第47話 イズミVSフウマ
その日の夕方。
「でぇぇぇぇ――――い!!!!」
「ほっほっほ、甘いのう」
イズミからの怒涛の攻撃を、以前にトムがケイユンにやったようにするすると避けるフウマ。
宿での話し合い後、一向はフウマのお誘いに応じ修行に励んでいるようだ。もっとも、主な修行の対象はイズミのようだが。
(くそ! タメノスケと同じ……いや、それよりも遥かに洗練されたように感じる。完全に当たっているように見えるのにすり抜ける……)
風忍術使いと連戦。しかしフウマはタメノスケと違い、技量ではずっと勝っているという印象だ。
(それに……)
さらにイズミは、フウマの戦い方を至近距離で拝んだ結果、思うところがある様子。
「てぇぇぇい!!」
「なんの!」
「……な!?」
拳を振り上げ、フウマ目掛けて攻撃を仕掛けるも、何かに足を取られバランスを崩すイズミ。
「ほっほっほ、周りをよく見んといかんぞ? 風に躓いてしまうぞ?」
「くっ……」
さらに……
「この……! ……あ、あれ!?」
今度は進行方向に渦巻く風が設置されており、あらぬ方向へ攻撃がズレてしまう。
(忍法の使い方が上手い……最小限の力で、最大限の邪魔をしてくる。……こんなに差があるのか……)
すでに彼女自身が気付いている圧倒的な力の差。
しかしこのままでは終われないのか、気勢を上げさらに突き進む。
「それなら……忍法!!」
「む?」
ー強空拳・早蝉!!ー
無数の拳がフウマを襲う。
だが、壁のような弾幕を目前にしているにも関わらず、彼には微塵の焦りも感じられない。
「ほほう……攻撃の型までサスケによう似ておる。しかし……」
「え!?」
攻撃の最中、イズミはびっくり仰天。
何故ならフウマ、風忍術で避け続ける訳ではなく、彼女の拳をひとつひとつ掌で防いでいるのだから。
「そんな……当たり……さえすれば……」
「倒れると思ったかの?」
イズミから漏れ出る言葉を、フウマが先読みして続ける。
これまで、彼女の攻撃は当たりさえすれば相手に対して大きなダメージとなった。
つまり一撃一撃が非常に力強く、『防ぐ』という手段すら選べない程なのである。
実際チョウジ戦でも、防いだ左腕へ著しいダメージを与えた……のだが、フウマには通じない。
「う……」
「ん? 終わりかの? ……ではワシから攻めるとするか」
よって、『現在の攻撃を未来の攻撃へ繋ぐ』ことが出来ず、イズミは次の一手を講じることが出来ない。
これだけなら戦いの素人のように思えるが、逆に言えば彼女の攻撃が如何に強力無比であるかの表れと言えるだろう。これまで、必ず現在の攻撃が通用していたのだから。
「二文字については、枯れネギ坊主から聞いておったの」
「……??」
「見せてやろう」
そう言うとフウマは、ゆらりとした動きで印を結ぶ。
「喰らってみるのも、またひとつの修行だわい。……忍法……」
その刹那、イズミは風を感じる。
横凪の強い風が外側から自分を通り抜け、フウマに集まっているような印象。
鳴り響く吹き荒れるような轟音、それがピタリと止んだ時……彼のその眼が見開らかれた。
ー猛勢・壊衝破!!ー
「え?」
ゴッッッッッ――――!!!
「な!?」
ドォォォォ――――ン!
