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第52話 妖怪討伐

ー数日後ー



「はぁぁぁぁぁ!!」


「ほい、よっ、はっ、とっ」



体調も万全となったイズミは、いつものようにフウマに稽古を付けられているようだ。

その傍らで……



「フー、ヒー、ハー……」


「なーにやってんだよトム。もうヘバってんのか?」


「ぽぽん……」



青ざめた顔で座り込むトム、そして彼に発破をかけるリュウシロウ、それを不安そうに見つめるポン吉の姿があった。



「イズミのヤツ、まだまだ元気だな」


「ドーヤラ、我々の身体とは根本的なトコロから構造が違うようデス……フウマサンめちゃ厳しいんデスけどネ……うーん、ナンというフィジカル」


「はーい、差し入れだよー。休憩にしましょう」



そこへやって来たのはテツ。冷えた人数分のお茶と、お菓子を準備してくれたようだ。

フウマは手を止め、イズミを一瞥する。



「よし、じゃあ一旦休憩にするかの」


「まだまだやれるぞ! この程度じゃまだまだ足りない!」



気合い十分のイズミ。先のリュウシロウの過去が影響しているのか。



「なら、敷地から出た所に大岩がある。それを持って山を駆けてこい」


「うん、分かった! いくぞぽん吉!」


「ぽん!?」



おそらくぽん吉はお菓子を食べたかったのだろう。何故なら、イズミの下に向かいつつ何度もお菓子に視線を置いていたのだから。




※※※




「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



遠巻きから聞こえるイズミの声。フウマの言いつけ通り、大岩を持って山を駆けているようだ。



「疲れねえのかアイツは……」


「気合い十分、バッチコイですネー」


「……」



呆れ気味のリュウシロウを後目に、フウマは浮かない表情といった感じだ。それに気付いたのか、トムがフウマに疑問を投げ掛ける。



「イズミさん……ドウですか?」


「う――――む……」



何とも歯切れの悪い返答。



「正直に言うが、あんまり成果が出ておらんのう。才能は父親以上と思っとるが……」


「エエエエ!? ちょっとマズイんじゃナイですか?」


「う――――――――む……下地は相当鍛えられているはずじゃが……忍術や体術にうまく反映しておらん。実のところ、現時点で二文字に至っておっても何らおかしくはないが……」



