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第5話 討伐任務

~すずしろ町 忍掲示板前~



(いやはや……あっさりだったな。俺としてはラッキーなんだけどよ)



明くる日の正午前、リュウシロウは相変わらず人だかりが出来ている掲示板の前で思案に耽る。



ー仕事の紹介? ボクの専属で? ……うっ………………あ、ああいいぞ! ボクも助かるしな!―



(なんか目がうるうるしてたしスゲー間があったけど、あんま気にしないでおくか……)



意図せぬところで成功を掴んだ訳である。



(あの子と居るとちと目立つが、このままじゃ目標金額なんて到底届かねえからな……多少のリスクは背負わねえと……)



いろいろと考えている最中、そこへ一人と一匹の影が……



「リュウシロウ!」

「ぽーん」


「おう、来たか」



イズミとぽん吉がやってくる。待ち合わせていたのだろう。

先日の一件の所為か、周囲の視線がちらちらとあるようだが、彼女たちは気に掛ける様子もない。



「昨日の今日で、もう仕事があるのか?」


「ああ、緊急性がなくて目ぼしいものはいくつかストックしてある。もっと西に行きゃ、馬鹿みたいに依頼があるんだけどな。妖怪が殺気立ってるとか何とか……」


「すとっく?」


「ん? あ~……在庫って意味だ。 あれ? 西国語知らねえの?」


「さいこくご?」



先日掲示板に張り出されていた紙の一部にあった、イズミ曰く『何かよく分からん言葉』である。



「もしかして、そもそも西国を知らねえのか?」


「知らん」


「なんてこった……」



リュウシロウの反応を見る限り、世間と西国の関わりはある程度深いことが伺える。



(こりゃマズいな。今後仕事をしていく上で、西国知らんじゃ話にならんぜ。軽く説明しておくか……)



という事で、リュウシロウはイズミに西国について軽く説明する。



・西国は、この大陸から海を挟んだ西にある国であること

・西国人は背が高い、身体が大きい、目の青い奴がいる、そして言語が少々異なること

・西国には忍術という概念がなく、代わりに「魔術」があること

・この大陸の各町に西国の人間は住んでいて、仕事の依頼もあること



「まあこんなもんだ。基本友好的だが、よく分からねえところも多い。最近は、東国人に魔術を教えているヤツも居るとか何とか……ん?」


「……」



どういう訳か、イズミの目が輝いている。

リュウシロウはそれに気付いたと同時にまずは疑念を抱いたようだが、次第に呆れ顔へと変化する。理由はもちろん……



「魔術って何だ!? 強いのか!? 是非腕比べを……!!」


「やっぱこういうヤツか……」



イズミは好戦的であるという事実。昨日の出来事で、初対面であるにも関わらずリュウシロウはそれを痛感させられている。



「突然西国人に喧嘩なんか売ってみろ、ちょいと問題になるぜ?……それはとりあえず置いとけ。まずは仕事だ仕事」


「そ、そうか……残念だ」



しょんぼりするイズミを放って、リュウシロウは仕事の話に移る。



「でだ。今手元にある仕事はこれだけあるんだが……」



そう言った彼は、ハガキサイズの用紙を手に持ちイズミに差し出す。

彼女は全ての用紙を手に取り、一枚ずつめくり仕事内容を確認していく。



「たくさんあるんだな。……えっと……ん? あ、これいいな!」


「……やっぱ討伐系なのな。しかも一番危ねえの選びやがって……」



イズミは選んだ仕事は……


『ミヤシゲ谷 大岩変化 討伐 金三両』


つまり三両あげるから妖怪をぶっ倒して下さいという依頼である。

討伐系の仕事は本来火急の案件なのだが、この妖怪については谷の一ヶ所を通せんぼしているだけであり、比較的緊急性が低いもののようだ。



「よーし! 初仕事だ!!」


「は? 今から行くのかよ! 討伐系の仕事はもう少し慎重にだな……」


「善は急げと言うじゃないか! ほら、さっさと行くぞ!」


「何をもって善としてんだよ!? もう少し慎重にしてくれた方が俺にとって善だよ!!」



昨日同様イズミに思い切り手を握られ、ずるずると引きずられていくリュウシロウであった。




※※※




~ミヤシゲ谷~


すずしろ町を出て西へ一里程度、なずな町への向かう街道から外れて山側へ向かうと険しい山道があり、それをも超えると深いV字谷の渓谷が奥深くまで延びている。

木々が黄緑の若芽をつけ、ところどころにある山桜の薄い桃色と、エメラルドグリーンに染まる川がアクセントとなり、月並みな表現だが非常に美しい景観と言えよう。


そんな渓谷を、イズミとぽん吉、リュウシロウは川沿いに上流へ向かって小鳥の(さえず)りと共に歩く。



「さて、後はここを上流に向かって行けば、そのうち大岩変化にぶち当たる筈だぜ」


「そうか。いよいよだな。ふふふ、腕が鳴る」

「ぽん!」



すでに戦闘モードのイズミ。ぽん吉もプレッシャーなどはない様子だ。リュウシロウは、呆れつつも頼もしく思っている模様。

二人は上流に向かって歩きつつ会話を続ける。



「意気揚々なのは結構だが、相手の情報無しで挑むなんて無謀だぜ? と言う事で今からお勉強の時間だ」


「えー……」



あからさまに乗り気ではないイズミ。頭を使うのは苦手なのかもしれない。



「敵はご存知のとおり大岩変化だ。今回のは身長5m程度、身体は頭のてっぺんからつま先まで岩。足は短くてあまり発達してなく、腕が以上に太い……つまり脳筋だ。筋肉ねえけどな」