見えない何かが衝突。風の衝撃波……とは言えないレベルの代物。
イズミは直線を描いて吹き飛ばされてしまう。
飛んだ先は森の中。そこで何かに衝突したようで、轟音が鳴り響いた。
「あ……が……ごぼっ……」
木をいくつかなぎ倒し、最終的にある里山の急斜面にぶつかったイズミ。
地面は広範囲に沈下し、彼女は鼻出血と吐血、頭部からの出血と血にまみれ、意識を失ってしまったようだ。
「フウマサン!!!! イズミサンを殺す気ですか!?」
フウマの居る場所からはイズミは見えないようだが、状況的に危機であるだろうと察したトムが叫ぶ。
「大丈夫じゃろ。直撃前に、しっかりと気を張り巡らせておったからの……ほら、出番が来たぞい?」
何故か余裕のフウマ。その理由は彼の目線の先にあるようだ。
「え、ええ~~~……?」
目線を送られたのは、山葵色の着物とボサボサ頭、見た目は二十代前半の切れ長の目にシャープな顎、一見細身の筋肉質の二枚目……
「いいからはよ行かんかい! テツ!」
「ど、どくたあって呼んで下さいって言ってるじゃないですか~~!」
何と、波久部良養生所の医師……もといドクター、テツであった。
※※※
「大丈夫か?」
「ぽん……」
「あ…………」
何処かの大広間。
敷かれた布団の上に、寝かされていた様子のイズミが目を覚ます。
傍らにはリュウシロウとぽん吉。彼女を案じていたようだ。
「ここまで……運んできてくれたのか。すまない」
「俺じゃ無えよ。トムが運んで来たんだ。お前がそんな大怪我するなんて珍しいじゃねえか」
基本傷が絶えないイズミだが、大怪我と呼べるような負傷をしたのは、少なくともリュウシロウ視点では初めてのことである。
「フウマのじいちゃん……めちゃくちゃ強かっ……あれ? その人……」
身体を起こしながら先の修行の感想を述べる最中、彼女は一人の人物が視界に入る。
その人物はリュウシロウと同じ髪色の女性で、特にイズミに対して反応せずぼんやりとした様相を示している。つまり、
「ああ、俺の母ちゃんだ」
「え……リュウシロウの……?」
状況がよく分からないイズミ。
そんな、考えがまとまらない彼女にまもなく答えが訪れる。
「目は覚めたかい?」
大広間から縁側を仕切る障子が開いたと同時に、イズミを気遣う男性の声。
「ああ、テツ……じゃなくて先生……」
「先生じゃなくてどくたぁね? とりあえず傷は全部治しておいたから。すぐに治せるのは外傷だけだけど」
「え? ……そういえば痛くな……あれ? 傷が無い!? フウマのじいちゃんにこっぴどくやられた筈なのに……」
フウマにやられた際は全身血まみれ、ぼろぼろにされてしまったイズミ。しかし、服自体は一部が破れたりはだけたりしているものの、身体には一切の傷が無い。
「なるほど……リュウシロウが、ここを修行の場に選んだ理由にはコレもあったのか」
「だろ? お前がやるような修行っつったら、絶対生傷が絶えないだろうからな。……死に掛けるとは思わなかったが……」
「こらこらリュウシロウ君。僕を薬草扱いしないでよ……それに、本来ここは養生所であって修行する場所じゃないんだから……」
そう、ここはリュウシロウの母が入所している『波久部良養生所』。
イズミたち一行はどういう経緯かここを修行の場とし、敷地の一部を間借りしているようだ。
「すまねえドクター。明日からは、修行自体はもっと離れてやるからよ」
「リュウシロウ君の頼みを断る気は無いよ。……ただ、フウマさん人使い荒いんだよねぇ」
リュウシロウとテツの会話を聞くイズミだが、やはりまだいろいろと分からない様子だ。
「そういや、どくたぁ先生はなんでフウマのじいちゃんとあんなに仲がいいんだ?」
「……ど、どくたぁだけでいいんだけど……」
西国語がまだまだなイズミには、なかなか伝わらないテツの願い。ただ、先ほどの流れで二人が仲良さげに見えるというのは、イズミの独特の感性と言えるだろう。
そしてテツは、次の言葉を迷っている様子だ。
「う〜ん、何て言ったらいいのかな……」
「言っちまっていいんじゃね?」
「でもねぇ……」
「その内バレるだろ? 俺の立場で言うのも何だけど、もう誤魔化しきれねえよ」
「?」
言葉に詰まり歯切れの悪いテツに、リュウシロウはフウマを知る理由を言うよう促す。イズミはもちろんよく分からない。
「ドクターは元番衆なんだ」
「はぁぁ!?」
イズミはびっくり仰天。思わず勢いよく立ち上がってしまう。
「……」
ゴウダイ、フウマと続き、テツまで元とは言え華武羅番衆という兵続き。さらには目前には全く反応の無いリュウシロウの母と、めまぐるしく変わる状況にイズミはなかなか順応出来ないのであった。
もっともそれは、半日前にリュウシロウが下した決断が原因となるのだが……