フウマ自身悩んでいるようだ。つまり、鍛えられているには鍛えられているのだが、イズミは上手く活用出来ていないのだろう。



「超実践派だからなー、アイツ」



ここでリュウシロウが口を挟む。この中で最もイズミと付き合いが長いのは彼だ。これまで彼女を見てきて、そういう結論に達しているのだろう。



「修行はあくまで修行。実戦を経て、ようやくそれがモノになるとかじゃね?」


「まあ……父親似であるなら、それも頷けるところじゃの」


「んー? なんかアイツの父ちゃんを知ってる口振りじゃねえか」



リュウシロウもトムも、はこべら町であったフウマとイズミとのやりとりは知らない。



「そりゃそーじゃ。あやつの父、サスケはよう一揆に出入りしておったからのう」


「なんだそりゃ!? 初めて聞いたぜ! 早くイズミに言ってやれよ!」


「お主らに出会った前の日にイズミに会うての。その時にサスケのことは話しておる」


「あ、そういやイズミ、じいさんが旅館に不法侵入してきた時、アンタを知ってるような感じだったな。会ってたのか」


「不法侵入とはなんじゃい!!」



イズミがフウマを知っていることに合点がいった様子のリュウシロウ。その傍らで、テツが非常に驚いた様相を示している。



「……サスケさんの……ご息女? それは雰囲気も似てるはずだよ。何処かで見たことあるなぁって思ってたらまさかね」


「ドクターもアイツの父ちゃん知ってんのかよ?」


「うん。僕が二十歳の頃かな? 一揆でお世話になってる頃、サスケさんがよく出入りしていて僕のことも気に掛けてくれてたんだ」



テツも面識があるサスケ。だが今は故人。フウマとテツ以外は想像でしか彼を描けない。



「なんと言うか……ざっくばらんな人でね。何をするにしても場当たり的なんだけど、何とかしてくれるみたいな? ごめん、自分で言っててよく分かんないや」


「完全にイズミじゃねえか……母ちゃんの遺伝子どこいったよ……」


「容姿は十割母親譲りじゃな」



これまで、イズミとの会話にすら出てこなかった彼女の母。フウマの口からまろび出る。



「大層美しく、夢幻(むげん)小町とまで言われたそうじゃが……ま、ワシの口からはこれ以上言えんて」


「十割母親譲りならそれも余裕で納得出来るぜ。さしずめ忍術小町ってか。厳密に言や忍術ですらねえけど。でもよ、アイツ完全に見た目詐欺……」



リュウシロウが言葉を言い終える寸前、何かが彼に目掛けて凄まじい速度でやってくる。



ズドムッ



「ひらたけっ!」


「誰が見た目詐欺だ!!!!!!!!」



リュウシロウを襲ったのは、額に無数の青筋を浮かべたイズミの拳であった。

巨岩を抱え、山を走ることを命じられた彼女だが、皆の会話中に終えてしまったようだ。



「ほう、もう終わったのか?」


「ふぅ~~。こんなの温いよじいちゃん。もっと厳しいヤツないのか?」


「ふむ……」



あごに指を当て、考える素振りをするフウマ。まもなく何かを思いついたようで、テツとリュウシロウを一瞥した後に……



「妖怪討伐などどうじゃ?」


「おおー! いいなそれ! 最近相手が人間ばっかりだったから、そろそろ妖怪も殴りたいんだ!」



物騒な娘である。もっとも、悪さをする妖怪に限るのだろうが。



「でもさじいちゃん。こんなところに、修行相手になりそうな妖怪なんているのか?」


「ん? おるぞ?」


「え?」


「い、いや、この辺りはへ、平和ですよ? 現にはこべら町からこの集落まで、妖怪はいなかったと思うんですが……」



思わず顔を見合わせたリュウシロウとテツ。フウマはさらに二人を、少し嫌らしい笑みを浮かべつつ一瞥する。



「そうじゃのう……ここから北へ行った山脈に、烏天狗(からすてんぐ)が巣食っているという噂を耳にしておる。そこへ行こうかの」


「な――――――――――――!?」

「えええええええええええええええ!?」



フウマの発言に、リュウシロウとテツは思いっきり叫ぶ。リュウシロウは即座に脳をフル回転させた。



(なんで知ってんだよ! …いや、もしかして俺のせい? 超実践派とか言ったからか!? いや、そんなもんで北に巣食ってるヤツの情報が漏れるわけ……)


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


「なんださっきから!! うるさいぞリュウシロウ!!」



先ほどから叫んでいるばかりのリュウシロウ。イズミはいささか驚いたようで、彼を叱り付ける。どうやら思案の後に何か気付いたようだ。

そこへ耳打ちをするように、テツが彼へ話し掛ける。



(ち、ちょっとリュウシロウ君! フウマさんに自分から言っちゃったの!?)


(ちげえよ! この間俺らが会話してた時、ちょっと風が吹いたろ? アレ、たぶんクソジジイの……)


「誰がクソジジイじゃい!!!」



ボカッ



「ほげぷっ!」


「甘い甘い。お主らの話しとることなどお見通しだわい。初日、枯れネギ坊主がいつまで経っても来んからおかしいと思ったんじゃよ」



先日、リュウシロウがテツに北に巣食う何かの情報提供をした際、フウマが忍術を使い会話を聞いていたようである。つまり筒抜け。



「クソがぁぁぁぁ~……つーか、烏天狗ってかなりヤベーぞ!? じいさんのことだ。どうせイズミをぶつけるんだろ!」


「分かっとるじゃないか。と言うか、ヤベー敵だからこそいいんじゃよ」


「アホか! イズミのヤツ、怪我じゃ済まねえぞ! ドクターはここから離れられねえし、どうせアンタは手を貸さねえだろ! ようやく手を貸す辺りで手遅れなんてことも……」


「ふふ~ん……なーにをそんなに心配しておる?」


「んあ!? あ、う、えっと……えっと……え――――っと……」



フウマに手玉に取られるリュウシロウ。なんだかんだと若いのである。しどろもどろになる彼に、イズミが詰め寄る。



「なんだリュウシロウ! ボクじゃ勝てないって言うのか!」


「い、いや、そうじゃねえよ! そうじゃねえけど……その、アレだ。アレ」


「アレじゃ分からないぞ! 男だろ! ちゃんと言え!」



おそらくよく分かっていないイズミ。そして彼女と目を合わせられないリュウシロウ。ニヤリとしたフウマがさらに茶化す。



「お主のことが心配なんじゃよ。この枯れネギ坊主は」


「だ――――! 何言ってんだバカ!」


「……え?」



リュウシロウに詰め寄っていたイズミが、すぐに彼から距離を取り動きが停止する。



「リュウシロウが……ボクを心配……?」



別にリュウシロウは、これまでイズミのことを心配していなかったわけじゃない。声を掛けたり、激励したりと、それらしきやりとりはあった。



「ボ、ボクを心配……してくれるの……か?」


「い、いや、まあ、その、あの、そ、そりゃ仲間……だし?」



だが改めて、そして事前に心配されることで、意識するところがあったのだろう。



「うが――――! とりあえず行くんだろ!! でも明日にしろ! そろそろ夕暮れだ! 俺は風呂入ってメシ食って風呂入って寝る!!!」



あまりの気恥ずかしさのためか、リュウシロウはそそくさとその場を後にして寝床に向かう。



「いやーポン吉さん、セーシュンですねー! ヨーヤクいい感じにナッテきまシタねー! でもリュウシロウサン、二回オフロに入る気なんですカネー」


「ぽ、ぽん……」



疲労困憊で行き倒れのようになっていたトムだが、何時の間にか復活しておりまるで若者を眺める中年のような視線を二人に送る。ぽん吉は何となくそわそわしている印象だ。



「…………」



一方でイズミは俯き、何となく落ち着かない様子で去り行くリュウシロウを見つめているのであった。

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