「めーとるって何だ?」


「長さって意味だ。この場合は身長を表しているから、高さって思ってもらってもいいぜ。5mは……大体十五尺以上かな。後で西国語も勉強な?」


「えー……」



心の底から嫌そうな顔をするイズミ。



「そんな見た目だ。足は当然のように遅いんだが、力はマジでやばい。自慢じゃないが、俺なら一撃で爆散だ」


「本当に自慢にならないな」


「あと行動パターン……えっと、攻撃体系については基本的には物理一辺倒だ。一番ヤバいのは、自分の身体をバラして攻撃してくる大岩変化特有の土忍術のひとつ、岩礫だな。広範囲だから十分に気を付けろ。俺を守るって意味でも気を付けろ。超気を付けろ」



さらりと自分を守って欲しいアピールをするリュウシロウ。

しかしすぐさま真剣な面差しとなり、少しトーンを下げた声となる。



「近付くと襲い掛かって来るようだが、何分足が遅くて今のところ被害はない。……とりあえずは以上だな。だだ、少し気になるところがあるんだよ」


「??」


「今回討伐する大岩変化は、大きさからすれば齢八十年ってところだ。頻繁に退治される大きさだな。でもよ、これまでこの周辺で、今回の大岩変化の目撃情報ってのが皆無なんだよ」


「……つまり……?」


「いきなり降って湧いたってことだ。そんだけ大きけりゃ、何処かで誰かが見てて普通だろ? ここは街道から離れてるって言っても、少し足を伸ばした程度の場所だ。それにここは渓谷。開けているわ崖上から覗けるわで、目撃情報が全くないってのがよく分からねえんだよ」


「ほ、ほう……」



戦いはからっきしのリュウシロウだが、頭の方はなかなかのものである。

イズミは何かを考えているように見えるのだが……



「ふ~む……」


「おい」


「ん、んん?」


「お前、考えたフリしてるだけだろ」



糸目で突っ込みを入れるリュウシロウ。イズミの美しい顔が、みるみる赤く染まる。



「ど、どうして分かった!! 謀ったな!!」


「謀る理由が何処にあるんだよ!? おいぽん吉! 教育が足りてねえぞ!」


「ぽん……」

※訳:ごめんなさい


「……勉強の項目、追加な?」


「えー……」




※※※




引き続き歩く一行。



「そういやイズミ。お前何処から来たんだ? 西国知らねえってヤツ、今時少ないから気になってよ」


「ああ、町よりもっと東……えっと、使ってないボロい吊り橋があるだろう? まあこの間ボクが壊してしまったけど……あれよりもさらに東だ」


「……え゛?」



リュウシロウが立ち止まる。



「あの吊り橋の向こうって妖怪の巣窟じゃなかったか……? だから橋の修繕なんて出来ねえし、むしろ経年劣化でそのまま壊して崖で分断しちまおうって聞いたことがあるんだが……」


「巣窟だったのはここ数年前までの話だ。今はほとんどの妖怪と……」



イズミは、リュウシロウに握り拳を見せてアピールする。



「ボクがコイツで話を付けてあるから、今は安全だぞ?」


「マジかよ……一体何者なんだよお前は……」



話の信憑性については、イズミの強さをその身体をもって理解しているからか、リュウシロウ視点では疑いの余地はないようだ。



(東の果ての妖怪ってかなりレベル高えんじゃなかったっけ……中には数千年生きてる大妖も居るって話だしな。どういう育ちしてんだ? もうちょい踏み込んで……ん?)



ズぅぅぅン……ズぅぅぅン……



地鳴りのような音が一定間隔で聞こえてくる。

イズミとリュウシロウは音のする方角を見るが、今のところ何も発見出来ない。

しかしリュウシロウは何かに気付いた様子だ。



「うえ!? (やっこ)さんからおいでなすったぜ……ほらイズミ! そこの林に隠れるぞ!」


「ん? 音のする方向へ行かないのか?」


「馬鹿! 大岩変化だよ! とりあえず隠れて様子見だ! くそ、力忍術の事も聞きたかったが……って、あれ? イズミ? ぽん吉?」



リュウシロウが作戦らしきものの説明を始めたその時、すでにイズミとぽん吉の姿は消えていたのであった。


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