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第488話 見えない終わり

イズミがアモンを撃破したことで悪魔は全て消滅。

漆黒から晴れやかな青が広がる空……これを見て歓喜しない者はいないだろう。



……!

…………!!!

……!!

………………!!

…………!!



あちこちで歓声が上がる。

おそらくそれは東国全土何処を見渡しても同じだろう。


あの空を埋め尽くした悪魔が全て消え去るという状況……それを成せたことを喜ぶのと同時に、それを成した者たちへの賞賛が止まない。


これまで何も知らない民たちなどに対しては、意図はしていないものの事を知らせることなく動いていたイズミたち。これまでの経緯を知る為には、関わらなければならなかったのだ。


だがこの度、結末だけではあるが多くが知る運びとなった。

虚喰い、悪魔の存在。そしてそれらを穿つ力がこの地にあったという事実。今この世は、現代を生きる英傑たちの存在を認識する。



「……やっと終わったな」



青空を見上げつつ、イズミが少しはにかみながら一言。



「お疲れさま、イズミちゃん」


「うん……サイゾウも……ありがとう」



そんな彼女をサイゾウが労う。

その光景を見て、皆はようやく戦いが集結した今を噛み締める。



「つ、疲れた~……」


「ご苦労だったなミナモ。とりあえず俺も……また暫くは何も出来なさそうだ」



その場にへたりこむミナモ。そんな彼女の傍らにやって来て同じく労う。


緊迫した雰囲気から一変、温和な空気がその場に流れ始めたその時。



「! ……アレは……白丸様と空弧様……ですよね?」



アメリアがこちらに向かって飛来する何かに気付く。

その言葉は正しかったようで、時を置かず到着する。



「ここに居たか。この度はご苦労だった」


「いやはや……もう疲れて死にそうだわ。年は取りたくないさね……ん?」



白丸、かなり疲労している様子だが襟を正し、隙を見せない雰囲気。妖怪を束ねる者としての自覚……というより無理をしている印象。空弧はあけすけに疲れた素振りを見せつつ、その視界に入れるのは……



「空弧!! 無事だったのか!!」



ムリョウがたどたどしい足取りで近付く。そして顔を近づける空弧に寄りかかり、ギュッと抱きしめる。



「ムリョウ……長い間頑張ったね……」


「ありがとう……ありがとう空弧……お前がずっと……寄り添ってくれてたから……」



微笑むといった印象の空弧。ぺろりと彼女の顔を舐める。



「あたしは居ただけだよ。肝心なところじゃ力になれなかったからねぇ……」


「何を言う……居てくれることで、どれだけ私の支えになったか……空弧……」



ほろほろと涙を流しながら、抱きしめながら空弧を感じるムリョウ。彼女が人間であり続けられたのは、紛れもなくこの大妖の尽力なのである。


尾で優しくムリョウを撫でつつ、ニヤニヤとした面差しでリュウシロウに視線を置く空弧。



「ん? 空弧?」


「あんたたち、どうせ狭間の世界でよろしくやってたんだろう? あそこは現世よりもずっと時間の進みが早い……フフフ、そこで愛を育んだってわけかねぇ?」



この瞬間、ムリョウの顔がみるみると赤くなる。



「う……」


「く、く、空弧!!」


「ウフフフ。ムリョウ……いい顔してるよ。あの時あんたの顔を久しぶりに見たとき、生きながら死んでるような感じだったけど……ウフフ、艶っぽくなったじゃないか」



リュウシロウも照れているようだ。

以前、洞窟で能面を外した際の顔と、大きく異なる今の彼女の顔がそこにある……思わず顔が綻んでしまう空弧。



「……まさか、このじゃじゃ馬をまるごと包み込むなんてね……そんな度量を持ってんなら安心だわ。ムリョウのこと、よろしく頼……」



なんとなく、もうこの世に未練がないような印象がある空弧。三千年近く一緒に過ごしてきたその関係の内訳は、この二人でなければ分からないのである。目を瞑り、リュウシロウとムリョウという新しい関係を祝福しようとしたその時、何かを感じたようだ。


