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第507話 鬼化

証拠とは?

今の発言の後、リュウシロウはイズミから……と言うより、全員から大きく距離を取る。

そして両手を広げ、少し空を見上げる。



「……」



偶然か、それとも意図的か、何故か周囲の音が消え、張り詰めた空気を示し始める。

一体何をしようというのか、特に攻撃をすることもなく彼女は様子を伺う。



「お……おおお……」



するとリュウシロウ、全身に力を込めるような印象。

属性と気勢が彼に集約するように集まり、体表にそれらが這うように動き始める。



(……なんだ? 一体……どうなるんだ……?)



これまでにない動き。

イズミは警戒しつつも、興味があるような視線。まだリュウシロウという男の、その力の全貌を見たわけではない。自身が絵空事だと言い放った鬼という存在に鍛えられ、地獄で三千年という時を過ごした……その集大成が気になるのは、彼女の性質上ありえるだろう。



「う……おおおおおおおおおおおおお!!!」



やがて雷が、気勢が身体に纏われ、徐々に形を成していく。

まるで外皮のように覆われつつも、鎧のような様相を示していく。


だがこの光景、ごく最近見たことがある。



「……なんか……何処かで……」



イズミも記憶にあるようだ。それもそうだろう。ほんの数日前のことなのだから。


外皮か、鎧か、それらが黄金色を放ちつつメリメリと音を立てて形状を変化させていく。

だが鎧と言うには無骨過ぎる。どちらかと言うと、皮膚が変形したという感じだろう。



「本当に……リュウシロウ……なの……?」



シオリ、我が子のあまりの変化に思考が追い付かない。

彼はスザクに力を奪われた以降、ただの一般的な子どもに過ぎなかった。母親思いの優しい子……そのイメージなど直ちに吹き飛んでしまうような今のリュウシロウの姿。



「!!」



そして、皆がある一部分に注目する。



「……そう……だよな……お前の最強って、やっぱり()()……だよな」



イズミが意味深な一言。


その言葉がまろび出た理由……それは彼の額を見れば分かる。

そう……形状を変化させた後に、額から生える見事な()()()()


おそらくこの術は自己強化。それも極致と言えるものなのだろう。

それは彼自身が現在持つ極限の力……すなわち、彼の中の最強を意味する。


そしてリュウシロウが思う最強のイメージ……もちろんそれは……



「鬼の……姿……だと……?」



ひどく狼狽しながら、スザクが一言。

その言葉のとおり、変化が終わった彼のその姿は鬼そのもの。


雷と気を物質化させ、皮膚へ装甲のように張り巡らせ、顔も鬼の表情のような面で覆われ、その額には二本ヅノ。そして、属性が輝くその姿はまさに……





金色の鬼。





やがて変化が安定したのか、多少輝きは収まりを見せるものの、恐怖と美しさが同居する極めて異質な出で立ちがそこにあった。



「……この隙にぶん殴ってたら……俺に勝ってたかもな。なんで手を出さなかった?」



鬼面の内側から声……イズミに向けたものだ。



「正直言うと……見てみたかった。今のお前の本気ってヤツを、一度はこの目で見ておきたいと思ったんだ。地獄に、鬼に鍛え上げられたものを、形としてこの目に納めておきたかった……っていうのが答えかな」


「ま、こんなもんお目に掛かれることなんざねえからな。だがよ、その所為でお前は……千載一遇のチャンスを失ったぜ?」



まだ戦いは続く。察した彼女は構える……が、リュウシロウは一向に棒立ちのままである。だがイズミはそれについて何も言わない。



「……」



足が動かない。

遠巻きから見えるほど多量に汗をかいているようだ。



(……無茶苦茶な圧力だ……あの黒い鬼はもっと……もっともっと凄かったけど、これでもいち人間が持つ力じゃないよ。リュウシロウ……もう何もかも片付いたんだ。まだ強くなる理由なんてあるのか……?)



