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第53話 烏天狗と大天狗

ー明くる日ー



「随分険しいな。まあ人間が来ないところを選んで当たり前か」


「烏天狗は警戒心が強いからのう。そんでこの山を越えれば、烏天狗の縄張りに入る。重々注意せんとな」



イズミ、リュウシロウ、トム、ぽん吉、フウマの五人は、早朝から養生所を出発し、北の山中を歩く。



「もともと西におった連中だったみたいじゃの。枯れネギ坊主、お前さんなら情報があるじゃろ?」


「すっかり枯れネギ坊主にしやがったな……まあいいや。じゃあここいらで、この俺様の下調べのお披露目と行くか」



するとリュウシロウは、束ねた控帳のようなものを取り出しペラペラとめくる。



「えー…烏天狗だが、人間っぽいクセに口だけがクチバシっつーふざけた顔面だ。鷹とかトンビみたいな羽があって山伏の格好をしてんだが、人間なんか鳥なんかハッキリしろよって話だな。


そんで得物は、大抵細長い棍棒でケチ臭い。基礎的な風忍術をいくつか使ってくるんだが、どいつが何使ってくるかは個体差があって分からねえ。


ただ共通してんのは、羽根嵐(はねあらし)っつー特有の術を持ってるってことだ。これ自体に攻撃力はねえけどバランスを崩されるから要注意な? あと徒党を組んで襲い掛かって来やがる。コンビネーションが面倒臭えから、ここも用心しとけ」



まさにリュウシロウ流の説明。一同理解出来た様子だが、トムは糸目で呆れ気味だ。



「悪意シカ感じられナイ説明デスね……」


「こちとら、ちょいと苛立ってるからな。ああちなみに戦闘力についてだが、個々で言うならそれほどって感じだな。空飛んで来やがるから、不得手なヤツだと防戦一方になるかもしれねえ」



