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第50話 何かが欠けた者たち

時は戻り、ここは波久部良養生所の大広間。

五月雨(さみだれ)式に起こる出来事に付いていけないイズミを後目に、リュウシロウはシオリに話し掛ける。



「かーちゃん、コイツだよ。西国全く知らねえ、田舎者の脳筋女」


「…………」



当然彼女は無反応。少しばかり笑みを浮かべたまま、車椅子に乗ったまま身動きひとつ取らない。



「え、えっと始めまして! イズミデス! ぼ、ぼく、わたしが田舎者の脳筋……って誰が田舎者の脳筋女だ!!」



珍しく緊張の赴きとなるイズミ。でもリュウシロウへの切り返しは忘れない。



「………………」


「あれ? えーっと……聞こえなかったかな……」


「いや、いいんだよ。今、俺のかーちゃんはこういう状況なんだ」



イズミがシオリへ話し掛けている時は、なんとも言えない寂しげな面差しとなっていたリュウシロウ。しかし、徐々に顔は赤みを帯びて怒りの様相を示す。



「あのクズ共の……手に掛かってこのザマだ!!」


「……え?」



信じられないといった様子のイズミ。



「あのクズ共とは、もしやきょうだいのこと……か? いや、まさか実の母を手に掛けるなど……」


「あるんだよ!!!!!!!」


「!!」



彼の怒声に、一瞬だが身体が硬直するイズミ。物理的な力強さではない、気持ちの強さによるものか



「あ……すまねえ……お前は関係ねえのに。……ここは最高の環境だが、どうにも人気が少なくて平和過ぎてな。刺激って意味でここに連れて来たんだが、あまり意味はねえみたいだ」


「リュウシロウ」



気を取り直したイズミ。いつもより、少しばかり力強くリュウシロウを呼びかける。



「ど、どうしたんだよ」


「話してくれないのか?」



養生所に母がいる。イズミが知るのはここまで。

つまり、『何があったのか』を聞きたい、またリュウシロウに話してほしいのだろう



「…………」



だが彼の取った行動は『沈黙』……?



「やはり話してくれ……」


「分かった。かーちゃんに起こった出来事、全部話すぜ。よく聞いててくれ」


「え?」



イズミの落胆した言葉を遮るように、すべてを話すと言ったリュウシロウ。それに伴い、これまでにない鋭い視線を彼女へ向けたためか、むしろイズミが身構えている。



「俺は雷の属性を持っていたものの、物心付いた頃から体に気を通わすことが出来なくて忍術の類はまったく使えなかった。それが原因で、クズ共からさんざん痛めつけられたよ」


「……」


「血縁上の父とやらは毎日のように俺へ無理難題をふっかけ、きょうだいという名前のクズ共はそれをいつもせせら笑っていた」


「……」


「じゃあどうしていつまでもそんな所に居るのかって思うよな? 家出でもすりゃいいんだ。でも出来なかった。一人だけ味方が居たからな」


「それが……」


「ああ。母ちゃんだよ。修行という名の拷問に耐えた後は、いつも俺を慰めてくれてな。ま、身体が弱かったらから『たまに』だったけどな」


「……」


「だがある日、俺はクズ共に井戸へ叩き落とされてな。ガキの身体じゃ到底這い上がれねえ。殺人未遂だぜ。でも夕暮れ時、マジで命がヤバいと思った矢先に母ちゃんが駆けつけてくれたんだよ」


「……」


「その後、俺は母ちゃんにありのままを話した。そこで母ちゃんは怒り狂ってな」


「それまでに、お前が痛めつけられた時はどうしてたんだ?」


「もちろん、毎度咎めてくれてたよ。だが、連中の腐った脳みそじゃそれを理解出来ねえしな。血縁上の父とやらにも直談判したようだが、俺が弱いのが悪いってさ。意味不明だぜ」