つまり、あまりの力に動けないということ。頭では理解していても、身体が反応しない。本能が警鐘を鳴らしているのだろう。

それにしてもイズミの思うとおり、現在のリュウシロウであればそれ以上強くなる必要などない。その一生を終えるまで、現世における最強の称号は揺るぎないのだから。


だが彼女は気付く。



「ああ、そうか……お前はやっぱりリュウシロウだよ。テキトーそうに見えて案外義理堅いんだ」


「?」


「あの鬼たちに、だらしない自分を見せたくないんだろ? そんで、死んでから地獄に行っても胸張っていたいんだろ?」



その通りだろう。そうでなければ、黒鬼に対して『ぶっ倒す』など言えない。



「やっぱり、本質は元のままなんだ。もう……お前も分かってるんじゃないのか? 今さらスザクなんて殺しても意味がないってさ」


「……黙れよ。親が子を育てるってのが責務って言うんなら、きょうだいってのはその他のきょうだいが過ちを犯したときに始末を付けるのが責務なんだよ。……他に誰もやりようがないからな」



論点がズレている。

彼は明確に憎しみを持ってこの場に臨んでいる。だが今の内容では、この一連の行動が憎しみなどの感情論を背景とするものではなく、義務的な意味合いを持っているということになってしまう。これもまたリュウシロウらしくない。


口調こそ圧を掛けたまま……だが内心、揺らぎ始めているのかもしれない。



「そっか……やっぱり、コイツで分かってもらうしかないんだな!」



そう言うとイズミ、印を結び全力全開。この世にあるまじき力を示す彼に対して、最初からすべてを投げ打つつもりで気勢を上げる。



「……」



だが、それでも構えないリュウシロウ。



「はぁぁぁぁぁ――――――――!! 避けないのなら避けないでいい! どうなっても知らないぞ!! 忍法……天手力奥義!!」



―破界!!―



ズンッ……



真正面を捉えた。

装甲のような皮膚状の気でよく分からないが、みぞおち辺りを正確に捉えている。攻撃が通ったのであれば、リュウシロウの身体はヒビが入りやがて全身にそれが及ぶ筈だが?



「……」


「……え?」



何も起きない。

属性を打ち消し、その身に大いなる打撃を与える筈だった。だが何も起こるわけでもなければ、ダメージが通ったようにも見えない。



「そんなことだろうと思ったぜ。お前のそれ……術で何かを生み出したりとかした、二次的なものは打ち消せねえんだ。まあそんなことが出来ちまったら、属性を含んでる何もかもが消えちまうだろうしな……」


「……じゃあその鎧は……」


「お見込みの通りだ。雷を集約して生成した……が、既に物質化してあるってのと、念のために表層に気を巡らせてある……本物と比べりゃあ、見掛け倒しのハリボテだぜ」



コッ……



「……え?」



そのまま、リュウシロウはイズミの顎を叩く。

すると彼女はそのまま地面に崩れ、ぴくりとも動かない。脳を強く揺らしたようだ。


なお彼が言うハリボテの鎧。奥義を受けたところで傷ひとつなく、内側へ威力も通していないようだ。

そういえば、リュウシロウは無謀ながらも打倒黒鬼が目標。鬼の姿に変貌したのは憧れもあるのだろうが、自身が鬼に変化することで鬼を知る……または()()()としてこの術を編み出したのかもしれない。


もしそうなら、人間などひとたまりもない。


なお、イズミはまだ動かない。そんな彼女にリュウシロウが近付く。



「……お前は、ほんとに強ぇんだな……」



その面差しは見えない。

だが、声色だけを取ればとても優しげであるように思える。



「ひっ!?」



そして、視線は再びスザクたち。



「……」



だがその場から動かず、ただ見ているだけのようだ。何を思う?



「ちぇっ……何を()()()()()()()()……」



誰にも聞こえない呟き。

それを言った後、両手を前で交差させさらに強く気勢を上げる。



「悪ぃな……随分待たせちまった」


「う、う……」



燃え上がるようでもない、気勢が安定しているような動きでもない、ただ彼の周囲がひどく歪み、空間が捻れる様子が確認出来る。もはや近付くことさえままならない。


母シオリでも、最も長い旅の仲間であるイズミでも、彼を止めることは出来なかった。

リュウシロウは歩みを進める。再び明確な怒りを示しながら。


そんな彼にはもう誰も近づけない。

あまりの圧力に、熱量に、そして憎しみに……つい臆してしまう。

今この男は、仲間にさえ恐れられてしまっているのである。


スザクたちを殺害した後、彼はどうなるのだろうか?

今からリュウシロウが歩もうとしている道は、人間のものでも鬼のものでもない……修羅の道なのである。人間がそこに足を踏み入れてしまえば……もう後は知れたものだろう。


もう……その手を血で染めるまで時間がない。

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