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第51話 木立忍術

――――――


――――――――


――――――――――




「そんな……ことが……」


「ぜーんぶ事実だ。母ちゃんはな、あのクズ共にこんな有様にされちまったのさ」



シオリに物憂げな視線を送るリュウシロウ。一方でイズミは……



「…………」



ギリギリと歯を軋ませ、拳を作る。()()()()という表現が適切だろう



「ゆ、許さん! 忍術の悪用、力を持たぬ者への暴力、その対象が実母だとは……! ボクが天に変わって……」


「いいんだよイズミ。気持ちだけ受け取っておく。さんきゅ」



自然か、それとも無理矢理か、笑顔を作りイズミを諫めるリュウシロウ。



「し、しかし!」


「てかよ。これじゃあ、まるで俺がお前にチクったみたいじゃねえかよ。『わーん、僕じゃ戦えませーん。イズミさん助けてー』ってか。情けないにもほどがあるぜ」


「別にボクは何とも思ってないぞ!」


「ありがとよ。でもな、これは俺の問題だから気にすんな。俺流のやり方であのクソカス共はぶっ殺す……つっても、まだ何も考えてねえけど」



未だ納得していない印象があるイズミだが、当事者がこのように言う以上引くしかない。そこへ、ずっと沈黙を保っていたテツが口を出す



「あの時は本当に大変だったね。今だから言えることだけど」


「だな。あの後、血縁上の父とやらが自分の息の掛かった診療所に母ちゃんを押し込みやがったからな。探すのに骨が折れたぜ。三年も掛かっちまった」


「みたいだね。そして僕のことまで調べて遠路はるばるやってくるとは……さすがに驚いたな、あの時は」



リュウシロウとテツが出会った頃の話のようだ。しかしこの会話の中で、イズミは疑問点があったようで割って入る



「なんでそこでどくたあ先生が出てくるんだ?」


「一揆で、医療技術に長けた番衆が居るって話を小耳に挟んだんだよ。まあ俺が調べた時点じゃ、すでにドクターは一揆から抜けてたけどな」


「え? たしかごぎょう神社と一揆は……」



そう、リュウシロウの話によれば険悪も険悪。テツにたどり着いても、彼が一揆を抜けていたとはいえ協力など得られるはずがないと考えそうなものだが……



「腐れ神社と一揆の、死ぬほどの仲の悪さに賭けたのさ」


「??」


「今思うと浅はかだったが、力の無え俺と母ちゃんって顔ぶれなら、一揆とでも話し合いが出来るって考えたんだよ」


「そう考えたのか……」



つまり自分たちは一揆と敵対しない、敵対出来る訳もないのを、全面的に押し出すつもりだったのだろう。



「何にせよ、そんな状態でもリュウシロウ君は僕を探し出してくれたし頼ってくれた。最初は僕も、かなり怪訝な目で見てたけどね。


でも彼が背負っている人物は、怪我こそある程度回復しているものの、目も虚ろで決して楽観していい状態じゃなかった。それはすなわち、僕の中ではその時点で『患者さん』になったんだよ。


そんな困った人を、患者さんを見捨てるなんて……僕の、ぼ、僕の矜持が……忍道が……忍道が……」


「どうしたんだ?」


「あ、やべえ」



徐々に顔面が紅潮し、額に無数の青筋が並ぶテツ。眉は吊り上がり、まるでならず者のような面差しを見せる。

イズミは不思議そうに彼を伺う。すると……



「許さねえんだよボケェェェェェェェェェェ!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」



びっくり仰天。テツの変貌を目の当たりにしたイズミは思わず叫ぶ。

普通に考えれば、リュウシロウは非常に危ない橋を渡ったのだが、テツの人間性に救われたのである。もし敵意を拭うことが出来なければ、人質や幽閉という扱いとなっていた可能性が否定出来ない。それでもテツの性質上、治療は施される結果となっていたと思われる。