手練れであるトムとゴウダイも、同じタイミングで何かに気付く。



「……おかしい……」


「ああ。この嫌な感じ……まだ終わっていないというのか……?」



優しい空気も束の間、皆が西の方角を見つつ何やら不穏な感じを抱く。



「……」



途端にリュウシロウの面差しに焦燥感。汗をかき、西への視線を瞬きもせず置き続けている。


それは少しずつ明らかになる。


西側から少しずつ黒い粒のようなものが現れ、それは次第に拡大していく。


先ほどまで青空が見えていた……だが時を追うごとに再び黒色に染まりだす。


だが先ほどの悪魔襲来時と異なる部分がひとつ。それは……





()()()()()()()()()であるということ。





歓声を上げていたものは徐々にそのトーンが下がり、喜びの面差しは徐々に緊迫したものへと変化していく。


この黒色は何なのか……もう問う必要もないだろう。


再び悪魔がやって来たのである。


それも、手前の行なわれた戦いで攻めてきた悪魔とは、まるで異なる圧倒的な数で……



「嘘……だろ……?」

「まだ居たのか……?」

「も、もう嫌だ!!」

「どうして……どうして……」

「倒したんじゃなかった……のか……」

「さっきよりも遥かに多いぞ!」

「なんて……ことだ……」



中には両膝を付き、絶望する者も多い。


これについては、さすがのイズミたちも落胆の色を隠せない。

リュウシロウも、ある程度この予測が出来ていたような雰囲気だが、現実を目の当たりにしたことでその面差しが曇る。



「一体……どれだけの数が居るんだ……?」


「先ほどの数ですら先遣隊ということなのでしょうか!? そんな……それでは……あまりにも……!!」



再び構え、警戒するサイゾウ。そして、この新たな……そして苛烈な軍勢を目の当たりにしても信じられないアメリア。



「……くそ……くそ!! あんな数じゃ……」



イズミの面差しも大いに曇る。

はっきり言って、先ほどの戦いで多くの力を使ってしまったと言わざるを得ない。実際、使わなければどうしようもなかった。


その末に、ようやく撃破出来た……にも関わらず、悪魔は無慈悲にもさらに多くの軍勢を持って攻めてくる。信じられない、信じたくない。



「……参ったね……これから祝賀会って空気だったのに、酷な現実を突きつけてくれるよ……」


「ふん……数ばかりで中身のない連中如き……!!」



ため息混じりの空弧。そして、その面差しからするに心理的なダメージは甚大そうだが、それをおくびにも出さない白丸。


しかし、彼女がそうであっても、他の妖怪は絶望の面差しのまま……空気を変えられない。もっともこれまでの戦いよりもさらに熾烈になると考えれば、落ち込むのも……否、諦めても何ら不思議ではないだろう。


ただその姿を見せるだけで、戦う気力を削ぐほどの規模……今や東国は死に体。この状態で先ほどの数倍、いや数十倍はあろうかという悪魔と戦うことは到底不可能である。


終わりが始まろうとしているのだ。



「……くっ……悪魔共……め……! ……?」



ムリョウも歯を鳴らしながら悔しそうな面差し。さすがにこれほどの数を備えていたとは思わないだろう。

そんな軍勢の中から、何者かが一人こちらに高速で飛来してくるのを確認する。


その者はこちらが認識したとほぼ同時に、イズミたちの真向かいの空でその悪魔の羽を羽ばたかせ視線を置く。



「……よもや、アモンたちを倒してしまうとは……驚いた……グラシャラボラスまで……ベリアルもアスタロトも……」



頭部の多くを覆うほどの巨大な二本角。それが真後ろに向かっているような様相。

クラウンのようなものを被り、蜘蛛を思わせるような体毛が生えた肢体に手が八本という異形の姿の悪魔。何者か。少し落ち着いた雰囲気を漂わせるが?



「お前は……何だ?」



恐る恐るか。イズミがその者に問い掛ける。



「……それなりに力はあるようだが……」



その瞬間、この悪魔はひどく冷めた眼差しで彼女を見つめる。

アモンよりも……まるで害虫でも見るかのような雰囲気。



「……何故このような矮小な生物がこの世に生き……我々があのような薄暗い地へ押し込まれなければならぬのだ……このような……このような……蝿共が……!」


「……? 何を……言ってるんだ……?」

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