持つ。もっとも、人間のような顔の割に表情がない、また白眼であるためどちらかというと獣に近い印象だ。

そんな烏天狗が細身の棍棒を振り回し、イズミに攻撃を続ける。



「よっ! ほっ! はっ!」



振りや突き、移動まで素早い烏天狗。だがイズミはその攻撃を全て避ける。余裕があるようだ。


まもなく棍棒による連続攻撃による疲労があるのか、最後に彼女へ向かって大振りをし即座に距離を取る。その時だった



(ここだ!!)



「クェ!?」



嘴をパックリと開け、仰天の様子の烏天狗。それもその筈、自身がイズミから距離を取る速度と同じ速さで間合いを詰めて来たのだから。



「はぁぁぁ!!」



ドボォォォォォ!!



「――――!!」



同じ箇所にあるのか不明だが、烏天狗の人間でいうみぞおちにイズミの拳が突き刺さる。



「む!?」



手応えがあったのだろう。攻撃を当てた烏天狗にはもう目も暮れず、すでに目前にまで迫ってきた他の烏天狗に意識を向ける。



「クェェェェェェェェ!!」

「カアアアアア!!!」



2体の烏天狗が迫る!すでに1体は棍棒を振りかぶり、瞬きの間に着弾しかねない状況だ。しかし…



「ワタシが居るコトをお忘れナク!」



ー攻勢・切颪!!ー



イズミの後方に居たトムが、風の刃で攻撃を仕掛ける。



ザンッ!



「グエエエェェェ――――!」



振りかざした右手の肩から、袈裟懸けのように風の刃が食い込み、烏天狗は絶叫をあげながら轟沈(ごうちん)


もう一方の烏天狗は危機を感じたのか、すかさず距離を取り背に持つ猛禽類の羽根を細かく羽ばたかせる。



(ん? なんだあの動き……飛ぶわけでもなく、逃げるわけでもない……)



不思議な動きをする烏天狗から視線を外さず、その行動の意味を思案するイズミ。だが時を置かず、先のやりとりが閃きのように頭に描かれる。



ーただ共通してんのは、羽根嵐っつー特有の術を持ってるってことだー



「……!! トム!! 羽根嵐だ!!!!」


「ナント!?」



烏天狗の違和感ある行動を、リュウシロウの言葉と共に羽根嵐であると確信するイズミ。



「クエ! クエ! クエエエエエ!」



ヒュー……



「む? 風……?」



いななきながら、細かく羽根を羽ばたかせ続ける烏天狗。すると、彼女に緩い向かい風が吹き始める。



(そよ風……? いや、これは……)



ヒュオオオオオオオオオ!



羽根嵐と思われる術を使う烏天狗から、どんどん風が巻き起こる。それはイズミに巻きつくのように吹き、めまぐるしく風向きを変化させている。



(なるほど。たしかにこの状態で移動すれば、風の影響で体勢が維持出来ない。風忍術にはないよな……不思議なもんだ。しかし!)



「はぁぁぁぁぁぁ!」



身動きが取りづらい……はずなのだが、彼女はその場で気勢を上げ両手拳に気を纏わせ掌を組み、真上に大きく振りかぶる!



「風ごと蹴散らせばいいだけだ!!」



ー強空拳・崩潰!!ー



ズッドォォォォォォォォォ!!!



両手を槌にし、真上から地面を叩き付けるイズミの得意技のひとつ。彼女を中心にクレーターが発生し、意図的にやったのだろうめくりあげられた地面や岩等が周囲に拡散。近辺に居た烏天狗の何体かに直撃する。



「グエエエエエエ!!」

「ギャアアアギャアアア!!」

「グ、グエエ……ゲエエ……」



対象だけでなく、周囲に居た烏天狗をも巻き込む辺り、その威力は健在と言えるだろう。



「カ、カアアアアアア!!」



しかし、あくまでこれは周囲に対する無造作な攻撃。直撃を免れた者も少なくない。その内の一体がイズミ目掛けて突撃する。


しかし……



ザンッ!



「ギャアアッ!!!」


「ワタシをお忘れナク」



突如切り裂かれる烏天狗。トムだ。

結んだ印をそのまま指差すように倒れた敵へ向ける。ニヤリとした際に見せた歯が白く輝く。


その後、束の間の静けさが訪れる。次々に倒されていく仲間を見たからか、烏天狗はそれ以上一行に襲いかかろうとはしない。


空中を浮遊し、様子を伺う者。

棍棒を持ったまま、目線を外さず後ずさりしていく者。

時折震えたような鳴き声を出す者。


客観的に見れば、イズミたちの完勝であると言えるだろう。

引き続き烏天狗を睨みつけるイズミを、トムは少し離れた距離で見ており、何やら考え込んでいるようだ。



(修行の時とはやはり動きが違いますね。何となく吹っ切れた感じもありますし、フウマさんの叱咤激励(しったげきれい)が良かったのかもしれません。さきほどの、烏天狗の羽根嵐をすぐに見破られましたし……超実践派ですか、なるほど……)



イズミはおおよそ、修行ではパッとしないところがあったのだろう。だが実戦における動きの良さ、判断力の向上などを目の当たりにした結果、彼はリュウシロウの一言に真実味を感じてしまったわけだ。


