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第497話 戦い終わり…

暫く雑談をしているリュウシロウと三鬼。

他の者はただ傍観するだけ。無理もないだろう。何も知らない者からすれば、鬼など伝説の存在である上にその力を見せ付けられている以上、口を挟みようがない。


ただ、それと黒鬼が気になることとは別問題である。



「なーんか()()()()()があると思ったら……おめーらか」


「!!!!」



その視線の先は……既に青鬼の力で回復した邪鬼たち。



「え、え、えっと……」


「……」



あの負けん気の強いヤシャも形無しである。ラセツはただ閉口している。イバラキに至っては姿がない。

彼らは、黒鬼が放った気勢の残滓から生まれた妖怪。黒鬼自身、身に覚えがあるのは当然だろう。



「あ……」


「……む?」



そんなやりとりを見守りつつ、ただその場に立ち鬼を見ている白丸が視界に入るリュウシロウ。彼女も気付いたようだ。



「どうした? リュウシロウ」


「いや、あのよ……お前ってたしか亀裂の関わりで……」



デリケートな話である為、とても言い辛そうな彼。だが白丸、それを察した……いや、どちらかと言うと現時点では気にしてなさそうな雰囲気。



「いつぞやに、ほとけのざの宮司にも話したが……鬼たちは災害だ。それに、今となっては……その……この時代だからこそ得られたものもあるのだ。妾はそれを大切にしたい」


「白丸……」



さらに彼女は成長した。もっともそれは、ルークの存在が大きいだろう。

吹っ切れた面差しをしている白丸を見て、彼も少し安心したようだ。


そんな中。



「ウ、ウチもあんたの力あるんやで!」


「あらそうなのぉ? 黒君にあたしの髪でも付いてたのかなぁ?」



シュテンが少し怯えながら赤鬼と話している。ついにリュウシロウ以外の現世の者が会話に加わり出す。

おそらく彼が橋渡し、緩衝材のような役割となったか。単体では恐ろしすぎる相手だが、リュウシロウの鬼に対するあの態度を見る限り明らかに敵ではない、敵となりえないと判断出来たのだろう。


だからこの男も、勇気を振り絞り前に出て来る。



「不肖ゴウダイ! 貴方に折り入って頼みがある!!」


「え゛……え゛え゛!? わ゛、儂゛!?」


「その……結界術を……是非……是非ご教授願いたいのだ!! 何卒……何卒……!!」



青鬼の前でかしこまり、先ほどの結界を教えてもらおうと企むゴウダイ。目が血走っている。


こういう空気となり、人間と妖怪が少しずつ鬼に近付いていく。

時に笑顔を見せ、時に不安そうな面差しになるなど、そこは皆と変わりないのだ。

少しずつ取り払われる壁。その力以外は……生きとし生ける者皆同じなのである。


そしてリュウシロウ、ひとつ気になることがあるようで黒鬼に話し掛ける。



「あのさ黒兄、そっちにソラ……じゃなかった、虚喰いが行っただろ? バカでけぇヤツ」


「ん? あー、アイツか。ちょい前に来たぜ? ソラって名前なのか。オヤジも事情はある程度知ってたしすぐに分かったんだが……ありゃちとデカ過ぎる。だから俺様が縮めておいたぜ」


「何をどうしたら縮められるんだよ!?」



知りたいのは虚喰いの顛末か。

黒鬼の言葉を伺う限り、予想通り地獄で裁きを受けたようだ。あの壮大な虚喰いを縮めたという言葉の意味はよく分からないが。



「でさ、やっぱアイツ……阿鼻地獄行きなのか?」


「心配すんな。事情は知ってるっつったろ? で、お前と関わりがあるってんで、俺様の権限で今は……」



地獄へ行った者にこのような言い方は不自然なのだが、とりあえずは無事のようである。だが次の黒鬼の言葉でリュウシロウの目が飛び出る。





「寝床にしてんだよ」





言っている意味が分からない。



「……………………………………はい?」


「アイツ、事もあろうに俺様を見るや否や襲い掛かって来やがってな。だが、〆た後に妙に懐いて来やがる。何度ぶっ殺しても、だ。さすがの俺様も情が沸いちまってな……その後で小さくまとめて、今じゃ寝床兼地獄の番犬だぜ?」