もっとも、一揆が具体的にどのような組織なのかはまだ分からないところがあるのだが。



「あーあ、イズミの前でやりやがった。……たく、これだから信用出来るんだよな……」


「はあ、はあ、びっくりした……」


「ご、ごめんねイズミさん! なんか困ってる人が困ってるままだとキレちゃうんだよね僕。それが想像だとしても」



ほんとに困ったクセである。イズミは息を整えてから再度口を開く



「でもさ、なんでごぎょうの連中はリュウシロウのお母さんを見つけられないんだ?」



先にあったトムの疑問である。テツへそのままぶつけるイズミ。



「え、え――――っと……」


「それももう言っちまっていいんじゃね? てか、番衆ってバレたんだからそれも時間の問題だろ」


「うーん……出来れば知る人は少ない方がいいんだけどなぁ」



その後、ブツブツと言いながら数分悩むテツ。まもなく意を決したのか、頭をボリボリとかきながらイズミの前に立った。



「まあ、リュウシロウ君が信頼している人みたいだし……それに、僕自身も君という存在に興味があるしね」


「うん? 何か言ったか?」



テツはかなり小さな声でボソリと呟いたようで、イズミには耳には入っていない様子だ。



「シオリさん失礼! 忍法……」


「え?」



木座欅(きざけやき)



テツの忍法の発動と共に、車椅子に乗るシオリが優しく木々に包まれる。その後木々は変形し、球体に近い形状へと移行した。



「こ、これは……」


「ドクターは、木立(こだち)忍術の使い手なんだよ」


「木立……!? 二文字か!」



リュウシロウとイズミのやりとりを見て、いささか気恥ずかしそうにするテツ。



「ま、まあ一応は元番衆だったしね。それで今使った忍法は木立忍術じゃなくて、本来足場を作る木忍術のひとつなんだけど僕が独自で作り替えているんだ。隔離患者用ってところかな」


「へー……あれ? でもさ、忍法を使うと波動でバレるんじゃないのか?」



気、属性は使用時に察知されるというイズミの理屈だが……?



「ああ、たしかにね。でも気や属性の波動ってのは、僕は医療でよく使うから日常的に漏れてるだろうし、だからこそ直ちにシオリさんを匿っているって答えとはならないと思うよ?」


「医療向けで、そんなにたくさん使い道ってあるのか? よく分からないな」


「こういうこと」



テツが印を結ぶと同時に、イズミの全身にツタが巻かれる。



(印を結ぶのと、術の出がほぼ同時!? これまでそんなヤツは居なかった……)


「くっ! 動けない……」


「あ、いいからいいから。そのままね」



印と同時にツタが絡み、身動きが取れなくなるイズミ。テツの熟練度が垣間見える。

少々焦りが見えるイズミだが、まもなくツタ全体からじわりと水分のようなものが現れ、彼女の身体に付着する。



「あ、あれ? なんだこれ? ……なんだか気持ちいいな……」


「体力回復、外傷治療に役立つ優れものさ。これも木忍術を元に、僕が独自に研究して編み出したんだ」


「もしかして、これでボクの傷を治してくれたのか?」


「そうだよ。ちょっと時間は掛かるけど、完璧に外傷を治すならこれだ」



フウマにやられた傷を完治させたのは、テツの木忍術。イズミ自身が持つ、木忍術の印象が大きく変わる瞬間だろう



「すごいんだな、木忍術って。鬱蒼橡とか、墜葉刃とか、不思議な忍法が多いなってくらいにしか思ってなかったけど」


「木忍術の基礎だね。でも、それらの忍法も使い方によっては人を助けられるんだよ? 火とか、その属性自体が人を傷つけるものは扱いが難しいけど、木はそうじゃない。人間にとって優しい存在だから……」



木立忍術どうこうではなく、木忍術全般に対してテツは並々ならぬ思いがあるようだ。



「それにしてもよ」



ここまで静観していたリュウシロウが何かしらの疑問を抱いたようだ



「どうしたんだい?」


「イズミの格好……もうちょい何とかならねえか?」


「え?」



全身にツタを絡めるだけでなく、そこからにじみ出る液体によりしっとりと濡れるイズミ。

正直なところ、あまり表沙汰にするのはよろしくない格好と言えるだろう。



「わ、わ、わ! ご、ごめんね! い、今すぐ解くから…」



そう言うと、テツは印を再度結び術を解こうとするのだが、焦りのあまりか手違いが起こったようで……



「……はう! あ……あっ、あん!」


「ぶ――――――――――――――――!!」



余計に絞まる。

イズミの艶めかしい声に、思わず吹き出すリュウシロウ。



「なんて声出しやがんだよ!!!!」


「し、仕方ないだろ! なんかかえって絞められてる気が……」


「あわわわわ!」



その後ツタは剥がれ落ち、無事(?)事なきを得たのだが、数分間リュウシロウが前屈みになっていたのに疑問を抱くイズミであった。


なお木々の中に放置されていたシオリも、それに気付いたテツにより事なきを得ることに成功したようだ。

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