「ぐ……!」


「だから俺がボロボロになっていても、修行という言葉を念頭に置いて耐えていてくれてたみたいだが、井戸の一件でついにブチ切れたんだよ」


「もしかしてきょうだいに?」


「ああ。だが、それが……悲劇のきっかけになっちまったのさ」





――――――――――


――――――――


――――――




―八年前 ごぎょう神社―



「少しいいですか?」



厳しい面差しのシオリ。その視線の先にあるのは……



「どうされました? 母上」

「えー、今忙しいから無理ー」

「なんだよ母上、また小言かよ」



スザク、ハクフ、ゲンゾウの三人である。

建物の大広間で、三人が揃って雑談をしていたようだ。



「話はリュウシロウからすべて聞きました。あなた方は……!」



怒りを滲ませるシオリ。だが、彼女が何かを言う前にスザクが割り込む。



「小言なら結構。すべては、あの落ちこぼれが招いた結果です」


「な……!? 何を言うのです!」


「父上はおっしゃられました。我々は強くあらねばならない。サイコク人という、我々とは見た目の違う人間が東国に現れたという話ではないですか。


もしヤツらが各々の町を管理している神社に標的を定めるなら……それは排除せねばならない! そのための戦力にならないようなヤツは、ここに必要ありません」


「落ちこぼれてしまった人はどうすればいいの!」



シオリの言葉がよく分からないのか、小首をかしげ呆れたような面差しとなるスザク。



「さあ? 力がない方が悪いのです。その辺りでのたれ死ぬか、自決してしまえばいい。この度のリュウシロウの件は、その手間を省いただけですよ。フフフ……」


「あ、あなたって人はぁぁぁ!」



怒りの形相でスザクに向かうシオリ。右手を振りかざし、頬を叩こうとするその寸前!



ドォーン!



「か……はっ……」



なんとスザクは、自身に向かうシオリを跳ね除けるために火球で攻撃をする。

腹部に直撃した様子の彼女は、その場で両膝を付いてしまう。そんなシオリを見下し、蔑むような視線で吐き捨てるように口を開く。



「私を叩こうとは正気ですか? 私はごぎょう神社きっての最高傑作。齢十五にして二文字に至った、言わば人間の完成形なのですよ。あなたがやすやすと触れていい相手じゃない」


「その前に……あなた……は……私の……」


「息子とでも言いたいのですか? 血の繋がりがあるというだけです。ただ、よくぞ私を生んでくださりました。そこは功績です」


「な……何……を……」



もちろん火力は最大限に抑えているようだが、表情を変えずに肉親を攻撃するその思考をシオリは理解出来ない。するとまもなく……



ドガッ



「――――!!」



今度は拳大の石が、シオリの前頭部へ直撃する。



「へっへー! 何やってんのさアニキ。腹に当てるとか生ぬるいじゃん」



なんと、今度はゲンゾウがシオリへ忍術で攻撃をする。



「あ……」



息も絶え絶えの彼女。そのまま倒れこもうとするのだが、それをさせないもう一人のきょうだいが居た



「あたいも交ぜてよ! いっつものけ者にするんだから!」



ドンッ!



どういう理屈か、ハクフの左腕のみ体毛のようなものが生え、その手でシオリを突き飛ばす。彼女は無理矢理起こされる形となり、そのまま仰向けに倒れるのだがその時!



ゴッ



部屋にある、掛け軸を飾る場に位置する床框の角に、後頭部をぶつけてしまう。



「む?」

「あらら?」

「はあ? どーしたんだよ母上」


「…………」



物言わぬシオリ。そこへ…



「母さん!!!」



一人で向かった母を心配してか、三人が居ることを知っていても駆けつけた幼きリュウシロウ。



「リュウシロウ? ああ、母上が手を貸したのか。余計なことを……」

「なーんだリュウシロウ無事だったんだぁ?」

「あんな井戸から出るのに、人の手借りるとかほんと雑魚だわお前」


「あ、あ、あああああああああ!!!!」



きょうだいの罵詈雑言など耳に入らない。直ちにシオリの下へ向かおうとするが…



ボッ!



「ぎゃああああ!」



いきなり衣服に火が灯る。井戸に入り、ずぶ濡れになっているにも関わらず、直ちに水分は排除され着火してしまう。



「誰がこの部屋の敷居を跨いでいいと言った?」



スザクの仕業だ。母を想うリュウシロウの気持ちなど慮らず、容赦なくその場から排除しようとする。



「母さんが……! 母さんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ……ぎゃう! ああああああ!」



今度はゲンゾウからの散弾銃のような石礫を喰らった上に、突如背後に現れたハクフに頭を鷲掴みにされ宙吊りとなる。



「うるせーんだよお前は」

「そうそう。もう夜なんだからさぁ……」



面倒くさそうにする二人。倒れている実の母のことなど何も想っていない。

人としての大切な何かが、この三人には欠落しているように見える。これも、リュウシロウが言う血縁上の父の成した業か



「母さん! 母さん!」


「うるさいって言ってんのよ!!」



ドボッッ!



「が!?」



ドガッ! ビシィ! バキ!



『うるさい』を理由に、気持ちを踏みにじられるリュウシロウ。

ハクフに殴られ続け、薄れいく意識の中で、未だ彼は母を想う。



(母さん……母……さん……)



そして同時に、腹の奥底から渦巻く怒りも芽生える。



(こいつら……殺……して……やる……絶対……に……)


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