また糸目になるリュウシロウ。



「もういい……頭が痛くなってきた。ほんと黒兄は凄ぇよな。アイツ倒すのに俺がどんだけ苦労したか……」


「ぶははははは! ま、〇ンカスのおめーじゃ苦労するわな! 」


「誰がチ〇カスだよ!? まあソラも黒兄となら気が合うだろうな。ソラの頭の中はまだ赤ん坊だろうし、黒兄は精神年齢がカスだしアホだから丁度いいだろ」


「んがあああああああああ!! またアホっつったなてめー!! あと、誰が精神年齢がカスだオラ!!」


「ギャース!!!」



よせばいいのに言い返す彼。もちろん黒鬼の拳が待っている。


そこへ……



「ん?」


「あ、あの……黒……鬼……でいいのか……?」



ムリョウが近付く。少し身を縮ませ、怖がっている雰囲気。

話しかける相手は、リュウシロウではなく黒鬼のようだから仕方がないだろう。



「……この度は……ありがとう……貴方が居なければ我々……いや、この世に生きる者たちは全て滅びていた」


「ああ……おめーか。へっ、準備運動にもなりゃしねえ。ま、それはいいとして、ソラから()()()()()()?」


「!! ……聞いた?」



この鬼、虚喰いと会話が出来るようである。



「ここへ来ておめーを見て、面白ぇ力があるもんだと思ったぜ。以前地獄に来たのは今から千年くらい前だろ。人間なんざ、八十年生きりゃいい方だもんな。結局それで三千年か……リュウシロウが修行してた期間とぴったりじゃねーか」


「虚喰いは……他に何か言っていたのか……?」


「ん? あ、あー……思い出した」



いろいろと忘れっぽい黒鬼。戦闘以外はやはり、基本どうでもいいという思考なのかもしれない。だがこれは、ムリョウにとってはとても大切なこと……



「アイツ、俺様たちがここに来るってんでおめーに一言言って欲しいって頼まれたんだよ。俺様を使いっぱしりにするたぁぶち殺す対象だったんだが、あの頭の数で泣かれちゃあな……」


「!!」


「言ってたぜ? 『わるいことをしてごめんなさい』ってよ。ったく、ガキじゃあるまいし……ああ、頭の中はガキだったか」



思わぬところでの虚喰いからの謝罪。

彼女はその言葉を受けた直後、ほろりと涙を流す。



「……虚喰い……いや、ソラ……お前も……孤独だったのだろう? 悪意は……無かった……今私は……心からお前を許した……から……」



たった一言。だがそこにどれだけの気持ちが詰まっていたのか……それは虚喰いにしか分からないのだが、少なくともムリョウは真摯に受け止める。もし彼女を獲物の一人としてしか見ていないのであれば、わざわざ言伝などを……さらにそれを黒鬼に願うなどやる訳がないだろう。



「へへ……良かったなムリョウ。お前も、ソラも救われたじゃねえか。そんで皆も……東国も……この世も……」


「ああ……!」



笑顔を合わせる二人。

それを黒鬼は微笑ましく見つめている。



「おいおい。それは何処のどちら様のおかげだと思ってんだ? ああ?」


「へいへい。最凶、最恐、最強の黒兄様のおかげでござんすよ。ったく、精神年齢カスじゃなくてクソ雑魚ナメクジだぜこりゃ」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? 誰がクソ雑魚ナメクジだコラ!!!!!」



また折檻されるリュウシロウ。

それを見てクスクスと笑うムリョウ。彼女自身も、黒鬼が彼に向ける優しさを理解したようである。その為か、これまであった黒鬼に対する恐怖心から解き放たれたようだ。




※※※




その後暫く経過し……



「なあなあ皆! もちろんゆっくりしてくんだろ!? 黒兄は東国に来たことあるけど、街道辺りを練り歩いてただけで他はあんま知らないんじゃねえか? 青兄も赤姉も案内したいから、暫くこっちに滞在しててくれよ!」


「……」



三鬼がやって来て、最も嬉しく思っているのリュウシロウである。滞在を提案し、その後は東国を案内するつもりか、勝手に予定を立てている様子。


だが青鬼、赤鬼、黒鬼……揃ってその面差しは暗い。



「あ゛、あ゛の゛な゛……リュウ゛ジロ゛ウ゛……実はな゛……」


「ん? どうしたんだよ青兄」



言いづらそうな青鬼。見るに見かねてか、赤鬼が前に出る。とても辛そうな顔で。



「あのねりゅー君……」


「……」



察しのいい彼である。この雰囲気が良い知らせである訳がないと肌で感じたか、険しい面差しへと変化する。

そしてまろび出る言葉は……



「……あたしたちね……もう……帰らなきゃいけないの……」

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