その苛立ちは、烏天狗討伐が現実のものになってしまったのが原因か。

なおリュウシロウはイズミに視線を送る。そこで彼女が前に出るのだが…



「なるほど。よし! いいか? 不得手なヤツは注意だぞ!」


「お前に言ってんだよバカ!」


「なんだと! ボクだって空を飛ぶ敵くらい……」


「お前は遠距離攻撃持ってないだろうが!」


「あ……。い、いや! 不本意だが、岩を投げつけてやれば……」


「妖怪退治で投石かよ!? 一周回って新しいわ!」



何を勘違いしたのか、イズミがリーダーシップを取り始めてしまう。リュウシロウにその意味は無かったようで、いつものように突っ込む。


いつものような雰囲気。とてもこれから妖怪討伐に向かうような空気ではない。

イズミとリュウシロウ以外がそう思った時だった。



「ふーむ」


「どうしたんデス? フウマさん」



鋭い目線で向かう方向をにらみ付けるフウマ。その感嘆詞は、自然と口に出たものだろう。トムは疑問を抱き、直ちに彼へ質問する。



「先に探りを入れてみたんじゃが、何かに阻まれとるのう」


「……エ? フウマさんの忍術ヲ阻む? ソノヨウナ手練が……?」


「あ、やっぱ居たか。大天狗(おおてんぐ)だろ。嫌な予感が当たったぜ。烏天狗じゃじいさんの忍術は阻めねえからな」



どうやらフウマ、風忍術を使用し行き先を哨戒(しょうかい)していたようだ。だがそれも敵わず、何者かに阻まれているとのこと。

リュウシロウは『大天狗』と目星を付けるが……



「大天狗ってなんだ? 今からやっつけるのは烏天狗だろ?」


「烏天狗とは別種だ。……そうだな、つまりはボスみたいなもんだ」



『ボス』という言葉と同時に、イズミの瞳が輝く。



「た、たしかボスって親分って感じの意味だよな! 烏天狗の親分か! よーし、腕が鳴る……」


「お前じゃ勝てねえよ」



リュウシロウ、意気揚々のイズミをバッサリ。いつもは何かしらの形で言い合いになるのだが、反論させる暇を与えないかのように一言で済ませる。



「な!? そんなのやってみなくちゃ……」


「分かるんだよ。大天狗は……二文字の風忍術使いなんだぜ?」


「え……? 二文字……だと?」


「それだけじゃねえ。神通力っていう……まー神の力ってヤツだ。めんどいから説明は省く。そんな正体不明の攻撃をどう対処すんだよお前は」



リュウシロウの説明により、徐々にトーンダウンしていくイズミ。『二文字』と聞いてしまったが故か。

しかし、もはや目星というより確定とでも言わんばかりの口ぶり。ここでフウマが間に入る。



「お主、まるで巣窟に大天狗がいると分かっておるかのような口ぶりじゃの」


「俺とドクターの話聞いてたろ? 烏天狗の情報を掴んだのは数週間前だぜ? 大して知能も高くねえ烏天狗だけなら、そのまま北に降りてきてすでに一悶着あったろうよ。


だがその様子もなく、巣くってからずっとそこにいやがる。となりゃ、烏天狗を束ねているヤツがいるって考える方が自然だろ。そんで数多い、空飛べるあの連中を束ねられるっていや限られる」


「ソレデ大天狗という妖怪に行き着いたワケですカ」


「ああ」



説明を終えたすぐ、皆からの発言がないことをリュウシロウは確認する。その上で、即座に踵を返した。



「リュウシロウサン? どこへ行くんデスカ?」


「何処へって……帰るんだよ。大天狗にも個体差があって、そこまで強くねえならこの面子でどうにか出来ると思ったが、じいさんの術を阻むようなヤツじゃシャレにならねえ。てか俺、昨日からヤベーって言ってただろ」



たしかにヤベーとは言っていたが、大天狗の話はしていない。つまりは肝心なところを話していないのだが、それはイズミを触発しないためか。



「そ、そんなに強いのか。……くそ!」



悔しげなイズミ。自分の力の無さをふがいなく思っているのだろう。とここで、この空気にそぐわない反応を示すものがいた。



「ふぇっふぇっふぇ」



フウマである。



「何がおかしいんだよじいさん。ほら、早く帰るぞ」


「枯れネギ坊主。お主はずいぶんと賢しいようじゃが、まだまだ若いの」


「ああ!? 何がだよ!」


「華武羅番衆の力、侮ることなかれ。ワシは偵察任務の方が得意なんじゃが、それでも大天狗など相手にならんて」



まさかの『相手にならない』。皆、目を丸くする



「あ、相手にならないって……じいさんと同じ二文字だぞ? どの忍術かは分からねえけど」


「忍術は練度が物を言う。そう言ったのは、そうイズミに説明したのはお主ではないか。ワシと大天狗は、ただただ忍術の文字数が同じなだけじゃ」



そう言うと、フウマは目的地に向かって歩き出す。いつもの速度で、少し遅めにマイペースに歩を進める。



「お、おい待てよ! ……たくっ! どうなっても知らねえぞ! 俺は今から逃げる算段するからな!」



リュウシロウも仕方なく付いていく。イズミは無言のまま、悔しそうな面差しをしたまま、トムは少しだけニヤリとしつつフウマと足並みを揃えた。



「イズミよ」


「なんだ? じいちゃん」


「枯れネギ坊主の話で分かっとると思うが、まだお主に大天狗の相手は早い」


「…………」



ギリッと下唇を噛むイズミ。自身が足手まといになるなど、里を出るまでは思いもしなかっただろう。

その気持ちを察したかのように、フウマはイズミに対して言葉を紡ぐ。



「恥と思うな」


「???」


「負けることも、力が足りないのも恥じゃないぞい? それは『今』だけなんだしの。お主は強くなるんじゃろ?」


「あ、当たり前だ!」


「なら、へこんどる場合じゃないのう? 目的を果たしたいのなら、枯れネギ坊主を守りきりたいのなら確実に、着実に積み上げてゆけ」


「分かってる!」



落ち込みかけ、気勢が下がり掛けたタイミングでフウマの激励。イズミは気を取り直す。



(そうだ。ボクは西に行かなきゃいけないんだ! でも今の力じゃ、これから戦い抜くことが出来ない。そのためには……!)



ガシィ!



突如イズミは、自身の拳と拳を打ち付けた。



「ど、ドウシタんですかイズミサン!?」


「よし! 気持ち……切り替えた!! 今日のボクの相手は烏天狗だ! トム、ボクを援護してくれ」


「え、援護……!? イズミサンの口から……? あ、イヤ、分かりマシタ! 疾風の風『ウインド』のゴージャスな援護を期待シテいてクダサイな!」



まもなく、目的地へ到着する。

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