その後まもなく、烏天狗たちは巣に戻るつもりなのか姿を消す。この場の勝利を確認したイズミは、周囲を見渡し状況の確認をするのだが……



「ふぅ……やっぱじいちゃんはすごいな……」


「ソウデスネ。さすがはフウマさんデスヨ」



その言葉のとおり、フウマの周囲には倒れた烏天狗が二十以上。

一方で、イズミとトムが倒したであろう烏天狗は十にも満たない。


フウマは偵察が得意と言っていたものの、そこはさすがの華武羅番衆。寄せ付けない強さを持っていると言えるだろう。



「ふぇっふぇっふぇ。お主らもすぐにワシくらいにはなる……いんや、とっとと追い抜いてもらわんとの。ワシが楽出来んではないか」


「何をオッシャイます。いつまでも現役で……エ?」



フウマの軽口に、軽口で返すつもりだったトム。しかしフウマを見る彼の視線のその先には、明らかに烏天狗とは明らかに違う何かが浮いていることに気付く。



「あ、あれは……? もしやリュウシロウが言ってた……」



イズミもその何かに気付く。ちなみにリュウシロウは、前線から100mほど離れた茂みの中で身を隠している模様。



「じ、じいちゃん……」


「分かっておる。大天狗じゃ……およ?」



笑みを浮かべながら、地上から大天狗を見上げるフウマ。だが何かを発見、そして驚きがあったのか、眼が大きく開く。なお、トムも似たような反応をしている。



「ほ、ほえほえ~……珍しいのう……」


「え、エット、フウマさん。大天狗とイウのは……その……」


「???」



少しばかり空気が変わる。イズミはその理由が分からないようで、首を傾げたまま沈黙。

なおその理由は、次のトムのセリフにあった。



「メス……いや、()()なんデスカ?」


「は?」



驚きの状況。トムの発言に、イズミは大天狗を二度見する。


目前の大天狗は猛禽類の羽根であるのは烏天狗と変わりないが、破れが目立つものの白を貴重とした高貴な式服(しきふく)のようなものを着用、左手には錫杖(しゃくじょう)右手には羽団扇(はねうちわ)を所持しており、明らかに様相からして異なっているのが分かる。


さらに嘴ではなく鼻の高い真っ赤な顔……いや、正面から見て少しズレが確認出来ることから面か。腰まで届く美しい純白の長髪が印象的で、全体的に白が基調となっている。なお身長はイズミより少し低い程度だ。

そして何より、破れのある式服から僅かに覗かせる豊かな双丘が、まさに女性を表していると言えよう。



「何者だ? 貴様たちは」


「え!? 話した……?」



長い鼻の赤面の奥から声が発せられる。少し低めではあるものの、声の質は明らかに女性だ。というより、そもそも妖怪やその類が会話が出来るのか。これまでには無かったシチュエーションだ。


現にイズミも驚く。彼女は東の果てで妖怪たちを討伐しつつ生きていたようだが、それでも過去にこのような状況に遭遇しなかったのだろう。



「妾が話すのがそれほど珍しいか? ……ふん。自分が最も利口だとでも思っておるのか。これだから人間は……」



ため息を交えながら、一行というよりも人間そのものに苦言を呈す大天狗。一行が、彼女?の一挙一動を警戒し沈黙を保っていると、自ら赤面を取りその素顔を露にする。



「まあよい。どうせ消え行く命だ。多少の驕りには目を瞑ろう」



なお明るみになった素顔は、ほぼ人間のそれと変わりがない…のだが、極めて透き通った肌に切れ長の釣り目、鼻筋が通ったその小顔は、客観的に見て美女と言って差し支えはない。

その言葉と同時に錫杖を前に掲げ、うっすらと気のようなものを纏う。臨戦態勢だ。



「お嬢さんや」


「?」



まもなく攻撃を仕掛けようとする大天狗に対し、フウマが声を掛けた。大天狗は現在の姿勢のまま耳を傾けている。



「せっかくこうしてお話が出来るんじゃ。ちょいとそこいらにでも座って、談笑といかんかね?」


「阿呆なのか貴様は。それに応じる理由が何処にある?」



フウマの提案……と言うより軽口か。もちろん大天狗は応じない。さらに気勢を高め、これ以上は聞く耳を持たないといった印象だ。



「ありゃりゃ、阿呆って言われちったわい」



舌を出し、お茶目な表情を作るフウマだが、もちろん現在の張り詰めた空気に沿うものではない。だがそれを『余裕』と感じたのか、イズミもトムも少し緊張が解けたようだ。



「まったく。じいちゃんは空気を読まないな。本当に大丈夫なのか?」


「い、イズミサンがソレを言うんデスか……?」



少なくとも、トムがイズミに突っ込むくらいには緊張がほぐれている様子。

だが時を置かず、フウマは鋭い眼となり歩を進め、改めて大天狗を真正面に置き対峙する。

大天狗と同じく気勢を上げる。それは何となく、戦いの狼煙のように見えた。



「ほっほ。よーく見ておけ。二文字の戦いというものを……な」

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