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第49話 テツと一行

ー波久部良養生所 客間ー



養生所の客間に案内された一行。リュウシロウからの説明が終わったようで、テツは頷く素振りをしている。

なお他の面子は、敷かれた座布団に座り沈黙しているようだ。



「なるほど……そういうことなんだね」


「ああ。そんで……物は相談なんだけどよ……」



『修行のため、離れに少し住まわせてくれ』とは、いくらある程度お互いを知る仲であってもなかなか言い辛いだろう。

だが、テツは何かを察した様子でニヤリとしつつ口を開く。



「うんうん、大体話は見えて来たから。あそこの離れ使っていいよ? リュウシロウ君からは、とんでもないお代金をいただいているんだからね」


「……恩に着るぜ、先生」


「チッチッチ! どくたあって呼んでって言ってるじゃない」



いい感じで話がまとまる。しかし時を置かず、テツはちらちらをある方向に視線を置く。



「なんじゃいテツ。ワシの顔が懐かしゅうて、頬ずりでもしたいんか?」


「い、いえいえいえいえ! まさかフウマさんとリュウシロウ君が知り合いとは……」


「知り合ったばっかじゃよ。まあごぎょうと絡んでおる、しかも身内となれば何処かで会うことにはなるだろうがな。それが今だったって話じゃて」



テツの視線の先はフウマ。彼は少々、フウマが苦手なような印象である。



「しっかし……なーにが『どくたあ』じゃい。一揆から離……」


「あははは!! ま、まあいいじゃないですかフウマさん! ああ、そうだ! ごぎょう神社絡みの出来事なんですけど……」



視線をさらに泳がしながら、誤魔化すようにフウマの言葉を遮るテツ。

しかし彼の口から『ごぎょう』の名が出たと共に、空気が張り詰める。


それに気付いたのか、テツは少し間を置いてから言葉を進める。



「……定期的に何名かやって来ますね。内数回は建物内を捜索されましたが、いずれも事なきを得たので問題はないと思いますが」


「エ?」



定期的にやってくるごぎょうからの刺客。しかし、いずれも事なきを得ているというテツの言葉に対し、真っ先に反応したのがトムだった。



「ソノ辺りについてナンですけど……あ、申し送れマシタ。吾輩の名はトマス。トムと呼んでクダサーイ」


「トムさんですね! いやー、お見掛けした時から思ってたのですが、何分ここに西国の方が訪問するのは初めてで、私いささか緊張していますよ。……それで何か気になったことでも?」


「マダお会いしてオリませんケド、コチラにはリュウシロウサンのマザーさんがおられるのデスよね? ソシテごぎょうの方々が狙っていると。建物内マデ探されて、見つからなカッタというのは……」


「……」



集落には見合わない規模の建物、そして養生所というカテゴリであることから、入念に調べられるのは当然である。よって、トムの疑問は自然だろう。

テツは笑顔のまま、少し困ったような表情を作る。



「うーん……そうですねぇ。それを話すのは、もう少し皆さんのことを知ってからで構いませんか?」


「ア……そ、それはモチロン! いきなりスベテ話してくれだナンテ、配慮が足りマセンでした……」


「いえいえいえいえ! こちらこそ、何だか品定めをするような真似をして……」



強く迫れば、口を割るだろう程度の拒否という印象だが、トムはそれ以上押さない。

しかし、ここで空気を読まない者が口火を切る。



「腹の探りあいなど無用だぞ! あ……ごめん! ボクの名はイズミ! 力忍術正統継承者だ!」


「へ?」



目が丸になるテツ。



「え、えっと、イズミさ……うん? 力忍術?」


「リュウシロウが、ここを修行の場にした真の目的が分かったよ」



とりあえず自分の言いたいことを話すイズミ。



「テツ……じゃなかった。どくたあ先生は……」


「どくたあだけでいいんだけど……」


「相当の手練だ! つまり、どくたあ先生がボクに稽古を付けてくれるからだな!!」


「!!!!」



フフンと鼻を鳴らし、両手を腰に置くイズミ。隣にいたリュウシロウの目は点になり、まさにアホの子を見るような眼差しとなっているが、イズミの興味の的となったテツは途端に鋭い視線に変わる。



(ほほう……忍術はおろか、気も全く通わせておらんテツの実力を見抜くか……ま、ワシも見抜かれたしのう)



客観的に見れば『何を言っているんだコイツは』的な扱いになりかねないのだが、フウマは思うところがある様子。しかしリュウシロウはそうではなかった



「アホか! 先生に負担の多重債務させんじゃねえよ!! 患者の対応で忙しいんだから、お前は敷地の隅っこで筋トレに励んでろ!!」


「た、多重債務!? ……む、むむむ……でも、身体が弱った人たちの方が大切か……あ、そうだ! どくたあ先生!」


「な、なんだい?」



いつもはリュウシロウの突っ込みに真っ向から戦うイズミだが、患者が同じ敷地にいるということに改めて気付いたのか素直に応じる。しかし、ただでは転ばないようで……



「修行中、何かあったら手伝うよ! 母屋にいる人たちはみんな病気か怪我なんだろ?」


「何言ってやがる! お前なんかが患者に触れたら、その瞬間全身バラバラになるだろうが!」


「失礼なことを言うな! ボクはこう見えても東にいた時、家族が病気になった時にいつも看病してたんだぞ!」


「対象がたぬきじゃねえか!! どうして同列に語れると思ったよ!?」


「なんだと! たぬきも人間もそう変わりは……」


「BIGな間違いだよ! ムリョウと無料くらい違うわぁぁぁぁ!」



恒例の無意味な戦い。その有様を第三者目線で見ていたテツは思わず顔が綻ぶ。



「あっはっはっはっは! 君達は面白いねえ! いいよいいよ、どこまで役に立てるかは分からないけど、時間がある時に……ね?」


「ほんとか! 約束だぞ! さあフウマのじいちゃん、早く修行しよう!」


「分かっておる。とまあいろいろと迷惑を掛けると思うが、暫く離れを間借りさせてもらうぞ?」


「は、はい! どうぞどうぞ!」



フウマに声を掛けられる度に襟を正すテツ。やはり過去にいろいろとあった様子。

そのまま一行は、リュウシロウを除き敷地の離れにまで移動をし始めるのだが、その際にテツは思案する。



(まさか見抜かれるとは……しかも、まったく疑いの余地なく僕を強いと決め付けた。そしてあの勢いっていうか場当たり的な感じ、でも全く嫌な感じがしない……何処かで見たことあるなぁ)



「なあなあ先……じゃなかったドクター」


「え!? あ、リュウシロウ君。一緒に行かなくていいのかい?」



思案に耽るテツに話しかけたリュウシロウ。



「俺が居ても、修行は手伝えねえからな。こっちを手伝うよ」


「そっか! 君が居てくれるならありがたい!」


「そんでよ……」



手伝うという内容は、今から話す彼の懸念の前振りである。少し間を置き、真面目な雰囲気を示しながら次の言葉を紡ぐ。



「ここは大丈夫なのか?」


「ん? どういうことだい?」


「こっからさらに北だったか。ヤベーのが巣食ってるって話だった気がするが……」


「え? もう討伐依頼出てたの!?」


「いや、俺が独自で調査しただけだ。いろんな町で聞き込みやってたんだけど、そのついでに情報があったんだ。ドクターの反応からするとマジみたいだな」



リュウシロウが残ったのは、テツにこの話をするためか。

なお彼の言い回し……相手は妖怪か。



「情報が早いねぇ……さすがは腕利きの周旋屋だよ。まあフウマさんも僕もいるし、そこは大丈夫だと思ってる」


「それもそーだな」


「でもリュウシロウ君、どうして僕だけにそれを話したの? フウマさんが居るところで話しても……」


「いやぁ、その、アレだ。まだあのじいさんのこと良く分かってねえけど、そんなヤベーヤツが居るって知ったらイズミをぶつけかねねえと思ったんだよ……て言っても、まだドクターはイズミのこと知らねえか」



思わず顔が引きつるテツ。リュウシロウの言葉に感じる何かがあったようで……



「鋭いねリュウシロウ君は。たぶんそうなると……思うよ?」


「やっぱり? 言おうかどうか迷ったんだよ。ナイス俺ぇぇぇぇ!」


「でもあの子、相当強いでしょ? 力忍術というのがちょっと気になるけど……」


「まあな。ただ最近は負け続けで、ちとへこんでいるところがあるがな。んで、アイツの力忍術は特別製だから気にしなくていいぜ」


「あー、なるほど。それで修行なんだ?」


「そうそう。そんでよ……」



リュウシロウ以外の一行が離れに向かう最中、彼とテツは重要な会話や雑談を繰り広げる。

その時、二人の間にふわりと風が吹いた。

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